梨木香歩のレビュー一覧
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ネタバレ大きな夕日がゆっくりと湿原の向こうに沈んでいく。
吹いてくる風には生きものの香りがする。
それは優しくて懐かしい命のにおい。
マッドガイド・ウォーターの岸辺に棲む小さな生きもの・クーイ族の少年ヤービと、ヤービから岸辺の話を静かに聴く人間のウタドリさん。
四季の移ろいを肌で感じながら、穏やかな二人のやり取りに、読んでいてゆったりとした気持ちになる。
可愛らしい小さな生きものたちの世界も人間界と同じく苦労が多い。
「そんざいのつみぶかさ」に悩み食べ物が食べられなくなったり、恐ろしいカワガラスから隠れたり。
一見穏やかで平和な岸辺にも危険が潜む。
そして人間との共存の難しさを目の当たりにすると、現実に人間が小さな生物に与える影響を省みらずにいられない。
もし私が岸辺でヤービと出逢えたとしたら、そっと近づきミルクキャンディーを差し出してみよう。
きっと色々なお話を聴かせてくれるに違いない。
ぜひ映像化してほしい作品。
続編でまたヤービたちに逢えるかな。 -
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梨木香歩さんシリーズ。
3つの短編からなる本です。
一つ前に読んだ「からくりからくさ」の前後譚で、これも女性の世界の物語ですね。
最初の2編は、主人公ようこ(まだ「蓉子」ではない)が少女で、日本人形の「りかさん」と出会う頃のお話。
寄せ集めの雛飾りを始め、なかなか難しい人形たちの固く絡まった人生?を、ようこがりかさんの力を借りながら解きほぐして行きます。
人形と話をするというのは、ファンタジー、またはスピリチュアルに思えるけど、感じやすい女の子には普通にできることなのかもね・・・と、読んでて思った。
りかさんと、ようこの祖母・麻子さんがことのほか魅力的。
若い女じゃなくてやっぱおばあちゃん、ベテランの凄みさえ感じます。オレもこういうおばあちゃんにならないと・・・!(男だけど)
3編目は、「からくりからくさ」直後の話。
女性にとって赤ん坊とはどういう存在なのかを描く。男の読者としてはやはり濃厚っていうか、生々しさを感じますねー。 -
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昭和初期に南の島に調査に訪れた学者が主人公。
島はかつて修験道の聖地で、死人からの伝言を伝えたりするモノミミという民間宗教も存在した。
主人公の調査は、特に南西諸島からの流れと思われる住居の構造。
章立てごとに地名と植物や動植物、虫の名前が並べられている。民俗学的道具立てや海に見える蜃気楼も相まって、著者のど真ん中の直球勝負か。
失われた寺院や宗教の痕跡、恋人達の悲恋の跡。豊かに自然を背景に、最初から失われていた事物。許嫁や両親を失ったばかりの主人公自身の心情にも同調しているように感じる。
冒険譚とも思える、島の調査行。濃密な自然と宗教の営みの遺物の記述に引き込まれる。
そして、登場人物達の語らいの後、ふっつりと物語は切れる。
その後の50年後の再訪で、更なる喪失が突きつけられる。
色即是空、空即是色。
「喪失とは、私のなかに降り積もる時間が、増えていくことなのだった」
長い長い、うそ越え。越えた涯。
この感慨は、まだ自分には判りづらいが、また読みなおしたくなる本だった。
廃仏毀釈は、ついこの前に読んだ「逆説の日本史」で取り上げられていた。不思議と同じ話題が違う本でアタルことがよくあるんだな。 -
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本のオビに「初の短篇集」とある。
そうか、そういえば梨木果歩さんの短篇集って読んだことがなかったな、と気が付く。
まぁ、あの「家守奇譚」なんかは連作短篇だったけど。
全9篇の短篇で構成されている。
短いものは数頁、最長で100頁の作品が収められている。
