あらすじ
〈ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞受賞〉ぼくの母さんは中国人だった。母さんがクリスマス・ギフトの包装紙をつかって作ってくれる折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動いていた……。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作ほか、地球へと小惑星が迫り来る日々を宇宙船の日本人乗組員が穏やかに回顧するヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、中国の片隅の村で出会った妖狐の娘と妖怪退治師の「ぼく」との触れあいを描く「良い狩りを」など、怜悧な知性と優しい眼差しが交差する全15篇を収録した、テッド・チャンに続く現代アメリカSFの新鋭がおくる短篇集
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15の物語が収められた、SF短編集。
いかにもSFらしい話もあれば、純文学っぽい話もあり。でも、どれもすごくいい!
中国移民の二世である息子と母との心の隔たりと悔恨を、「動く紙の動物」というファンタジックなギミックを使って、素晴らしい物語へと織り上げている「紙の動物園」。
縄文字(縄の結び目で文字を表したもの)を知る部族の長と、それを遺伝子ビジネスに利用しようとするアメリカ人との騙し合いが描かれ、文化人類学SFとでもいうような独特の世界観が楽しめる「結縄(けつじょう)」など、どれも粒揃い。読み終えたあと、しばし空想にふけりたくなる、そんな話がたくさん詰まっている。
しみじみとした叙情性とともに、孤独や諦念のようなムードを感じるのは、ケン・リュウという作家自身が中国からの移民であるというところが大きいのかもしれません。
SF好きにはもちろん、物語を愛するすべての人に勧めたい良作です。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
表題作の『紙の動物園』が、あまりにも素晴らしい作品だったので、読み終えていませんが感想を書いてしまいます。
歴史に翻弄される人間の悲哀、深い愛情行動、辛い人生の救い、それらが合わさって、非常に深い物語に仕上がっています。
一生に一度は読むべき傑作です。他の短編も読んできます。
Posted by ブクログ
中国系アメリカ人作家の短編集。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞受賞の表題作ほか、全15篇を収録。
「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「結縄」「太平洋横断海底トンネル小史」「潮汐」「選抜宇宙種族の本づくり習性」「心智五行」「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「円弧」「波」「1ビットのエラー」「愛のアルゴリズム」「文字占い師」「良い狩りを」を収録。
SFに与えられる各賞を総なめにした表題作「紙の動物園」が冒頭に収録されている。最初にもってきたのが正解で、いきなりガツンとやられるインパクトによって、この作家に対する印象が好感あるものに満ちてしまった。折り紙で作られた動物に生命を吹き込むという、ファンタジーを感じる設定ながら、中国系アメリカ人だからこその世界観が巧みに深い母子愛を描き出し、涙なしには読めない結末となっている。文句なしの傑作に喝采だ。
続く「もののあはれ」は、滅びの道にある地球を旅立ち、300年後に到達する深宇宙の星を目指すというガチSFな傑作。ここでも親子愛が基軸となる結末が深い感動を呼ぶ。漢字や日本語がフューチャーされているのが興味深い。
