あらすじ
日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験が強いられた。神田大尉が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき、大隊長が突然“前進”の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。少数精鋭の徳島大尉が率いる弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。両隊を対比して、自然と人間の闘いを迫真の筆で描く長編小説。
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Posted by ブクログ
映画に感化されて八甲田山観光、その前に予習。
よかった!おそろしかった!
映画を見ているので、雪地獄がビジュアルで浮かぶ。
映画と違い、徳島隊が三本木にたどり着くまでの過酷な道のりを示し、神田隊が来ていないことを知りぞっとする。そして死へ行進が幕を開ける…素晴らしい構成で、青森隊出立からは最後まで止まらない勢い。
1番のハイライトはさわの道案内。吹雪にもかかわらず、ワクワクするような爽やかで明るい行軍となった。
日露戦争に向けた、当時の空気をひしひしと感じる。たかだか数十年前に誕生し、急速に力を持った支配階級・軍人を、市井の人々はどう見ていたのか。
最後の立川中将の「軍兵増強と知名度を勝ち得た五連隊の勝ち」判定には甚だ遺憾ではあるが、「両方が勝つ戦争というのはがあるのですか」は日露戦争を思わせて興味深い。日本は勝ったが得るものがなく、好戦の道へ突き進んだ。ロシアは負けたが、この戦争はむしろ革命を後押ししたかもしれない。
最もこれだけの犠牲を出して雪山の恐ろしさを知り、せっかく生存した頑健で有能な将兵たちを失なってまで臨んだのだから勝てないと報われなかったが…
映画ならではのドラマチックな脚色も良かったと振り返って思う。
筆者の思惑通り健さんを通した『徳島大尉』は極限まで美化され、第三十一連隊ここにありと八甲田踏破をアピール。小難しくなる銃の話など後日談はカット。可哀想だけど案内人の受難もカット。神田大尉は若く立場の弱さを強調し、顔を観るだけで苦味がするような三國の山田大佐とキャラクターの凹凸をはっきり。田茂木野での、遺体となった神田大尉との再会。厳冬の雪地獄の合間に、幻覚として美しく優しい秋までの八甲田をはさむ。
というか1世紀前にはこんな過酷な行軍をやってのける軍隊という組織があったなんて。現代、同じような環境に置かれてどれだけの人がチーム行動を保てるのか…?無謀と盲信ではあるけれど、軍という不思議な強制力と信頼を生む組織への興味が湧く。
Posted by ブクログ
初秋、雨が時折降る曇天、適温の週末に一気読み。それに相応しい1日だった。
これは、静かに読む環境が必要だった。
将の器。リーダーは1人ではならぬ。
生き延びるために必要な準備。準備が結果を決める。
極限の状態下も、想像力と事前の準備、そのときに向けた対策がものをいう。
人として見失ってはいけないこと。
将、リーダー、組織を率いるものとしての資質と行動。人を巻き込み、味方につけるためには、何が必要か。
読んでて、息苦しい。。
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200名近い犠牲者を出した旧帝国陸軍青森部隊の雪中行軍。長らくタブーだった事件に切り込んだ、丁寧な取材に基づく小説。「失敗の本質」などでも散々書かれている、リーダーの資質、準備不足、事なかれ主義、油断、責任放棄など、ダメな組織、ダメなリーダーの特徴みたいなものが随所に現れる。ダメなリーダーのおかげで亡くなるのは下々のものであり、これは現代でも同じ。現在、現地には慰霊塔が立っているのだが、これも階級ごとに造りが異なるという。こういうところからも、学んでいかなければならない。
Posted by ブクログ
会長と社長が好きな本ということで積ん読になっていたこちらをやっと読んだけど、人生で読んだ本ベスト3に入るくらいには面白かった。
過去にこんな事があったということを全く知らず、自分の知識を増やすことができたのもよかったけれど、敵を知ることや前準備がいかに重要かをこの本を読んで再認識出来て本当に為になった。
自信を持って人にすすめられる一冊でした。
Posted by ブクログ
実際に起きた明治の遭難事件を元に作者の新田氏が小説として描いているが、雪山という自然の中での行軍の様子、戦争で死が隣であった軍人たちでも狂ってしまう恐ろしさ、また軍人であるという精神や忍耐論の限界、階級社会の悪いところなどが詰め込まれておりあっという間に読破してしまいました。
