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Posted by ブクログ
日々の生活の中で梨木さんの胸に去来する強い感情、そして歴史や政治、社会問題に関する深い教養に裏付けされた思索が、エッセイの形で書かれていた。受験勉強などを通じて、目的に対して最小の労力でそれに辿り着く最短距離ばかり追い求めてきた私にとって、このような、自分を芯に添えて、ぐるりのことと交流しながら深く思考するということはとても新鮮だった。受験勉強で習ったことも、ただの知識に留まらず、思索の幅を広げる道具に出来たらいいなと思った。純粋に考えることの楽しさを感じた物語だった。
『共感する、というのは、大事なことだ。が、それはあくまで「自分」の域を出ない。自分の側に相手の体験を受け止められる経験の蓄積があり、なおかつそれが揺り動かされるだけの強い情動が生じなければ働かないのだ』
『個人や集団の中で混沌としていたものを、クリアな対立関係に二分しようという性急さ。さあ、おまえはどっちなのだと日本は迫られ、個人も迫られ、その度に重ねていく選択が、知らず知らず世の中の加速度を増してしまう。クリアな境界に、ミソサザイの隠れる場所はないと言うのに。(有刺鉄線と生垣)』
資本主義社会の教育に触れた一節で印象に残ったものがあった。
『目的を設定し、その最短距離を考えるー受験対応型マニュアル教育が基本にある。何かをしたい、という情熱がはぐくまれるまえに、「何かをするためにマニュアル」が与えられてしまう。1番の弊害は、立ち止まって深く考え続ける思考の習慣が身につきにくくなることだ。資本主義的な営為のもとで、この短絡性は社会全体が切磋琢磨して育んできたものだ。』
私が今感じている人生の虚しさ(笑)も、小さい頃から目標、最短距離、ゴールばかりを繰り返してきた結果として生まれたものなのかもしれない。
『世界の豊かさとゆっくり歩きながら見える景色、それを味わいつつも、必要とあらば目的地までの最短距離を自分で浮かび上がらせることが出来る力が欲しいのだ。』まさにその通りである!人生を豊かなものにするために、自分で速度を調節出来る力が欲しいのだ。
また、戦時中の日本の全体主義や国民主義などにも触れている。
『「死をも恐れない美学」群れ全体の組織性にアイデンティティを見出しているほど、命はたやすく投げ出せる。』
『長い長い間、東北アジアの大地に染み込んだ儒教精神で、いちばん人を安定させ得たファクターは、やはり、先祖から自分を経由して子孫にまで連綿と続いてゆく、その根っこの感覚、続いているという感覚だろう。しかし、その群れに人を健やかに安定させる力がけえ失せているとしたら、もう群れる必要はない。』
『群れのなかにあるということは、人を優越させ、安定させ、時に麻薬のような万能感を生む。しかし、その甘やかな連帯は、快感への渇望が暴走すると、異分子を排除しようと痙攣を繰り返す異様に排他的な民族意識へと簡単に繋がる。』
戦争を繰り返す人間の本質をよくついていると思う。私の心の奥にもまた、個人と群れが同居している。意識せぬまま自分を共同体の1部として捉えている「私」が、群れからのサインを受信したが最後、神話の時代さながらの激しさと高ぶりを持って、あっという間にひとつの生命体のような群れを、まるでありのようにひとつの目的に向かって突き進む。そんな気がしてたまらなく不気味な不安に襲われてくる。民族を生きるということは、そういう不気味さを生きるということでもあろう。気付かぬ間に、個がねじ伏せられていく。自分を保つとは、どういうことなのだろうか。個の生と時代の生を生きること。そのバランスはとても難しい。
とにかく、色々な刺激を得た本だった。
Posted by ブクログ
大切な本。
人との諸々の付き合いや、時代の大きな流れで自分を見失いそうになると、この本に帰ってきてすとんと自分の足下に落ち着く。
静けさに包まれ、それでいて開いている。
その生き方に、憧れをもった。
しかし生垣的な、ダルな境界を保とうとするからこそ、「そと」の流れは自分の近くまでに影響して、自分の足下はたやすくぐらつく。
開かれたまま、自分のぐるりのことに足をつけて、生活する方法を、自分のもとに手繰り寄せようと、繰り返し開く。
「春になったら苺を摘みに」の「夜行列車」で描かれたモンゴメリは、その方法を手にすることができず、境界をクリアにし、自分を守ったのであろうか。
わかる。人との境界をクリアに区切ったほうが、ずっとラクだ。
だけど、なぁ。
この「ぐるりのこと」と、「春になったら苺を摘み」を読んで、その境界をあいまいに。
クリアなものと、あいまいなもの。
二つの別方向のベクトルをなんとか、使い分けてみたくて…
Posted by ブクログ
作者の独特の感性を通して「今」が描かれている。その文章は美しく温和にも関わらず、鋭利な刃でもあるような気がした。確かに今を生きる僕たちは加速するばかりなのかもしれない。その先に何があるか分からないというのに。(2011年)
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また読んでみた(2023年)
・多様性はただそこにいることを受け入れることなのか?共感のような互いの侵食を必要とするのか?
・言葉は不便なものである。誤解も不信も生む。語るより何か作業を一緒にやるといい。
・総合学習、なりたい職業を決めて、どうやったらなれるか調べてみよう。それはマニュアル化の始まり、本当になりたくてしょうがないのか?を考えるのが先なのでは。スタートアップのマニュアル化の話と似ている。
・群れと個。群れの母性的な安定感、その裏返しには狂信的ファナティックと全体主義、無邪気な正義がある。
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