古沢嘉通のレビュー一覧
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寝食を忘れて物語に没頭したのは何十年ぶりだろうか。
それほどまでにこの物語は、ここ十数年で読んだ本の中で特別に素晴らしい。
舞台は十九世紀のイギリス。銀と翻訳を支配する者が世界を制する時代。その中枢機関・オックスフォードのバベルで学ぶ一人の学生が主人公。
中国の広東の港で育ったことから複数の言語が得意という能力をもち少年の頃に教授に拾われる。その生い立ちがまさしくこの本の作者の人生そのものだ。
伝統と格式を重んじるイギリスにおいてアジア人はあざけられ不当な扱いを受ける。その様子が同じアジアの日本人である読者に共感を呼ぶ。
たいていの翻訳SFものはカタカナが多く人の名前は覚えられず世界にのめり込むのに苦労する。がこの物語は銀の棒以外に奇抜なSF装置は登場せず、古き良き古典SFに近い。
『三体』に挫折した者(自分)であってもスラスラと読めてしまう平易さがうれしい。
主人公ロビンはある信念に大いにゆらぐ場面がある。そのシーンで自分もロビンになりどっちが正しいのだと悩み逡巡した。こんなにも自分が主人公になりきってしまうとは!
ハードカバーは分厚く文字は小さくなかなかページはすすまないが苦にはならない。むしろ残りページが少なくなってしまうのが寂しいくらいだ。
大学に入ると3人の同期と一緒に過ごす時間が多くなる。その青春のまばゆさがまた美しい。
作者が実際に翻訳の研究をしていた先生だというから、そのうんちくがこれでもかと散りばめられている。それを訳者が日本語に見事に翻訳している。特に踊るような比喩表現が随所に出てきて感嘆させられる
SF好きでなくとも是非読んでもらいたい傑作である -
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これは面白い。「あとがき」にもそう書いてある。SFと言うよりは、冒険小説の風味が強い。
ボートの上で7人の男女が目覚める。物語の早々に一人が自殺する。周囲は霧に包まれていて状況がよく分からない。彼らの腕には各人の名前とおぼしきタトゥーが、また頭部には手術痕らしきものがあり、全員記憶を失っていた。そして各人が医療や戦闘などのスキルや物理学や歴史などの知識を持っていることが明らかになる。そして突然、ボートの操舵室に何者からか指令が入り、疑心暗鬼に陥りながらも、体が覚えている「筋肉記憶」を駆使しボートを進める。そして仲間の変容や謎の「敵」、予期せぬ事態が次々と…
どうやら世界は、何らかのディザスターに襲われているようだ。これが次第に明らかになっていく。そして、彼らが果たすべきミッションとは何か? この冒険小説にありがちな展開が堪らない。映画的な展開でもある。 -
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「汚名」のハリー・ボッシュと、「レイトショー」のレネイ・バラードが合流した作品。
二人で、ハリウッド署管内で起きた未解決事件に挑みます。
15歳の少女が殺された過去の事件。
通常の定年を迎えた後も粘ってきたボッシュは、さすがに年老いてきた様子がありますが、それはあまり書かないでほしいと思ったり(笑)
ものすごく元気な老人だって、いるじゃないの~?
作者自身よりもちょっと年上のボッシュのシリーズは、現実とほぼ同じペースでリアルに年を取っているので、その変化を描くのも、ポイントなんでしょうね。
若くてやる気満々のレネイは、体力もある。
が、やはり若気の至りもあり‥孤独がちなのでねえ。単独行動は危険!
怒涛の展開で、誰と共演しても、やはり一番カッコいいボッシュで。
そう来なくちゃ!(笑) -
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ネタバレ面白かった。夢中になって読んだ。
最初は、記憶喪失状態で何が何だかわからないので、とっつきにくかったけれど、登場キャラが勢ぞろいし、目的地へ進んでいくにつれ、各キャラを把握し面白く感じられるようになった。
最初は気付かなかったが、途中でキャラの名前は作家の名前じゃん!と気付いて調べたら訳者あとがきで触れられていて、簡単に紹介されていた。ハクスリー、ゴールディング、ピンチョンはわかったが、それ以外の作家は代表作を挙げられてもわからなかった。向こうではメジャーらしい。
話としては記憶喪失状態から始まり、なんらかの任務を帯びているということがわかるが、この導入は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と一緒。プロジェクトのほうは副作用的なもので最後は記憶を取り戻すが、レッドリバーのほうは脳手術という外科的なもので人為的に記憶を喪失させられ最後まで自分の名前も取り戻すことが出来ない。
ある種の幸せな夢を何度も見るのは、ザ・ロードを思い出す。
結局最初に死んでいたコンラッドはどうして自殺したのか、彼の役割はなんだったのか。憶測や推測はあれど不明。手術がうまくいかなくて記憶を思い出し絶望して自殺したのか。推測された通りに気象学者だったのか。
キャラの覚書。
ハクスリー→主人公。元警察官?アル中疑惑。
コンラッド→自殺。気象学者?
