【感想・ネタバレ】f 植物園の巣穴のレビュー

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Posted by ブクログ

f植物園に転任してきた佐田豊彦。
造成された水生植物園が担当だ。
彼はそこを「隠り江」と名付けて情熱を注ぐ。
が、ある日大切にしていた日本水仙がなぎ倒されていることに気付く。
何物かが通ったように、椋の大木の"うろ"から水辺へと倒れていたのだ。

思い起こせば、自分はその"うろ"に落ちたのではなかったか?
なのに、そこからの記憶がない。
次の記憶は唐突に自室で寝ている場面。
そして歯痛の為に歯科医へ。
前世は犬だったという歯科医の妻、ナマズの神主…次々現れる不思議な人物と、交錯する千代との思い出、ねえやのお千代との思い出、椋の大木、かつて抜いてしまった白木蓮。。。
"うろ"に落ちて以来、何かがおかしい。
「論理的に考えると、うろに落ちてうろから出た記憶がない場合は、未だにうろの中にいるということになる。が、それは論理的には正しくとも私を取り巻くこの現実の展開にはそぐわない。」
これは一体…。

主人公は歯痛に悩まされながら"うろ"に落ちる。
そして、不思議な現状と過去の思い出を行ったり来たりしながら、
蓋をして忘れていた大切な思い出、関わった人の思い、時の流れ、人の生き死にや連なりとに、少しずつ向かい直す。
時は川のように流れてゆくもの。
水は正しき方向へ流してやらなくてはならない。
止水しては滞りを生んでしまう。
主人公はこの不思議な世界で自らを形作っている人や風景を再確認し、過去を取り戻し、真実と向き合っていく。

「しくしくとした歯の痛みは、そのまま軽い陰鬱の気を呼び、それが気配のしんしんとした雰囲気とよく狎れ合って、何所とも知れぬ深みへ持って行かれるような心地。」

「それにしても「千代」が寄ってくる人生である。」

「おや、この千代はその千代かこの千代かあの千代か。ふと、箸を止めて考え込む。どうも「千代なるもの」が渾然一体としてきている。」

「この木、以前は目につかなかったのだが。」
「ーはあ。けれどそんなこと、誰にも分かりませんよ、見えてくるまでは。」

「そうだ、すっかり忘れていたが、月下香は妻の千代の好きな花であった。」

「……とにかくこの滞りを取り、水を流さねばならぬ、……」

「カクスナ。アラワレル。」

土瓶さんのレビューを参考にし、積んであった『裏庭』を避け、代わりに…と手に取ったのが本書だった。
面白かった!!
後半から様々なことが明らかになってゆく。
梨木香歩さんだとやはり『家守綺譚』には敵わないのだけれど、ユーモアもありながら感動する作品。
読み終えても暫く余韻に浸ることとなった。
不思議に可愛らしい河童の坊(道彦)には情が湧く。


☆大気都比売(おおげつひめ)
日本神話における食物の神。


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2024年03月22日

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人間、嫌な経験をするとそれを意識から追い出すことで何とか生きていく、という仕組みになっているみたいだけども、そのやり方が必ずしも最善ではないということだろうな。フロイトの治療過程を思わせた。

同著者の「家守綺譚」のシリーズにも近い和風異界的な「不思議」の描写が多いので、お好きな方はどうぞ。

本作だけでもお話としては成立するが、途中に出てくるちょっとした記述が、続編「椿宿の辺りに」への布石となっているので、そちらもあわせて読みたい。

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2024年02月11日

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地球っこさんに教えていただいた前回読んだ「家守綺譚」がとっても面白かったので、次も地球っこさんが読まれていたこの本を読みました。

うーむ とっても面白い。
家守綺譚より、こちらの方がよりハマってしまいました。。

解説から
「穴」は垂直の移動。「川」は水平の移動を表す。

語り手の人生における、三つの大きな喪失を巡る物語。

この小説は、生と死の世界の間を往復し、死人と交流する物語でもある。

読み終えて、初めからもう一度物語をたどり直してみると、あちこちに差し挟まれたエピソードが、初読時とは違う深い意味を帯びて迫ってくる。


地球っこさん ありがとうございました。
梨木香歩さんの本をもう少し読みたいと思います。。

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2020年11月09日

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この人の本の凄いところは、読み直せば読み直すほどどんどん好きになっていく不思議さにあると思う。続編を読むための再読だったけれど。繋がりがあるとこの本が生きる。どうか続編と続けて読んでほしい。

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2020年07月05日

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梨木香歩の文章は読み進めるうちにその空気がページから滲み出てくる。ぬかるんだ泥、雨に濡れた道路や外壁のにおい、呼吸する木々など。

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2023年02月10日

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序盤は読み辛い文体でよくわからなかったが、どんどん不思議な世界に引き込まれて行った。
植物園の木のうろに落ちて気を失っている状態、夢にありがちな辻褄の合わないめちゃくちゃなストーリーなのは想像できたが、これがどうオチがつくのか想像できなかった。
最後の最後「道彦」でこんなに温かいお話であったことに驚いた。
主人公の過去を追体験することで固定観念が外れ、カエル坊や蝶の様に見事に変態を遂げて還ってきた。
幸せな生活が待っている。
(タイトルから植物や植物園の描写が多いかと思いましたが違いました)

