あらすじ
首都に巡らされた不思議な地下通路。昔の生活が残る小さな島の老婆たち。古いホテルの幽霊。海辺の葦原。カヌーで渡る運河の涼やかな風。そして密かに願ったコウノトリとの邂逅は叶うのか……。北ヨーロッパの小国エストニア。長い被支配の歴史を持つこの国を訪れた著者が出会い、感じたものは。祖国への熱情を静かに抱き続ける人々と、彼らが愛する自然をつぶさに見つめた九日間の旅。
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梨木さんの心情とともにエストニアを深く感じられる。エストニアに行ったことはないが、行ってみたくなり、人々の感性と優しい情熱が好きだった。
エストニア人は、個人主義的な性格の強い、シャイな人たちで、群れるのを嫌うとこがあります。家の周りにも木を植える。防風林、というような実利的な面もありますが、なるべく人目を避けて、周りの人から見えないところに住みたいという気持ちが強いのだそうです。自然が大好きな人たちで、木も大好き。だから町中ですと生け垣が多いですが、田舎では、あんなふうに生長していく木を植えますね。目隠しの意味もあって。
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駅ピアノでやっていたタリンの国。ヒトが生活するだけで多くの種が絶滅に追いやられる。自然にとっては人間の経済活動よりも放射能汚染の方がまだまし。多様性と言いながら大量虐殺を止めることなく地球を破壊し続けるヒトへの絶望感。多くのことを考えさせられました。さすがはプロの作家さんの紀行文で読まされました。素人のガイドブック擬きとは全く違います。
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すっかり梨木香歩さんにハマってしまっている。
梨木さんがガイドさんとエストニアに取材。
ただの海外取材ではなく、きちんと梨木さんの動植物、料理に対しての深い知識と想い、世界観が込められている。
もうすっかりエストニアには行ったことがあるような気分。
そして、今度はゆっくりと滞在したいと思ってしまう。
コロナが治まったら絶対に行くぞ!!
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旅をする上で大切なことは、本当に自分が行きたいところに行くこと。
だけど予定が変わってしまっても、それを楽しむこと。
ふだんの生活においても、また同じ。
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数々の自然に対する造詣が深い梨木香歩のエストニア紀行文。エストニアがどこにある国なのか先ず確認する作業は厭うまでもなく、ページを開くと直ぐに地図が現れます。北欧のバルト海に面したロシアと隣合わせた位置でした。その旅の紹介は行きの飛行機内での様子から始まります。副題に「森の苔・庭の木漏れ日・海の葦」とあり、林の向こうに大きな虹が架かる写真がこの本の表紙。その国の歴史を知らなければ、旅はただ通り過ぎるものだけになってしまうけど、案内人のお話や人柄の紹介もあり臨場感溢れる展開。市街地から郊外へ向かううちに段々と梨木さんの興味ある植物や、渡り鳥や小動物が登場します。森の中に住む蛭で治療するおじいさんのお話や怪談話が似合いそうな不気味なホテルに泊まるお話。そしてバルト海に浮かぶ島々の見事なまでに保たれた自然のこと…本気で後半生をこの島で過ごすことを考えたという梨木さんの言葉にいかに其処が素敵なところなのか…
旅に携える本のこと。生垣に成る木の実や植物で「12か月の風」を作ってみようと思ったという記述に彼女の優れた感性を改めて感じたのでした。所々に素敵な写真入りで異国情緒が味わえます。
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昔の生活が残る小さな島の老婆たち。古いホテルの幽霊。海辺の葦原。カヌーで渡る運河の涼やかな風。そして密かに願ったコウノトリとの邂逅は叶うのか……。北ヨーロッパの小国エストニア。長い被支配の歴史を持つこの国を訪れた著者が出会い、感じたものは。祖国への熱情を静かに抱き続ける人々と、彼らが愛する自然をつぶさに見つめた九日間の旅。
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まるで小説を読んでるかのように情景が鮮やかに浮かび上がってきて、著者の表現力の高さに驚く。旅先での観察眼やさまざまな考察に触れて、著者の経験した旅行ができるほどの感受性を持ちたいと思った。
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梨木香歩さんによる、エストニアへの旅の記録。この人の文体は、物語でもエッセイでも好きだ。ファンとしてはそろそろ物語の新作を読みたいところである。
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旅行記はあまり自分にむいてないんだよね
でも感じたこととか、自然の描写とか、梨木さんの豊かな知識とか造詣の深さ、感受性が伝わってきて穏やかだった。
誰もいない森の小道を、一人で歩く充実感は何に喩えたらいいのだろう。
