ダンテ「神曲」
気になっているが、読めない自信満々…
いつか……も無理な気がする
というわけで、世の中の自分のような人たちのために阿刀田氏がこういう書を提供してくださるのだ!
我々を飽きさせないように、こちらの立ち位置に合わせてくださるところが何とも申し訳なくなってしまうほど!
ん?と思うとすかさず、「わかりにくいと思うが、ここは……」と解説が入る
さほど重要ではないと軽く流して下さり、細かい説明は「省略しよう」、「先を急ごう」など
先導して下さる
腑に落ちないところにはもちろんツッコミも入れて下さるし、親切この上ない
このやさしいダンテをさらに噛み砕いて備忘録にしてみたい(二度と読まないだろうから…ごめんなさい…)
人は死んだらどうなるのか
死後の世界に本格的に取り組んだのが「神曲」
地獄篇、煉獄篇、天国篇から成る
■ダンテ
1265年フィレンツェに生まれる
文学に関心を持ちながら、政治活動にも参加
政敵に追放され、二度とフィレンツェに戻れず、ラヴェンナで56歳の生涯を終える
気の毒である
そしてベアトリーチェへの崇高すぎる憧れを持っている(異常な思い込みの激しい片思いとも言える 生涯でたった2回しか会ってないのに!)
しかし身分違いということもあり、お互い別々の家庭を持つ
またベアトリーチェは若くして亡くなるため、ますますダンテの中でベアトリーチェが純化、美化され非現実的な神の子のような存在に
「神曲」はベアトリーチェの恵みを受けて数奇な旅をする設定となっている
(このようにベアトリーチェはある意味ダンテにより勝手に神格化されている)
◎地獄篇
「人生のなかばに達し、ふと気がつくと、私はまともな道を外れて、暗い森の中に迷い込んでいた…」というところからダンテの旅が始まる
ガイド役にもう生きていないローマ最大の詩人、ダンテが尊敬するウェルギリウスという設定
地獄は罪状により九層を構成している
ちなみに第一層は、キリストの洗礼を受けていない…というだけでこの「リンボ」という場所にて未決囚扱いされてしまう
さすがキリスト教的倫理観満載だ
日本人の多くは地獄のリンボ行きである(汗)
こんな感じで各層に進みながらさまざまな罪
(愛欲に耽る罪、暴食、吝嗇、浪費、憤り、異端邪教の信仰、暴力、欺瞞、裏切り…中には「?」と思う罪もある)で罰せられている亡者たちと言葉を交わしていく
出てくるのは、ギリシャ神話の神々から、イタリア史に名前を残した人物たち(ダンテが中心の世界観なので)、キリスト教にまつわる神々たち…
そう、これがネックなのだ!
キリスト教が主軸のため、驚くことにマホメットやアリー(第4代カリフ、シーア派の大元)が罪人として登場
イスラム社会で長らく禁断の書とされたのも大いに納得である
またダンテの個人的判断で罪人とされるのもポイントかも…
しかしながら阿刀田氏は
〜ダンテは混乱の時代に生き、愛憎の思いは深く、しかもキリスト教的倫理観をはっきり持っていたから善悪のものさしは厳しく、測りやすかった…〜とのこと
またダンテの地獄描写が魅せる魅せる
責め苦を受ける罪人たちの苦しみ悶える惨状
汚泥、悪臭、流血、罵声、悲鳴、狂気…
凶暴な地獄の恐ろしい獣や怪物たち
次から次へとあの手この手の地獄絵図を描いてくれるのだが、もう凄い想像力である
脱帽ものです
こちらの想像力が追いつかない
例えば…
・体をねじ曲げられ、落ちる涙が尻の割れ目に溜まってしたたり…
・蛇と亡者が体を寄り添わせ、あちこちを交換する…蛇なのか人間なのかわからない
・…おとがいから尻の穴までまっ二つに裂けている 腸は脚の間にぶらさがり、はらわたはまる見え、糞いっぱいの袋も露出している…
・…人間の頭を食っている その髪の毛で自分の口を拭っている…
こんな描写が手を変え品を変え…とじゃんじゃん出てきてあっぱれである
そしてダンテが35歳の設定なのだが、子供っぽいというかピュア過ぎて、ユーモラスですらある
すぐ怖がるし、ビビりだし、ひどいと気を失ってしまう
おまけにウェルギリウスに甘えるし、抱きかかえられちゃうし…
恐ろしさについ目を逸らすとすかさず、ウェルギリウスに叱られてしまう(笑)
ただウェルギリウスはダンテが迷ったり悩んだりするとすかさず正しい方向へ導いてくれる心強いガイドである
罪人の話を聞いて、憤ったり、疑問をもったり、悲しんだり…
「いっさいを記憶に留めます」と宣言しているだけあり、きちんと向かい合う姿勢が大切なことなのだろう
キリスト教の教えや、なぜこの罪がどう悪いのかなど教訓が散りばめられている
そしてダンテの価値観がよくわかる、史上最高の重罪人3人は…
・イエスを裏切ったユダ
・ブルトゥス(カエサル暗殺者)
・カウシス(同じくカエサル暗殺者)
なるほどね〜
◎煉獄篇
煉獄とは…
カトリックにおいて、「天国の喜びにあずかるために必要な聖性を得るように浄化(清め)の苦しみを受ける人々の状態」(Wikipedia抜粋)
天国と地獄の間って感じかな
ここでの煉獄は二つの丘と七つの層から成り、
