あらすじ
自分には何にも夢中になれるものがない――。高校をやめて病院併設の喫茶店でアルバイト中の千春は、常連の女性が置き忘れた本を手にする。「サキ」という外国人の男性が書いた短篇集。これまでに一度も本を読み通したことがない千春だったが、その日からゆっくりと人生が動き始める。深く心に染み入る表題作から、謎めいた旅行案内、読者が主役のゲームブックまで、かがやきに満ちた全九編。(解説・都甲幸治)
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Posted by ブクログ
大好き津村記久子さん。今回も安定の面白さ、というか普段よりわかりやすく希望が持てる結末のお話が多い印象でした。ちょっとした一歩が主人公の人生を大きく変える……かもしれないというテイスト。
テレビドラマにもしやすいんじゃなかろうか。津村作品は抜群に面白い割に映像化があまりされていないというイメージなので、どこかのどなたか、ぜひ検討をお願いします。「河川敷のガゼル」のラストシーンなんか、とっても画になるんじゃないでしょうか。ガゼル連れてくるのが難しいか。
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面白かった。ゲームブックが収録されているのには驚いたが、懐かしく遊ばせてもらった。表題作がとても良かったが、個人的にはSさんの再訪が面白かった。
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111108さんにおすすめしていただいて。いつも素敵な作品を教えていただきありがとうございます。
どの小説の人物の日常も地味でうだつが上がらないのだけど、その中のほんのわずかな転機や喜びが描かれていて、なんだか読んでいて励まされるような気持ちになった。適度な距離感で幸運を祈ってくれるような1冊。
職場で、自分は便利な駒あるいははけ口にすぎないと感じ、出勤の足が重いなあという時、通勤電車で何度もほのかに気分を上向かせてもらった。
「どこもかしこも居心地が悪いのだとしたら、それは柵や檻の外を選ぶだろう」という文章もすごく好きだった。津村作品はいつも心に響く文章がある。
どの作品も捨て難いけど、「サキの忘れ物」「河川敷のガゼル」「隣のビル」が特に好き。
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津村作品の好きなところ。
少ししんどい(けどまだ本人は耐えられているのがミソ)状況に、フッと風穴が開くところ。
名前も知らない隣人(街の人くらいのニュアンス)が、その風穴を開けていくところ。
風穴が開いたその瞬間、私たちの人生に活路が生まれる。行き止まりだと感じていた道に、分岐があることに気付く。
本作も、表題作『サキの忘れ物』ほか、好きだな〜と感じる作品が並ぶ。主人公だけでなく、読者の生活にも風穴を開けてくれる。
さらに、挑戦的な構造の作品がいくつかあり面白い。
読まれる際は、ペンと紙をお忘れなきよう。
Posted by ブクログ
独特な世界観で語られる、よくある日常とちょっとした非日常。そして非日常の出来事をきっかけに日常が変わる。そんな物語の数々が集まった短編集。息が詰まりそうな人生における転換点は思いがけないところに転がっているものだと思わせてくれる。
どの物語もからりとした雰囲気で淡々と進んでいくが、そんな中でも親しみやすく不思議と惹き込まれた。
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この作者さんの本は初めて読みました。
多彩で少しだけ日常から逸脱した、でもどこかのんびりした世界観。
お気に入りは「サキの忘れ物」「王国」「行列」「河川敷のガゼル」「隣のビル」
著者の他の本も読んでみたいと思いました。
(過去記録移動)
Posted by ブクログ
このところハマっている津村さんの作品。
表題作「サキの忘れ物」は心身ともに居場所が見つからなかった千春がバイト先である喫茶店の常連客が置き忘れた文庫本「サキ短編集」をきっかけに自分と自分の居場所を見つける事になる。
鬱屈とした生活から1人の清々しい女性に代わって行く様子が気持ちの良い読後感。
