小尾芙佐のレビュー一覧
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フィリップ・K・ディックの処女長編は、ランダムによる無作為な権力交代が行われる九惑星系社会が舞台。クイズマスターなる最高権力者は、ボトルという偶然をつかさどる装置により選り抜きされます。時のクイズマスター、ヴェリックはこのボトルにより失脚。代わって権力の座についたのは、無級者のカートライトですが、指名大会で選出された刺客により、命を狙われることに… そんな中、主人公ベントリーは解職を機にヴェリックと雇用の誓いをたてるが…
ディックの長編はやっぱり無秩序な印象を受けます。
二十三世紀の九惑星社会、先にあげたボトルによる権力交代制度、パワーカードに無級者、そして《炎の月》などなど、背景やガジェットが入り乱れて登場します。しかし、これらがうまく物語に組み込まれているかというと、そうではありません。ランダムな社会制度といいつつも、実際には作為的な関与がありますし(これはその社会が既に破綻しているとみることもできますが…)、なにより《炎の月》の存在意義なんて、読解力不足でしょうが、読み終えてもよく解らなかった笑
ただ、だからといって、面白くないわけではなく、ディックの場合はこの無秩序さがなんだか心地よく、楽しめるんですよねぇ。短篇がきれいにまとまった作品が多いだけに、長編のこういう無秩序さは、かえってディックらしさを感じるのでした。 -
Posted by ブクログ
自閉症者の一人称で始まるSF小説。
自閉症者の一人称小説というのがキャッチー。主人公は文中で平坦に物事を受け止め自分の決めたパターンに則って行動する。自閉症者に特有のこだわりや特別な感覚も表現されている。
ただ作者自体が自閉症者でないので書かれている内容がどの程度自閉症者の思考に近いのか疑問が生じた。他の書評によると自閉症というより自己愛性パーソナリティ障害の患者の思考に近いというが、その場合自閉症の視点から考える思考SFという前提は成り立つのか?
あと、著者は「くらやみの速さ」にこだわりすぎな気がした。知と無知になぞらえるのもしっくり来なかった。正直いらない要素では。フレーズとして気に入っているのはわかるけど。
「アルジャーノンに花束を」と比較されるのもわかるが、どちらかというと「時計じかけのオレンジ」に似ていると思った。そして、平常者と違う視点を描くという点に関しては、「アルジャーノン」に一票。あちらは知的障害者が日記を書いている(それが小説そのものである)という設定で、表現としての文章の稚拙さや知的障害者の思考の再現性をうまくカバーしている。
この小説はSFというよりヒューマンドラマではないのかな。序盤は面白く読めたが、後半にかけて上記の点が気にかかってしまった。 -
Posted by ブクログ
外交使節でもある文化人類学者が、とある異国で失われつつある前近代の文化風習を再発見するための旅をする物語。
と、まとめてしまうと物語の骨格はSFでもなんでもないのですが、その「SFらしくなさ」が正にル・グィンらしさでもあります。
彼女が紡ぎだす「ハイニッシュ・ユニバース」の一端を成す作品。高度の発展を遂げた「ハイン人」が銀河規模で潘種し、地球人類もその一環として生まれた世界。その後、潘種された種族は衰退して星間の交流がなくなり、各惑星上で独自の進化・発展を遂げていく。やがて星間交流が復活し、星間連合「エクーメン」となって、未だ宇宙への再進出を果たしていないかつての同胞を教化・指導する立場となっていく。
そんな舞台設定を背景としているため、この作品をはじめとする「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズに登場する異星人は全て地球人類と基本的に同種の生き物です。似たような文明を築き、似たような政治体制を変遷し、初対面でも最低限のコミュニケーションが取れますし同衾すらも可能です。
それは即ち、人間の現実社会をそのまま描いている、ということに他なりません。ル・グィンの作品は、SFというフォーマットを借りた「社会的寓話」とも言えるでしょう。
この作品は、特に、近代化の波に突如曝された前近代的文明(「前近代的」という言葉自体が非常に相対的な価値観を孕むため、鴨はあまり使いたくないのですが、他に適当なワーディングを思いつかなかったためこう表現させてもらいます)が自己の胎内に抱え込む相克を詩情豊かに描き出して余りあり、様々な観点から読み込むことが可能な作品だと鴨は思います。
ただし、これもル・グィン作品の特徴ではあるのですが、あたかも社会学のレポートと古代の叙事詩を足して2で割ったような独特のゆったりとした筆致で物語が進むため、一般的なSFにありがちな爽快感や驚き、手に汗握る面白さと入ったものはまず感じられません。特に物語の中盤は読み進めるのにかなりの忍耐力を要するレベル。読む人を相当選ぶ作品だと思います。 -
Posted by ブクログ
ディック祭りあらため、ディックの足跡をたどる月間。古本やさんから初期の本をかき集め準備は整った!
出版の順番からいくと処女長編となる本書。公共的偶然発生装置によって、ランダムに変化させらる世界、ティープ部隊、偶然によって即位させられる最高権力者、選抜される公的な刺客、太陽系外縁にあるとされる炎の月に向かう狂信者集団、光速を超えて飛翔できる人造ボディ、等々説明抜きにあふれるガジェットの数々。ドラッグを使用していると思しきシーンは出てきますが、ぐじぐじ病んでいる分裂病的な人物はこの作品では出てきません。(こんなのも書いていたんですね)
きっと、謎が仕掛けられているに違いないと思った設定があっさり破壊されていしまったり、と寓意に満ちていると感じられたり、何の脈絡も無かったりとなかなか印象深いディック版スペースオペラ!