「相当に立派な人物でもいきなり天国へ入れるわけではない たいていは煉獄を通って天国に向かう」とある
煉獄ではダンテの知り合いや親族なんかもよく登場するようになる
多くの亡者が、現世の〇〇に愛を伝えてくれ
とやたら声をかけられるから
現世にいろいろな思いを残してきており、現世に近いという感じが伝わる
また煉獄では天使が守りにきてくれる
神の情状酌量もケースバイケース
(もちろんダンテの価値観での情状酌量だが)
煉獄篇はもちろん地獄篇からすればかなりソフト
罪の鞭は愛で編まれていたり、瞼が縫い閉じられていたり、飢餓、火あぶり…くらい
また地獄と煉獄の違いは、
地獄→ひたすら苦しむ
煉獄→苦しみが浄化のプロセスとして喜ばしい
なので同じ炎に包まれても煉獄では清いものの憧れを歌いながら焼かれるとの事(精神面はそうだけど、焼かれるのは誰しもぜったい嫌だぞ)
ここでもキリスト教教訓がいくつか出てくる
地上の思考でものを考えるな…神の元では愛は増大し続ける…
とか愛の哲学とは…
みたいな感じ
そしていよいよ最後の炎をくぐると、ベアトリーチェが案内人としてダンテを迎えことになる
(道中、辛くなるとウェルギリウスが「ベアトリーチェが待っているぞ!」と励ますのであった…何度もしつこいがダンテは35歳)
〜東の空は薔薇色に染まり、西の空は清らかに澄み、さながら遠い日に見た朝ぼらけのような気配の中に、白いヴェールにオリーブの冠、緑のマントの下に燃えたつ朱の衣装をまとった淑女〜
おー!
ついにベアトリーチェ降臨!
ダンテは「ああ全身の血が沸き返ります 昔日の感動が炎となって…」
と口走り恥ずかしがる
ところがここから何故かベアトリーチェのお説教が始まる
咎めて咎め抜いてとことんなじり倒す!
苦しい旅のすえ、ようやくたどり着いたのに…ひどい
そう阿刀田氏も仰るとおり、一体ベアトリーチェは何を咎めているのかよくわからないのだ
ベアトリーチェが現世にあったときは、ダンテは彼女への憧れにより正しい道に導かれていた それから後がいけない、と言うのだ
なんだかずいぶん傲慢で勝手なベアトリーチェの見解に感じるぞ…
品性下劣扱いし、「反省なさい」「厳しく後悔なさい」「懺悔なさい」と容赦ないドSっぷりである
それを聞いたダンテも「私はさまざまな快楽に誘われ、道を踏み外してしまいました」なんて答えているのだ
しかしここではこれ以上具体的な話しに発展しないからよくわからないまま終わる
(ベアトリーチェのドSっぷりというか、ダンテのドMっぷりが展開されるだけ?阿刀田氏がわからないものを自分がわかるわけない)
ようやくその後、ベアトリーチェの美しさに目を見張り、眩しい眩しすぎる‼︎と感激するのである(笑)
◎天国篇
地上の人がこの光り輝くすばらしさを語るのは至難の業だ
美しい天国の様子が要所要所に表現される
また肉体が他の物体の中へたやすく入り込む…
ように倫理の証明を超えた神の摂理がある
天文学と光学と神学がまじりあう理論、神学から見た宇宙について、次々とベアトリーチェから説明される
ここでもダンテの質問に対し、ベアトリーチェがキリスト教見解から答えを導き教える
(多くの知恵や教えがあるが、キリスト教の知識が乏しいため割愛)
ダンテは現世を天上を比較し、
神を忘れて法律を学び、神に背いて医学を学んでいる……略奪に耽り、俗事に染まり、快楽を貪り、快悦に溺れている
…と批判する
そしてダンテは神への感謝の気持ちでいっぱいになる
キリスト教の要素が非常に強いため理解はなかなか難しい
クライマックスは天国の最奥の場所でダンテはとうとう神を見る(見るけど、自分の感性が至上の高貴を捉えきれず、感激に圧倒されすぎて記憶がとりとめない、また筆舌も及ばないことも嘆いており、兎にも角にもダンテがそんな具合なのでこちらも伝えようがない)
【特徴とまとめ】
■「神曲」のすごいところ
○ラテン語を拝して、優れたイタリア語を確立する道を拓き、ルネッサンス運動の原動力となった
(この頃イタリア語は俗語扱い)
○中世の百科全書的な知識を巧みに網羅している
○叙事詩としてレベルが高い…らしい
■キリスト教的世界観で占められている
■ギリシャ・ローマ神話が多く引用されている
阿刀田氏が、仰るとおり、日本人にこの世界観は馴染みのないものが多すぎて愛読しづらい要素が多い
しかし人って天国より地獄の方がぜったい興味がわく!
天国に対する想像って限界があるが、地獄に対する想像、妄想はキリがない!
不謹慎とはいえ、怖いもの見たさ…だ
地獄篇はダンテが怖がるたび、罪人が酷い目に遭うたび、なんか喜劇っぽくて笑えてしまった
読み方が正しくないのは重々承知だが、地獄篇はある意味エンタメ要素が強いのだ
そしてダンテは結構わかりやすく真っ直ぐな気質が伺えた
若しくは自分を敢えてそう描いたのか…は不明だが
知識ゼロからここまで理解したということで、良しとさせてもらおうっと
しかし阿刀田氏の本書がなかったら「神曲」に関わることもなかっただろうに…
阿刀田さんありがとうございます!