古沢嘉通のレビュー一覧
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中国系アメリカ人作家の短編集。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞受賞の表題作ほか、全15篇を収録。
「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「結縄」「太平洋横断海底トンネル小史」「潮汐」「選抜宇宙種族の本づくり習性」「心智五行」「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「円弧」「波」「1ビットのエラー」「愛のアルゴリズム」「文字占い師」「良い狩りを」を収録。
SFに与えられる各賞を総なめにした表題作「紙の動物園」が冒頭に収録されている。最初にもってきたのが正解で、いきなりガツンとやられるインパクトによって、この作家に対する印象が好感あるものに満ちてしまった。折り紙で作られた動物に生命を吹き込むという、ファンタジーを感じる設定ながら、中国系アメリカ人だからこその世界観が巧みに深い母子愛を描き出し、涙なしには読めない結末となっている。文句なしの傑作に喝采だ。
続く「もののあはれ」は、滅びの道にある地球を旅立ち、300年後に到達する深宇宙の星を目指すというガチSFな傑作。ここでも親子愛が基軸となる結末が深い感動を呼ぶ。漢字や日本語がフューチャーされているのが興味深い。
【抜粋――「どんなものでもそれを言い表すのに千もの方法がある」父さんはよく言っていた。「それぞれの場合に合わせたふさわしい表現があるんだ」日本語が陰影と雅趣に満ちた言語であり、一文一文が詩であることを父さんに教わった。日本語は、重層的な言語であり、語られぬことばが語られることばとおなじように深い意味を持ち、文脈のなかに文脈が潜み、まるで日本刀の鋼のように層が重なりある言語である、と。】
他に政治情勢やSFギミックにおける設定も緻密で、この作家はいったい何ヵ国語に精通しているんだ……どれだけ多才なんだ……と空恐ろしくなる一作。物語の感動だけでなく、扱われているテーマも深いものがあり考えさせられる。
最初の2タイトルだけでお腹いっぱいになりお釣りがくるぐらいな上、残りの作品も読み応えあるものばかり。多彩なケン・リュウの世界にどっぷりハマる入門書としてふさわしい一冊になっている。ガッツリSFだったりファンタジーぽい雰囲気だったり歴史改変ものがあったり、様々なタイプの話があるが、「文字占い師」だけは閲覧注意レベルの重たい作品なので、読むときは気をつけてほしい。こういった歴史認識に関わる問題をぶっ込んでいるのもこの作家の特質のひとつなのだろう。あなたのお気に入りはどれですか?読者どうしで語り合いたくなる傑作短編集。 -
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時は過ぎゆく。その感を作品毎に強くしてゆくのが、本シリーズのこのところの読後感である。若いベトナム帰りの辣腕刑事であったハリー・ボッシュは、今や警察を退官し老いた私立探偵となっている。その後も何作もシリーズを続けていること自体奇跡的なのだが、本書ではナイトシフトの警察官であったレネイ・バラードが未解決事件専門の新部門の責任者となった構図がシリーズに新しい風を与える。
さらにレネイ・バラードは、チームに退職者であるボッシュを迎え入れる。現役を退いてなお未解決事件に挑んできたボッシュの最新のヒストリーに、若き女性捜査官レネイ・バラードの運命を重ねることがシリーズの合体と継続とを奇跡的に成功させ、なおかつ成熟させているのだから、コナリー魔術とその奇蹟的世界設計に再々ながら驚かされた。
新しいチームに組み入れられた癖の強い新しい面々もそれぞれの個性が浮き立ち、カラフルかつ摩擦や緊張にも満ちていて本書の新しい読みどころとなっている。
本書では未解決事件に執念を見せるチームの面々も面白いところだが、彼らの一部の背景となる構造も、本書では二つの大きなうねりとなる同時並行的捜査に複雑な影となってついて回る。過去からの犯罪者を追跡しつつも、現在のチーム内に疑惑を呼び起こす奇妙なメンバーの動きなどもあって、内外ともに気が抜けないボッシュとバラードの様子が、物語全体に張りつめた緊張感を与えてゆく。
静かな捜査と大団円でのガンショット。犯罪はいつでも暴力に満ちたものだし、発生した場所や、犠牲になった人々の想い出は常に悲しくむごたらしい。それらを巻き起こしたネガティブな存在を、常に追跡し対決を挑み続ける私立探偵ハリー・ボッシュと、彼よりはるかに若いが人間的にも魅力的なレネイ・バラードという女性警察官のコンビネーションを本書からはシリーズとして新たに楽しめる。そんな期待値いっぱいの大団円を迎えながら、本書ではシリーズとしては少しショッキングなしこりのようなものが最後に残される。