【抜粋――「どんなものでもそれを言い表すのに千もの方法がある」父さんはよく言っていた。「それぞれの場合に合わせたふさわしい表現があるんだ」日本語が陰影と雅趣に満ちた言語であり、一文一文が詩であることを父さんに教わった。日本語は、重層的な言語であり、語られぬことばが語られることばとおなじように深い意味を持ち、文脈のなかに文脈が潜み、まるで日本刀の鋼のように層が重なりある言語である、と。】
他に政治情勢やSFギミックにおける設定も緻密で、この作家はいったい何ヵ国語に精通しているんだ……どれだけ多才なんだ……と空恐ろしくなる一作。物語の感動だけでなく、扱われているテーマも深いものがあり考えさせられる。
最初の2タイトルだけでお腹いっぱいになりお釣りがくるぐらいな上、残りの作品も読み応えあるものばかり。多彩なケン・リュウの世界にどっぷりハマる入門書としてふさわしい一冊になっている。ガッツリSFだったりファンタジーぽい雰囲気だったり歴史改変ものがあったり、様々なタイプの話があるが、「文字占い師」だけは閲覧注意レベルの重たい作品なので、読むときは気をつけてほしい。こういった歴史認識に関わる問題をぶっ込んでいるのもこの作家の特質のひとつなのだろう。あなたのお気に入りはどれですか?読者どうしで語り合いたくなる傑作短編集。
Posted by ブクログ
作品が凄いし、これを違和感無く翻訳した翻訳者も凄い。難しい話が語られているのに、何となく理解できる世界観を作り出せるのが本当に素晴らしい。何とも言えない切なさや刹那さ、、、言葉にできないものが物語として描写されている。本当に頭の良い人が書くとこういう物語になるのかもしれない。難しい話を解るように語り聞かせてくれる。ものすごく良かった。
Posted by ブクログ
最初の表題作でボロボロ泣いてしまった。一方、途中にはSF慣れしていない自分にとって難解な話もいくつかあり、再読の必要性を強く感じています。SF的なモチーフをふんだんに使いつつも人の心と心の触れ合いに重きを置いた優しい眼差しの作風に、なんとなくカーヴァーを連想しました。「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「良い狩りを」が好み。
Posted by ブクログ
散々話題になって、2010年代SFのベスト10にも選ばれて、ようやく読んだケン・リュウの『紙の動物園』
確かに面白いのだけど、それ以上にSFというジャンルに吹いた新しい風というか、雰囲気を感じる短編集だったように思います。
表題作の「紙の動物園」は特に傑作だと評判は高かった気がしますが、本当に評判に違わない傑作!
アメリカ人の父と中国人の母を持つ息子が主人公。折り紙の動物に命を吹き込むことが出来る母。しかし息子は成長するに従い、中国人の母に反発を覚えるようになり……
国籍や言語の違い、文化の違い、それは親子ですらも遠い距離にしてしまいます。そして母からの手紙で明かされる、語られることのなかった母の人生と息子への想い。
過酷で孤独だった彼女の人生。そして見つけた居場所。一方でどれだけ愛が深くても埋めることのできない、我が子との距離。
どこかメルヘンチックな紙の動物たち。それはおもちゃで自分だけの世界を作っていた子どものころを思い出させるような気がします。
そして母への反発と紙の動物からの卒業。作中では人種や言語、文化の違いからこの反発の端を発していますが、この反発心やおもちゃからの卒業も、子どもだった人の多くが思い当たりそう。
そして、離れて失われてから分かる母の存在と愛情の大きさ。それでも決して時間は戻ることは無く……。
SFであったり、幻想であったり、海外が舞台であったり、異文化がキーワードになったり、歴史的な事件も織り込まれたりするのですが、それ以上に「紙の動物園」という作品は、どこにでもある普通の母子の物語でもあった気がします。
郷愁や思い出、母に対する決まり悪さ、そして母の愛と想い。あらゆる人が共感できそうな感情と過去をゆっくりとなでおこすような、そんな感覚を読み終えた時に思いました。
この切なさであったり、あるいは郷愁であったりは、ジャンルに縛られずあらゆる人に届くのではないか、とも思います。
もう一つ強く印象的だったのは「文字占い師」
