津村記久子のレビュー一覧
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短編が2つ収録。表紙のイメージや語りの軽快さから軽く読める感じの話なのかな?と思って読み進めるけど、意外とそうでもない。
<アレグリアとは仕事はできない>
文句を垂れながらも、なぜだかうまくやっていく主人公は、同著者のほかの小説同様健在。ややバイオレンスな傾向はあるかもしれないが。
バイオレンスなだけに、もう一人の中心人物「トチノ」は主人公とは対照的。蹴りを食らわせるも大慌てで足跡を消す主人公「ミノベ」と、突然ケーブルをぶった斬る「トチノ」。
「だからどうしてそれを口に出してくれなかったんですか。」(p.89)の言葉はもっともだし、私自身そう心がけているつもりではいる。しかし、「ミノベ」のように生きるべし、というほど単純なものでもない。そこには孤独との戦いもある。でも、何より、取り返しのつかないことが、起きてしまっている。
ではどうすればいいんだろう?なんて聞いたところで明確な答えがあるものでもないし、だからこうした小説があるのかとも思う。笑いを誘う文体やきれいな終わり方に救われる感じはするが、結構重い。
ただ、この話を重いと捉えるのも、よくないことなのかも。
<地下鉄の叙事詩>
小説を読むのは難しいな、と感じた。
大学生イチカワのいかにもな斜に構えた態度は、若き日の過ちというか、みっともないな、くらいには思っていた。しかし、語り手が変わってからの徹底的な叩かれっぷりは想像をはるかに超えていた。
(余談ながら、先日読んだ平山瑞穂『ラス・マンチャス通信』も、語り手と周囲の認識の差が特徴的で、本作を読んでから、いろいろ気付くことになった)
小説を読み始めたころ、登場人物の心理描写をしっかり見ていこう!と意気込んでいたけど、字面に頼りすぎていたのかもしれないなぁ・・・と、何百と読んできて今更ながらに気が付いた。読んでよかったと思う。 -
Posted by ブクログ
「人間と機械は違うでしょう」
「同じですよ」
アレグリアというコピー機は大事なところで動かなくなる。
機械に本気で腹を立てる女子社員の主人公と、
いつも涼しい顔でおだやかな先輩と、
アレグリアを通じて恋する修理屋とその他いろいろ。
一台の機械をはさんでここまで人間関係を克明に描けるのか。見せかけじゃない。本気で生きている人間の感情が動いているからずっと読んでしまうし緊迫したシーンとくだらないシーンのメリハリがわし掴んで離さない。
同時収録の「地下鉄の叙事詩」は
正直退屈だと思った。さいしょ。
でも痴漢された女子高生の章を読んで、これは
「それでも僕はやってない」ばりに映画にできる、と思った。
やられた側の耐えがたい心情と、痴漢男への憎悪と、一部始終と、わかってくれたひとができる範囲の現実と、そういったことがただのフィクション・作り話ではない、とおもった。
ほんとうに殺したいとおもったって、殺せないから。
殺しちゃうひとはやっぱちょっと私たちと生きてる世界が違うから。
ミステリーとか、事件ものとは違う、一見地味なんだけど、すごくすごく、わたしたちが通過していること。
ここにはわたしたちのわかる(理解・共感できる)世界のことが、ちゃんと書いてある。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ表題作が特に面白かった。
津村さんの小説の中でも好きなタイプの話。
友人の結婚式の当日に、上司の父親の通夜に行かなくてはならなくなり結婚式をキャンセルして……というストーリー。小さな会社に勤める立場の会社員のままならなさが、真面目なんだけれどユーモア混じりに描かれている。
通常、身内でもなければ「結婚式>葬式」だろうと思うが、社員18人しかいなくて、しかも全員参加が余儀なくされている状況なら断れるのかどうか……、と本人でなくても真剣に悩むところだろうと、フィクションながら気の毒に思う。
参列した通夜での人間関係や、キャンセルした結婚式に出席している大学時代の友人達が、それぞれ個性的なキャラクターで、当人たちは皆真面目にやっているであろうからこその面白みがある。
津村さんの描く登場人物は、語りが堅実なのか、どこか他人のような気がしない。友人の話を聞いているようで面白い。よくよく状況を考えると、まあ現実にはあまりないようなことなのだけれど。その辺、本当にありそうな感じに書けるのがさすが。
最後にラーメンを食べるシーンが印象的で、のどかでぽっかり明るい感じがして、明日に希望を持てるラストなのが好きだ。 -
Posted by ブクログ
本書には、「婚礼、葬礼、その他」と「冷たい十字路」の短編2作品が所収されている。
「婚礼、葬礼、その他」は、1日の間に、友人の婚礼(2次会の幹事を依頼されている)と会社の上司の父の葬儀が重なってしまって、さあ大変、という状況での主人公の行動や、人間観察、人間関係の機微、そこでの主人公の心の移ろいが描写されている。
一方、「冷たい十字路」では、自転車通学の高校生達による傍若無人な自転車の乗り方から起こるべくして起こった事故を題材に、その事故の周辺の人びとの生活や思いなどが粛々と綴られた作品。
いままで、津村さんの作品では、どちらかというと20歳代後半から30歳代の働いている女性達を主人公に設定し、彼女たちが日々悩み、悶々としながら、それでも頑張って働いている姿が描かれることが多かった。
本書は、そうしたイメージが完全には払拭されたわけではないけれど、それでも今までとは違った感じがする2作品。こういう津村作品も、イイ!