リース→元医者。
ゴールディング→知識の宝庫。社会学者?パニックになりにくいがゆえに選ばれた?
プラス→物理学者?サイコパス。M株を作り出した側の人間。M株に対抗するための研究のために人体実験を行い、記憶除去という手段に辿り着く。
ディキンスン→記憶を取り戻して変異。登山家?サバイバル技術に長けているので選出された?
ピンチョン→元兵士。操船技術や地図が読める。
最終的に爆発で胞子を焼却するのではなく、生きた抗原となった主人公チームが死んでM株に勝つという図式は宇宙戦争っぽいなと思った。
でも最後までそれを伏せたまま爆弾だと思わせてただのタイマーを運ばせたのは面白い。
最後まで楽しめたので良かった。
パズルやってるお爺さんのシーンも良かった。パズルをやり続ける=幸せな記憶にしがみ続けるってことで、人が幸福を求める限り変異はしないよということかな。幸福を求めてM株を作り出したけど、出発は一緒だよね。
生き延びて発生源に辿り着くことが目的だったので、コンラッドは記憶を取り戻し、片道切符であること、記憶を取り戻したことで変異することを悟って自殺したってのが妥当なとこか?
画家チームも主人公チームと似た目的だったけど、顕微分光光度計が持ち込まれていたので、M株についての調査のために送り込まれていたのかな?試験的に送られて変化を見てM株に有効な変異を促すためのサンプル集め。ANTIBODY=抗体の意味。5人の抗体は失敗ということか?
ピンチョンを軍人ではなく兵士と評されていた(訳されていた)のは気になった。原語だとsoldierだと思うが。軍人だと愛国精神を思わされるからかな。命令を愚直に実行するキャラ付けとして兵士という訳?
兵士だとただのモブ感を感じて。軍人だとスキル持ちという自分の偏見。
ディキンスンやコンラッドがもっと生きていたらどうだったのかな、というのを考えてしまう。
記憶のトリガーとなる匂いの話や夢の話は面白かった。ここら辺もっと砕けてたらラノベ感覚になってたかも。
でもこの内容だと賞候補に乗らないらしくて意外。原文だともっと読みやすい文体なんだろうか。
1ヵ所誤字見つけた。ハクスリーがハウスリーになってた。打ち間違い?クとウも見間違えやすいし仕方ない。 -
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ネタバレグレートブリテン・イスラム共和国のフリーカメラマンが看護師の妻とアナトリアで援助活動をしていたところ、妻がテロに巻き込まれ消失する。イングランドに戻ると、宣戦布告なしの戦争が激化しており、隣接界を生じさせ津機器が兵器として使用されていた。
隣接界というキーワードで繋がっていることがわかるが、そこに唐突に「第一次世界大戦中の奇術師とHG・ウエルズ」、「第二次世界大戦中の亡命ポーランド女性飛行士と整備兵」の短編が挟まれるが、二番目は秀逸なロマンス小説。
その後、隣接界で領主制の群島に登場人物たちが集まるが、どうやら微妙にずれた別の時空間から来たようで錯綜し、更に時間線も分裂していく。
カメラマン、奇術師、女性飛行士の恋人、整備兵は別の時空間の同一人物のようであることが匂わされるが解は示されない。最後にカメラマンが妻とイスラム共和国でないイングランドで再会するが、妻は看護師ではなく女性飛行士のようである。
緻密な描写が幻想を生み、パラレルに事象が展開していく。 -
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2024年の16、17冊目は、マイクル・コナリーの「鬼火」です。ハリー・ボッシュ&レネイ・バラードのシリーズ2作目です。参りました。読書に時間がかかる方ですが、短時間で読み切ってしまいました。面白過ぎました。オープニングからクライマックスまで、中弛みする事なく、緊張感を保ったまま進行するストーリーテリングの巧みさに感嘆します。訳も良いのでしょうが、頭の中で文章がスムーズに映像として変換されて行きます。そして、何と言っても登場人物が良い。バラードの切れ味の凄まじさとボッシュの衰えない情熱。人生の先輩としてボッシュの生き方には、見習うべき物を感じます。娘マディに対しての思いやりにもグッと来ます。
今回は、ホームレスのテント焼死事件、1990年の未解決のジョン・ヒルトン殺害事件、モンゴメリー判事の殺害事件の3つを同時に捜査します。事件がどのように絡み合い、解決されて行くのか。面白さ請け合います。