台湾に引っ越してきたリリー。しかし父の仕事のため、台湾の米軍学校の同級生から距離を置かれてしまう。そんなリリーがある日出会った一人の少年と、彼を育てるおじいさん。
そのおじいさんは、自分は文字占い師だと話し、リリーが何気なく選んだ単語から、リリーの現在を言い当てて見せると言う。
リリーが選んだのは『秋』という単語。それに対し文字占い師の甘(カン)は、秋の漢字の成り立ちを説明した後、その下に心を書き加え『愁』という字に書き換えます。
そして「愁」には愁いや悲しみの意味があることを語り、リリーの孤独を言い当てます。そうしてリリーは、どんどん二人との距離を詰めていきますが……。
この文字占い師の甘の語りは、本当に魔術のよう。漢字の意味や成り立ちを説明していく中で、徐々に話は甘の人生、そして中国や台湾の歴史や国家の話へ形を変えていきます。
そしてそれは、国家や歴史、政治や思惑に振り回されてきた個人の悲劇と、それでも前を向こうとする人々の強さまでも表現しようとするのです。
しかし、やがて訪れる登場人物たちへの過酷な運命は、国家の矛盾と、国家に繋がれた個人の哀しさを浮き彫りにします。最後に残る切なさや寂しさが、印象に強く残りました。
「結縄」のアイディアは、この短編集でも随一の面白さだったなあ。縄で文字を伝える少数民族。その少数民族の元を訪れる研究者ト・ムの目的が明らかになったときは、アイディアの面白さに脱帽しました。
そしてアイディアの面白さで話を終わらせず、そこから科学や時代の波に飲み込まれる、少数民族の哀切を浮かび上がらせるのもすごい。
アイディアでいうと「選抜宇宙種族の本づくり習性」はまさにセンス・オブ・ワンダーという言葉が当てはまります。
様々な異星人、さらにはロボットのような種族までが、地球人からすると本とは思えない、それでも「本」としか言いようのないものを作っていく様子をただ解説する話。
想像力がかなり必要とされますが、これだけのことを文章に起こせるのがまずすごい。そして、ラスト一行は本好きにはある意味力強く響くかも。
他に印象的だった短編を簡単に。
「もののあはれ」の主人公は宇宙船の乗組員の日本人。
東日本大震災の時に、物資の配給にちゃんと列を作って受け取る日本人の姿が世界から賞賛されましたが、ケン・リュウもそんなふうに日本を良く思ってくれているのか、とも感じる短編。
ひねくれてる自分は、列を作るのは外国の人が思ってるような、崇高なものが理由でもない、と思ってしまうのですが、それでも作品の穏やかな語り口と、深遠なテーマは、日本という国や文化を誇らしく思わせてくれます。
「太平洋横断海底トンネル小史」
上海からシアトルまでをつなぐ巨大な海底トンネルの建設に、現場で携わった男の話。
国家の巨大事業として派手に進められた建設の裏で、地上で暮らす家族とは疎遠になり、地上に戻れなくなった男。やがて時代が進むに従い、産業の高度化や仕事の危険さ、人件費の高騰で工事の担い手が少なくなり国が取った選択と、男が取った行動は……
繁栄する世界の裏で、忘れられ語られることもなくなってしまった悲劇と罪。そして取り残された者の哀切が印象的。
「どこかまったく別の場所でトナカイの大群が」
安全な空間で暮らすレネイと、宇宙飛行士として飛び立とうとするその母。そしてレネイが初めて外の世界へ飛び出したときのワクワク感。
一方で外の世界を知ってしまった娘に対しての父の思いであったりと、冒険心と親の切なさが感じられる作品。
不老不死がテーマの「円狐」
生と死、様々な人や家族との出会いと別れから導き出される、人生の真理。静かに穏やかにたおやかに閉じられる物語の終わりが、また情緒深い。
妖狐の娘と妖怪退治師の男を描く「良い狩りを」も独特のSF。
文明や科学の発達により居場所を失っていく妖弧と妖怪退治師。本来相対するはずの二人が、そんな時代の波に飲まれつつも、その時代の中を必死に生き抜き、そして流れゆく時代に対し、最後に示す気高い姿と、未来への希望が心に残ります。
最後に収録されていた「良い狩りを」の影響もあるのか、『紙の動物園』に収録されている短編の持つ雰囲気は、ジブリ映画の『平成狸合戦ぽんぽこ』と似たものがあるように思います。