ボッシュの娘である市警刑事マディと現在の相棒であるレネイ。ボッシュの正義は今、次世代に少しずつ継がれようとしている。そんな重要な局面に居合わせているような感覚を覚えるこの頃。ここのところの新作は、そういう意味でも一作一作に、まさに見逃してはならないという感覚を強烈に覚えている。次の作品が待たれると同時に、読むのが怖いような気さえしてくる。予断を許さぬシリーズ転換点に今ぼくら読者も立たされているのである。 -
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時は過ぎゆく。その感を作品毎に強くしてゆくのが、本シリーズのこのところの読後感である。若いベトナム帰りの辣腕刑事であったハリー・ボッシュは、今や警察を退官し老いた私立探偵となっている。その後も何作もシリーズを続けていること自体奇跡的なのだが、本書ではナイトシフトの警察官であったレネイ・バラードが未解決事件専門の新部門の責任者となった構図がシリーズに新しい風を与える。
さらにレネイ・バラードは、チームに退職者であるボッシュを迎え入れる。現役を退いてなお未解決事件に挑んできたボッシュの最新のヒストリーに、若き女性捜査官レネイ・バラードの運命を重ねることがシリーズの合体と継続とを奇跡的に成功させ、なおかつ成熟させているのだから、コナリー魔術とその奇蹟的世界設計に再々ながら驚かされた。
新しいチームに組み入れられた癖の強い新しい面々もそれぞれの個性が浮き立ち、カラフルかつ摩擦や緊張にも満ちていて本書の新しい読みどころとなっている。
本書では未解決事件に執念を見せるチームの面々も面白いところだが、彼らの一部の背景となる構造も、本書では二つの大きなうねりとなる同時並行的捜査に複雑な影となってついて回る。過去からの犯罪者を追跡しつつも、現在のチーム内に疑惑を呼び起こす奇妙なメンバーの動きなどもあって、内外ともに気が抜けないボッシュとバラードの様子が、物語全体に張りつめた緊張感を与えてゆく。
静かな捜査と大団円でのガンショット。犯罪はいつでも暴力に満ちたものだし、発生した場所や、犠牲になった人々の想い出は常に悲しくむごたらしい。それらを巻き起こしたネガティブな存在を、常に追跡し対決を挑み続ける私立探偵ハリー・ボッシュと、彼よりはるかに若いが人間的にも魅力的なレネイ・バラードという女性警察官のコンビネーションを本書からはシリーズとして新たに楽しめる。そんな期待値いっぱいの大団円を迎えながら、本書ではシリーズとしては少しショッキングなしこりのようなものが最後に残される。
ボッシュの娘である市警刑事マディと現在の相棒であるレネイ。ボッシュの正義は今、次世代に少しずつ継がれようとしている。そんな重要な局面に居合わせているような感覚を覚えるこの頃。ここのところの新作は、そういう意味でも一作一作に、まさに見逃してはならないという感覚を強烈に覚えている。次の作品が待たれると同時に、読むのが怖いような気さえしてくる。予断を許さぬシリーズ転換点に今ぼくら読者も立たされているのである。 -
Posted by ブクログ
SFってやっぱ面白い、と思わせてくれる16編と盛りだくさんの短編集。文庫も物価高騰のあおりを受けてこんなに高くなったか・・・と思いつつ買ったが、元は取れたと思う。
どの作品も味わい深いのだが、意識を持ったAIは物理的につながりさえできれば、ハード(シャーシ)を乗り換えていけるって設定が興味深い。人間が求めてやまない不死不老をAIなら実現できるという夢。
究極は「罪喰い」の世界で、人間はみな仮想空間(天国)に旅立ち、荒廃した地上にはロボットだけが残る。遺していく記憶を選べるってとこが業だ。
一方で、製品が成長したり、メンターがいたり、ロボット同士のいじめがあったりって世界の作品もあって、自意識を持つようになって社会のなかで生きていこうとすると、AIも人間も変わらないのはそうだよなと思う。
生存権をはじめAIの権利が認められる日が来るのだろうか? -
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ハリー・ボッシュ・シリーズ20作目後半。
ロス市警を退職後、サンフェルナンドで予備刑事となり、次々に未解決事件を解決していたボッシュ。
30年前にボッシュが逮捕した死刑囚が、冤罪であったという証拠が新たに現れる。
当時、ボッシュが捏造したと疑われ‥?
(ありえない、って!)
