梨木香歩のレビュー一覧

  • からくりからくさ(新潮文庫)

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    ふしぎな物語だ。時間が止まったような一軒家で共同生活を始めた若い女たち。容子は染色、紀久は日本の紬織り、与希子はキリム織と、それぞれが伝統的な手仕事に打ち込んでいる。
    それに鍼灸を学ぶマーガレットを加えて4人、と言いたいところだけれど、この家には実はもうひとりいる。それが、容子が祖母から受け継いだ人形の「りかさん」だ。容子が子どものころから会話を交わしてきた「りかさん」は、いろんな女の子たちとともに長い時間を過ごしてきた記憶と知恵をたくわえているようだけれど、容子の祖母が死んだ時から、その魂はどこかへ出かけているらしい。
    つまり、この若い娘たちは、気が遠くなるほど多くの、ひとりひとりの名前を超

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    2020年09月30日
  • f 植物園の巣穴

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    どなたかが不思議の国のアリスに似てるとおっしゃっていますが、まさしくまさしく。和製不思議の国のアリス。(物語の始まりが穴なのも。)もしくは、世界観が千と千尋の神隠しっぽい。梨木果歩作品に共通する、生と死、消失と再生の物語。

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    2020年09月29日
  • f 植物園の巣穴

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    ネタバレ

    クロは千代でカエルは成長して道彦の名前をもらい、千代は千代に戻った。
    「椿宿の辺りに」で夢落ち二段話ってところかな。

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    2020年09月14日
  • からくりからくさ(新潮文庫)

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    ネタバレ

    10代、20代のころにこの本を読んでもおそらくあまり響いてこなかっただろう。確かに毎日を生きることは機織りのようであり、ふりかえってみると人生はその織物のようだ。
    変化はしんどいものであり、代償を払うものなのだと筆者は書いているが、織物から人形そして家が炎に包まれた瞬間、悲劇的な場面をそれは美しい情景として描かれているのが印象的。
    そうか。人の死も同じなのかもしれないと感じた。

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    2020年08月13日
  • エストニア紀行―森の苔・庭の木漏れ日・海の葦―(新潮文庫)

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    自然の描写に癒された。
    エストニアの知識だけではなく著者の独特な感想や、幽霊騒ぎ等のハプニングがあって面白かった。
    著者一行がハプニングを楽しんでいるように思えて、その姿勢を見習いたいと思った。
    旅にハプニングは付き物で、それを楽しめる人が旅を本当に楽しめる気がする。
    私も実際にエストニアの自然を感じてみたい。

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    2020年07月16日
  • 海うそ

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    昔訪れた場所に再訪した時、こんな感じだったろうか?という思いになることはないでしょうか?自分の中でものすごく強い印象を抱いていて楽しみにしていた場合など、あれ?と落差の激しさに戸惑うことがあります。一方で思いがけず、自分の記憶にある景色が人の力で大きく変えられていた場合、つまり大規模な開発が行われて、記憶にある美しい山が赤茶けた肌を晒し、味のあった山道がアスファルトに変わっていたり、そうした場合、再訪したこと自体を後悔することもあるかもしれません。一方で視点を変えればそこに、その地に暮らす人々からすれば、自らの現在の生活を豊かにするために、便利に変えていきたいという思いが当然にあるはずです。そ

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    2020年05月21日
  • 僕は、そして僕たちはどう生きるか

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    本を読んで感想を書くというのは思った以上に難しいことだと感じています。もちろん、感想を書きやすい作品というものもあります。その作品を読んで共感を強く抱いた時、そんな時は心のままに感想がすらっと出てきます。その一方で、書きにくい作品というものもあります。共感が得られるかどうかはもちろんのこと、それ以上に自身の理解が十分でないという自覚がある時、これは感想を書くこと自体辛い時間になります。そんな思いを抱くことになった初めての作品。「僕は、そして僕たちはどう生きるか」、そういう意味でも忘れられない作品になりました。

