津村記久子のレビュー一覧
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ネタバレ「津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみよう」の三冊目。
「ポトスライムの舟」と「十二月の窓辺」が収録されています。
「ポトスライムの舟」は前職をつらい思いをして辞めて、工場や友人ヨシカが経営するカフェで働いたり、パソコン教室で講師をしたりしている女性ナガセが主人公。たまたま職場に貼ってあった世界一周クルーズが、工場での年間手取りとほぼ同額であったことから、世界一周を目標にするところから始まります。と、こう書くとそこに焦点が合った小説かと思いきや全然違うのです。
ナガセは奈良で母親と古い自宅で二人暮らしをしていますが、そこに友人りつ子が娘を連れて夫から逃げてきます。と、こう書くとなんだか波乱万丈な日常を思い描きがちですが、全然違うのです。
じゃあ、何なんだ、と言われたら、もう「読んでみて」としか言いようがない。
ナガセは過労で体調を崩すけれど、淡々と日常に戻る力をつけていくし、転がり込んできたりつ子も淡々と夫と別れ、娘と二人で暮らしていく道を見つけていく。その「淡々と」が非常に良いのです。ナガセ、母親、りつ子、りつ子の娘、ヨシカが連れだって奈良の観光地にあらためて出かけていくところなんか、すごく清々しくて良い場面なのに、「淡々」と描かれています。
ナガセは友人の娘にも過度な愛情をかけることはないけれど、ちゃんと人と人のつながりを築いていて、ナガセの家を出て、新たな道を進み始めたりつ子の娘に、ポトスライムを持っていくし、苺の苗を買ってやろうと思うし。出てくるみんなが決して恵まれた環境ではない環境で淡々と日々の暮らしを送っていて、その「淡々」はストーリーではなく津村さんの文章への印象かもしれないけれど、良いお話でした。これも津村さんお得意のお仕事小説といえるかもしれません。
次の「十二月の窓辺」は、お仕事小説そのものですが、真っ向からのパワハラ事案でなかなか読むのも辛いものがありました。主人公ツガワへのV係長(このお話ではどんな形であれ”ハラスメント”をしてくる人は全てアルファベットで示されていたように思います・・・)のパワハラは言葉によるものが主だったものでしたが、まぁびっくり。同時に、私はつくづく恵まれた職場環境で仕事ができているな、と思いました。新卒から働き出してウン十年。パワハラを受けたり、大声をあげられたり、汚い言葉で罵られたりしたことはありません。(ひとりパワハラ課長がいましたが、なぜか私のいる係はその課長に好かれており、被害を受けることはありませんでした。)働きやすいけど、やりがいがないから辞めたいだとか、職務内容に飽きたから異動して新しいことをしたいだとか、なんて贅沢をほざいていたんだろう、と大いに反省しました。この反省はこの話のラストのツガワの気持ちからすると、綿あめくらい軽いものですが、最後の最後で、ツガワは自分だけが「底の底」にいたわけではなかったと知ります。「通り魔事件」と「トガノタワー」がこんなふうに物語の本筋にからんでくるとは・・・。パワハラを受けた側がどんなふうに自己否定に陥ってしまうかというのが、ツガワの気持ちの描写でよくわかりました。傍からだったら、「V係長の方が、他のところではやってけないよ!」「ここを辞めても、どうせ次でもダメだなんてことは絶対ないよ!」「合うところは必ずあるよ!」と大声で叫んであげられるところですが、当事者の耳にはなかなか入りにくいことも想像に難くなかったです。ツガワには希望が見えた気がしますが、ナガトはどうなんでしょう。なんでまだパーカー姿だったのかな・・・
とりあえずの「津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみよう」の三冊終わり!