一方、サンフェルナンド市警の管轄内でも事件が。
ボッシュは、潜入捜査に赴くことになります。
制約がありつつも腕を活かしていたボッシュ。
ロスでは犯罪者には有名だから潜入捜査などできなかったが、痩せた風貌でやや老いてきた今は、適役らしい?
捜査途中で出会った中毒患者に対しても、これまでとはやや違った対応を見せる。
といった変化を含みつつ、最後はカッコいい。
さすが!
ミッキー・ハラーも彼らしい活躍を見せますが、ボッシュにはかなわない。
危機を思いっきり跳ね返す、熱くなる結末でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレボッシュ&バラードの第四弾。
長年続いてきたシリーズだが、
COVID-19やマスクが登場する時が来るとは思わなかった。
マスクをする、しないにナーバスになっているのは、
アメリカの現実を反映しているのだろう。
なんだろう、例えば防護服を着て街中を歩けと言われているぐらい、
アメリカ人にとってマスクは違和感があったり、
抵抗感があることなんだろうか。
年越しパーティで空に向かって発砲するお祝いの最中に、
元ギャングの銃弾で死ぬ。
バラードがやる気のない臨時の相棒と現場にむかうが、
事故ではなく殺人とわかり、
薬莢はボッシュが昔担当した事件に導く。
バラードはこの殺人事件を担当するよう上司と掛け合う一方、
本来の担当である二人組によるレイプ事件も調べる。
どうやって彼らは標的を決めているのか、
家に侵入しているのか。
(下巻へ) -
Posted by ブクログ
ジャック・マカボイ、ミッキー・ハラーと続いていたコナリー・ワールドだが、久々にハリーボッシュ&レネイ・バラードの登場でぼくは新年を美味い酒とともに迎えさせて頂いた。美味い酒というのは銘柄とか酒の種類のことではなく、良い物語が美味しくさせてくれる酒のこと。
今回はタイトルの通り、夜の事件なので主人公役はほぼレネイ・バラードと見て良い作品であった。そもそもハワイからやって来たバラードは、その後の展開で愛犬を失い、ビーチのテント生活から現在は普通のマンションに居を移している。いろいろ初期設定から変化を遂げている。
彼女の持ち前の捜査勘の良さはさらに鋭さを増しており、ボッシュという大先輩に限りなく近づきつつあるように見える。まわりの捜査スタッフから孤立して正義に生きる一匹狼感には、さらに磨きがかかっており、逆に警察組織自体は、ボッシュの時代よりもさらに乱れて悪化しているかに見える。
時代は変わる。そう、ボッシュからバラードへ。さらに本書の背景となる時代もリアルに描かれている。時代はコロナ禍の初年度だから、マスク着用は必須。バラードは既にコロナ感染を数か月前に終えていた。ボッシュは未だワクチンを打っていない(彼らしい、かも)。そしてトランプ対バイデンの大統領選挙後の議事堂襲撃事件という本当に逢った異常事態も時代背景となり、きな臭い現在の雰囲気が物語の世界を領している。
ちなみにぼくはこの作品を大晦日の夜半から読み始めたのだが、思いがけぬことに、物語はまさに大晦日の夜半から始まり、年明けとともに銃撃事件が発生するのだ。まさにバラードの時間とぼくの読書の時間がシンクロしており驚きだった。かなり遅くまで本を読み込み、翌朝、ぼくはバラードと一緒の時間帯に午前と午後を過ごす。彼女の街ではさらにもうひとつの連続侵入レイプ事件が発生していて、こちらの捜査と殺人事件との二つの事件を抱えたバラードを読者は追跡してゆくことになる。
殺人事件の方では使用された銃弾が、かつてボッシュが携わった古い事件に使われたものと一致することで、バラードはボッシュの協力を必要とする。ヒーローとヒロインのダブル主人公の交錯を作者はこうして果たす。警察内で孤立するバラードは、夜と昼とのシフトを丸抱えしながら、精神的にも肉体的にも限界に近い状況でボッシュと言うもう一人の孤立した仲間とタッグを組んでゆく。罪多き街も、警察という組織内部の劣化も、彼らを包む不幸な舞台装置である。汚れた街をゆく誇り高きヒーロー。ハードボイルドの基本構図。
本作は終わってみれば、ボッシュの出番がとても少なかったという印象がある。二人のシリーズというよりは、ボッシュはまるでバラードのシリーズの一登場人物のようである。さらに、訳者の古沢さんがあとがきで気になることを書いている。「次作の衝撃的な内容に茫然とした」と。どうかボッシュにこれ以上何かの試練が与えられませんように。われらがハリー・ボッシュをどうかお守りください。もちろんレネイ・バラードのことも。