    『世界って、そもそも物に名前を付けようとしたことから始まるんじゃないか。でもその前

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    2020年04月24日
  • f 植物園の巣穴

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    理知的で人に冷たい主人公に肩入れできず、不思議な状況をあれこれと分析したがる様子がやたらと気に障っていました。中盤から後半にかけて謎が解明されていくさまが気持ちよく、最初から二度読みをして随所に張り巡らされた伏線を知ることになりました。

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    2021年06月17日
  • 海うそ

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    とても静かな世界観

    生い茂る樹木 飛び交う野鳥
    時折 突然現れる野生動物
    足元の草 温度 湿度 風

    少し空気は重いけれど
    どろりとしたものはなく

    巻頭の地図を何度も見たり
    分からない植物をGoogleセンセに聞いてみたり

    そんなことは 久しぶりで
    新鮮な感じがして
    そんな部分でも、楽しめた

    変わっていくことは 避けられない
    一概に 悪いとも言えない
    いいか悪いか、やってみなければ分からない
    ということも たくさんだ

    だけど
    すっかり島が変わってしまった
    残念だった
    当時の面影すら残さずに…
    せめて、もう少しだけでも…
    そう 思った

    うっそうと木々が生い茂る
    湿った森を 歩きたく

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    2020年05月18日
  • 丹生都比売 梨木香歩作品集

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    とても短い話だけど、どれも印象的。
    文字から映像が浮かぶ。
    なんだかどの話も「旅」しているよう。

    5年後とか、10年後にまた読み返したい。

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    2020年03月28日
  • 沼地のある森を抜けて(新潮文庫)

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    叔母が亡くなって先祖伝来の「ぬかどこ」をマンション込みで
    受け継ぐことになった主人公:久美
    ぬかどこが呻いたり、卵が出来て、子供が出た?(゚ロ゚;)エェッ!?
    そして亡くなった叔母の日記を見つけて、
    久美は先祖が育った島に向かうことになる。
    命を繋ぐための進化・・・色んな解釈があるんでしょうが
    種を守るための壮大な物語。これは楽しい。っていうか面白い。
    そして久しぶりにフジテレビで放送されていた
    グレートジャーニーを思い出しました。

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    2020年03月19日
  • 海うそ

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    ネタバレ

    時間軸2つからなる物語

    むかしのままの手の入らない自然がいいのか、人が自然を楽しめるようにと計画される開発もありなのか

    まさに今、家の近くの川沿いの公園化が行われていて、重機が入り、四季の移り変わりを見てきた木がある日行ってみると切られていたりする
    胸がギュッと痛くなるが、誰も入れないよりも、自然に近づける場所があって、観察できること、季節を感じる機会を増やして、知ることで守る気持ちを持てるようにすることはいいことなんだろうか、
    と思い直すようにしている

    まっさらの原生林ではなく、何らかの形で人が作った場所なら尚更なこと、自分の感傷で物事を考えてはいけないのかという葛藤を日々感じている

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    2020年09月07日
  • f 植物園の巣穴

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    最初の方は戸惑いの方が大きく流れを掴めませんでした
    しばらく読み進むと、それまでの話に合点が行き始め、不思議ワールドへ自分の意識も飛んでいきます
    ゆったりと行ったり来たり、自分の幼少時の記憶もぽこぽこと泡のように立ち上がって来て、お話の世界をたゆたいました

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    2020年02月29日
  • ぐるりのこと(新潮文庫)

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    梨木さんの本は2冊目だが、話題になっていたのに読んでなかった。
    ミステリの世界をちょっと歩いてみようと思ってから、文学作品から少し遠ざかっていた。
    仕事を辞めた途端に、後を引かない話がいいと思うようになったのが原因かもしれない。仕事に逃げられなくなると、身軽な日常の方が健康上よろしいのではと思いついた。ストレスの源は仕事だと思っていたが、今になって思うとちょっとした逃げ場だったかもしれない。
    あまりに本が溢れているので、退職後の時間の使い道に迷ったついでに、あまり知らないジャンルに踏み込んでみたらこれが面白過ぎた。

