津村記久子のレビュー一覧
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ネタバレもともとジャンルとして「お仕事小説」が好きなのと、タイトルが自分の持論ズバリそのままだったので思わず手に取った。
主人公は自己肯定感が低く、仕事を評価されても素直に受け取れない。また、仕事にのめり込むと生活に事情を来すほどになってしまい、一つの仕事を長く続けられない。
新卒で働き始めた職場を辞した後、さまざまな短期の仕事に就くも、どの仕事にものめり込みすぎてしまう。
仕事にのめり込んでしまうというのは時給労働であれば無駄だが、自分で事業をするのであれば大きな強みになる。この女性はどちらかというと個人事業主のほうが向いているのではないかと感じた。 -
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緩やかに気怠く過ぎる8月の気配に懐かしくなる。でもこの街には澱みのようなもののほうが多い。「宿題の写しを集める」という中学生にとっては致命的な問題でもある1つのミッションが中心に据えられながらも、その周縁にある「大人の事情」はなかなかに複雑かつ子どもにとってはグロテスクですらある。当の本人たちの心情がそれほど詳細に劇的に語られる訳ではないから淡々と読めてしまうけど、やっぱりだいぶしんどい家庭が多かった。セキコの家庭はひとまずは持ち堪えた感があるけど、室田・片山家はどうだろう。
登場人物の中学生たちの、どこか達観し諦観しているからこそできるような飄々とした振る舞いと、表紙の絵柄とが相まって、ほ -
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私が津村作品を好きなのは、西加奈子さんの言う通り、津村記久子が「取るに足らない、とされていること」に目を向けてくれるからなのだと思う。本当は「どうでもいい」なんて一蹴できることじゃないのに、なんか周りに流されてどうでもいいよね〜と笑えてしまう、気持ちに蓋をしてしまう私の、心の奥に触れるような、そんな表現・着眼点が散りばめられている。私も津村作品のみんなみたいに、軽やかさと真面目さでもって、自分にとって大切だったり重要な瞬間を受け入れたり乗りこなしたりしたいと思う。
あとは津村作品の女性の飄々としていたり淡々としていたりするところが好き。恋愛に生きてないところも良いな。あとワードセンスがあると -
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職場を舞台にした短編集。
「いるいる!こんな人!」と、嵐の中の職場から自宅への帰宅大作戦。
なんで津村先生は、こんなに日常を拾うのが上手いのだろうか。
今回は会社を舞台にした短編集。
特別大きな事件は起こらない。
無くした万年筆が予想通りのおじさん社員の机に入っていたとか、嫌な対応をしてくる営業マンに地味〜な復讐をする現場を見たとか…。
何が面白いって、津村先生の感受性と表現。
大雨の中で登場人物が、もうグッシャグシャになって家が恋しいと表現する言葉。
『うちに帰りたい。切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい』
もう共感でしかない。
大雨に降られて、服もグシャグシャで寒くて歩くのも億 -
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津村さんの本には本当にハズレがない。
センスと簡易な文章。
あまりスポットの当たることのない物事に焦点を当てているんだけど、そこが本当に絶妙に興味をそそってくる。デティールへの拘りから現実味を与えてくる。とても良い。
本作は、章ごとに舞台は変わるものの、新卒以降長年勤めた会社を燃え尽き症候群で辞め、短期の仕事を転々とする主人公にフォーカスを当て続ける連作小説。
モニターでひたすら執筆業を生業にする男性を見張り続ける仕事。
地元企業に行ったインタビューをもとにバスのアナウンス原稿を書き上げる仕事。
おかきやせんべいなど、商品ごとに企画・シリーズ化し、袋裏に掲載する豆知識などの原稿を作成する仕 -
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私は「しずかなインターネット」という文章投稿サービスを使っており、日記というか雑記というかそういったものを投稿している
文章を何かしら毎日書くようにしたいと思っているため、可能な限り毎日投稿するようにしているのだけど
書くことがねえ!とか書いたけどなんかなーということも多かったのでそういう文章を書くことに関する本を読みたくて色々と探したらこの本にたどりついた
文章に関する本というと小説などの創作に関する技術のことを書いている本が多く、
またネットに文章を上げることに関してもアフェリエイトで稼ぐ!みたいなものが多くて、いや、そういう方向性じゃない…っていうものが多かった
これは作文とあるけれど、 -
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父親が«働かない»という状態の主人公のセキコ
もうすぐ受験なのに、こういう父親がいたらそりゃ、終始むかつくし家以外に居場所を求めてうろつくだろうなと思う
母親と妹が父親に対してそんなに怒っておらず、家の中に味方がいない気がするのもまたしんどい
自分が思春期の頃の、何か分からないけどずっと何か思いつめたようにイラついていたのをまざまざと思い出した
この年代って、何だかずっとあらゆることに怒っているよな
それにしても、まともってなんだろうとずっと考えながら読んでいた
出てくる子どもたち、誰も彼も別にいわゆるまともな家は出てこないのだ
まともっていうのは何というかただの幻想で、何かあるのがフツーの家 -
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何かが起こった後の不穏な空気を孕みながら、本題にふれずにダラダラ進んでいく感じが、どこに向かっていくのかわからず、大丈夫かな、と多少不安になりながらも、ポツポツと挟まれるじめっとしたヒントのようなものを頭で繋げながら最後まで一気に読んでしまった。
絡むエピソードがどれも強烈で、主人公の周りに集中して起こるのはドラマが過ぎるけど、現実ではそれぞれの事件は日々起こっていて、私もまたそんなエピソードを持っていて、この物語の登場人物の1人だ。
イノギさんの過去の詳細が回想される場面は不意打ちで、胸に重りが乗ったみたいになった。
自分に対してどこか諦めた態度や、他人への嫉妬心も静観し部外者みたいに