宇江佐真理のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・気をつけてお帰り
・雁が渡る
・あだ心
・かそけき月明かり
・凍て蝶
・心に吹く風
龍之介と祝言を挙げ、不破家の嫁となる”きい”の話から始まる。
一時期武家の養女になっていたとはいえ、もともと町人の娘であるきいが武家の家になじむのは、本当ならかなり難しいことなのだろう。
しかし、まず家長の友之進がきいを気に入った。
苦労人のいなみが、嫁として受け入れた。
茜だけが面白くない。
17歳の茜は、自分も年頃の娘であるが、剣の稽古以外に興味はなく、しかし道場で持て余されていることにも気づき…。
一方、絵の修業をしていた伊与太は、師匠の家から逃げ戻ってくる。
当面は不破家の中間(ちゅうげん)として、似顔絵描きなどして様子を見ることになるが、修業をするということは、絵をかいていればいいということではなく、師匠や兄弟子たちとの人間関係を築いていくことも必要なのだということに気づく。
終盤、茜は松前藩の上屋敷にお屋敷奉公することになる。
24~5歳まで拘束されるので、行かず後家になるが、好きでもない男と結婚するくらいなら…と。
時を同じくして伊与太も修業に戻ることにする。
最後に二人の心は確かに一つになったと思うが、武家の娘が町人に嫁ぐというのはよほどのことになるので、この先二人の道が交わるかどうかは…どうだろう。
松前藩ということは、作者(当時函館在住)の元まで行くことになるのではと、ちょっとドキドキしている。
さて、この先レギュラーになるかはわからないが、お文が拾ってきた少年・佐登里(さとり)がかわいい。
生まれてすぐお寺に捨てられた彼は、実の母を捜して銚子から江戸に出てくるのであるが、実に賢くて健気で良いのである。
お寺から迎えが来て、安い人出として売られて行こうとするのを、出刃包丁を首に当てて抵抗する。
佐登里まだ数えで5歳。今で言えば4歳。
最終的に彼は自分で自分の居場所を見つける。
今、虐待されている子どもたちも、世間は家だけではなくもっと広いことを、そして自分の居場所を自分で見つけるのは、またはよその大人に探してもらうのは、悪いことではないことを知ってほしいなあと思いながら、佐登里の今後を思うのでした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・今日を刻む時計
・秋雨の余韻
・過去という名のみぞれ雪
・春に候
・てけてけ
・我らが胸の鼓動
火事で家を焼け出された伊三次一家、というのが前作の終わり。
今作は10年を一気にすっ飛ばしたところから話がはじまる。
えぇ~!?
あの可愛かった伊与太は、絵師の修行のため家を出てるし。
たまに帰ってきても反抗期だし。
火事の後生まれた娘は既に9歳でしっかり者で、やっぱりあの頃の伊与太の可愛さには及ばない。
龍之進もまた、母の出自が自身の縁談の障りになっているとふてくされて、仕事をさぼって料理茶屋に入り浸っている。
あの真っ直ぐな気性だった龍之進が、なんてことだ。
どうしてこうなったのかと言うと、作者がどうしても、生きているうちにこのシリーズの最終話を書いておきたいからなのだという。
そのためには、どうしても10年を端折らなければならなかったのだと。
今作では龍之進の結婚がテーマになっている。
龍之進が結婚して落ち着いたら、多分友之進は隠居するのだろうけれど、そうなったら伊三次はどうするのだろう?
九兵衛と、もう一人安吉という弟子を持ち、廻り髪結いと友之進の小者としての活動以外に、義兄の髪結床を手伝っている伊三次。
相変わらず芸者を続けているお文。
次は伊与太の修行の話だろうか。
それとも茜の縁談?