☆4.9 -
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ビデオゲームをテーマにした、現代SFを牽引する豪華執筆陣によるオリジナルSFアンソロジー。全12編を収録。
「リスポーン」「救助よろ」「1アップ」「NPC」「猫の王権」「神モード」「リコイル!」「サバイバルホラー」「キャラクター選択」「ツウォリア」「アンダのゲーム」「時計仕掛けの兵隊」を収録。
創元文庫がときどき出すSF系アンソロジー。本書は『スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) 』というタイトルである。これを見て手に取った人なら、間違いなく楽しめる傑作ぞろい。書いているのはもちろんSFで著名な作者ばかりだ(……といっても自分は3人くらいしか知らなかったのだが^^;)。
「救助よろ」はMMOのあるあるを思わせる体験者ならニヤリとしてしまう面白さ。ネットスラングなどをうまく日本語に訳してくれた。
「リコイル!」はそのまま映像化できそうな、スリル満点のアクション佳作。オチがゲーム小説らしくて良き。
「ツウォリア」は「火星の人」のアンディ・ウィアーなので期待して読んだが、見事に期待にこたえてくれた。既視感のあるSF設定ながら、ユーモアと夢のあるこの作者らしい落とし方。
「時計仕掛けの兵隊」はケン・リュウらしい作風が光る、さすがの安定感。
個人的に一番のお気に入りの「1アップ」は往年のテキストアドベンチャーをリスペクトしまくった、好きな人にはたまらない快作。あの時代のアドベンチャーは懐かしいだけでなく今でも楽しめるんだよなぁ。
全体を通してクオリティが高いのはもちろんそれを選んでいるからだが、ゲームとSFの親和性が高いことと、ゲームSFというジャンルがあるとすれば、人間の根源的な何かを探求していくのにこれほどふさわしい小説の分野はないと思わせてくれたことが大きな収穫。自分自身ファミコン世代で今もってゲーマー(ゲームファン)なので、最高に楽しめた一冊だった。第二弾、三弾と出してくれないかな~。 -
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中国系アメリカ人作家ケン・リュウの日本における第二短編集。SFに留まらない多彩な魅力に富む全16編を収録。
「烏蘇里羆」「草を結びて環を銜えん」「重荷は常に汝とともに」「母の記憶に」「存在」「シミュラクラ」「レギュラー」「ループのなかで」「状態変化」「パーフェクト・マッチ」「カサンドラ」「残されし者」「上級読者のための比較認知科学絵本」「訴訟師と猿の王」「万味調和」「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」を収録。
SF、ファンタジー、歴史ものなどいくつかの要素が混合されているタイトルが多く、その多様な作品群はすべてを一括りに語れないものの、どれもが深い余韻を残すところがこの作家の特徴といえるだろうか。親子愛がからむことが多いのも特質のひとつ。
表題作「母の記憶に」は短いながらSF作家としての作風が明確に現れている印象深い作品で、本書の肝といえる。
「パーフェクト・マッチ」はSNS時代のディストピアを描いた古典的とも現代的ともいえるSF。というか、現代が昔のSFに追いついたというべきか。AIにすべてを決めてもらう世界は身近に迫っており、コントロールされた情報によって自分を失っていく危うさ、超管理社会に向かう現代世界への反抗が描かれている。この短編を読むと、現代の我々が、生きる奴隷として家畜化していく流れにあることがわかり空恐ろしくなる。
「残されし者」はシンギュラリティ後の、「意識のアップロード」が実現した世界が描かれる。そこで起こる衝突にはすでにリアリティを感じるし、これから人類が直面する現実的な問題として非常に考えさせられる、というか考えていかなくてはいけない内容が示されている。
いっぽうで「烏蘇里羆」や「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」のような歴史改変SFぽい不思議な作品も楽しめる。逆に「草を結びて環を銜えん」は重く心を揺さぶられる。本当にこの作家は多彩だ。SFというイメージにしばられず、ぜひ一度手にとってみてほしい短編集。