自閉症の男性が主人公。自閉症とは言え、自分に合った職業があり、フェンシングの趣味ももち、それなりに満たされた暮らしをしている。
彼の一人称で話が進む。彼が音楽を理解して感じるやり方や、他の内面世界は、私たちが自閉症者に持つイメージと違ってとても豊か。感情的には落ち着いていて、合理的で美学も感じるよう
...続きを読むな世界観。それに加えて数学の才能も天才的。
だが、新しい上司が彼ら自閉症の従業員を自閉症治療の治験者にしようと圧力をかけてくる。
趣味のフェンシングサークルでの人間関係のいざこざもあり、その治験を受けることを決める。リスクを感じつつも決断する、その葛藤、筋道の付け方がしっかりしている。
結果的に、治療は成功して、彼は元々持っていた宇宙工学への夢を叶える。失ってしまった元の自分と、新しく生まれた自分、それが統合されて、最後は感動的。
自閉症だった彼も、そうではなくなった彼も魅力的で、その二つの立場から世界を見る面白さがある。変化に立ち向かう勇気と未来への希望に満ちている(作中には治療に失敗した同僚の存在も窺わせるものの、詳細はなく、勇気を出して治療してよかった、という印象)