都市開発により、住処である里山を奪われそうになった『ぽんぽこ』の中の狸たち。彼らは妖術を使って開発を中止させようとしますが、それも徐々に限界を見せ始め……
失われたもの、戻らないものへの郷愁。科学や文明の発達に取り残されたり、あるいは翻弄される人々。国家や時代のうねり、科学技術の波に飲まれ、表舞台からひっそりと消えたマイノリティや弱者たち。
『紙の動物園』で描かれた登場人物たちの姿が、人間や文明の発達の前に、故郷を失い姿を消した『ぽんぽこ』の狸たちと、どこか似ているような気がします。
そしてもう一点、『紙の動物園』と『ぽんぽこ』に共通しているように感じたのは、そうした弱者であったり、表に出なかった声を掬い上げようとするどこか優しい視点。
人間たちへの反抗への一方で、狸たちの生活や個性、そして自然を生き生きと描いた『ぽんぽこ』
穏やかな語り口と静かな抒情で、登場人物たちを見つめる『紙の動物園』の短編たち。
時代や歴史の流れ、あるいは技術の発展に伴い失われゆくものや、表にでなかったもの、変わってしまうもの……。そして、そんな中でも最後まで変わらないもの。
そうしたものたちへの愛惜であったり、優しい視点が根底にあるように感じました。
そしてこの視点こそが『紙の動物園』が、ベストSFに名を連ねた理由だと自分は思います。
今まで読んできたSFも、こうした話はあったような気はします。でもその視点はどちらかというとシリアスというか、ブラックというか。
進みすぎた技術や、強大な国家への警鐘、あるいは皮肉が印象に残るものが多かったです。
一方でこの『紙の動物園』はそれ以上に、そうしたテーマに押し流される人たちの声を、静かに、そしてたおやかに掬い上げようとしていることが印象的でした。
そうした視点が、この感想の最初に書いた「SFの新しい風や雰囲気を感じた」理由だとも思います。
こういう視点って人柄もそうですが、著者のケン・リュウの出自もやはり関係しているのかもしれません。
歴史的な事件や政治的な事柄に対し、自国民に自由に語ることを許さない中国。その裏にはたくさんの声なき声が渦巻き、そして聞かれることのないまま、時代の中に消えていった声もたくさんあると思います。
幼少期をその中国で過ごし、その後アメリカに移住したケン・リュウ。海外から見た故国の矛盾と、その一方で子ども時代や、中国文化への郷愁。
そうしたものが合わさってこうした独特ながらも味わい深く、そして世界の壁を越えて愛される短編たちが生まれたのではないか、とも想像してしまいます。
以前『折りたたみ北京』という中国SFのアンソロジーの感想でも書いたのですが、中国SFの作中で描かれるキーワードやガジェットは確かに目新しくて面白いです。
でも作品の根底にあるものであったり、人間に対する視点というものは、やはり普遍的なもののような気がします。
一方で、中国という出自やキーワード、ガジェットがあるからこそ、その普遍的なものがより鋭く、あるいは味わい深く描かれているところもあって、だからこそ中国SFが熱い! という熱が生まれたのだとも思います。
でも〈中国〉や〈SF〉はあくまでキーワードであり、設定でしかありません。それを存分に生かした物語と、その根底にある優しい視点。それこそがこの『紙の動物園』の最大の魅力だと思うのです。
Posted by ブクログ
中国で生まれ、幼年期を同国で過ごした著者。そのため表題作をはじめ、多くの作品には東洋文化の影響が色濃く反映されており、同じ文化圏の私たちには特に心にグッとくるものがある。お気に入りは「もののあはれ」「太平洋横断海底トンネル小史」「円弧」あたり。すでに多数の短篇を、しかも驚異的な速さで書き上げているみたいなので、どんどん邦訳され刊行されると嬉しい。あ、長篇も出ている様なので、そちらもお願いします。今後大注目の作家。
Posted by ブクログ
短編にもかかわらず、一話一話に読み応えがある。SFでありながら(だからこそ)人間の体温と心を感じる。その時々の自分の状況によって、響く作品が変わるため、手元に置いておきたい一冊。