「隣のビル」は津村さんの得意分野なのだろうか、津村記久子作品を読み始めたきっかけの「十二月の窓辺」という作品も隣のビルとその中で働く人との交わりが描かれたいた。
自分の置かれたビルから隣のビルを眺望しそのビルとその中に生きる人々に思いを馳せ、自分の今と向き合う。
本作では自分のいるビルから隣のビルに飛び移りそこで出会った人との交わりから今の自分を見つめ直しこれからの道を探る勇気を得る。
Posted by ブクログ
淡々としているのにすごく惹かれて
あっというまに読み終わっていました。
カギをなくした人のエピソード と
あれを見るためにならんでいる人のエピソードが
おもしろかったです。
Posted by ブクログ
お初の作家。昨年ヴァージニア・ウルフの灯台へを読んだら巻末の解説が津村記久子さんで、その文体と内容のトーンに好感をもった。この方の作品を読みたいと思い手にした次第。まずは短編集から。冷静で世の中にやや批判的なユニークな視線が素敵。
「サキの忘れ物」
表題作。高校中退の無気力なアルバイトの主人公女子が働く病院併設のカフェ。いつも来る見舞客の女性。ある日その常連客が文庫本を忘れていき、それがきっかけで読書を始めた主人公。わからないをわかりたいと思うことが、世界との接続を作り人生を拓く。
「王国」
幼稚園児が見ている世界。空中には心の友が出現し、膝の傷は王国だ。それを理解できるかどうかは、大人も子どもも関係ない。
「ペチュニアフォールを知る二十の名所」
旅行代理店のスタッフにある観光地の説明を受けている。だんだんその街の不穏な歴史が分かっていく構成。
「喫茶店の周波数」
もうすぐ閉店する喫茶店の常連客のひとりは、周りの人の会話に聞き耳を立てるのが密かな楽しみ。
「Sさんの再訪」
昔の友人から連絡が来たが、誰だったか思い出せない。日記を読み返して記憶をよみがえらそうとしたら…。
「行列」
"あれ"が日本に来て展示が始まった。偉大なそれを見るには、12時間も並ばなくてはならない。12時間の間に、商売が見せる滑稽で黒い世界、そしてそれに乗じる人間の滑稽で浅ましい行為が次々に。
「河川敷のガゼル」
ある街に野生のガゼルが。ガゼルは街のシンボルになるべきか、育成に適した動物園に寄贈されるべきか、それとも。誰がガゼルを本当に愛している?
「真夜中をさまようゲームブック」
何通りにも別れるストーリーを、ゲームブック形式で読んでいくスタイル。何度もページをいったりきたり。終わり方も何通りも。
「隣のビル」
嫌な上司から理不尽に怒られ仕事場から飛びたくなり、隣のビルに飛んでみた。
Posted by ブクログ
津村さんの短編集。
高校中退後カフェで働く、自己肯定感の低い千春が、席にサキの短編集を忘れていった女性客との淡いつながりを機に、一歩歩みを進めていく「サキの忘れ物」。
これは本好きの琴線に触れる作品であることは言を俟たない。
「ペチュニアフォールを知る二十の名所」「喫茶店の周波数」あたりは、なんとなく森絵都さんの『できない相談』を思い出した。
そういえば、本書の帯に森さんがコメントを寄せている。
「行列」も面白い。
人々が期待しながら、何時間も行列になって待っている。
その詳細がリアルに描かれていくのだけれど、何の行列かは、最後まで読者には明かされない。
まあ、カフカなんかと比べれば、不条理感は比較的耐えられるもののような気はするが。
むしろ読書経験によって心がざわつくのは「真夜中をさまようゲームブック」。
短い章段が連なっていて、章末には読者が主人公(「君」)の行動を選択することによって、次に読み進める章段が決まっていく形式の小説。
鍵をなくして、深夜自宅に入れなくなってしまった主人公がやむなく夜の街に出てやりすごそうとするのが物語の発端。
正直、自分ならどれも取りたくない選択肢があったりするし、主人公は筆者の忠告通り、割とすぐに死んでしまったりする。
夜中の街をさまよう主人公と同様に、こちらも作品世界からなかなか抜け出せないのだ。
なるほど、こういう読者の巻き込み方もあるんだなあ、と思いながら、「本を閉じ」た。
Posted by ブクログ
いろいろな趣きを楽しめる短編集。
表題作は、素敵で温かい気持ちになった。
「行列」はなんとも言えないもぞもぞした感覚に。
世の中そのものが、〝あれ〟の行列に並んでいる人のように
お得と思っていたら、あれこれ売りつけられているのかな〜と思ったり。
「Sさんの再訪」はラストのキレが最高!
