阿刀田氏の「知っていますか」シリーズ以外を読むのは初めて
「トロイア」
なんとなくのあらすじは知っているというトホホな知識量
さらにかなりぼんやりしてきているのでここでしっかりおさらいしようと読むことに
登場人物は多めながらもさすが阿刀田さん!
いちいち特徴的な部分をニックネームにしてくださり
...続きを読む覚えやすい
例)鷲鼻の〇〇、赤髭の××、背高の△△…
またしばらくしてから登場する人物は必ずどこのどなたさんか親切に説明が入る
物語形式ではあるものの、要所要所に現在の場所や歴史的史実がナレーション形式で入ってくる
さらにギリシア神話のご説明もあり大変親切だ
(阿刀田氏の親切さは相変わらずこの上ない!)
主人公はトロイア国の王家の血をひく若者の、アイネイアス
ギリシア神話およびローマ神話に登場する半神の英雄…ということになっている
彼はなかなかの純朴で真っ直ぐな好青年である
出生はアフロディーテの息子とされているが、本書ではおそらく乳母カイエタという父の雇い女…
が母親では?という設定
カイエタというのがこれまた魅力的な女性
恐らく異国のそれなりの身分だった女性が
戦争で敗れたため、今の立場になったと思われる人物
若く美しく知識も拾い
何より愛情深くアイネイアスの心の中でいつも生き続け、常に寄り添っているかのようだ
さてアイネイアスであるが、トロイア滅亡後、イタリア半島に逃れて後のローマ建国の祖となったといわれる
古代ローマでは敬虔な人物とされ、彼を主人公とした作品に詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』がある
このアイネイアスの子孫が、ロムルスとレムスという双子で、この双子がローマの建国者(よくオオカミと双子の人間の像があるアレ)
つまりアイネイアスこそ、ローマ建国の礎となった人物である
そして本書はトロイア戦争までとトロイア戦争後と分量的にも半々くらいあるため、アイネイアス物語といっても過言ではない(と思っているワタクシ)
前半はトロイア戦争が中心だ
ヘクトル、パリスの華々しい兄弟の活躍
有名なアキレスの奮闘と慈悲深い心
トロイアの滅亡…
ここでアイネイアスは多くを学ぶ
後半は、戦争で敗れたアイネイアスら一行はトロイアの再建のため、炎上するトロイアを脱出
7年近く流浪の旅を続けたあと、イタリアのテベル川河口に到着して、そこに新しいトロイアを建国
これがローマ帝国の基となるのだ
この最後の地でアイネイアスらはトロイアでの戦争で学んだことを存分に生かす…
本書の魅力は多くあるが、武器を持たない女の戦いも見どころのひとつだ
戦争で勝利することを切に願う理由は
負けてしまえば残された女たちは凌辱され奴隷のような身分になるのだ
それゆえ、戦にむかう男たちの勝利を切に願う
また武器を持たない彼女たちは生きるために知恵を駆使し戦うのである
現代とは違う
決して浅ましいドロドロ劇なわけではない
生き残るための術なのだ
理不尽な死も多く、グッとくるほどせつなくなる場面も
彼らの建国への志と、生きるという懸命な姿に何度も感動する
あとトロイア戦争は大変長い戦争、かつ神話も交えたストーリーのため、多く文献が存在する
ここでのトロイアは阿刀田氏のトロイアとすべきだろう
あとがきによると…
ホメロスのイリアス、オデュッセイア
ヴェルギリウスのアイネイアス
この3つの叙事詩
阿刀田氏はこれらの伝説的な事象が現代人の常識に適うものかどうかの吟味から始まったという
その上で阿刀田氏の解釈・考え方に基づき、本書は作られている
そしてどのあたりが創作なのかを説明してくださるのだがこれがまたなかなか面白い
木馬の計略も例の派手な策略はないものの地味ながら阿刀田氏のお考えを知った上で読むと実に興味深いのである
最後まで読んで驚いたのだが、巻末に主な登場人物の一覧が4ページもあるではないか!
地図もある〜(涙)
読み終わってから気づいたためなかなかショックであった
これがあったらもっと便利だっただろうに
逆に言えばこれがなくても読み切れるところが阿刀田氏の凄さだ
今回人物メモを一切取らず最後まできちんと読めたのだから(でもやっぱり知りたかった〜最後にあるなんて!)
700ページ近い分量ながら、全くその長さを感じさせることのない面白い作品であった
またいつかイリアスやオデッセウスも読んでみたいなぁ…
いろいろな角度からトロイア戦争を見てみたい