古くは1994年、新しいもので2011年に発表され、2篇は未発表作品。
最初の「月と潮騒」「トウネンの耳」は現実と非現実が混淆としている、少しとらえどころのない不思議な作品。
「カコの話」も似たような作品だが、ユーモアやシニカルな味が加わっている。
既婚の男性が読んだら、思わず考え込んでしまうかも。
この「月と潮騒」「トウネンの耳」「カコの話」はあの「家守綺譚」をちらりと思い出させたりもする。
「本棚にならぶ」「旅行鞄のなかから」も不思議な内容の話なのだが、その奥底には何か意義深い教訓めいたものが潜んでいるようにも思える。
この2篇はどう読み取っていいのか、少し迷ってしまう内容だったりした。
次の「コート」は5頁の小品なのだが、この短い中に心を大きく揺さぶってくれる密度の濃い話がつまっている。
この「コート」のみが現実の世界に終始した作品になっている。
「夏の朝」もホロリとさせてくれると共に、清々しい読後感を味わわせてくれる素晴らしい内容……ちなみに話の語り手は幽霊だったりする。
表題作である「丹生都比売」は本書の中では最長の100頁に及ぶ作品。
歴史物になるのだろうが、歴史の知識が無くても充分に面白く読み進めることが出来る。
最後の「ハクガン異聞」は鳥や自然を愛してやまない梨木果歩さんならではの作品。
ちなみに、この話の中で語られている「スノーグース」のレコードとはロック・バンド「キャメル」の作品である。
作品の世界感に多少の違いはあるが、やはりここにあるのは、一貫して梨木果歩さんの世界であり、魅力に満ち満ちている。
僕としてはこうした短篇よりも長篇の方がより面白いと感じているのだが、それでもこうして短篇をまとめて読み終えた今は、心が浄化されてとても気持ちが良い。 -
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創作童話シリーズとなっているが、大人が読んでも充分に楽しめる内容となっていると思う。
むしろ子供にはちょっと難しい言葉使いとかも使用しているような気もする。
マッドガイド・ウォーターという三日月湖の岸辺に住む生き物たちの物語。
生き物の中には勿論人間も含まれる。
命あるものを殺して食することの葛藤や、大きい人(人間のこと)による自然への干渉、それに伴う環境破壊、そういった諸問題が随所に出てくる。
勿論、答えは用意されてはいないけれど、それは読者である我々が、本書に登場してくる命ある者たちと一緒になって考えるべきことなのだろう。
いずれ続編が発表されるはずなので、是非そちらも読んでみたいと思う。 -
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ものすごく、重たいテーマの話でした。
私も、「軍隊で生きていける」「愛すべきやつ」の一人なのだろう。
少しの違和感があっても、社会的な、そして多数決の持つ正義という「正しさ」の前に、自分を誤魔化し、守り、「正しさ」を刷り込んで、卑怯に、あたかも善人の様に生きていくのだろう。
心が痛すぎる、一生気づかない方が完全な利己主義な考え方として、幸せなのではないかと思うエピソードがいくつかあり、本当に難しいし、入り込んでいて、答えは無いと思う。
でも、考え続ける事が、ちゃんと向き合って、見ないふりをせずに、考え続ける事が何よりも大切なのだ。
僕は、そして僕たちはどう生きるか
すごいテーマであり、全部読み終わったあと、この本を一番表している題名だと思いました。 -
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マイ癒しその③、と、軽率に書くことを少々躊躇う。
梨木さんのエッセイは、私にとって大きな安心である。乱雑にくくればやはり「癒し」が該当するのだが、よく一般に言われるような手軽なそれでは決してない。
