小尾芙佐のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
現実と虚構が入り乱れた混沌とした世界が描かれていてディックワールドが色濃く展開されている。パラレルワールドへは分裂症が引き金となって導かれるようになっていて、健常人ー障害者という点も重要テーマ。これまでの作品よりも読んでいて複雑な印象を受けたので、好みはハッキリ別れそうです。
複数の登場人物それぞれの目線から描かれていて、少しずつリンクしていくような構成になっている。
それぞれの思惑が交差していくので、その点は引き込まれました。
ただ、話が分かりづらいこと、展開としても期待を超えるような大きな山場もなかったので、やや物足りなさを感じました。
ディックの世界観は十二分に味わえる作品です。
-
Posted by ブクログ
前半は惑星ゲセンの中にあるカルハイド王国、並びにオルゴレインの気候や社会構造や街並み、そして両性具有であるゲセン人の独自文化や感覚、価値観等がたっぷり語られる。その世界観は独特で作り込みがされていて、造語も多いためかなりファンタジー寄りな印象を受けるが理論だっていて納得感と共に理解できた。
また、後半はエクーメンの使節である主人公のゲンリー・アイとカルハイド王国元摂政であり国内政治により追放の身となったエストラーベンの過酷な逃避行が描かれる。
同じ人類であれど、異種である2人の友情並びに愛がじっくりじわじわと育まれていくのは歯がゆいと同時に面白く、この2人の幸せを祈らずにはいられなかった。
ファンタジー寄りな印象で本の構造で神話や寓話の挿し込みもちょくちょくあり、若干読みにくかった部分はありましたが、良かったです。
特に後半の、エストラーベンの日記と主人公目線の話が交互に来て、ゲセン人との違いが明確に描かれるのが面白いのと、またシフグレソルという独自概念だったり、一から社会や文化を創造しているのがこの本の特徴であり、特に面白い部分だと思いました。 -
Posted by ブクログ
孤独な守銭奴サイラスが、失った金貨と引き換えに金髪の孤児エピーと出会うことで、彼の止まっていた人生が動き出すという物語。今作の面白かった点の一つは、サイラスとゴッドフリーの対比描写である。エピーを受け入れた結果、孤独を免れ幸せな人生を送ったサイラス。一方エピーを当初受け入れなかった結果、自らの秘密に怯え、子宝に恵まれない人生を送ったゴッドフリー。このような因果応報的な展開は読んでいて爽快だった。また、実の父ゴッドフリーとの血の繋がりよりも、育ての父サイラスからの愛情の方が大切であることをエピーが告白するシーンは、爽快以上に感動的である。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ両性具有の人類とはどんなものだろう。そして、彼らの統治する社会はどんな物になるだろう?性別という概念がそもそも存在しない世界、混ざりあって溶けている世界の常識や世界の仕組みは?本作は『冬』と呼ばれる閉ざされた惑星ゲセンで、両性具有の人類が作り上げた世界の様相と、その惑星の中で巻き起こる国家間の陰謀を描いている。
こう書くと随分壮大な話に見える。実際この物語は壮大な世界観を持ち、『両性具有の人類による社会』を丹念な筆致で描いているのだが、おそらく本作の本旨はその設定の重厚さにあるのではない。その両性具有の社会にやってきた私たちと同じく性別のある人類――惑星連合エクーメンの使節、ゲンリー・アイと、ゲセンにあるカルハイドという国の重鎮エストラーベンの相互理解に至るプロセスが主題なのだ。
彼らは全く違う。立場も生まれも人種も違い、生活リズムから『性』の様式まで、最早別の生き物という程に異なっている。作中、ゲンリーもエストラーベンも国家間を巡る陰謀と謀略に巻き込まれ、二人で凍りついた氷河と雪原の中を逃避行する羽目になる。
ゲンリーは当初カルハイドに趣き、そこの総理大臣職であるエストラーベンとのコネクションを得るが、エストラーベンは隣国オルゴレインに内通したとの讒言で国を追われる身となる。後ろ盾を失ったゲンリーは隣国オルゴレインへと逃げ延びる。そこでもエクーメンへ加入しないかと活動を続けるも、今度はオルゴレインの政争に巻き込まれる形で捕まってしまう。同じくオルゴレインに亡命していたエストラーベンは責任を感じてゲンリーを助け出し、彼らは共に無人の雪原を通り抜けてカルハイドへ逃げ延び、そこでエクーメンへの連絡を試みようとするのだ。
二人は共に雪原を乗り越える中でお互いの性状に対して理解を深めていく。テント内の温度設定に始まり、お互いの生活様式、精神性、身体機能、これまでの来し方、人生。人の意思などお構いなしな自然の猛威の中、二人が徐々に相互理解に至る過程は非常に丁寧で読みごたえがある。生まれ育った国どころか星すら違い、どころかある種私たちにとっては当たり前である『性別』という概念すらない(違う)相手との相互理解は可能なのか。作者の書きたかったことはこれなのだろうと思わされる丹念な筆致に引き込まれざるを得ない。
……のだが。どうしても読みにくいと感じる点も多い。例えば、そもそもここに至るまでが異様に長い。一つの惑星の中にある二国の政治体制や精神性、さらには『両性具有』が社会常識に及ぼしている影響、また二人が亡命に至る理由、その勝利条件などを説明しなければいけないからしょうがないのだが、それにしても長すぎる。話の本質と言えそうな部分が一切始まらず、この長々とした状況説明はいつまで続くのかとウンザリする気持ちがあったことは否めない。
