湊かなえのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
(後立山連峰)
なんだろう、なぜかスッと物語が入ってこなくて。
相性みたいなのがあるのだろうか。
でも、山の景色や土の蒸れた匂い、風の轟きや葉の擦れ合う音、鳥の鳴き声、遠くのパーティの話し声、喧騒、熊鈴の音、いろんなものが一気に記憶から湧き出てきて、それがもう物語以上に物語で……記憶の情景と感覚と、物語が交差する、滅多に得られない読書体験でした。
夢は逃げない、なんてことはなく。
別に今急がなくたって、何年か後でもできる。
でもそのときが訪れることはもうなかったこと……
いま動かなきゃ追えない夢があったり、登れない山があったり。
人生あまりに長くて、つい計画的に物差しで測りながら計算して物事の順列をつけてしまう。
それは社会人として当たり前のことなんだけど、人間だって、そのとき一瞬一瞬を生きる、ただの動物なんだってことを知っておかなきゃならないんだなと思った。
不合理でも、非効率でも、無責任でも、野生動物の本能ようにどこかに一瞬で駆けていけたらいいのに。
(立山・剱岳)
昨年の今頃、白馬岳を登った時、ちょうどその頃に親密にやり取りをしていた人がいて。
登る前くらいに連絡があったのだけど、山は割と圏外になることが多く、連絡を返せずにいて、山頂に着いてようやく電波を取り戻した時に、『無事ですか?何か起きてませんか。連絡ください』と追って連絡が来てたことがあって。
心配かけさせてしまって申し訳ないなと思いつつ、ちょっと嬉しく思ったということを、この話を読みながら思い出しました。
山を登る人と、下りてくるのを待つ人。
山を登る人と、その無事を願っている人。
もし、万が一、できれば、誰かと生涯を共にするということがあるならば、その人と一緒に山を登りたいと思っているのだけど、下界で待ってくれる人がいるというのも幸せのひとつで悪くないなと思った。
(武奈ヶ岳、安達太良山)
住んでる場所や取り巻き、仕事などの環境次第で登山口までの距離は人それぞれ。
主人公の親友は山に近い環境にいて、それに嫉妬してしまう。
しかも、山を共にする人と結婚まですることに。そりゃ嫉妬する。
でも、その人自身も順風満帆ではなかったことを知る。
いくら山に近い環境にいて、たくさん登ることができても、得られる感動の容量が決まっていて、たまにしか登れない人の感動とそこまで変わらないんじゃないかな。
要は景色に慣れてしまうということ。そして生活が変化して、山から遠ざかっていく。
一方、主人公も和菓子店の経営という重責を負い、山から遠ざかっていく。
そんな2人がそれぞれ、ホームマウンテンを登り、その時みた景色を人生になぞらえ、新たな発見を見出していくという。
山は再生の場所だと思う。
日々の体力や精神力の再生、人間関係の再生、時間の巻き戻し、時には自分と向き合うことで再生から築き上げるところまで出来てしまうこともある。
だから山は人を魅了するのだと思う。単に景色が綺麗なだけではない。
そう思わせてくれる短編集でした。
第三作を楽しみにしたい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ本当に良かった、読み終わったあとしばらく放心してしまった。
いじめや虐待の内容や、視点人物たちが強迫観念に囚われて認知が歪んでいく様子は湊かなえ節で内容がえげつなかったが、それでも読み進める手が止まらなかったのは、登場人物たちが余すところなくみんな魅力的だったからだろう。
どうしようもないクズにも心に残るような人間性があったし、視点人物に手を差し伸べてくれる真摯で優しい人たちの言葉は、絶望的な物語の中で時々あらわれる灯りのようだった。
文章全体が、視点人物になった人たちが、行動しよう、語ろうとして紡がれる言葉である気がして没入して一気読みしてしまった。
好きな登場人物は原田くんと森本誠一郎。
追記:うわー早坂と森本は誠の字が共通してるのか…… -
Posted by ブクログ
ネタバレ素晴らしい伏線回収で、後半はページをめくる手が止まらなかった。初めは、3人の物語がそれぞれの目線で描かれることに慣れず、少々読むスピードが遅くなってしまったが、一節がちょうど良い文量なので比較的読みやすかったと思う。
後半で、3人の繋がりに気づいた時には、思わず声を上げ、紙切れに登場人物の関係図を殴り書きしました。笑ちなみに私は梨花が紗月の交友関係について商店街で尋ねて回っていた時、"希美子"という名前が出てきた時にカラクリに気がつきました。まさに私がすごく好きなパターンの展開!『かがみの孤城』のように、一見同じ時間を生きているように思える主人公たちが、実は時代が違う、というような世界線がすごく好きです。
美雪目線のみだと、とても切なく悲しいのですが、紗月と梨花目線も加われば、温かい気持ちになれるミステリーだと思います。
そして単純に「雪月花」で表される3人の名前は素敵だなと思いました。 -
Posted by ブクログ
目つきが悪くて余計に先生に怒られるの私すぎた。小説にしてくれてありがとう。
競争や対立はなくし一様にしようという力が働く反面で、個々は大事にするという矛盾するような風潮が、ルッキズムを醸成したのか?
そういった弊害的な面を描いているのは『死にがいを求めて生きているの』と同様だった。
美しくあることが、自分を肯定する手段や他者からの評価を得る分かりやすい手段として生き残ったのかもしれない。
1章目の医師が、本人の美の基準に口出ししない、みたいな話をするがそれが本質的に感じた。
美しくあることが幸福に転がる場合、それは自分の美の基準に照らした結果なのだろう。
そこに他人の物差しが加わった途端、美の基準は再現なく増殖してしまい、何にも到達しなくなる。
有羽は、「お母さん」の愛でできた自分の体が好きだったのに、教師や家族の可哀想だという自然や言葉で、おそらく本意ではない行動をとってしまう。