宇江佐真理のレビュー一覧
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ネタバレとうとう本当にこれで最後です。
最初で最後の長編が描いているのは、シリーズ中で飛ばされた10年の出来事。
家事で焼け出され、すべてを失ったことから伊与太は何を見ても「これは誰のもの?」と聞くようになった。
自分は何も持っていないことを確認するかのように。
そんな伊与太が「月は誰のもの?」と聞いた相手は…。
火事の後妊娠に気づき、出産までの間今まで以上にお座敷仕事をすることにしたお文。
そこで知り合った老人が、実の父親だと知りながら、父親の家族を思い知らぬふりをするお文。
そんなお文の気持を受け入れる父だが、伊与太にはこっそり「伊与太のお爺ちゃんは、このわしだ」と言っていた。
そして、お文の -
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ネタバレ目次
・共に見る夢
・指のささくれ
・昨日のまこと、今日のうそ
・花紺青
・空蝉
・汝、言うなかれ
収録作を書いていた頃はまだ癌告知をされていなかったそうだけれど、何か感じるものがあったのだろうか、生まれ来る者と死にゆく者の話が心に残る。
龍之進は父となり、ますます地に足の着いた仕事ぶりを見せるが、反対に友之進は、シリーズ当初持ち合わせた癇癪などどこへやら、すっかり孫バカの爺になっている。
しかし友之進の同僚の妻は、まだ40代になったかならぬかのうちに病死する。
人の命などはわからないものなのだ。
茜にしても、決して恋愛感情を持っているわけではないのだが、弱りゆく良昌を励ますために側室にな -
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ネタバレ目次
・俯かず
・あの子、捜して
・手妻師(てづまし)
・名もなき日々を
・三省院様御手留(さんせいいんさまおてどめ)
・以津真天(いつまでん)
作者が作中の10年をすっ飛ばして書きたかったことというのは、もしかして松前藩のことなのだろうか。
茜が屋敷奉公をすることで、松前藩の特殊性が書かれ、今は江戸詰めであるけれど、そのうち蝦夷の国元にも連れていかれそうな気がしてくるような展開。
だとすると、伊与太と茜の仲はいよいよ絶望的。
表紙の茜、「お嬢」と声を掛けた伊与太の方に振り向いた時か。
本筋とは別に、伊与太の暮らしぶりを見るため、師匠の留守中、うきうきと伊与太の奉公先に出かけるお文と、それ -
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ネタバレ目次
・あやめ供養
・赤い花
・赤のまんまに魚(とと)そえて
・明日のことは知らず
・やぶ柑子(こうじ)
・ヘイサラバサラ
掏摸から足を洗い雑貨屋の親父として真っ当に生きている直次郎。
意に添わぬ結婚話から逃れるために屋敷奉公に出た茜。
絵師の修業中の伊与太。
いつの間にか26歳、結婚話もある九兵衛。
作中の時間も確実に流れている。
さて、意味不明のタイトル「ヘイサラバサラ」とは、ポルトガル語で動物の腹の中に出来る石のことなんだそうだ。
孤独死した元医師が、なぜそのようなものを持っていたのか。
彼は、進んでいく時間を止めようとしていたのだろう。
しかし、それは出来ないことであり、止められな -
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ネタバレ目次
・気をつけてお帰り
・雁が渡る
・あだ心
・かそけき月明かり
・凍て蝶
・心に吹く風
龍之介と祝言を挙げ、不破家の嫁となる”きい”の話から始まる。
一時期武家の養女になっていたとはいえ、もともと町人の娘であるきいが武家の家になじむのは、本当ならかなり難しいことなのだろう。
しかし、まず家長の友之進がきいを気に入った。
苦労人のいなみが、嫁として受け入れた。
茜だけが面白くない。
17歳の茜は、自分も年頃の娘であるが、剣の稽古以外に興味はなく、しかし道場で持て余されていることにも気づき…。
一方、絵の修業をしていた伊与太は、師匠の家から逃げ戻ってくる。
当面は不破家の中間(ちゅうげん) -
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ネタバレ目次
・今日を刻む時計
・秋雨の余韻
・過去という名のみぞれ雪
・春に候
・てけてけ
・我らが胸の鼓動
火事で家を焼け出された伊三次一家、というのが前作の終わり。
今作は10年を一気にすっ飛ばしたところから話がはじまる。
えぇ~!?