Posted by ブクログ
リーダーとはなんぞや、のヒントがないかと思って読み始めました。結果として、こんなに最適な本はなかったと思いました。読んだ後人生観が変わる。行動に移せればと思う。準備は大事。劣等感は持ちすぎると毒。
誰かにアドバイスされるより、過去にあった事件の本を読んだ方が納得できた。
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遭難した青森第5聯隊と、競わせる為に別の隊・弘前第31聯隊がいた事、第31聯隊は全行程の踏破に成功していた事は知らなかった。
その二つの隊の生死を分けたものは何だったのか。天候、隊を率いるリーダーのあり方、出自による差別意識など、色んな事が重なってしまったからか。
急激な天候の変化、前を行く人の姿も見えないくらいの猛吹雪の中、雪・風・闇・寒さ・空腹等と闘いながら行軍を続ける隊員たちの描写の切迫感は、実際にあった出来事というのも相まって凄まじいものがあった。
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日露戦争前夜、雪中での行軍を想定した演習で発生した未曾有の大遭難という史実をベースとした作品。
「Wikipedia三大文学」の一角ということと、大まかなストーリーは知っていたのですが、実際に読んでみて圧倒されました。
一目で「あっ、この瞬間に歯車が狂ったな」と分かるシーンもあれば、「これ、最終的にどっちのチームが遭難するんだ…?」と感じてしまう不穏な描写が散りばめられており、サスペンス作品としても楽しめると思います。
また、演習とはいえ軍事行動における「英雄」という偶像についても考えさせられました。
この演習で生き残った人々のその後や、考え方によっては「本番」と言える日露戦争での結末を知ると…。
Posted by ブクログ
元道民として冬の時期は「雪を舐めるな…」といつも言ってるけど、これを読んだらマジで雪はおっかねえと思った。中盤兵卒達が寒さで幻覚を見たり狂って凍った河に裸で飛び込む描写など文字通り寒気を感じた。自然の厳しさだけではなく、戦時中の階級差、そしてリーダーの在り方としても考えさせられる作品。仲間の屍を乗り越え生きて完踏した聯隊も日露戦争で戦死したというところに非情を感じた。骨太でこの作家のほかの作品を読みたくなった。
Posted by ブクログ
岩井圭也さんの「完全なる白銀」を読んだ時
今年のネンイチニッタは八甲田山死の彷徨を再読に決まりました
雪山小説の最高峰は、まだ譲れない
1977年の映画と共に記憶に残る作品です
弘前歩兵第三十一連隊隊長徳島大尉が高倉健
青森歩兵第5連隊の神田大尉が北大路欣也
2隊の対比が物語の主体
時代は日露戦争前夜(1902年)
日露が戦争状態となった場合の八甲田山系雪山縦断の可能性の模索
遭難事故については いろいろなところで語られていますので多くの方がご存知かと思います
久しぶりに読んで 記憶と違ったところがいくつかありました
一つは小説は1971年の書き下ろしで遭難事故より時代がかなり経っていた事
一つは 新田次郎の冷静な文脈に引き込まれる事
ドラマティックな記憶は映画からかな
序章で当時の陸軍の組織的欠陥とも思える命令服従制度を 第一章雪地獄 第二章彷徨で
到底人間には対処できない雪山を
第三章奇跡の生還で 生還した者にとっても続く地獄を
終章の記憶は全くなかったのですが
雪山へ向かわせた本当の責任を語る師団長
どちらの隊も勝者であるとした結末
亡くなった方々の家族への対応と
このあたりは新田さんの優しさなのか
この事故を無駄にしないという配慮でまとめられます
Posted by ブクログ
5連隊の話はYouTubeで見て知っていましたが、31連隊のことはこれを読んで初めて知った。結局雪山に入ってない人達が勝っただ負けただ言ったり、遭難のきっかけを何度も作った人が一番大きな銅像建てられてたり、読み終えたときは渋い顔になってしまった。
Posted by ブクログ
日露戦争前夜の八甲田山での日本陸軍の遭難事件。あまりにも有名な事件だけれど、ほぼ全滅した連隊とは別に、無事生還した連隊があったことがどこまで世間に知られているのか。第五連隊の準備不足、指揮命令系統の混乱、組織論理の優越から来る非合理的な判断、劣等感から意見の飲み込みなど。現代社会において組織に生きる私たち自身も振り返るべき問いが多々ある。合理的な判断でないと思っているにも関わらず、それにいい諾々と従うことは逆に罪深い。
また生還した第三十一連隊の徳島大尉の平民への差別意識も甚だしく、加えて、軍隊が駐屯することになった村・集落の負担も相当なものだったろう。寒村で自らの食糧でさえままならないだろうに無理やり拠出されているわけで、かなりつらいものだったのではと想像される。