ここ数日楽しく充実していたけれど、あまりに多くの人々に会っていたので、自分という生体がこういう時間を必要としているのだとしみじみ思う。
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自然の描写に癒された。
エストニアの知識だけではなく著者の独特な感想や、幽霊騒ぎ等のハプニングがあって面白かった。
著者一行がハプニングを楽しんでいるように思えて、その姿勢を見習いたいと思った。
旅にハプニングは付き物で、それを楽しめる人が旅を本当に楽しめる気がする。
私も実際にエストニアの自然を感じてみたい。
Posted by ブクログ
はぁぁぁぁ。素敵。
エストニアには私も2012年の5月(梨木さんの行く3ヶ月前だ!)に行って一目惚れした。
ロンドンから1人、タリンに向かう飛行機の中で、タリンのミュージシャンのお兄さんに出会い自作のCDを貰ったのを皮切りに、タリンではちょうど音楽祭が開催されていて、街の至る所で音楽が鳴り響く。広場のレストランでは夕暮れ時おばあさんたちが食事前にテーブルを囲んでいっせいに歌い出す。夜10時になっても明るい夜道で青年の鳴らすギターの音がする。
私が行ったのはタリンだけだったけど、
この本では梨木さんたちはエストニアをぐるりと一周。
文化というより、自然との共生を感じる旅をする。
すぐそばに自然がありその中で身の丈に合った生活をし、お金はないけれど自給自足で暮らすの、という島のおばあさん。
日本にもそういう地域はあるにせよ、失われつつある風景。
梨木香歩さんのすごいところは草の名前とか鳥の名前をよく知っていて、自然と一緒に暮らしているところ。
だからこそ環境破壊や戦いに対する怒りややるせなさの気持ちが本当のものとして伝わってくるんだよなぁ。
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私の気持ちのお薬。疲れたときに安心させてくれる気がする、梨木香歩さんのエッセイ。彼女のレンズを通して伝わる世界は、時折残酷なところもあるが、概して「ありのまま」に優しい。エストニアで出会うひとびとを捉えるときも、歴史についての述考を書く際も、レンズは誠実に(歪んだり、遠近をドラマティックに演出したり、色を付けることなく!)あり続ける。異国の風景を近くに、においをすぐそばに感じてうれしかった。
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作家梨木香歩によるエストニア紀行。さてエストニアとはどこにあったっけ? それくらいの知識しかもたずに読み始めましたが、すぐにその地に引き寄せられました。
梨木さんの目を介してエストニアの文化と自然を見る。きっと自分がその地に立った時には気付きもしないものに気付かされ、エストニアの魅力に心を寄せます。
人の営みである文化や歴史。それは侵略を受けそれでも守り通したもの。僻地であり境界であるが故に生まれた世界。過去から連綿と続く人々の息吹を感じさせます。そして人が介しなかったが故に残った自然。人が人の理屈で離れた土地だから動植物がそれぞれの様相を成す。しかし人が介することによって姿を現す自然もまたあるということ。人も自然の一部なのか、自然も文化の一部なのか。梨木さんの目はその地の人々に自然に動植物に寄り添いながら、もう片方の目は異邦人としての目をそのまま残しています。そのため生まれる対象物との距離感が心地好く、遠い地に心を飛ばすことができます。
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梨木さんが、エストニアへ行った時の出来事をつづったエッセイ。現代社会から取り残されたような、ゆったりとした時間の流れるエストニアの情景にとても憧れる。
古いホテルでのちょっと怖い話や、「風」をゼリーにする感性がとても美しい。これらの出来事が梨木さんの作品に影響を与えているんだと随所にみられて、これだけで一つの作品になっているようです。
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ここにあるものを求めていた。
エストニアにコウノトリを訪ねていく。しかしコウノトリはすでに旅立っていた。ヨーロッパの北の端で、著者が見た人と自然の姿。
人が住まないところに、自然が生きる。エストニアの人々は、自然と共に生きる術を知っている。心の底にある「熱」をずっと抱えて生きている。
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鳥への並々ならぬ想いがよく伝わった。
良いとか悪いとかではなく、歴史を知り、思いの外静かな自然豊かな土地だと知り、何故か陰鬱な気分になり行きたい気持ちが少し無くなった。むやみやたら明るい国に行きたい気分だから。
Posted by ブクログ
著者がエストニアを尋ねた際の紀行文。北欧の小さな国の穏やかな様子、自然の豊かさや厳しさが描かれる。きっといい本だろうなと思いながら、なぜかなかなか入り込めなかった気がする。
著者はずいぶん世界のあちこち行ってるみたいだけど、そのなかでなぜエストニアについて書いたんだろうというところが読み取れなかった。コウノトリが好きなの?