あの可愛かった伊与太は、絵師の修行のため家を出てるし。
たまに帰ってきても反抗期だし。
火事の後生まれた娘は既に9歳でしっかり者で、やっぱりあの頃の伊与太の可愛さには及ばない。
龍之進もまた、母の出自が自身の縁談の障りになっているとふてくされて、仕事をさぼって料理茶屋に入り浸っている。
あの真っ直ぐな気性だった龍之進が、なんてことだ。
どうしてこうなったの -
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ネタバレ目次
・粉雪
・委細かまわず
・明烏(あけがらす)
・黒い振袖
・雨後の月
・我、言挙(われ、ことあ)げす
以前、伊三次にガセを掴ませ、龍之進に大いに恥をかかせた船頭は、実は尾張屋押し込みの際に一味を手伝った者だった。
真犯人「薩摩へこ組」もまた、「本所無頼派」と同じ、武家の次男三男たちだった。
幕末というにはまだ間のある文化文政期、既に武家の鬱屈は積もり始めていたのかもしれない。(粉雪)
そう言った意味ではお家騒動というのもまた、飼い殺されるかどうかの生存競争なのだろう。
自分の運命は自分だけのものではない。
大勢の人たちの生活が、命がかかっているのだ。
与えられた運命を自分の足で歩きだ -
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ネタバレ目次
・薄氷(うすらひ)
・惜春鳥
・おれの話を聞け
・のうぜんかずらの花咲けば
・本日の生き方
・雨を見たか
今作は伊三次より、不破友之進の息子・龍之進とその同心見習い仲間の活躍が中心。
数えで15歳の龍之進は、心身ともにまだ成長途中。
多少の禄も与えられるようになったこともあり、仕事に対する真摯な姿勢はいよいよ増し、大人の事情でどうとでもなる犯罪の取り扱いに憤り、伊三次のちょっとしたミスにもこだわり、弱者を救えぬ自分の限界に唇をかむ。
要するに青いのですな。
そして余裕がない。
大人の事情の裏をかくようなしたたかさを、他人のミスを赦し、手下に対して厳しくもあり鷹揚でもあれるよう、これ -
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目次
・妖刀
・小春日和
・八丁堀純情派
・おんころころ……
・その道 行き止まり
・君を乗せる舟
ちょっとオカルトっぽい話もありましたが、伊三次のビビりっぷりが愉快でした。
そして、特別子ども好きなわけではなかったという伊三次が、子煩悩ないい父親になっている様子を見て、江戸時代、「イクメン」という言葉はなくても「子煩悩」という言葉があったなと思う。
仕事から帰ると当たり前のように子どもを受け取り、夜は親子川の字で寝る喜び。
家族の縁が薄かったからこそ、今が幸せなのかもしれない。
この巻では不破友之進の嫡男・龍之介改め龍之進の話がどれもよかった。
自分の証言により父親を殺人犯としてなくすこ -
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ネタバレ目次
・蓮華往生
・畏れ入谷の
・夢おぼろ
・月に霞はどでごんす
・黒く塗れ
・慈雨
今回捕物が少ないなと思ったら、作者があとがきで「捕物」ではなく「余話」を書いているのだといっている。
というわけで、伊三次が出会うあれこれの出来事が書かれているのだけど、やはり後味苦い作品が多い。
特に『畏れ入谷の』は、なんだかんだ言って上手くいくんだろうなあと思いながら読んでいたので、如何ともしがたい結末に、それでも目を逸らしてはならないという伊三次に、胸を突かれた。
多分始めは善意からの行為だったはずが、いつの間にか姥捨て山で金儲けの話になってしまった『蓮華往生』。江戸時代、武家の一人娘の生きる道は、 -
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ネタバレ目次
・鬼の通る道
・爪紅
・さんだらぼっち
・ほがらほがらと照る陽射し
・時雨てよ
家を焼け出されたお文は芸者をやめて、伊三次の女房になる。
が、今まで女中を雇って家のことをやってもらっていたお文には、家事は難しいばかり。
見かねた長屋のおかみさんたちがあれやこれやと面倒を見てくれていたうちはよかったが、子どもをめぐるいくつかの事件が重なって、お文は近所とトラブルを起こし家を飛び出してしまう。
やれやれ、なかなか落ち着かない二人である。
それにしても、ずっとお文の家で身の回りの世話をしていたおみつは、あんなにお文を慕っていたのに、いくら流産して気が高ぶっていたとはいえ、あんなひどい事をい -
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ネタバレ目次
・因果堀
・ただ遠い空
・竹とんぼ、ひらりと飛べ
・護持院ヶ原
・さらば深川
伊三次とお文はよりを戻し、それ以上にこじれていた伊三次と不破の関係も修復した。
おみつが嫁ぎ、お文の家に新しい女中・おこなが来るのだが、この娘がまたキャラクターが強くて面白い。
もしお文が芸者をやめたなら、彼女の出番はなくなってしまうのだろうか。
だとしたら、ちょいと惜しいな。
前妻や生みの親など、家族の話が多かった気がするが、「護持院ヶ原」である。
幻術使いのでてくる、ちょっと今までとは毛色の違う話なのだが、これがホラーのようなでも切ないような絶妙な読後感。
そして、伊三次が髪結いであること、不破が剣の使 -
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ネタバレ目次
・紫紺のつばめ
・ひで
・菜の花の戦(そよ)ぐ岸辺
・鳥瞰図
・摩利支天横丁の月
作者によると、このシリーズの狙いは「変化」にあるのだそうだ。
なるほどこの巻だけでも、伊三次はお文と別れ、幼馴染みに先立たれ、同心の小者であることをやめる。
誰かが悪いというわけではない。
それぞれが、それぞれの立場で考え、行動した結果、気持ちがすれ違ってしまうのだ。
読者からするとどちらの気持ちも分かるので、余計にもどかしい。
けれど、シリーズ名が「捕物余話」と言っているのだから、まあ、そのうち戻るのだろう。
人の気持ちは簡単に変われないのならば、ゆっくりじっくり捻じれが解けるのを待つことにし