また、雪原行も二人の相互理解に至る流れが丹念に描かれていて美しいのだが、これもやはり長い。雪原の光景やその恐ろしさ、彼ら二人の間に立ち塞がる困難、それらが執拗に描かれていて、話としてはただ歩いているシーンが延々続くのでぶっちゃけてしまうと結構ダルい。
最終的に困難を乗り越えカルハイドにたどり着いてからは話が急展開して面白い。エクーメンの宇宙船への無線信号を送付し、そこから話が急展開を迎える。二人の雪原行がもたらしたもの、種族や特性を超えた、ある意味『性別の関係ない、人類同士の間に生まれた純粋な愛』によるエストラーベンの行動は胸に詰まるものがあった。
これは他の作品では感じられない感覚だと思う。性別のある人種同士の関係性において、私たちはどうしても関係性の基盤に『性別』の影響を排除できない。『異性』同士の間に生まれる友情も、『同性』同士の間に生まれる愛も、結局のところ『性別』という前提があることは拭い去れないのだ。
だがエストラーベンとゲンリーの間に生まれたそれはなんと形容すればいいのか。異性の性愛、異性の友情、同性の親愛、同性の性愛、全部がある意味そうだし、全部がまったく違う。エストラーベンが異星の友人――便宜上こう表現するしかないが、友情という言葉だけで説明できるものでは無い――に対して誠意と敬愛から示した、自分の死すらも厭わない行為。彼の信仰(ヨメシュ教は自殺を強く非難している)をも覆した愛は、胸を打たれると同時に非常に興味深い。
ただそれでもやはりこの作品は上記の理由で読みにくいと感じてしまう。また、この作品はあまりにも性別に固執しすぎているようにも思える。地球人たちに見られる性別の区分け、『男は男、女は女』を強固に信じ、それによって生じる『価値』を信じているからこそ、ゲセンの社会を異物として強く書き出しているのだ。
両性具有というある種性別の消えた世界を描いておきながら、いやだからこそだろうか、作者の中に強固にある『性別という概念への信仰』じみたものを感じずにはいられなかった。
『どんな人間であれ、男は男らしく、女は女らしく見られたいもの』という作中の文言があるが、なんとなくここに作者の思想が漏れているような気もする。性から解放された人間たち(収容所でケメルという発情期を教える薬を投与されたゲセン人たち)に対して『恥じらいも欲望もないのは人間では無い』『だらしなくしまりがなく粗野だった』と評しているあたりも、作者の性欲や性別に対する信仰というか、『性あってこその人間』的な価値観を強く感じる。
それこそ最近の社会はだいぶ性別というものの価値が薄くなってきた。性欲にしても同じことのように思う。男と女が自然につがうのが人間の摂理というのは真実だろうが、同時にそれだけと断じるのは単に原始的で野蛮なだけでないか?と思えてしまう。それが生物として自然なのは当然なので否認する気は微塵もないが、仮にも理性を持ち繁栄してきた人間として、自然性に任せるだけが人間の本質などと認めることは理性の敗北宣言では?という気もしなくはない……。別に性欲や性別に左右されない人間だっているだろ、それが多様性だ、と思ってしまう。
その点から考えると、この作品はあまりにも『性別があることが正常』を前提に話が展開されすぎていて、今の時勢から見ると逆に違和感もあるのかなと感じた。少なくとも私は『この人性別にめちゃくちゃ重要な価値を感じてるんだろうな』と思えてしまった。私は正直『女は女らしく』で扱われると屈辱を感じる方である。性別ではなく私を見てくれよ。
面白かったしこの作品でしか得られないだろうという未知の感覚もあり、非常に面白い読書体験だった。反面、冗長や読みにくさを感じる面も多く、またそこに描かれている精神性には少し時代のようなものも感じられた。既にSFの古典であるからしてそれはしょうがないと思うので、ほかの古典と同じく当時の時代性を感じながら読めば面白いのではないかと思う。 -
Posted by ブクログ
ポアロもの。
ある朝、ポアロの元に「自分が犯したらしい殺人について相談したい」と、ノーマという若い娘が訪ねてきます。
ですが、ポアロを見た彼女は「(ポアロが)お年寄りすぎるから・・」と、結局何も告げないまま去ってしまい・・。
朝食を邪魔された挙句に「年を取り過ぎている」(←言わば、“オジイは無用!”ってこと?)と、言われてしまい、しょっぱなから大ダメージのポアロがお気の毒。
とはいえ、“腹は立つけど、殺人があったのか気になる”ってことで、オリヴァ夫人全面協力のもと、捜査を開始することに・・。
さて、「殺人しちゃったかも・・?」と言っているノーマなんですが、話を聞いても支離滅裂だしあまりの情緒不安定っぷりに、“この娘、ク〇リやっているんじゃ・・?”と思っていたところ・・あらら・・(自粛)。
このように、ノーマも訳わからん娘なのですが、彼女を巡る人々・・ノーマの家族や、その屋敷にいる外国人の女書生、オリヴァ夫人に“孔雀”呼ばわりされるチャラ男の彼氏(本書の表紙が孔雀ってのがまたww)、ノーマのルームメイトの女性達、さらに急に登場した精神科医、等々・・うーん、皆怪しい・・てか、そもそも殺人があったのか?五里霧中って感じのまま展開するのですが、何だかんだで先が気になって、ページを進めてしまうんですよね~。
(ポアロとオリヴァ夫人との掛け合いも楽しいですし♪)
そんなフワついた状況の中、バラバラだったヒントの断片から推理を構築して、真相に行きつくポアロは(お年を召していても)やっぱり流石ですよね!
ということで、今回も楽しく翻弄された私でございました。
ところで、自覚があったかどうかわからないものの、どエライ目にあわされていたノーマですが、“あの彼”と是非幸せになって頂きたいですね~。