梨木香歩のレビュー一覧
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私には、梨木香歩さんの文章について
語れるほどの何も持ってはいない。
それでもちょっぴり
この本で分かったような気がすることを
かいつまんで紹介してレビューとしたい。
渡りの足跡を追う、梨木さんの立ち位置に
背筋が伸びる思いがする。
筆者は、種としての生きものを
きちんと意識しつつ、しきりに「個体」と
いう呼称を用いている。様々な鳥たちは
彼女にとって、個々に向き合い、自分という
人間の、生きものとしての品格を証明しようと
試みる相手なのかもしれない。
人もまた、渡る。
知床開拓団の1人だったあや子さんの言葉や
身振りを再現してみせる筆者の文章の、
それはそれは饒舌なこと。あや子 -
Posted by ブクログ
短編集でした。
草壁皇子が主役の長編小説と思っていたので、ちょっとびっくり。
しかも、少し川上弘美っぽい不思議系の話。
それはそれで好きなのだけど、思っていたのとはちょっと違うので慣れるまで少し時間がかかりました。
でも、「コート」「夏の朝」辺りから、しみじみといいなあと。
慈しみという言葉が自然と思い起こされる。
で、「丹生都比売」
飛鳥時代、奈良時代は結構権力争いに負けて命を落とす皇子がたくさんいたけど、草壁皇子は圧倒的な後ろ盾をもって皇太子になったのに、天皇にならないで亡くなってしまった。
病弱だった草壁皇子の少年時代を書いたお話。
悲劇の皇子と言えば有間皇子や大津皇子が有名だけ -
Posted by ブクログ
矛盾を抱えて、生きていこう。考え続けて、生きていこう。
梨木香歩が好きだ、と思った。この前読んだ『沼地のある〜』を構想していた頃のエッセイ。あの話に至るまでの思考の流れ、渦巻きを知って、より『沼地のある〜』が気になってきた。
単純には割り切れない。違和感を感じる。だからといって、それを声高に叫ぶこともない。物語の力とは。「心を動かす」ことの危険性。「泣ける話」「全米が泣いた」という文句が嫌いなので、梨木香歩のとまどいが自分のことのように感じられた。梨木香歩の描く、「優しい冷たさ」は、私にとって心地よい。全員がわかってくれるなんて、怖い。でも、閉じこもらず、理解を得られるよう、働きかけること -
Posted by ブクログ
からくりからくさを読み終えてから少し間をおいて手に取った。
読んでいる間ずっと、「西の魔女…」と同じ安心感に包まれている感じがした。この世界のことをよく知っていて、どんなことにも動じない、とても信頼できる大人がそばにいる…という感じ。
自身の経験との共鳴かもしれない。
私が社会人になり結婚して間もなく亡くなった祖母。田舎から息子(私の父)を訪ねてくる時は、いつも和服に羽織を重ねた正装だった。苦労に苦労を重ねた祖母は、再婚して改姓していたが、父のところへは定期的に顔を見に来た。
祖母は何でも知っていて、どんなこともくしゃくしゃの笑顔でやり過ごしていた。
祖母のそばにいるのが好きだった。 -
Posted by ブクログ
これはノンフィクション。
彼女が植物や鳥に造詣が深いことは知っていたけれど、渡り鳥を見るために何度も北海道を訪れていたとは知らなかった。
サロマ湖や長都沼は知っているけれど、チミケップ湖なんて北海道に住んでいても聞いたこともなかった。
とにかく彼女は自然が持つ力というものを絶対的に信じていて、人間が自然破壊をしたのも自然の意志かもしれないし、自然を回復しようとささやかながら努力することすらも自然の計算のうちかもしれない、と。
ここまで来たら、もう、自分が信じる行動をとるしかないよね。
太古の自然にもどすことは今さら不可能なのだから、無駄に自然を損なうことなどないように気を付けながら、文明の -
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渡り鳥というとどの鳥もみな同じで十把一絡げみたいな印象になりますが、この作品に相応しい表現になると渡りの鳥とでも言えばよいのでしょうか。
渡りをする鳥たちや自然への作者の深い愛情や畏敬が感じられるしみじみした作品になっています。ですから、単なるバードウオッチングという点で成り立つものではなく、北海道を中心とした渡りの鳥たちの観察記録はネイチャーライテイングという多面的な要素を持つ作品であるというのもうなづけます。
梨木さんは海外での暮らしの経験もおありなので、鳥たちの大陸横断の旅をみつめる眼は彼女自身の持つ大陸的な雰囲気も相まっているように感じました。ところどころに色々な種類の鳥を、彼女自身が