チェルノブイリのように人間がかかわらなくなったことで希少動物の自然繁殖が進んだというエピソードなど、人間がいることで地球やほかの生物に迷惑をかけている、嫌われているということ。著者も「ヒトはここまで嫌われているのだ。/ヒトが生活する、ただそれだけで、多くの種が絶滅に追いやられている。放射能汚染より遥かにシビアに。/薄々は気づいていた事実だったが、こうもはっきり知らされると愕然とする。」(p.149)と書いているが同感。著者はこう感じながら、ヒトの生活圏で生息するコウノトリにすくいを求め、コウノトリを探しにエストニアまで行ったということなのかな。
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想像していたような旅行記みたいなものとは少し違っていた。とても内面的で観念的。少し周辺情報が多くて、頭が疲れたりもする。でも自然の描写がとても綺麗で優しくて、自然の風を感じた。懐かしいような、そんな気持ちが、ふと訪れる感覚が心地よかった。
Posted by ブクログ
エストニア旅行をお膳立てした編集者、通訳、カメラマンに土地ごとの現地ガイドも絡んでの旅行記。慌ただしい日本人の旅行の印象。ちょっとらしくないと思う。
確かに、この編集女史は有能な人なんだなというのは、判るんだけど。
エストニアと云われて、頭にイメージが沸かない。解説に「境界」を訪ねる旅とある。「ぐるりのこと」も境界に関するエッセイというか思考の本だったな。
一人森の中に入っていたり、ゆっくりカヌーを漕いだりする文章が梨木さんらしい。
そして、月毎の風のゼリーを木の実やハーブから作る記述は、いかにもという印象。
チェルノブイリ放射能の汚染で立入禁止になった地域に、バイソン、モウコノウマ、イヌワシ、ビーバー、オオヤマネコ、ノロジカ、アカシカが繁殖したいう。
(引用)
ヒトはここまで嫌われているのだ。
ヒトが生活する、ただそれだけで、多くの種が絶滅に追いやられている。放射能汚染より遥かにシビアに。
中世の街並みや森のキノコ採り、民族衣装など自然と歴史を感じさせてくれる文章。バルト海は塩分濃度が低く、海岸線に葦原が続くという。
昔、読んだ本に日本も昔は湿地帯に葦原が続き、それが日本人の原風景になっているとあった。琵琶湖の周辺、近江八幡で巡った水路を思いだながら、この水紀行を読んだ。
Posted by ブクログ
梨木香歩のエストニア紀行を読みました。
森の苔・庭の木漏れ日・海の葦というサブタイトルがついています。
梨木香歩がエストニアを旅行して豊富に残されている自然を堪能します。
エストニアに生きる人たちの生活も描かれていて、なぜか懐かしさを感じてしまいます。
大量生産・大量消費の生活に慣れてしまった日本人が忘れてしまった自然との共存がまだそこには残っているのでした。
Posted by ブクログ
旅には目的地を楽しむことと
旅のフィーリングを楽しむこと、大きく2つある。
本書は後者の気分が色濃く出ている。
だから観光案内を期待して読むと
少し肩すかし感があるとは思う。
ただ、できるだけ誠実に旅行者として
そこにある土地の目線に寄り添おうという
筆使いは好感が持てる。
また、これは辺境のための文学としても描かれている。
辺境についての、でも辺境による、でもなく、
旅行者としての資格で辺境に捧げられている。
作者としての姿勢であり、優しい人柄を感じもするが、
言葉は本来的にもっと暴力的なものだ。
その暴力を極力発現させないようにと気をくばっていることは分かる。
だが、そのような意識があるなら、
なお踏みにじることもありうるような
書きぶりがあっても構わないと読者としては思う。
そういう意味ではそこが先鋭的に現れている
アメリアの幽霊話は好きなエピソードとして挙げられる。