機械や文明に頼りきりの人間たちによる想像などより、はるかに過酷な生きかたをしているいきものたち(そのことを、かれら自身は過酷とは思っていないだろうが)を思うと、背筋がいつしか、すっと伸びていることに気付く。また、自然の持つ要素から、ありがちな、安心やセラピー的なものだけではなく、険しさ厳しさも拾い出してくれていて、さらには人間(同じ人間に対してさえ、どこまでも非道になれるもの!)が環境を変異させていることをも語ってくれている。自然動物と絡められながらなされる表現に、過剰な擬人化は、私の見た限りでは感じられない。
それにしても、変異、つまり一部の人間の勝手を、自然(地球)は受容していくのだろうか。声の小さなものは、いつだって、耐えるか、抑圧されて消えるかしかできないのだろうか。暗澹たるというか、むしろ夜の砂漠に吹く風みたいなさみしい気持ちになってしまう。
さらにいうのであれば、気のせいだろうか。自然に密着しない、土と水から離れたものほど残酷になれるように思える。あたたかさのなかに厳しさを含む自然こそが、わたしたちの生かされている場所であるのに。
梨木さんのエッセイで息を吐くことができるのは、たぶん、かのじょが、きちんと自然の空気を吸ったうえで文章を綴っているからだろう。私はかのじょの文章に接したひとが、日々の生活にかき消されがちな小さな声を聞いてくれることを望み、また、声や警告を発することなど思い及びもせずほろびていく(私たちも含めて!)ことに注意を払ってくれはしないか、と願ってしまう。 -
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作家梨木香歩によるエストニア紀行。さてエストニアとはどこにあったっけ? それくらいの知識しかもたずに読み始めましたが、すぐにその地に引き寄せられました。
梨木さんの目を介してエストニアの文化と自然を見る。きっと自分がその地に立った時には気付きもしないものに気付かされ、エストニアの魅力に心を寄せます。
人の営みである文化や歴史。それは侵略を受けそれでも守り通したもの。僻地であり境界であるが故に生まれた世界。過去から連綿と続く人々の息吹を感じさせます。そして人が介しなかったが故に残った自然。人が人の理屈で離れた土地だから動植物がそれぞれの様相を成す。しかし人が介することによって姿を現す自然もまたあるということ。人も自然の一部なのか、自然も文化の一部なのか。梨木さんの目はその地の人々に自然に動植物に寄り添いながら、もう片方の目は異邦人としての目をそのまま残しています。そのため生まれる対象物との距離感が心地好く、遠い地に心を飛ばすことができます。 -
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ネタバレ短編集
『月と潮騒』
ごく短い、冷蔵庫のお話。梨木さんのイメージとちょっと違うな、と思いつつ、でも読み終わると梨木さんの紡ぐ世界だなと。
『トウネンの耳』
これもごく短いお話で、梨木さん鳥が好きだからね、と思いながら読んでいる間に終わってしまう。この本の中ではあまり印象に残っていない。
『カコの話』
ようやくこの短編集の流れに慣れてきたのか、大好きな家守奇譚あたりに雰囲気が寄ってきたからか、この話あたりから引き込まれ始める。過去は人魚の姿をしていたりするのだ。
『本棚にならぶ』
部分の欠損。独特で、印象には残っている。抽象的すぎてちょっとなー。
『旅行鞄のなかから』
これも独特。ずっと対話調で、記憶の旅とでもいうのか。
『コート』
最後の重ねられたコートの光景が鮮烈に目に浮かび、悲しく美しいエピソード。前の2作品と比較して非常にわかりいやすいのがまた好ましい。良い配置。
『夏の朝』
これだけで単行本1冊成立するくらいの読み応えがある。
夏ちゃんに寄り添う守護霊の視線がどこまでも温かくて、それがこの話を包み込んでいる。優しく悲しい気持ちになる。
『丹生都比売』
表題作だけこの本の中では一番の長編。過去に単行本として出版されたこともあるそうで、その時は書き足した部分を削って本来の形に戻されたとのこと。
草壁皇子のひ弱なイメージが、梨木さんの美しい古代風の語りで、繊細で優しく、良い方向に引き出されている。
水銀の禍々しさが幻想的に描写されるが、その裏に貫かれているのは母子の壮絶な物語。