15歳で縁談は早すぎ? -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・粉雪
・委細かまわず
・明烏(あけがらす)
・黒い振袖
・雨後の月
・我、言挙(われ、ことあ)げす
以前、伊三次にガセを掴ませ、龍之進に大いに恥をかかせた船頭は、実は尾張屋押し込みの際に一味を手伝った者だった。
真犯人「薩摩へこ組」もまた、「本所無頼派」と同じ、武家の次男三男たちだった。
幕末というにはまだ間のある文化文政期、既に武家の鬱屈は積もり始めていたのかもしれない。(粉雪)
そう言った意味ではお家騒動というのもまた、飼い殺されるかどうかの生存競争なのだろう。
自分の運命は自分だけのものではない。
大勢の人たちの生活が、命がかかっているのだ。
与えられた運命を自分の足で歩きだした姫の決意。
そばで支えることも許されない龍之進との身分の壁が切ない。(黒い振袖)
自分で選んだ人生だって、後悔する時はある。
大店のお内儀になっている生母の元へ帰ったら、今とは違う理想の暮らしができたのではないかと思うお文。
しかし、今のお文の幸せは、伊三次と伊与太の元にある。(明烏)
お文が深川芸者だったころ、お文の女中をしていたおみつ。
当時はしっかり者で、よくお文を助けていたが、最初の子を流産した時まだ子どもの居なかったお文にひどいことを言ってから疎遠になっていた。
でも、いつの間にか付き合いが戻ったようで、安心した。
だけどおみつ、失ったもののことばかりを思いわずらっても幸せにはなれないんだよ。
幸せって、今、自分が持っているもののところにあるのだから。
徐々に事件は龍之進が扱うものが多くなってきているが、伊三次はあくまでも友之進の小者。
ただ、人の心の機微や、法や善意だけでは如何ともできない世の中のことなど、龍之進の経験だけでは測れない時に、セイフティーガードとして伊三次が付く。
まだよく口が回らなくて、伊三次のことを「たん」としか呼べなかった伊与太が、いつの間にか「ちゃん」と呼べるようになっていてほっこり。
お文のことは「おかしゃん」
いつかは「おっかさん」などと呼ぶようになるのだろうか。うう…。
不破家に行くと「おはよさんです」と頭を下げるところも可愛い。
言挙げの最古の出典は古事記のヤマトタケルの項。
神様に不遜なセリフを吐いたため、病気になって結局死んでしまう。
つまり、ヤマトタケルの頃から、日本人は目上の人に物を申してはいけない文化があったということ。
深いなあ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・薄氷(うすらひ)
・惜春鳥
・おれの話を聞け
・のうぜんかずらの花咲けば
・本日の生き方
・雨を見たか
今作は伊三次より、不破友之進の息子・龍之進とその同心見習い仲間の活躍が中心。
数えで15歳の龍之進は、心身ともにまだ成長途中。
多少の禄も与えられるようになったこともあり、仕事に対する真摯な姿勢はいよいよ増し、大人の事情でどうとでもなる犯罪の取り扱いに憤り、伊三次のちょっとしたミスにもこだわり、弱者を救えぬ自分の限界に唇をかむ。
要するに青いのですな。
そして余裕がない。
大人の事情の裏をかくようなしたたかさを、他人のミスを赦し、手下に対して厳しくもあり鷹揚でもあれるよう、これから成長していくのでしょう。
父親よりも懐の大きな人物になりそうで楽しみ。
伊与太のあどけなさが、本当に可愛らしくて和みます。 -
Posted by ブクログ
目次
・妖刀
・小春日和
・八丁堀純情派
・おんころころ……
・その道 行き止まり
・君を乗せる舟
ちょっとオカルトっぽい話もありましたが、伊三次のビビりっぷりが愉快でした。
そして、特別子ども好きなわけではなかったという伊三次が、子煩悩ないい父親になっている様子を見て、江戸時代、「イクメン」という言葉はなくても「子煩悩」という言葉があったなと思う。
仕事から帰ると当たり前のように子どもを受け取り、夜は親子川の字で寝る喜び。