Posted by ブクログ
表題作がやばすぎるSF短編集
魔法のような母さんの折り紙だけがずっとぼくの友達だった
なんて美しい物語だろう
子供の頃に読めば反抗期は終わり
大人になって読めば親に会いたくなり、子供が愛おしくなる
SFとファンタジーにしかできない物語がこの本にはある
Posted by ブクログ
SFのレーベルから出てるし、SFっぽい話が多いから、一応ジャンルはSFなんかな?1話が程よい長さで、訳もきれいで読みやすいんだが、全体的に社会風刺がビシビシなので、読んでで楽しくはない。が、おもしろかった。1話ずつ、間を開けて読んだ方がよいと思う。あと、デット・チャンみたいやな〜と思いながら読んでたら、作者注でデット・チャンについて語ってたし、あと訳者さんも同じでしたわ。
Posted by ブクログ
ケン・リュウの作品はテーマがストレートに描かれていてわかりやすい。ディズニー映画級にわかりやすい。日本人が主人公の表題作など顔が赤らんでしまうほどだ。
わかりやすく説明的に描かれている分想像の余地は当然薄れてしまい、自分的には物足りなさを感じてしまう要因となるのだけれど。
SF味の薄い「文字占い師」のような作品の方が印象に残っています。空虚なただの言葉であるはずのものが強カな力をもち人々を動かしはじめる。ル・グインを思わせる読後感。言葉は大事に使わないとね。
ラストのオカルト・スチーム・パンクといった趣の「良い狩を」が哀愁もあり一番おもしろいかな。
Posted by ブクログ
海外SFは今まで古典的なディック、ハインライン、クラーク等の長編しか読んだことがなかったのですが、短編で作品ごとに全く違う世界が繰り広げられる本作に圧倒されました。
読む人やタイミングで、1番心に残る作品は変わってくると思います。「結縄」「文字占い師」にショックを受け、「紙の動物園」に涙しました。「良い狩りを」も好きです。
問題に向かって進むSFばかりに慣れていたので、こんな終わり方があるのか!と驚かされるものも多かったです。
個人的にはNetflixで連続ドラマ化して欲しいと思いました。作品によって長さが違っても融通がきくのが配信なので。
Posted by ブクログ
15作もの短編集で、魔法や呪い的な要素が入った作品、生命の定義を問うもの、システマティックなもの、歴史認識に関するものなど幅広い作品が収録されていました
読み応えのある作品が多く、読む時間は長くなりました
【特に好印象だった作品】
・良い狩りを
・紙の動物園
・結縄
・波
【歴史認識を高めた作品】
・文字占い師
訳者の後書きは、あらすじに触れずに作者の略歴や収録の経緯を解説されていて秀逸、先に読んでも問題はなさそうです
Posted by ブクログ
『心智五行』が一番好き。
人間は科学で説明できるものじゃないと思っているので、ロマンを感じた。
説明できないけど感じるものをうまく表現できていて胸が熱くなった。
『1ビットのエラー』の中の「成熟を価値あることと見なすというよくあるミス(p272)」という所ははっとさせられた。
SFを使って「人間とは」ということを表現するのが得意な作家さんなんだなぁと思った。
Posted by ブクログ
SFというよりもファンタジーに近い雰囲気の短編集。
自伝的な要素が感じられる作品がいくつもあり、アジア系ならではの表現が随所に感じられた。
どの作品も一級品の出来で、この一冊でケン・リュウの世界観を存分に堪能できる。
「紙の動物園」「もののあはれ」「月へ」「円弧」「文字占い師」「良い狩りを」
が特によかった。
Posted by ブクログ
移民の母親と、母親が周りと馴染めないことに憤りを感じる息子との間で、距離が広がっていく表題作でぼろぼろ泣いた。しかもその下地に文化大革命での複数の死があるのだから。
Posted by ブクログ
ファンタジーなものからハードSFまで楽しめます。日本が舞台になっていたり、漢字が主題だったりで海外作品ですが身近に感じるのが多かったです。表題作はたくさんの賞を取ったそうですが、スチームパンクっぽい「良い狩りを」がお気に入りです。?