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2023年01月23日

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夢か現か、化かしているのか化かされているのか。妖しく美しい日本語の調べに誘われて覗いてはいけない世界を覗いてしまったような、恐ろしくも心地よい不思議な世界でした。後半に進むにつれ、彼と同様、私自身の記憶もとても曖昧な気がしてきて、虚ろな暗い闇の中に落ちるような不安を覚えました。自分の記憶を辿る旅は、かけがえのない人生を辿る旅であり、彼にとって大きな傷を治す必要な旅だったのですね。最後は目頭が熱くなりました。

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2022年10月10日

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再読。
『椿宿の辺りに』を再読したので、こちらも。
背景がわかるだけに
道彦との出会いは胸が熱くなりました。

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2022年09月10日

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心がザワザワしているときに読んで、しんしんと鎮まってきた本。

異界譚、夢の中のような話。
どこから夢でどこから現実なのか、読み終わって、あああそこからか、と思う。
異界の描き方の、イメージや、夢の中で論理的ではなくても本人は論理的だと思っているのだろう思考の描き方が秀逸で、私も眠って夢を見ているようだった。
この表現力と文章には憧れる。

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2022年08月26日

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ネタバレ

久々に再読。梨木さんのたくさんの作品の中でも「家守綺譚」系統の植物と不思議が絡むお話。
最初は話の流れも途切れがちで次々に荒唐無稽な展開が続くと思われる中で、徐々に歯に空いた穴、木のうろ、白木蓮を失った後の穴…植物園職員である主人公の心に空いた穴の中をのぞきこみ、失われたものを自ら発見し、よどんでしまった「川」を流れるようにする、という芯が分かるようになる。
「ここは、過去と現在がみんないっしょくたに詰まっているのだ」理屈の通じない世界で、これが自分の心の問題であることをやがて主人公は悟るのだ。
人生で抱え込んできた淀みに対して、はっきりした問題を現実的に解決するとかではなく、ただあの時の気持ちともう一度向き合い、見つめて、そうであることを許す…そのうえであらためて抱えていけばよい、流れていればいい、というのが梨木さんらしくて好き。乳歯が抜ける、という解放の合図もいかにもという感じ。「裏庭」の礼砲のようだ。読むとすっきりする。

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2022年07月30日

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設定が大正時代あたりだということに気づいてからはすうと物語に入って行けた。徐々に明らかになる事実が心に響く。

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2022年06月30日

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夢の中の迷路に迷い込んだような荒唐無稽な不思議なお話。
途中から主人公のように理屈で物を考えるのを放棄し、この世界観にどっぷり嵌まると、なんと心地よいことか。
物語は過去へ過去へと遡り、当時味わいきらなかったため膿のように溜まっていた感情を思い出し、知らぬ間に書き換えられていた真実があきらかになっていくにつれ、本来の自分を取り戻す。
それは癒しの旅となる。

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2021年08月13日

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てっきり植物ほのぼの日記のようなていかと思いきやミステリーというかホラーというか。夢うつつの夢遊感の中進む物語。やっぱり梨木香歩さんと植物の相性バツグン。

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2021年04月21日

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日常と夢まぼろしが徐々にマーブル模様になって、渾然一体になっていく。
立ち現れるのは過去の記憶。

様々な植物が茂る水辺や人ならずものが次々と現れて、生きることの力強さや不思議さが凝縮されたような世界観。
皆さんおっしゃられるように、まさに梨木香歩版不思議の国のアリス。

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2020年12月07日

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どなたかが不思議の国のアリスに似てるとおっしゃっていますが、まさしくまさしく。和製不思議の国のアリス。(物語の始まりが穴なのも。)もしくは、世界観が千と千尋の神隠しっぽい。梨木果歩作品に共通する、生と死、消失と再生の物語。

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2020年09月29日

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ネタバレ

クロは千代でカエルは成長して道彦の名前をもらい、千代は千代に戻った。
「椿宿の辺りに」で夢落ち二段話ってところかな。

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2020年09月14日

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理知的で人に冷たい主人公に肩入れできず、不思議な状況をあれこれと分析したがる様子がやたらと気に障っていました。中盤から後半にかけて謎が解明されていくさまが気持ちよく、最初から二度読みをして随所に張り巡らされた伏線を知ることになりました。

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2021年06月17日

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最初の方は戸惑いの方が大きく流れを掴めませんでした
しばらく読み進むと、それまでの話に合点が行き始め、不思議ワールドへ自分の意識も飛んでいきます
ゆったりと行ったり来たり、自分の幼少時の記憶もぽこぽこと泡のように立ち上がって来て、お話の世界をたゆたいました

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2020年02月29日

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This story is hard to describe. Kind of fantasy with “Spirited away” taste and Shintoism? I wasn’t sure what I was reading till middle of the story and felt the main character is too stubborn. However it turned out quite heartwarming at last. Good for me.