家族の縁が薄かったからこそ、今が幸せなのかもしれない。
この巻では不破友之進の嫡男・龍之介改め龍之進の話がどれもよかった。
自分の証言により父親を殺人犯としてなくすことになった娘に、淡い恋心を抱きつつ何も言えない龍之進。
その娘・あぐりは、世間を騒がせている「本所無頼派」のリーダー(次郎衛)に思いを寄せていることを龍之進は知る。
あぐりに15歳年上の、あったこともない男との縁談が持ち上がる。
最初は、後妻でもしょうがないと諦めていたあぐりだが、やはり次郎衛のことが忘れられない。
最終的にあぐりは次郎衛の正体を知り、黙って嫁いでいくのだが、それをそっと見送る龍之進が切ない。
「わたしは舟になりたいと思いました」
自分が舟となって、あぐりを自由な世界へ連れて行ってやりたいということなのかと思った。
しかしそれは、現代の考え方である。
龍之進は、見も知らぬ男の元へ嫁ぐあぐりを、せめて自分が送りとどけたい、と、そう言うのだ。
元服したての、現在で言うならまだ中学生の年齢の龍之進にはあぐりを幸せにすることはできない。
けれどもいつまでも下町の裏店の長屋住まいをしていても、あぐりにいいことはひとつもない。
あぐりを幸せにするだろう場所へ、せめて自分が連れて行きたいと。
くう~。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・蓮華往生
・畏れ入谷の
・夢おぼろ
・月に霞はどでごんす
・黒く塗れ
・慈雨
今回捕物が少ないなと思ったら、作者があとがきで「捕物」ではなく「余話」を書いているのだといっている。
というわけで、伊三次が出会うあれこれの出来事が書かれているのだけど、やはり後味苦い作品が多い。
特に『畏れ入谷の』は、なんだかんだ言って上手くいくんだろうなあと思いながら読んでいたので、如何ともしがたい結末に、それでも目を逸らしてはならないという伊三次に、胸を突かれた。
多分始めは善意からの行為だったはずが、いつの間にか姥捨て山で金儲けの話になってしまった『蓮華往生』。江戸時代、武家の一人娘の生きる道は、自分を捨てるか、女を捨てるかだった『夢おぼろ』。
まるで必殺仕事人のような『月に霞はどでごんす』。
廻り髪結いの傍ら同心の小者として働く伊三次は、金儲けとは無縁な損な性分。
けれど、無事に生まれた我が子のために、我が子に恥じない”ちゃん”であろうと思う。
お文は子どもを出産して「自分はさほど子ども好きではない」ことに気づくが、それでも慣れない家事・育児にと奮闘している様子が健気である。
「子ども好きではない」母親は割と世間にもいると思うけれど、さらっとお文にそう言わせるところが女性作家の腕か。
伊三次が子煩悩なところも微笑ましい。
人の心を操る犯人に逆にわなを仕掛ける『黒く塗れ』であがったテンションを、『慈雨』がそっとなだめてこの巻は終わる。
前巻で伊三次の恩人の娘・佐和に恋をして、巾着切りから足を洗い、姿を消した直次郎が振り売りの花屋として再登場。
どうしても直次郎の前科にこだわり、二人の恋を認めることができない伊三次に、人はやり直すことができるのだと、神でも仏でもない伊三次に二人の運命を決めることはできないのだという、周囲の年寄りたちの温かいまなざし。
更生を信じることの出来る世の中。
同じく前巻でお文を傷つける一言を言ってしまったおみつは、今回出番なし。
だけど今までのお文とおみつの関係や、おみつの夫(伊三次の家に空き巣に入ったがその後更生して同心の小者となる)のことを考えると、いつかどこかで関係修復してほしいものだ。
おみつに子どもができるまで、無理かなあ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・鬼の通る道
・爪紅
・さんだらぼっち
・ほがらほがらと照る陽射し
・時雨てよ
家を焼け出されたお文は芸者をやめて、伊三次の女房になる。
が、今まで女中を雇って家のことをやってもらっていたお文には、家事は難しいばかり。