Posted by ブクログ
読書備忘録583号。
★★★★。
じわ~と来るSF短編集。カチコチのSFではなく、どの作品もファンタジー的で、東洋的で細やかな情感で、叙事詩的な雰囲気を感じさせる。
アメリカSF界の旗手で、本のタイトルになっている紙の動物園でヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の3冠達成。史上初。
紙の動物園:生きていくためにカタログに載り、アメリカ人に買われて結婚した台湾人の母。ハーフとして生まれた主人公。幼い頃、おもちゃが欲しいとねだった。母はチラシの紙で動物を折り、ふぅ~っと息を吹き込み命を与えた。動き出す紙の動物たち。成長した主人公はいつまでも英語を話せない母にイラつく。そして母は亡くなり、動物たちは・・・。切ないですね。母の想い。
もののあはれ:小惑星が地球に衝突する。人類は宇宙船を作り、選抜された人々を乗せて旅立つ。日本での宇宙船建造は失敗。主人公は両親の口添えでアメリカの宇宙船に乗れることになった。しかし航行中、太陽帆(数kmに渡る)に穴が空き、修理しないと宇宙船は全滅する。修理できるのは複雑な骨組みを理解して破損個所まで最短時間でたどり着ける主人公だけ。移動中寝ることすら許されないギリギリの空気で修理に旅立つ主人公。
これらの代表作以外にも、太平洋横断海底トンネル小史、潮汐、心智五行、円弧、波などどれもこれも珠玉の短編。生命の捉え方が独特で、命の定義ってなんでもありだなと、新鮮に楽しめました。
Posted by ブクログ
とても面白かった。東洋の世界観が見事に反映されたSFで、このレベルの作品はなかなか出るものではないと思う。織り込まれている歴史背景や人種観のメッセージ性が深く、SFの枠を飛び越えて面白いと思う。 テッド・チャンの『あなたの人生の物語』のなかでも「地獄とは神の不在なり」が好きだったので、「1ビットのエラー」を読んでピンときた。一番お気に入りの短編は「良い狩りを」で、訳者さんがトリに持ってきただけあるなと思った。訳者あとがきを読めば、この短編集への愛が感じられる。
Posted by ブクログ
「折りたたみ北京」の編者兼英訳者が書いた短編集。
原題?に「fantasy and science fiction」とあるように、SFというよりファンタジー感が強い。
「折りたたみ北京」でも感じた抒情性はさらに強く、作者の作風なのか、中国”SF"の一般的傾向かはわからないが、何となく前者のような気がする。
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ面白い……なんでもっと早く読まなかったんだ〜〜!!!!どの作品が好きか選ぶの悩むな〜〜……表題作も大好きだし、「月へ」「結縄」「文字占い師」もショックを受けたけどそれがまたすごいなと思ったし、「円弧」とか「愛のアルゴリズム」みたいな、技術の発展ゆえの悲しさみたいなものを描く設定大好きだし、「1ビットのエラー」とか「良い狩りを」とか美しすぎるし……「選抜宇宙種族の本づくり習性」とか「心智五行」とかは最初ついていけないかな?って思ったらどんどん引き込まれてしまったし……どれも選び難いけどこの本でのマイベストはやっぱり表題作の「紙の動物園」かなと思います。あんまりSF読んでないからというのもあるけど、こんなSFあるんだ!と感動してしまった。
生まれた国からの移動や、文化への興味や、職業の経験や頭の良さや、すべてが豊かに活かされているというか………プログラマーと弁護士の経験を活かすSF作家って要素盛りすぎだと思うのに活きてるんだよな〜〜………