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2019年09月20日

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語り手の"私"佐田豊彦は、f植物園の職員。
水生植物園を担当しており、その水辺を「隠り江(こもりえ)」と秘かに呼んで、理想の姿に育てることに情熱を傾けている。
やがて、日常が不思議な出来事に彩られ始める。
思い返せば…
植物園の大木にできたおおきな"うろ"を覗きこんだ時に、落ちた?のかもしれないのだが…

梨木さんの作品に、水辺は多く出てくる。
すべての命は水の中から生まれた…ということと関係しているのかもしれない。
穴に落ちてからの不思議の連続というのは、不思議の国のアリスを連想させる。
和風だから、遠野物語や、宮沢賢治の世界に近いのかも。
豊彦の時代は、明治・大正…新しくても昭和初期頃だろう。
現代よりも不思議は日常の中に混在していたかもしれず、怪異は恐ろしいと言うよりは、不条理と、哀しさも美しさも伴っている。

なかなか醒めない夢のような豊彦の旅路は、無意識のうちに心の隅に追いやった気がかりを取り出して、もういちどあるべきところに納めるための旅だったのかもしれない。
言ってみれば、自分の心を「治水」したのだ。
悲しい記憶と悔恨を克服し、新しい水をさらさらと流す。
そこには健やかな命が生まれる。

『家守綺譚 』『冬虫夏草』と同じ傾向の作品。

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2019年08月10日

Posted by ブクログ

日常を送っているつもりだが、なにもかもが「自分の知る日常」ではなく、自分さえもだんだん頼りにならない。それでもこれは「自分を拾い上げ再構築する」物語なのだと思う。

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2019年07月20日

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ネタバレ

最初は展開がよくわからないまま読み進めていましたが、途中からこれは主人公の過去を掘り起こしているとわかるとそこからは読みやすくなりました。
特に同行していた坊の正体は涙腺にきます。
ときどき痛む、穴が開いた歯の部分は心ということで、誰にもそういううろはあるものだと思いました。

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2024年03月09日

Posted by ブクログ

『家守奇譚』に似た不思議な異世界譚。
読み始めは、少し難解か?と思わせる文章に躊躇しますが、慣れてしまえばその知的さ溢れる語り口に惹き込まれます。
どこからが現実でどこからどこまでが夢なのか…
最後まで読んで、ああそこから…!となりました。
クライマックスの展開にはちょっとウルっともさせられ、全て読んでから、もう一度読み直したい物語だなと思いながら本を閉じました。
繋がりがあるという『椿宿の辺りに』も読んでみたい

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2022年11月18日

Posted by ブクログ

不思議な世界に迷い込んだ感覚と哲学じみて理解できないようでいて何か自分が高尚になったような勘違いで分かった気になる。記憶が蘇り忘れていた辛い過去から立ち直った時家庭が上手くいき続巻に繋がる。
西の魔女が死んだがすごく心に残り裏庭で挫折した。自分の頭では理解できない本が多々あるのに何故か気になる作家で、今回の本も理解できなかったのに完読しなくてはという強迫観念みたいにとらわられる。
自分にとって不思議な作家。

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2022年09月04日

Posted by ブクログ

梨木さんの世界を淡々と堪能できる作品です。さりげなく、「椿宿の辺りに」に繋がっていきます。そちらを合わせて読むと最高です。

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2022年02月28日

Posted by ブクログ

降り積もった時間と向き合い、ひとつひとつ紐解いていくという少し変わったお話。叙述ミステリのようでもあります。
何と言っても、梨木さんの手にかかればこうも植物が生き生きと感情を持つのかと感動。

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2021年12月01日

Posted by ブクログ

2009年発行

歯痛は、直接脳にガンガン痛みが響きます。

痛みがあるのか、無いのか?疼いているコレが痛みなのか?本人にも分からない現実と夢の狭間で浮遊する主人公。

ぼや~と読み終えました。


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2021年08月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

梨木香歩の「F植物園の巣穴」を読み終わり。家守綺譚系統の怪と植物の織りなす不思議空間を彷徨う植物園勤めの男の話。
 妻を亡くし、幼少期には子守を亡くし、た男の淋しさにうーんと唸りましたが、エンドはハッピーで安心しました。
 頭を使わずにすらすらーっと読める話です。そういう気分の時にどうぞ。

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2019年10月03日

Posted by ブクログ

あぶなっかしい本でした。
だいぶ消耗しました。
異世界なのか現実なのか、よく分からない曖昧性。
でも稲荷とかナマズとか、いわゆる日本が昔から抱えている曖昧な感じがうまく表現されていて、読みながら自分もごぼごぼとその世界に入っていく感じがしました。
読み終わった後もスッキリしないし、自分の世界が揺らぐけど、まぁたまにはこういうのも良いんじゃないかと感じる本です。

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2019年03月02日

Posted by ブクログ

日常と異世界の境目がないような不可思議さがいつもの梨木香歩で、間違いなくおもしろい。
主人公の何ともいえず仰々しい言葉遣いが面白くて、時代設定はいつごろなんだろうと考えつつ読んだけど結局わからず。

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2019年10月31日

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