また折を見て津村作品を読んでいきたいと思います。 -
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ネタバレ「津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみよう」の二冊目。
4つの短編によって成る「職場の作法」と、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」と、表題作が収められた作品です。
「職場の作法」は津村さんお得意のお仕事小説。まぁ見事なまでに会社内の人や人物関係や、仕事のやり方などが詳細に表現されています。「ブラックボックス」では、仕事における田上さんの自らの自尊心を守る仕事のやり方に拍手。「ハラスメント、ネグレクト」では、空気を読めない上司あるあるに、大いにうなずいた。「ブラックホール」では、これまた人の机にある文具を勝手に持っていっちゃうおじちゃん社員のあるあるにうなずき、「小規模なパンデミック」では、「次の日に出社すると、だれだれが休んでいた。病欠らしい。詳しいことは訊かないけれども、インフルエンザだろう。」という文章が繰り返し出てきて、社内のインフルエンザ蔓延を語っており、もうこのセンスに参りましたという感じ。ありきたりな言い方ですが、お仕事小説で津村さんの右に出る人はいないんじゃないでしょうか。本当に、誰もが経験しているような、なんてことないと思うようなこと、ちょっと心が動いたくらいで忘れちゃうことを言語化することに長けていらっしゃる。
そして、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」。主人公がたまたま目にしたフィギュアスケート選手が気になり、その人についての情報を追っていく日常。といっても、熱狂的なファンとか、それこそ「推し活」とはちょっと違った感じで、なんなら保護者的な立場でその選手の情報を追っているのが、また面白い。会社の先輩である浄之内さんはマイナスの作用を持っていて(というか、そう主人公が怪しんでいる)、応援した選手はことごとく怪我などに見舞われるし、応援したチームの優勝はほど遠い、というところなんて津村センス発動以外の何物でもない。私もミシェル・クワンが好きだったし、アレクセイ・ヤグディンやフィリップ・キャンデロロも見ていたけど、クワンが尻もちをついて銅メダルだったというオリンピックについては、全然記憶がないので、私のフィギュアスケート好きも、熱したり冷めたりだったんだなと、自分とちょっと重ねて読めたところもよかったです。今は、多分に漏れず、坂本花織さんが好きです(オリンピックがんばって欲しい!)。
「とにかくうちに帰ります」は、埋立洲で働いたり、塾に行ったりしていた4人が、豪雨による交通機関の乱れのせいで、徒歩で橋を渡って本土まで帰還し、そこからなんとか公共交通機関に乗れるまでのことを描いた作品。こう説明するとたったそれだけのあらすじなのに、なぜかすごく面白い。同じ会社の先輩後輩である、ハラとオニキリ、会社員のサカキと小学生のミツグ。なんていい人たちなんだ。うちに帰れてそのうちに屋根があって、雨がしのげるってなんて幸せなことなんだ。
感想が短いわりにすごく良かったことをどう伝えたらよいのやら。
本作の感想もこう締めたい。「津村記久子すごい」。 -
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ネタバレすごく気になっていて、もしかしたら好きな作家ベスト3に入っているのではないかと思っている津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみようと決め、んばばばば!と買ってみました。
まずは、一冊目。8つの短編集が収められている本書。
ひと作品を読み終わって次に進むごとに「津村色」が濃くなっていく気がして、うひひと嬉しなりました。ちょっとひとつずつ見返してみよう。
・レコーダー定置網漁
目の付け所が、さすが。主人公の会社に採用されることを希望している学生のSNSをチェックし、採用後、会社にとって危険な人物になりそうな、そんな投稿をしていないか確認するという仕事に疲れたため、リフレッシュ休暇をとっているという状況。そんな仕事あるんだ?!という実在の有無のラインの微妙なところに設定をし、実際にはそんな仕事なかったとしても、「情報過多」である現代人にはわかりみが強すぎる設定で、さすがだなと思わされます。自分が施した録画設定が、希望の番組が終了してもなおも録画を続け、そこに何が録画されているのか、ちょっと楽しみにしてしまうことを「定置網漁」と呼ぶネーミングセンスの良さにも脱帽。徐々に気力を取り戻していく様子が良かったです。