見かねた長屋のおかみさんたちがあれやこれやと面倒を見てくれていたうちはよかったが、子どもをめぐるいくつかの事件が重なって、お文は近所とトラブルを起こし家を飛び出してしまう。
やれやれ、なかなか落ち着かない二人である。
それにしても、ずっとお文の家で身の回りの世話をしていたおみつは、あんなにお文を慕っていたのに、いくら流産して気が高ぶっていたとはいえ、あんなひどい事をいうとは。
私も信頼していた人から、陰で裏切られていたことを聞かされてすごくつらかったことがあるから、お文がショックを受けたことが身につまされてしょうがない。
実はこのシリーズは、人の心の暗い部分を明らかにする作品が多くて、実は読後感の重い話が多いのだなあと今さらながら気がついた。
とはいえ、すりの直次郎が足を洗ったり、伊三次に弟子が出来たり子どもが出来たり、世界はどんどん変化を続ける。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・因果堀
・ただ遠い空
・竹とんぼ、ひらりと飛べ
・護持院ヶ原
・さらば深川
伊三次とお文はよりを戻し、それ以上にこじれていた伊三次と不破の関係も修復した。
おみつが嫁ぎ、お文の家に新しい女中・おこなが来るのだが、この娘がまたキャラクターが強くて面白い。
もしお文が芸者をやめたなら、彼女の出番はなくなってしまうのだろうか。
だとしたら、ちょいと惜しいな。
前妻や生みの親など、家族の話が多かった気がするが、「護持院ヶ原」である。
幻術使いのでてくる、ちょっと今までとは毛色の違う話なのだが、これがホラーのようなでも切ないような絶妙な読後感。
そして、伊三次が髪結いであること、不破が剣の使い手であることが活かされているところも、よい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次
・紫紺のつばめ
・ひで
・菜の花の戦(そよ)ぐ岸辺
・鳥瞰図
・摩利支天横丁の月
作者によると、このシリーズの狙いは「変化」にあるのだそうだ。
なるほどこの巻だけでも、伊三次はお文と別れ、幼馴染みに先立たれ、同心の小者であることをやめる。
誰かが悪いというわけではない。
それぞれが、それぞれの立場で考え、行動した結果、気持ちがすれ違ってしまうのだ。
読者からするとどちらの気持ちも分かるので、余計にもどかしい。
けれど、シリーズ名が「捕物余話」と言っているのだから、まあ、そのうち戻るのだろう。
人の気持ちは簡単に変われないのならば、ゆっくりじっくり捻じれが解けるのを待つことにしよう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ目次より
・幻の声
・暁の雲
・赤い闇
・備後表
・星の降る夜
デビュー作だし、髪結いだし、短編だし、これは読み終わった後ほっこりとよい気持ちになれる人情ものなんだろうと思って読み始めたのだけど、違った。
表題作の「幻の声」は、ろくでもない男にたぶらかされた女が、男の罪を全て被って刑に服す(死罪)のは、なぜかという話なのだが、最後まで読んでも男は改心しないし、女も罪をかぶったままだ。
何故かというと、それは幻の声のためなのだけど。
二作目は、伊佐治の恋人のお文が事件の謎を解くのだが、これもまた切ない幕切れで。
伊佐治もお文も家族との縁が薄い。
だから余計に安っぽい人情ではなく、もっと芯の通った生き様を通して人と繋がろうとするのかもしれない。
己を貫くことで自分が不利になる女がいる。
真っ当に生きてきた自分の人生を、ようやく振り返ることができる女がいる。
人生の転機にしようと貯めていた金を盗まれた伊佐治は、犯人を獄門送りにしなければ気がすまないくらい怒っているのだが、結局は許すのである。
大金の重みを知ったうえで、「たかが金」と許さざるを得なかった裏には、上司である不破の奥方のこれまた重い人生の矜持があるのだった。
人生はおおむね大変なものかもしれないけれど、考えようによってはいい人生になり得ると、満足して本を置くことができたのだった。