ゲームブックは、何度かバッドエンドになりながらも
いろんな経路をじっくり楽しめた。
物語そのものは不思議な感じ。
ちゃんと人と関わろうとすると救われ、
知らんぷりするとバッドエンドになりやすいのかな、と。
Posted by ブクログ
いやぁ、またまた津村ワールド 楽しめた
まったくつながらない短編9つ。
たやすくない日常にところどころやってくる、人からの小さな毒を払いつつ、聞こえなかったふりをしたり、流しながら、本当に小さなあたたかさを見つけたり、出会ったりの物語。どうも見つからないのもある(笑)
表題の「サキの忘れ物」が一番よかった。
「喫茶店の周波数」はタイトルが秀逸。ちょっと
”むらさきのスカートの女”の世界も思い出させる。
「とにかくうちに帰ります」の懐かしの人を連想させる登場人物もちょろっと出てきて、にやにやしてしまった。
「河川敷のガゼル」の少年も良かったなあ。まるで、理想的な親みたいだった。
他にも「行列」とか「ペチュニアフォールを知る二十の名所」などなど。
たやすくない日常に潜む人の毒
毒があるんだけど、なんともいえない、津村さんのユーモアで毒をあぶり出しながら、淡々とユーモアで包む。本当に不思議な作家さん。
一つ一つ読み終わりながら、表紙を眺めるのもまた、楽しい。
ブク友さんのレビューを読んで、解説を読みたくなり文庫の解説を後から読んだ。
良かった。これから読む人には文庫で最後解説までをおすすめします!やっばり津村さんはすごいなあ。
Posted by ブクログ
〔サキの忘れもの〕一冊のサキが示した他人とのいびつではないつながり方を。
〔王国〕幼子は彼女だけの王国を持つ。
〔ペチュニアフォールを知る二十の名所〕町の名はペチュニアフォールその過去は二十地点を巡ればわかる。
〔喫茶店の周波数〕居合わせた客のおしゃべりたまたまに周波数合い聞こえてくるが。
〔Sさんの再訪〕日記帳読み返したら出てくるはみんなSさん誰が誰やら。
〔行列〕あのあれをタダで見られる行列は十二時間の人間模様。
〔河川敷のガゼル〕河川敷ある日ガゼルが迷い来て。
〔真夜中をさまようゲームブック〕雨の夜行くあてなくしひたすらに町をさまようゲームブックで。
〔隣のビル〕入り口がどこかわからぬ謎のビル魅力を感じ跳び移ってみた。
〔感想〕ここのつのバリエーションに味変す。/三崎亜記さんっぽいテイストも少し感じた。
Posted by ブクログ
津村記久子は社会人が読んで首がもげそうになるほど解像度の高い「何気ないイラつく感じ」を文章にするのがうまい。生きていれば大なり小なり理不尽と思うことはあるわけで、なんで?おかしいのはどっち?と。無神経だったり、厚かましさだったり、絶対、そっちのほうが生きるのが楽だろうなと思いながらも、そっちにはいけない、いきたくない。つまらない美学かもしれないけれど、それが矜持。そういうちょっと偏屈さを感じるけどいたって普通の人の物語が収められている。おすすめはガゼル。お気に入りは隣のビル。
Posted by ブクログ
表題作の「サキの忘れ物」が一番好きです。何がきっかけで人生変わるか分かりませんよね。ある人との出会い、あるいは映画やドラマを観て影響を受けて職業を選んだりすることあると思います。 「ペチュニアフォールを知る二十の名所」は不思議な感じ。シニカルというかネガティブなムードな作品。
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日常生活からヒントを得て空想して広がってつくられた感じの不思議な話たちの短編集
どの話も何気なく読み始めたら「え、こんな話なんだ」と思わせてくれる。どこに着地するのか分からない。ので苦手なひとはいるかも。
その中のひとつ「真夜中をさまようゲームブック」
ゲームブック方式になっているお話で
話を読んで、示されたいくつかの行動の番号を選択して進んでいく。
楽しめたけどゲームオーバーの時は「本を閉じる」と書いてあって
2回「本を閉じる」になり、3回目で無事クリアした。結構時間がかかった。