(えぇ、この調子で8つ分書いていったら長くなるな~)
・台所の停戦
これは読みながら切なく、ちょっと胸が痛んで、でも最後は希望の持てるお話でした。祖母・母・娘の3人暮らしの台所で起こることを描写することで、3人の関係、特に「母-娘」の関係を見事に表現しています。つまりこの物語には2組の「母-娘」がいることになります。
津村さんの作品には、こういった母娘関係がよく出てくる気がします。なんというか、決して、娘に愛情を注いでいないわけではなく、もちろん虐待なんてないのですが、何かにつけ娘を否定してしまったり、娘をまるっと受け入れることができなかったりする母親に対して、娘が少し傷ついている、というような。本当に最後希望があって良かった。
・現代生活手帖
これを読み始めて、「これこれこれ!」とひとり沸き立ちました。津村作品にはこういうの、あるんです。読み手としても「待ってました!」というもんです。以前読んだあれやこれを思い出しました。自治体が発行する「現代生活手帖」を読みながら、何を購入するか、どのサービスに申し込むかと悩む主人公は、すでにロバによる配達サービスを利用している。「遅れても許せてしまう」から良いサービスなんですって!面白い!この世界では、テーブルをこすることで色々なことができてしまうようで、近未来的な雰囲気がまた楽しい作品でした。
・牢名主
A群による色々な形はあれど、ある意味支配的な圧力を受けて傷ついたB群の人たちが行きたい時にだけ行ってよいサークルというような会での出来事を中心としたお話。抽象的なのに、すごく具体的な感じがして、これもまさに「津村さんによる作品」だと強く思いました。この作品自体が好きとか嫌いとかないけれど、津村さんの力量を見せつけられる作品だと思いました。
(まだ半分・・・)
・粗食インスタグラム
あ、これが一番ライトな印象しか残っていないかもしれません。すっごい美食について投稿したSNSを見ると気分が悪くなってしまうから、自分の粗食を投稿し始めた女性の話。粗食の投稿ごとにエピソードがあって、その「普通の日常」の描き方がうまい。本当に津村さんって、何でもないことを、多くの人がスルーしてしまうようなことを全て文字にしちゃうんだな~と思いました。話の細かいところをすでに忘れかけているというのに、これが一番、現代社会に疲れている人たちに「ゆるっといこうよ」と言っているような作品でした。
・フェリシティの面接
これもまた不思議な雰囲気をまとったお話でした。まるでロボットのようなフェリシティ・・・それに「ロンドン」だとか「殺人事件」とか、今まで私が読んできた津村作品にはなかった気がする単語がでてきます。主人公のアパートで起こった事件をさらっと解決してしまうフェリシティって何者・・・?読後、ついついググってしまいました。なんと、アガサ・クリスティが生んだ名探偵エルキュール・ポアロの秘書であるミス・レモンだそうです!アガサ・クリスティの作品はひとっつも読んだことがありません!こういう時、自分の読書の偏りや、読書界隈の常識というものに疎いことに、床をダンダンと踏みながら情けなく悔しく思います。
・メダカと猫と密室
津村さんお得意のお仕事小説でした。上司の理不尽な要求で休日出勤して、さらに待ちぼうけを食らわされている間に起こる小さな出来事をすばらしい筆力で書き上げた作品。大きな出来事が起こるわけではないのに、続きが気になる。その時間の経過とともに起こる小さな出来事や主人公の気持ちの動きに対する表現力が圧倒的にうますぎて、すごい満足感を得て読み終えました。そういえばフライングタイガーのノートってずっしりしていますよね~。
・イン・ザ・シティ
オタクのキヨと、キヨとは正反対な性格(というか学校内でのキャラクター?)だと思われるアサが、偶然にも友達になり、ゲームで作った街から着想を得たキヨが架空の街(というか国?)を作り上げ、アサに少しずつ披露していく。家庭科の授業中にやりとりしているため授業をあまり聞いておらず、実践でミシンを使うという段階では全くお手上げ状態になってしまった二人に何も文句を言わず手を貸す加藤がよい。というかこの加藤の存在、すごくよい。キヨは架空の街を作り上げることに熱中しているかと思いきや、急にスケートボードを始めたり、それを加藤が見守っていたり、アサの母親が弟の学校欠席について容認しており、そのことでアサに嘘をついているという小さいようで(特に子どもにとってみれば)大きな問題があったり、どうしたらこんなことを思いつくんだという内容になっていて、そしてそれがちゃんと物語として落ち着いていて、本当にすごいと思う。こういった日常を描くことは、ドッカンとかバッタンな出来事が起こる非日常を描くよりずっと難しい気がします。キヨとアサと加藤に幸あれ。
