ネタバレ
Posted by ブクログ
2015年01月17日
あとがきにもあるように、作者は現在闘病中である。
筆を折ることなく淡々と仕事をされているが、ほんの少しだけ作風が変わったように思える。
たとえば、『やぶこうじ』。
宇江佐さんの黄金パターンだと、理不尽にも浪人になってしまった主人公はさんざんひどい目にあったあげく、絶対奥方は姉のところに行くふりして浮...続きを読む気、もしくは身売りして、伊三次やお文の思いやりは裏切られ、最後は奥方を殺して町方にとらえられるんだろうなぁと思ったら、ものすごくハッピーエンドで目を疑った。
宇江佐さんは高田さんと対照的に、世の中そんないいことばかりじゃござんせんぜ、とばかりにまずいものを胃薬なしに読者に飲み込ませる作風だ。
それがこんなにハッピーエンドだなんて!
実はこれは昭和の初期の名作映画のあまりの悲劇的結末に胸を痛めた作者が救いのあるおわりを主人公夫妻に与えたかったのが動機なので、この終わりはなるべくしてなったものだった。
彼女はこの監督が自分の儚い人生を悟って(戦死)、こういうペシミストなものに美学を見出したのだろうと分析しているが、なら、彼女は儚く散ってなるもんですかい、という意気地がこの改変に現れたのだろうか。
他の作品も久しぶりの直次郎が本当にまっとうに生きて、お得意先の老女を慕い、恋女房に悪態をつきながら子供をたくさん作り、姑と軽口をたたく仲良し家族を作っている現在を紹介したり、修行中の伊与太やお嬢がお互いに心の中で泣き言を言いながらも頑張っていたりと、今までの女史の毒が抜けすがすがしいものになっている。
次の巻も髪結い伊三次シリーズはこの感じで書いてほしい。