津村記久子のレビュー一覧
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ネタバレ表題作がとても良かった。
薄給の職場で働いていると、ふとした瞬間に「自分の人生はこれで良いのだろうか」「他の人は立派なのにそれに比べて私は……」みたいな思考に苛まれることは自分もよくあるので、共感できるものがあった。
ナガセは突発的に「世界一周」という夢に向けて貯金を始めるものの、些細なことで散財してしまう自分に嫌気が差してしまう。
しかし、それは本当に散財なのだろうか?
親や友人や職場の人たちと関わる中で、自然に「そうするべきだ」「そうしたい」という気持ちがナガセの心を動かしたのだと思う。
我慢して貯金することも素晴らしいことだとは思うけれど、今この瞬間の僅かなお金の消費が人生を「豊かに」「幸せに」していることも事実ではないだろうか?
そんな気持ちになったであろうナガセが、手帳を開くことをやめて、自転車で駆け出すラストが非常に爽やかで好きでしたね。
読みやすい筆致でありながら、お金や仕事や人生に対しての価値観を再考させられるような、奥深い内容だった。
『十二月の窓辺』のほうは、パワハラに苦しめられている者のお話で読むのが辛い部分もあったが、『ポトスライムの舟』のナガセの前日譚的なものとして捉えて考えてみると面白いと思った。
薄給でも居心地の良い職場……良いよね(笑) -
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未読だった津村さんのデビュー作。
今まで読んだどの津村作品よりも、
主人公が多面的であまりに人間臭く、とてもよかった。
個人的に構成が若干わかりづらいところがあったり、河北のつかみどころのなさが理解できなかったりしたので4にしてみたけれど、限りなく5に近い。
オカノ、好きだなあ。
p. 153
魂と肉体の組み合わせは無数にあり、その相性がよくないことに悩むことのなにを責められるというんだろう。両者の間の軋みを感じることができるのは当事者だけなのだ。
解説が、解説しすぎていてナンセンスに感じて途中読み飛ばしてしまった。
読み手がどう感じたか、それでいいのに、これはこの社会問題で…みたいに線を引くことに抵抗と不快感を感じた。
とても気に入りの作品になったからこそ、実写は観たくないと思った。
自分のなかで大切にしていたい。 -
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「ポトスライムの舟」と「十二月の窓辺」の中編2本が収められている。2つの作品は独立しているが、後者は前者の前日譚であるらしい。なので、後者の主人公ツガワは前者の主人公フカセと同一人物という事になる。確かに人物造形的に繋がりが感じられて、フカセの理解には後者も読んだ方がより理解が深まるだろう。
解説でも触れられているが、文体が独特で静かな語り口であるのだが、中々にハードボイルドで、主な登場人物がカタカナで表記されている事により客観的に物語に入っていける。
両作品ともいわゆるロスジェネ世代の女子の人生観や仕事観がよく表現されているように感じるが、僕がそこからかけ離れた世代であるのでどうでしょうか。
「ポトスライムの舟」では幼稚園の恵奈ちゃんのキャラに惹かれ、「十二月の窓辺」では、V係長のあまりのブラックさに呆れを通り越して恐怖すら覚えた次第ですが、一冊読み終わり「ディス・イズ、ザ・デイ」の読後感にもあったのですが、ほのかな優しさが感じられて、津村さんの他作品も続けて読みたいと思いました。 -
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久しぶりに小説を読んだ。選んだのは、津村記久子さんの『ポトスライムの舟』。
映画『君は永遠にそいつらより若い』を観て以来、ずっと気になっていた作家さんだ。文芸評論家の三宅香帆さんもお薦めしていたので、「それならまずはデビュー作から」と手に取ってみた。のちに芥川賞受賞作だと知り、そういえば当時ニュースで見聞きした記憶がうっすらと蘇る。
慣れない関西弁に最初は少し戸惑ったものの、読み進めるうちに、それが逆に主人公・ナガセの思考をダイレクトに脳内へ届けてくれるような感覚に変わっていった。彼女の淡々とした日常の中に、自分も一緒に没入していくような心地よさ。
読み終えたとき、これはまさにあの映画と同じテイストだ、と腑に落ちた。
そう言えば、今作の主人公「ナガセ」も、映画の主人公「ホリガイ」も、なぜかカタカナの名前だ。どちらの作品も、彼女たちの地続きの日常を丁寧にたどりながら、ラストには驚くほど前向きな光へと導いてくれる。