    そして最近、何か足りない、情緒にいささか偏りがあると思い始めた。それが全部

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    2020年01月11日
  • 丹生都比売 梨木香歩作品集

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    ネタバレ

     やはり一番は『ニオツヒメ』かなぁ。切ないような、ほんのりあたたかいような。日本史が好きだから~と言う事を抜きにしても、この話が一番好き。
     それ以外だと『本棚にならぶ』が、え…?そう言う事…?って、よくわからないままの恐怖。コワイけど、こんな本屋さんがあったら行ってみたいかも。かけていって収納ってどんな時に思いつくのか……。
     “トウネン”も“トウネンの耳”もひたすらに気になる。表紙にいるのがトウネン?

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    2019年11月13日
  • 僕は、そして僕たちはどう生きるか

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    君たちはどう生きるか、という戦時中に書かれた自身の生き方を考えることに主題を置いた名著(ただし、結果として戦争を止めることはできず、それは後世の話かもしれないが)を受けて、その主人公にちなんだコペルと呼ばれる少年が登校拒否の友人であるユージンに会いにいくことに。様々な、もやもやを抱えて生きている少年たち、そのもやもやは言葉で説明できることではまだなくて、そして語彙だけでなく経験からも完全に定義できないものでもあり、そうしたことをより理解しようと近づいていく行為こそが、人生を彩る。ただただ大人になるだけなんて、本当に不幸だ。興味や好奇心とは、人を大きく大きくしてくれる。ゴールがどこにあるかはとに

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    2019年11月05日
  • 海うそ

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    ネタバレ

    なんか・・・良さそげな内容なんだけど、文章が頭に入ってこないもどかしさ。
    情景がストンと浮かんでこないんだよね。
    想像力の無さかな。

    たまにとても心の琴線に触れる言い回しがあったり。
    いろいろと思いを馳せたくなる。

    うーーん。なんだかもやもや。

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    2019年10月28日
  • エストニア紀行―森の苔・庭の木漏れ日・海の葦―(新潮文庫)

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    はぁぁぁぁ。素敵。
    エストニアには私も2012年の5月(梨木さんの行く3ヶ月前だ!)に行って一目惚れした。
    ロンドンから1人、タリンに向かう飛行機の中で、タリンのミュージシャンのお兄さんに出会い自作のCDを貰ったのを皮切りに、タリンではちょうど音楽祭が開催されていて、街の至る所で音楽が鳴り響く。広場のレストランでは夕暮れ時おばあさんたちが食事前にテーブルを囲んでいっせいに歌い出す。夜10時になっても明るい夜道で青年の鳴らすギターの音がする。

    私が行ったのはタリンだけだったけど、
    この本では梨木さんたちはエストニアをぐるりと一周。
    文化というより、自然との共生を感じる旅をする。
    すぐそばに自然

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    2019年10月13日
  • ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯

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    猫や犬なら飼い主と交流があるのは不思議はないけれど、鳥でも子どもの頃最初飼った手乗り文鳥は、私のことを友達と思って一緒に遊んだり、時々私に命令することがある。一方でそれほど感情のやりとりが感じられない個体もいる。著者は障害があって野性に返せないイエスズメのヒナを目が開く前から保護することになって、若い頃は友達として一緒に遊んだりピアニストである著者のピアノに啓発されてさえずりを発達させるのを目にしたり、その後は老年まで穏やかな関係をすごしてなんと12年以上を過ごしたという。野生の鳥でもこんなに気持ちが通じる個体もいるのだ。

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    2025年07月27日
  • 海うそ

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    ネタバレ

    この人の本には、毎回毎回、いつまでも読んでいたいと思わせられるのが不思議。
    静かな語りを心地よく味わっていると、終盤、がらっと空気が変わるところが『村田エフェンディ滞土録』的。

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    2020年06月20日