SFって無機質なイメージがあって、クールな選ばれし人たちが「これがいいんだよ!」と熱狂しているように思っていました笑、が、なんていうか、良い意味で普通の物語のひとつなんだなと思って。人間臭い物語もあるんだなあと。
あとは、世界すべてがSF的世界にすっかり染まり、新旧の技術を持った異なる存在の断絶ではなく、同じ世界に進んだ技術があり、それを選ぶ人も選べない人も、なんなら選びたくても選べない人もいて、さらには同じ登場人物でも時によって考えや選ぶことが変わったりする描写がとても上手くて、そういう時代は実はもう来てるんだろうなと、そのある意味でのリアルさにも舌を巻いてしまいました。
他の作品も読みたい!し、ケン・リュウさんは英語圏の作家さんと言えるんだろうけど、その生い立ちや他を絡めたあとがきのおかげもあって、非英語圏の海外作品も読みたいな!あとは単純にSFもっと読みたいな!と思える作品でした。めちゃくちゃ良かった!!!!
Posted by ブクログ
予想以上に面白いSFだった。
どの短編も独特の世界観があり、陶酔させられてしまった。
どれが特にといわれると困るが、「紙の動物園」「心智五行」
「文字占い師」「良い狩りを」あたりかな。
また、時をおいてケン・リュウの違う作品を読んでみたい。
Posted by ブクログ
表題作の「紙の動物園」が良かったです。包装紙を折り紙のようにして、動物を作ってそれに命を吹き込むところ、母がいろいろな苦労を重ねて今日に至っているところは感動しました。
Posted by ブクログ
ケン・リュウは初見だったが思ったより情緒的で、ハードSFを期待して読み始めた自分にはちょっと合わなかったなと思いつつ読み進めたが、テッド・チャン(大好き)にインスパイアされたという2作品はとてもよかった。とくに「1ビットのエラー」は扱っているテーマも描き方もすごく好みだった。大変SF的な現象が「普通の」事実とつながることで、現実とフィクションがつながる感覚が好き。
あとがきによると作者にとって重要な位置づけの作品らしく、それもまたうれしい。
Posted by ブクログ
空虚で絶望感のある未来世界で描くヒューマニズム作品。人間味や暖かみがより際立ちます。
めちゃくちゃ感動するんだけど、すごく切なさが残る。ちょっと苦手。
Posted by ブクログ
紙の動物園:折紙で動物を作る優しい母。成長した主人公は中国人母を避けるように。母の死後虎の折紙に母の思いが託される。泣ける話。
円弧:不老不死。
良い狩りを:妖怪退治師と妖狐。機械仕掛の展開。
Posted by ブクログ
家族の話が多い(個人の話が少ない)のが叙情的に感じるのだろうか。
・紙の動物園 中国母の折り紙の魔法
・もののあはれ 宇宙船を直すヒーロー
・月へ 土地と亡命申請者 中国語訳なし
・結縄 タンパク質構造解析とターミネーター種子
・太平洋横断海底トンネル小史
・潮汐 満潮と塔
・選抜宇宙種族の本づくり習性 口吻手記 石の脳
・心智五行 腸内細菌群と脳内化学
・どこか全く別な場所でトナカイの大群が
・円弧 ボディワークス社 不死
・波 おかえりなさい 数世紀前に追い越された
・1ビットのエラー
・愛のアルゴリズム
・文字占い師 秋 羊 制海権 freeze 中国語訳なし
・良い狩りを 機械になった妖狐
Posted by ブクログ
中国系米国人によるSF短編集
前作多少あれアジアン風味が漂う
冒頭の表題作「紙の動物園」で、幻想的な作風と思いきや、結構バリバリなSFもあってバラエティに富む