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旅先で、風切羽の折れたカラスと目が合って、「生き延びる」ということを考える。沼地や湿原に心惹かれ、その周囲の命に思いが広がる。英国のセブンシスターズの断崖で風に吹かれながら思うこと、トルコの旅の途上、ヘジャーブをかぶった女性とのひとときの交流。旅先で、日常で、生きていく日々の中で胸に去来する強い感情。「物語を語りたい」――創作へと向う思いを綴るエッセイ。
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Posted by ブクログ
言葉が分からないという関係のなかで、どうにかして相手を理解しようとすることが、コミュニケーションの大事な部分であると思う。 相手の人生観、宗教的な背景、など知ろうとすること。 通訳を通して得た言葉は、ただの言葉として分かりやすいけれども、本当に得るべきものは、相手を知ろうとする意識なのだと思う 旅の...続きを読む途中、共通言語のない人との会話に四苦八苦したときのことを思い出した。
梨木さんの文章や思考は循環的というか、むしろ連想的というか、思考の順番をそのままにしているので、ちょっと分かりにくいところもあるが、それでいてとても奥が深い。
日々の生活の中で梨木さんの胸に去来する強い感情、そして歴史や政治、社会問題に関する深い教養に裏付けされた思索が、エッセイの形で書かれていた。受験勉強などを通じて、目的に対して最小の労力でそれに辿り着く最短距離ばかり追い求めてきた私にとって、このような、自分を芯に添えて、ぐるりのことと交流しながら深く...続きを読む思考するということはとても新鮮だった。受験勉強で習ったことも、ただの知識に留まらず、思索の幅を広げる道具に出来たらいいなと思った。純粋に考えることの楽しさを感じた物語だった。 『共感する、というのは、大事なことだ。が、それはあくまで「自分」の域を出ない。自分の側に相手の体験を受け止められる経験の蓄積があり、なおかつそれが揺り動かされるだけの強い情動が生じなければ働かないのだ』 『個人や集団の中で混沌としていたものを、クリアな対立関係に二分しようという性急さ。さあ、おまえはどっちなのだと日本は迫られ、個人も迫られ、その度に重ねていく選択が、知らず知らず世の中の加速度を増してしまう。クリアな境界に、ミソサザイの隠れる場所はないと言うのに。(有刺鉄線と生垣)』 資本主義社会の教育に触れた一節で印象に残ったものがあった。 『目的を設定し、その最短距離を考えるー受験対応型マニュアル教育が基本にある。何かをしたい、という情熱がはぐくまれるまえに、「何かをするためにマニュアル」が与えられてしまう。1番の弊害は、立ち止まって深く考え続ける思考の習慣が身につきにくくなることだ。資本主義的な営為のもとで、この短絡性は社会全体が切磋琢磨して育んできたものだ。』 私が今感じている人生の虚しさ(笑)も、小さい頃から目標、最短距離、ゴールばかりを繰り返してきた結果として生まれたものなのかもしれない。 『世界の豊かさとゆっくり歩きながら見える景色、それを味わいつつも、必要とあらば目的地までの最短距離を自分で浮かび上がらせることが出来る力が欲しいのだ。』まさにその通りである!人生を豊かなものにするために、自分で速度を調節出来る力が欲しいのだ。 また、戦時中の日本の全体主義や国民主義などにも触れている。 『「死をも恐れない美学」群れ全体の組織性にアイデンティティを見出しているほど、命はたやすく投げ出せる。』 『長い長い間、東北アジアの大地に染み込んだ儒教精神で、いちばん人を安定させ得たファクターは、やはり、先祖から自分を経由して子孫にまで連綿と続いてゆく、その根っこの感覚、続いているという感覚だろう。しかし、その群れに人を健やかに安定させる力がけえ失せているとしたら、もう群れる必要はない。』 『群れのなかにあるということは、人を優越させ、安定させ、時に麻薬のような万能感を生む。しかし、その甘やかな連帯は、快感への渇望が暴走すると、異分子を排除しようと痙攣を繰り返す異様に排他的な民族意識へと簡単に繋がる。』 戦争を繰り返す人間の本質をよくついていると思う。私の心の奥にもまた、個人と群れが同居している。意識せぬまま自分を共同体の1部として捉えている「私」が、群れからのサインを受信したが最後、神話の時代さながらの激しさと高ぶりを持って、あっという間にひとつの生命体のような群れを、まるでありのようにひとつの目的に向かって突き進む。そんな気がしてたまらなく不気味な不安に襲われてくる。民族を生きるということは、そういう不気味さを生きるということでもあろう。気付かぬ間に、個がねじ伏せられていく。自分を保つとは、どういうことなのだろうか。個の生と時代の生を生きること。そのバランスはとても難しい。 とにかく、色々な刺激を得た本だった。