もう疲れたので、これぐらいで終わりにします。とにかく「津村記久子すごい」。以上でございます。 -
Posted by ブクログ
「水車小屋のネネ」がとてもよかった津村記久子さん。こちらも津村さんの人間観察力が光る。
こんなお仕事あり?という怪しげなお仕事が次々と出てくるのだが、どの仕事もほんとにありそうで展開が気になる。
そして、名前も登場しない主人公36歳女性が、彼女しか発揮できないであろう素晴らしい洞察力で、様々な事態を好転させていくのが小気味いい。
もし私がそのお仕事を請け負っても、こんな凄い結果を出せずに鬱になって辞めてしまいそうだ。
やはり、彼女にはなんというか人間を見る目があるのだろう。そして、その力が人一倍あるからこそ、15年勤めた職場で燃え尽きてしまったのだろうと納得…
私の職場も似たような職場で、おんなじように燃え尽きて辞めてしまう人をたくさん見てきた。
でも、そんな人はどんな仕事も結局は力を発揮しすぎて、苦しくなってしまうのだろう。
それでも最後には彼女も居るべき職場へと導かれたようだ。
たやすい仕事などない。
でも、燃え尽きないようなペースで納得して働き続けられたら、素晴らしいよな…
と、今のお仕事を続けられていることに、感謝。
さて、今日から新年の初仕事。
元気をもらえた一冊。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ津村さんの作品は3冊目だが、全て面白く読ませてもらっている。
悲喜交々に対しての主人公の反応に共感を覚えて読みやすいし、途中しんどい描写があったとしても、「ま、なんとかなるさ」と背中をぽんと押してくれるような締めくくりで、ほっと息をつける安心感がある。(今作収録作品では、「台所の停戦」や「牢名主」、「イン・ザ・シティ」にその傾向が顕著かもしれない。)
一番印象深かったのは、「現代生活手帖」。
ゆるい日常のお話かと思ったら、実現しそうでまだ絶妙に無理な近未来が舞台という意外性に驚いた。
また、どれだけ便利な未来になっても、億劫なことがゼロになっていない様子に苦笑してしまった。シェア制度や脅迫サービスは是非利用したい。
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Posted by ブクログ
ネタバレ大阪の亜笠不文律で購入。個人経営の小さな本屋さんで津村記久子さんの本があると、「わかってるなぁ、この本屋好きだわ。」と小さく思って嬉しくなる。
本好きの次男とお邪魔したその日は、未読だったこの本を買って帰った。
津村記久子さんが読んだいろんな本が紹介されている本。
とにかくバラエティに富んでいて、いろんなそして、個性的な本を読むんだなぁ〜と楽しく最後まで読んだ。
特に、ある本の書評が、私が津村さんの小説に対して書いた感想と物凄く似ているところがあり、なんだか気持ちが通じたような、読み方、私間違ってなかったんですね!!というような、そんな気持ちで胸がいっぱいになった。
p46 「生活図鑑」の紹介
生活していることは、こんなにも様々な要素で構成されていて、そして奥深いのだ。そのことを、余計な美化や力みを配して、ただ「人はこういう行為をしえ生きている」と詳細に説明してみせることで気づかせる。そこにはある種の美しさすらある。
もう一つ心に残ったのは暮らしのヒント集という本の紹介で出てきた言葉:
p51
「さみしさや切なさはいいものです。それは向き合ったりたたかうものでなく、抱きしめてあげましょう」。
この文章に、津村さんは「この本の誠実さが集約されている・・・中略・・・抱きしめるといったってどうしたらいいのかはわからないのだが、至らない欠けた自分を、問い詰めるのでも行動せよと煽るのでもなく、肯定せよとこの項目は言っている。大きく「救う」だとか「変える」のではなく、「ましにする」こと。
と書いている。
この人のこういうスタンスが本当に好きで、救われている。しんどいなと思いながらも、静かに受け止める芯の強さというか。その態度からこれでもいいかと思う、悪くないよねと感じる感性をお裾分けしてもらっているような気持ちになる。
読んでみたいな、と思う本が本当にたくさんあった。少しずつ探してみようと思う。