津村記久子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
第140回芥川賞受賞作
貧すれば鈍する、の話ではあるのだけど、惨めな重苦しさは然程無く、むしろ不思議な風通しの良さも感じるのは、どこか淡々とした主人公のキャラクターによるものか、それともやっぱり文章の力なのか
主人公だけでなく、周囲の誰にとっても人生は険しく、生活は手強い
その十人十色さを、積乱雲を眺める側と、正にその直下にいる側に例えているのが好きだった
同収録の「十二月の窓」もそうだったけれど、自分の人生は他の誰とも違う、だからこそ自分だけの逃げ方、闘い方、見守り方があるんだと気付けると、煮詰まった毎日の中でほんの少しだけ一息つける気がした -
Posted by ブクログ
【効率?タイパ?問題解決?人間ってそんな合理的にできてない】
この本に出てくる人たちはみんな後ろ向きな充足感に浸りながら、ずるずる日常を過ごしてる。目の前に見えている大きな問題から目を逸らして、仕事や家事などの日常に逃げ込んでいる。それが今回は逃亡犯の見張りというのが奇妙でおもしろい。
タスクが逃げ道になるというのも変な話だけど、実際そうなんだよね。生活ってだましだましやってるところある。わかるわかる、私も私も。
登場人物がはつらつ、ポジティブ、前向き!じゃないのがすごくリアルだった。
「おはようございます」の挨拶にも「今日暑いですね」の世間話にも取り立てて情報はない。意味がない、時間の無駄、と言われればそれまでかもしれないけど、それって「なくてもいい」とイコールではないんだと思う。そうやって誰かを気に掛けたり、かけられたりすることが思わぬ救いになったり、課題解決の糸口になることがあるんだな、と。
月並みだけど、やっぱり人は人と関わり合って人生やっていくのがいいんだろうな。 -
Posted by ブクログ
名作と言われる作品を、高尚なものだと捉えすぎていたのかもしれない。
自分たちの延長線上にいるのではなく、なんだかもっと、後世の人たちが言動を一つずつ分析し、意義を見出せるような、自分たちとは違った存在なのだと思いすぎていたんじゃないか。
そんな気持ちにさせてくれる、名作たちの書評をまとめた一冊。
英米文学科を出ていると言いたくなくなるくらい、名作を読んでない。
専攻は英語学だったんだと言い訳だけさせてほしい。英文学史も米文学史も必修でとったけど、本当に苦行でしかなかった。
それは翻訳の日本語への苦手意識があるけれども、「こいつなんでこんなことしてるの?」に無駄に意味を見出そうとしすぎていたのかもしれない。
文学部として学ぼうとするならば、その背景を読み解かないといけないんだろうけれど、最近の小説を読んでいるときみたいに、「こいつクズじゃん」「なんでこんなバカなことしてんの?」「あー…こういう人いるよね」という感想でよかったんだ、と、かつて遠ざけた作品たちがちょっと身近に寄ってきた感じがする。
本当に本当に、いわゆる名作に関する知識が乏しいので(まじで大学で何を学んだのか)あらすじすらおぼろげで、大前提となる土台がないので、ここで語られる感想も、多分半分くらいしか楽しめてないんじゃないかという気がする。
短い書評が100近くあって、それぞれ結構な密度のある文章なので、読むのには時間がかかったけれども、時代を経て受け継がれる作品にも、普遍的な要素があるということを、自分として身近に感じられる言葉で書かれているのは、読んでいて、これらの作品を自分のものに落とし込めているような気持ちになる。全然読んでないくせに。
こう読むと面白いのか―という気づきは多くて、でもそれでも、ここにある作品にはなかなか手が伸びないと思う、自分の残念さが残った気がする。 -
Posted by ブクログ
お仕事葛藤記かと思いきや日常に隠れるちょっとした時空が歪んだのかな?という不思議感もある小説。確かにお仕事転々とするのでタイトル通りどの仕事もたやすい物なんて1つもない、すごい仕事も楽な仕事もない。全ての仕事にはよしも悪しもあるのは間違いないけどふいに挟まる不可解な謎。私の職場にも触れてはないがその隙間から広がるまだ知らない謎を見てみぬふりしてるのかも?を進んでいく主人公がいるのでちょっとした冒険とも似て非なるもの。どの章も読みやすくてなるほどなるほどとなり、最後の集結もこれまでの事が繋がってたりして一体感が心地よかった。けどそこから得る教訓というものがなかったので、お仕事葛藤記だ!と思い込んでから肩透かしのような気持ちになったので評価は普通。先入観なく読み物として手に取っていたら思わぬ方向で楽しめたのかな
-
Posted by ブクログ
薄氷の上を踏むのではなく、薄氷を横から見ているような、氷の薄さを感じながら、それを眺めているような感じのする本だった。主人公のホリガイさんの語りで進んでるんだけど、どこか距離があるのが不思議な感覚。描写が細かすぎて、まるで彼女たちの生活を上から覗いてるような、普段の小説とはまた違った第三者視点がおもしろい。手首の表皮も、ホリガイさんとイノギさんの関係も、ホセキくんの命も、ヤマカワくんの淡い思いも、全てが薄くて、柔くて、儚くて、脆くて、でも薄いからこそ、それが、彼らがしっかりそこにあることを、存在することを感じるような、そんな感じのする本だった。あと、あまりにも唐突に話が始まるものだから、話をつかむまでに時間がかかるのも、そういった親切さ?がない感じも特徴的で、でも気がついたらホリガイさんのボケツッコミのような絶妙なコミカルさのトリコにもなってる、そんな本でした。
-
Posted by ブクログ
理佐が律を連れて、新たな生活を始めたのは18歳の時。そのいきさつから、当然苦難の連続であったはず。周りの人々の支えとヨウムのネネによって、そして姉妹の努力によって、奇跡的に平穏な日々を過ごしてきた。
出来事や日常は、ぎりぎりまで喜怒哀楽を取り除いて、淡々と描かれている。
親を除く周りの人々は善意にあふれた人ばかりだ。
しかし、姉妹の苦悩、怒り、絶望、勇気、努力、希望、喜び、感謝は、いかばかりであったのか。
読み手は文章の余白に想像力を持つことが求められ、それは経験や知識や感受性などによっても変わってくると思った。
人の温かさや支え合うことの大切さなど、生きていくことの理想が詰まっている。 -
Posted by ブクログ
『There's No Such Thing as an Easy Job』という題名で英訳されていてさらに柚木麻子の『バター』も翻訳しているPolly Bartonが担当しているので興味が出た。
主人公は前の職場でうまく行かず、逃げ出すように辞めてハローワークのようなところにお世話になる。
とにかく楽な仕事をリクエストして紹介される仕事が全てニッチでマイナーだけど主人公はしっかり仕事こなしながら一緒に働いている人を冷静に見て様々な分析をする。
・作家を監視する仕事
・おかきの袋に記載されているプチ知識を考える仕事
・バスのアナウンス原稿を考える仕事
・ポスターを貼り替える仕事
・公園の管理する仕事
全てではないが、ほとんどが仕事する前に不思議なリクエストがあったり、曖昧に濁されるので仕事をしながら主人公が謎を紐解いていく。特に最初にやった監視の仕事とポスターの仕事が不気味すぎてファンタジー読んでいるっけ?という気持ちになった。
名前のない主人公で何歳なのかを徐々に分かるくらい少量の情報しか与えられないのでとてもニュートラルなスタンスで物事が見れる。名のない要素が『コンビニ人間』を連想させられた。