それにつけても、そもそも、なぜ真冬の青森県八甲田山に軍隊が行軍する必要があったのか。序章で第八師団参謀長の中林大佐の口から告げられる、その軽々しさたるや。こんな軽挙妄動のために何人、何千人の人生を狂わせることになったのか。
組織の上に立つ人は必ず読むべき作品。
Posted by ブクログ
まず、ここまで克明にリアルな表現で書いてくださった著者新田氏に感謝したい。
この小説に出会わなければ、八甲田山の雪中行軍の悲劇をしらずに生きていただろう。
人間模様まで聡明にイメージできた。
新田氏、有難うございます。
Posted by ブクログ
八甲田山遭難のあまりの過酷さに食い入るよう読みました。当時の粗末な装備と、知識や情報もない中のでの彷徨は考えるだけで恐ろしい。凍傷で服のボタンが外せずに用も足せず失禁した衣服が凍って凍え死ぬとか想像を絶する。
Posted by ブクログ
会社からリーダー研修の課題として読んだ本。確かにこういう場面社内であるよな、自分だったらどうするべきか?と考えつつも当時の時代背景を鑑みると神田大尉に同情してしまう。
Posted by ブクログ
日本史に残る有名な事件をモデルに
二つの隊の行動を対比させながら進む物語
軍の幹部や文化が、とダメ出しで終わるのではなく
明暗を分けた行動・心理が忠実に描かれていて
現代社会でも通用する有益な示唆を得られました。
Posted by ブクログ
こんな痛ましい出来事を一言で表現するのは心許ないが、要は「始まりは忖度、終わりは曖昧」の日本の闇の縮図そのものではないか。責任曖昧論というと太平洋戦争や現代の政治家スキャンダルばかりが脚光を浴びるが、すでにこの時代にも有ったことを忘れないようにしたい。それこそ当時の犠牲者へのレクイエムになると確信する。
Posted by ブクログ
神田部隊と徳島部隊を比較して指揮官のあり方について言及して書かれている。神田部隊最大の不幸は山田少佐の行軍参加だろう。これにより自ら指揮する権限がなくなった。一方徳島部隊は徳島大尉の念密な計画と権限を掌握したことで成功した。
山田少佐の気まぐれ判断で部隊は混乱し全滅したのは気の毒という一言ではすまない。神田大尉は山田少佐に恨みも怒りもなかったのは象徴的だった。
山田少佐が、もしいっさいを自分に任せていてくれたら、指揮権を奪うようなことをしなかったら、このようなことにはならなかったかもしれない。しかし、今となっては繰り言でしかない。自分へ雪中行軍の計画者なのだ。(P210)
私なら「山田お前のせいで全滅しただろう!」と言って、ぶん殴っているだろう。部隊が全滅するかもしれないのに果たして神田大尉は山田少佐の言うことを従順に聞いていたのは疑問も残る。年上や上官の指示を絶対視しすぎてしまうのが日本の悪いところだと思う(上司の指示に歯向かえという意味ではない)。何でもかんでも盲目的に従うのはいかがなものかということだ。自らから学んだり思索を深めることで正しい判断は見えてくる。
Posted by ブクログ
難しいのかなと思ってたけど読み始めたら面白すぎた
面白い…と言って良いのかわからないけど。
今は「なんでそんなことするんだよ、普通に考えたらわかるだろ」みたいなことも、それは先人たちのトライアンドエラーで作り上げられた尊い常識なんですよね。
でもやっぱり日本軍の縦社会、精神力崇拝文化ダメすぎ
生き残った者はほとんど日露戦争で死に、つまり死ぬのがちょっと早かったか遅かったかの差だけだった、っていうのがやるせないですね
Posted by ブクログ
小学生の頃だと思う
映画の八甲田山を観た
本を買った瞬間は気が付かなかったが
読む直前のふと思い出した
人がいっぱい死ぬ衝撃的な映画であり
それこそ半世紀前のことなはら
薄ぼんやりと覚えている
この何年か後に二百三高地を観るのだが
なんとなく繋がっているし
悲惨な感じと無能な上官という設定が
よく似た映画である
八甲田山は配信を探したがDVDしか見つからず。
Posted by ブクログ
淡々と起こったことを書き連ねているだけなのに、冷たくない、むしろ熱をひしひし感じる不思議な文章。
この行軍に成功者はいないと感じた……ひたすらに虚しさと学びだけがある。
Posted by ブクログ
いつぶりか分からないほど期間を開けての再読。
5連隊の組織がなっていない事や寒さの中での彷徨ばかり覚えていて、31連隊の状況がここまで書かれているとは思ってなかった。
この両連隊の比較は、なるほど組織論・リーダー論として教材に使われるわけだ。
それにしても日本は世界の中でも豪雪だと言われるのが分かる作品だな。そして当時の軍部でも柔軟な組織があったのも驚いた。
段取り大事!組織の指揮命令系統大事!物事への柔軟な対応大事!