Posted by ブクログ
河川敷であろうと、動物園であろうと、上流の山の自然であろうと、そもそもどこもガゼルにとっては場違いなのだ。どこもかしこも居心地が悪いのだとしたら、それは柵や檻の外を選ぶだろう。
(P.187)
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"真夜中をさまようゲームブック" が好き!何通りもの結末があって選択肢を変えて色々なパターンを読んでしまった。ページを行き来する感覚も新鮮で面白い。
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個人的には「行列」が面白く感じた。あれを見るために列に並び前後に並んでいる人達との会話が中心で話が進んで行く。結局小川さんは10時間近くいた行列からはずれてしまい帰る事になる。あれを見なくて良かったのだろうか?それぞれの心に問いかける短編である。
Posted by ブクログ
津村記久子さん初見。短編集。
恥ずかしながらこれまで存じ上げず、世界観も作風も何もわからないのであくまでこの本だけの感想をと思いましたが
うーん…言語化しにくいです…
わざと誇張されているわけではないはずなのに、人間社会で拭いきれないグロテスク、狡さ、隠した本音(秘密)、憶測による歪曲、自己中心性、流されやすさ…不意にザラリとしたところに触れて、驚きと嫌な気分が少しずつ少しずつ混ざるような もやもやした感覚が、読んでいる間ずっと傍にいた感じがします。文庫うしろの紹介文やカバー絵が爽やかなだけに「あれ?」と言う気持ちで頁をめくっていました。
そんな作品群のなかで、人との出逢いによって何かに気づき、自分の足で立とうとする「サキの忘れ物」「隣のビル」が好きだったかな。偶然居合わせた人からのひとことで心が軽くなったり、急に腑に落ちたりした自分の経験をなぞっているのかもしれない。
ところでゲームブック形式のもの、ものすごく久しぶりに触れました。そうそう、楽しかったなこういうの。指を挟みながらページを行き来するこれはアナログの醍醐味かもしれません。
Posted by ブクログ
サキの忘れ物、隣のビルが特に良かったです。
私もサキの短編集読んでみたくなりました。
行列のあれは結局なんだったんだろうか、、、笑
どれも一癖?ある不思議な作品でした。
Posted by ブクログ
津村さんの作品を2作ほど読んで、この方は日常のほんの一ミリの感情を、私たちにこうだよね?と示してくれる作品が多い気がする。
確かに、そうかも、と思いながら読む作品が多い。
個人的には「王国」と「ペチュニアフォールを知る二十の名所」が好き。
私も変わった子だったので、「王国」のソノミの行動や考える事が自分と面影を重ねて読んでしまっていた。
「ペチュニアフォールを知る二十の名所」はプチミステリー感があって面白かった。
Posted by ブクログ
どの物語も、普段の日常的で起こりそうなんだよなあ、と思う。ありふれていそうな事が、津村さんの手にかかると途端に面白くなる不思議。「行列」
も「河川敷のガゼル」も、ガゼルが何なのか、何を見るために行列に並んでいるのか明らかにされないし、読者の想像でしかないけれど、自分が体験したような既視感のある風景が浮かんでくる。
「サキの忘れ物」は素敵な物語だった。仕事って誰もが楽しく働けるわけじゃないし、色々な思いを抱えながらやってるけど、もし一つでもこんな経験があれば、それを糧に働いていけるんだよなあと思う。
Posted by ブクログ
「隣のビル」がだいぶよかった。
言葉にしづらいできごとがあって、どうにもできないと思っていたら、なにかきっかけがあって動き始め、動き始めたことに主人公が気づいて、おそるおそるでもちょっとずつ動かしていく感じ、津村さんの物語でよく見るような気がする。
初めは受動で、なにかに転がされているのかと思ったら、のろのろと能動になってやがて立ち上がって歩いていくような。
なんともひょうひょうとした感じの津村さんの文章、面白い。