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Posted by ブクログ
ケン・リュウの本を読むのは「紙の動物園」に続いて2冊目。どちらも、SFの短編集で、どちらもSFを読む楽しさを味あわせてくれる短編集だ。
どういう人なのかが気になってWikiで調べてみた。
ケン・リュウは、1976年に中国で生まれたが、8歳のときにアメリカ合衆国に渡り、以降、アメリカで育つ。ハーバードのロースクールを出て、法務博士号を取得したあと、弁護士、コンピュータープログラマー、中国語書籍の翻訳者として働きながら文筆活動を行う。
2012年に上記の「紙の動物園」がSF界の大きな賞3つを史上初めて独占するという快挙を成し遂げ、以降、SF界では不動の地位を維持している。
作品中には中国の故事や言い伝えなどに想を得た作品も多く、かなりの年齢まで中国に住んでいた方なのかなとも思ったが、思いのほか小さい頃に中国を出ている。しかし、キャリアを見ると、天才・秀才の人だ。弁護士をやりコンピュータープログラムを書きながら、こんなに面白い物語を書く。すごい、と感心するしかない。
Posted by ブクログ
中国系アメリカ人作家ケン・リュウの日本における第二短編集。SFに留まらない多彩な魅力に富む全16編を収録。
「烏蘇里羆」「草を結びて環を銜えん」「重荷は常に汝とともに」「母の記憶に」「存在」「シミュラクラ」「レギュラー」「ループのなかで」「状態変化」「パーフェクト・マッチ」「カサンドラ」「残されし者」「上級読者のための比較認知科学絵本」「訴訟師と猿の王」「万味調和」「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」を収録。
SF、ファンタジー、歴史ものなどいくつかの要素が混合されているタイトルが多く、その多様な作品群はすべてを一括りに語れないものの、どれもが深い余韻を残すところがこの作家の特徴といえるだろうか。親子愛がからむことが多いのも特質のひとつ。
表題作「母の記憶に」は短いながらSF作家としての作風が明確に現れている印象深い作品で、本書の肝といえる。
「パーフェクト・マッチ」はSNS時代のディストピアを描いた古典的とも現代的ともいえるSF。というか、現代が昔のSFに追いついたというべきか。AIにすべてを決めてもらう世界は身近に迫っており、コントロールされた情報によって自分を失っていく危うさ、超管理社会に向かう現代世界への反抗が描かれている。この短編を読むと、現代の我々が、生きる奴隷として家畜化していく流れにあることがわかり空恐ろしくなる。
「残されし者」はシンギュラリティ後の、「意識のアップロード」が実現した世界が描かれる。そこで起こる衝突にはすでにリアリティを感じるし、これから人類が直面する現実的な問題として非常に考えさせられる、というか考えていかなくてはいけない内容が示されている。
いっぽうで「烏蘇里羆」や「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」のような歴史改変SFぽい不思議な作品も楽しめる。逆に「草を結びて環を銜えん」は重く心を揺さぶられる。本当にこの作家は多彩だ。SFというイメージにしばられず、ぜひ一度手にとってみてほしい短編集。
Posted by ブクログ
『紙の動物園』は選りすぐりの短編集で、ベストセラーになったため、残った作品でこの本を編んだようだ。
前と同じくらい読みやすく、情緒的だったり、ストーリーが追いやすかったりというのを期待すると、読みにくい、分かりにくいと感じる人が多くなるのは当然だと思うが、だからこちらが劣っているとは思わない。むしろ、よりケン・リュウという作家の上手さを堪能できる作品集となっている。前作は「紙の動物園」「もののあはれ」がSFに興味のない層にも訴えかけるものがあった(そこまでしか読んでない人もいるようだ)が、こちらはテイストは似ていても、情緒性は押さえられている。
最初の「烏蘓里羆」は前作の「良い狩りを」に似たスチームパンクもの。「良い狩りを」は美女(妖狐)と幼なじみの恋愛小説っぽい面が感情移入しやすかったが、こちらは親子の因縁話で、正直言って「良い狩りを」程ではないなあと思った。確かに『ゴールデンカムイ』のイメージ。
次の「草を結びて環を銜えん」は、これこそ娼婦ではあるが気高い美女が出てくる歴史もので、なかなか良かった。但しSFではない。
個人的には次の「重荷は常に汝とともに」は大変面白かった。確かに未知の文明の文章を解き明かすとき、神話だったり法律だったりするだろうという希望的思い込みってあるよなあ。それに解読する学者の専門に左右されるよなあ、と。
「レギュラー」はSF要素はあるものの、どちらかというとサスペンスミステリ。映画になりそうな話。
『ライラの冒険』にヒントを得た「状態変化」、AIに支配される近未来を描いた「パーフェクト・マッチ」、シンギュラリティ後のディストピアもの「残されし者」、「文字占い師」に近い「訴訟師と猿の王」「万味調和」、そして「紙の動物園」「太平洋横断トンネル小史」に近い「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」」が良かった。
「訴訟師と猿の王」は、天安門事件のことを念頭に書いたのではないかと思った。支配者に不利な情報であるため、公的な歴史から消された事件でも、少数の意思のある人が外国の助けを得て必ず歴史に残す。そのために犠牲になった人、力を尽くした人を忘れてはいけない、というメッセージではないか。
また、「万味調和」で犬を食べた中国人をアメリカ人が非難すると、「わしらも犬をペットとして飼っている。ペットだったら、その犬は食わない。だが、この犬は野犬だった。阿彦(アーイェン)は自分の身を守るため殺さざるをえなかった。とても美味いのにどうして野犬の肉を無駄にしなければならんのだね?」(P426)という言葉は、捕鯨について日本人が考えていることと変わらない。まあ、調査捕鯨や浜に打ち上げられたクジラ、イルカに関しては、日本人はこう考えている人が多いのでは。商業捕鯨となると、食べるために野犬を狩るみたいなもので、この言い分は通らないが。
また、ここで描かれるアメリカに移住した中国人達の姿は日系人と変わらない。人種差別をされ、白人より安い賃金でよりハードな仕事をこなし、狭い家に住んで、裏庭で野菜を作り、粗食に耐える。数少ない楽しみは仲間と歌ったり、飲み食いすることくらいだが、音楽、食事など様々な文化が野卑なものと否定される。仕事に様々な工夫を凝らし、より効率よくなるよう、また製品がより上質なものとなるよう細心の注意を払い、価値を上げる努力を怠らない。
日本人で中国人を差別する人いるけど、どこに違いがあるというのか。
この本で、読者が随分篩にかけられただろう。次を読む人は、これが楽しめた人で、売上は落ちるであろう。
でも、本当に素晴らしい作家だと思う。まだ若いのでこれからも傑作を期待できる。
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