Posted by ブクログ
寒く辛い描写を期待して読んだが、やはり新田文学定番の「嫌な奴」への怒りからの組織と時代へのやるせなさへと心が冷えていった。この大惨事は現代にも沢山の教訓を残す必読の書。
Posted by ブクログ
有名な冬の八甲田山での冬季遭難事件を扱った本。
冬山の知識も経験もない上司の思いつきの行動、事前の知識と準備不足、もう全てフラグ立ちまくりで、読みながらクラクラしました。
これぞ日本陸軍の真髄!という感じですね。
本作品では、悲劇の青森第五連隊に対して、同時期に11日間の冬季訓練を無事に成し遂げた弘前第31連隊を対比しているので、より青森の部隊の上層部のダメダメさが際立ち、青森連隊の現場メンバーが可哀想でならないです。
ほんと、これぞ日本陸軍!
「悲劇」といわれる遭難でも、同じ時期にほぼ同条件で成功しているグループが存在することも多いんですよね。(例えばトムラウシの大量遭難とか)
後世の人間はそれを比較することで、よりよい方法を学ぶことができるんですが、教材にされる本人たちはたまったもんじゃないですよね。
ただ、弘前連隊もガイドの扱いが酷かったし(凍傷で一生苦しんだガイドもいた)、彼らも成功したものの、青森連隊の悲劇で全然注目されなかったし、誰も幸せにならない訓練でした。
以前、この遭難があったあたりに行きましたが、夏に行くと、気持ち良い山でした。
Posted by ブクログ
まさに対照的。
比較することでわかりやすく浮き彫りになるよね。
とはいえ終了後はどちらも暗い未来。
なんでそんなことなるかなってなる時代だったんだな。
神田、山田、両名は生きてたら
どんな扱いを受けていたのか。どちらも恐ろしい。
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ面白かった。すごく読みやすいし,必要な情報だけざくざく入ってくるというか。先に映画を見ていたので,キャスト表を片手に読み進めたのだけど,それがなくても苦なく読み進められた気もする。
悲劇すぎるのだが,同じようなことはいろんなところで行われてしまっているのではなかろうか,と思う。
Posted by ブクログ
何とも救いようのない話だな。日露戦争になったらロシアの海軍が津軽海峡を封鎖するかもしれない。そうなったら、山間部を通って移動するしかなくなるから、冬の八甲田山を踏破する実験をする。その動機は、確かに国防を理由とするもので、だから簡単に非難する事はできないのだが。案内人を雇った徳島大尉の率いる少数精鋭の隊は踏破に成功し、案内人も拒んだ神田大尉の二百十人の隊は百九十九人の死者を出す始末となり。踏破に成功した徳島大尉も、日露戦争で戦死か。何ともやるせない。救いは、当時の新聞が事実をちゃんと報道した事だろうか。
Posted by ブクログ
八甲田山雪中行軍遭難事故をモデルにした小説。
199名の死者が出た最悪の遭難事故。
あくまで小説なので、史実と違う部分もあるようですが、遭難シーンはとにかく壮絶で辛すぎる。
絶対雪山になんか入るものかと思った。
指揮系統の乱れや準備不足が大きなトラブルを引き起こすっていうのは、現代にも通ずるなぁ。
同時期に行軍を行い、成功した31聯隊がいたっていうのも初めて知った。
それにしても読んでてしんどかったー!!
飽くまでも「フィクション」
未だ「リーダー論」とやらのテキストにされている様だが、その異なった目的を持った両隊を比較するのは如何なものかと思う。
況して五連隊側を「敗者」呼ばわりし、「悪役」として描かれた山田少佐のモデルになった山口少佐の御子孫は肩身を狭くしておられた。
神田大尉のモデルになった神成大尉もまた浮かばれないと思う。
一方、徳島大尉のモデルになった福島大尉は、猛吹雪の中を命懸けで案内してくれた民間人七名を暗闇の山中に取り残してきた。
それを「勝者」「理想のリーダー」として讃えるのには甚だ腑に落ちない。
この「史実を基にしたフィクション」を、あたかも史実の如く描いた新田氏は流石である。
然しその裏で、遺族や生き証人(元伍長)相手に取材を敢行した小笠原孤酒氏の奔走を忘れてはいけない。