津村さんにとって、小説とは「人を前向かせる役割」を持つものなのだろうか。それとも、執筆を通して自分自身を奮い立たせているのだろうか。
ナガセがアウトリガーカヌーに乗った男の子に告げたように、私も心の中で呟いてみる。
「また会おう」
津村記久子さんの言葉に、再び出会える日を楽しみにしている。 -
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このレーベル(?)、2冊目ですが薄くて気軽に読めて表紙もオシャレでいいなあ。
久しぶりに小説読みたいな…って層にもおすすめできそう。
そして安定の津村さん。
ふざけているのか真面目なのか。よく分からないラインを堅実に歩いていく。
私は津村さんの会社小説に出てくる登場人物たちに大体好感を持つし、なにより読後感が好きなんですよね。
なんだろう、謎の爽やかさに少しの切なさが混ざっている。大人、みんな働いて生活してんだな、そうさつまりこういうことなんだよと、背中をポンポンと叩いてくれるような…
それにしても緑陣営、緩そうで意外と強固な絆が「うどん」なの面白い。うどん好きに悪い人間はいないのか。どん兵衛なら緑はそばだけどね… -
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おそらく作者のエッセイをいくつか読んだ影響もあるかと思うが、「仕事」や「働く」という事柄に関する生々しさや切実さに胸を衝かれる。ここに書かれていることは「労働」という言葉の響きより、「働く」という言葉が合っているように感じる。
ナガセは徐に一年かけて世界一周旅行の資金を貯め始めるが、些細な、または些細でなかったりする事情で順調に貯められかったりする。
大きく何かが変わるわけではないけれど、憑かれたように働き詰めだった彼女にささやかな心情の変化が訪れ、また日常に戻っていく描写に自然と涙が流れた。
十二月の窓辺は読んでいてずっと呼吸が浅くなっており、こういう上司、知っている…という覚えのある痛みを感じた。
本文にある「千差万別の痛みやその他のことがある」という一文は転職を何度か繰り返した自分にとっては深く頷かせるものがあり、最後に退職を決断した主人公が職場の冷蔵庫のヨーグルト菌を死滅させる様は傑作だった、 -
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この一年、須賀敦子さん、梨木香歩さんの書評本を読んできた。
須賀さんは書評というより、若いころの彼女に影響を与えた本についての思い出といった感じだったけれど。
それで、今回は津村記久子の「世界文学」レビュー本である。
須賀本、梨木本とはかなりカラーが違う。
(正直、このお二方の本はどこか雰囲気が近く、時々ふとあれ?既視感がある、と思う瞬間があった。同じ本を取り上げているところもあるせいだろうか?)
津村さんならではの要素として、筆頭に挙げられるのは「ダメっぷり」を愛でる姿勢。
たとえば「ボヴァリー夫人」のエンマ、「カンディード」のパングロス先生、ドリアン・グレイらの、どうしょうもない登場人物たち。
または救いのないようなひどい世界設定やストーリー展開。
時には津村さんもたじろがされてしまうのだが、それでも作品の一つの場面、一つの言葉、あるいは著者の描写力にあっと思うような輝きを見出だしていく。
「ギャツビーって誰?」とてらわずに言う、一見脱力系に見える津村さんのガイドにより、しかしたしかに見るべきものが何かがわかるのだ。
自分もかつて読んだ作品も何作かあるが、どこからこんなことがわかったんだろう、もう一度読み直してみようかなあ、と思うことしきりである。
もう一つ、津村さんならではだな、と思うのは本のチョイス。
『カラマーゾフの兄弟』『トニオ・クレーゲル』『ゴドーを待ちながら』『夜と霧』『リア王』『マクベス』『赤と黒』『クリスマス・キャロル』『ジキルとハイド』『外套』『チャタレイ夫人の恋人』など、「定番」もあるのだが、海外のミステリ、SFが多く取り上げられているのが特徴的。
メモ代わりに、今後読んでみたいと思う本を書き出しておく。
・ケネス・グレーアム『たのしい川べ』
・オースティン『ノーサンガー・アビー』
・マン『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』
・ウルフ『灯台へ』
・アラン『幸福論』(2回目!早く読むべし)
・ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』
・バラード『ハイ・ライズ』
・『山海経』
・シュテュンブケ『鼻行類』
・フレイザー『金枝篇』