私にとって大切な本になった。 自然のことに精通している梨木さんの人間観察について書いてるところがとても好きだ。 思慮深くて読みながらうなずいてしまう。 特に好きなのは西郷隆盛について書いてるところ。通り一辺の分析ではない部分は読みごたえがあった。 儒教的精神について書かれているところも共感した。 「...続きを読む春になったら苺を摘みに」も良かったけどこちらの方が読みごたえがあった。
大切な本。 人との諸々の付き合いや、時代の大きな流れで自分を見失いそうになると、この本に帰ってきてすとんと自分の足下に落ち着く。 静けさに包まれ、それでいて開いている。 その生き方に、憧れをもった。 しかし生垣的な、ダルな境界を保とうとするからこそ、「そと」の流れは自分の近くまでに影響して、自分の...続きを読む足下はたやすくぐらつく。 開かれたまま、自分のぐるりのことに足をつけて、生活する方法を、自分のもとに手繰り寄せようと、繰り返し開く。 「春になったら苺を摘みに」の「夜行列車」で描かれたモンゴメリは、その方法を手にすることができず、境界をクリアにし、自分を守ったのであろうか。 わかる。人との境界をクリアに区切ったほうが、ずっとラクだ。 だけど、なぁ。 この「ぐるりのこと」と、「春になったら苺を摘み」を読んで、その境界をあいまいに。 クリアなものと、あいまいなもの。 二つの別方向のベクトルをなんとか、使い分けてみたくて…
ほっこりするエッセイではない。梨木さんの苦悩する、祈るような魂に触れ、こちらも触発される。声高に糾弾するのではなく、ぐるりのことに関わって行く姿勢に共感を覚える。特に西郷隆盛分析には深く反省させられた。
作者の独特の感性を通して「今」が描かれている。その文章は美しく温和にも関わらず、鋭利な刃でもあるような気がした。確かに今を生きる僕たちは加速するばかりなのかもしれない。その先に何があるか分からないというのに。(2011年) ------ また読んでみた(2023年) ・多様性はただそこにいることを...続きを読む受け入れることなのか?共感のような互いの侵食を必要とするのか? ・言葉は不便なものである。誤解も不信も生む。語るより何か作業を一緒にやるといい。 ・総合学習、なりたい職業を決めて、どうやったらなれるか調べてみよう。それはマニュアル化の始まり、本当になりたくてしょうがないのか?を考えるのが先なのでは。スタートアップのマニュアル化の話と似ている。 ・群れと個。群れの母性的な安定感、その裏返しには狂信的ファナティックと全体主義、無邪気な正義がある。
いままでとは違った視点、物事の考え方を教えてもらった。 これぞ読書の醍醐味。 私も誰かやマスコミなんかに惑わされず、自分自身でぐるりのことを丁寧に深くじっくり考えていきたい。 「もっと深く、ひたひたと考えたい。生きていて出会う、様々なことを、一つ一つ丁寧に味わいたい。味わいながら、考えの蔓を伸ばし...続きを読むてゆきたい。」
いろいろなことを考えて頭が痛い。世の中は広くて、知らないことが多すぎて、わたしは果たして、この世界に対峙してゆけるのかしら。 “ぐるりのこと=身の回りのこと”から始めよう、と梨木さんは書いていた。地に足をつけて、そこから徐々に、自分を世界へ向けて開いてゆくのだ。うん、頑張ろう。
作者の身の回りで起こること、発見したことを通して社会の在り方を考える過程を描く。やがて物語へと昇華するのだろう示唆。冷静な分析やある種開き直ったような極論を展開しつつ、本質を捉えようと葛藤する作者に共感する。
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