津村記久子のレビュー一覧
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おそらく作者のエッセイをいくつか読んだ影響もあるかと思うが、「仕事」や「働く」という事柄に関する生々しさや切実さに胸を衝かれる。ここに書かれていることは「労働」という言葉の響きより、「働く」という言葉が合っているように感じる。
ナガセは徐に一年かけて世界一周旅行の資金を貯め始めるが、些細な、または些細でなかったりする事情で順調に貯められかったりする。
大きく何かが変わるわけではないけれど、憑かれたように働き詰めだった彼女にささやかな心情の変化が訪れ、また日常に戻っていく描写に自然と涙が流れた。
十二月の窓辺は読んでいてずっと呼吸が浅くなっており、こういう上司、知っている…という覚えのある痛みを感じた。
本文にある「千差万別の痛みやその他のことがある」という一文は転職を何度か繰り返した自分にとっては深く頷かせるものがあり、最後に退職を決断した主人公が職場の冷蔵庫のヨーグルト菌を死滅させる様は傑作だった、 -
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この一年、須賀敦子さん、梨木香歩さんの書評本を読んできた。
須賀さんは書評というより、若いころの彼女に影響を与えた本についての思い出といった感じだったけれど。
それで、今回は津村記久子の「世界文学」レビュー本である。
須賀本、梨木本とはかなりカラーが違う。
(正直、このお二方の本はどこか雰囲気が近く、時々ふとあれ?既視感がある、と思う瞬間があった。同じ本を取り上げているところもあるせいだろうか?)
津村さんならではの要素として、筆頭に挙げられるのは「ダメっぷり」を愛でる姿勢。
たとえば「ボヴァリー夫人」のエンマ、「カンディード」のパングロス先生、ドリアン・グレイらの、どうしょうもない登場人物たち。
または救いのないようなひどい世界設定やストーリー展開。
時には津村さんもたじろがされてしまうのだが、それでも作品の一つの場面、一つの言葉、あるいは著者の描写力にあっと思うような輝きを見出だしていく。
「ギャツビーって誰?」とてらわずに言う、一見脱力系に見える津村さんのガイドにより、しかしたしかに見るべきものが何かがわかるのだ。
自分もかつて読んだ作品も何作かあるが、どこからこんなことがわかったんだろう、もう一度読み直してみようかなあ、と思うことしきりである。
もう一つ、津村さんならではだな、と思うのは本のチョイス。
『カラマーゾフの兄弟』『トニオ・クレーゲル』『ゴドーを待ちながら』『夜と霧』『リア王』『マクベス』『赤と黒』『クリスマス・キャロル』『ジキルとハイド』『外套』『チャタレイ夫人の恋人』など、「定番」もあるのだが、海外のミステリ、SFが多く取り上げられているのが特徴的。
メモ代わりに、今後読んでみたいと思う本を書き出しておく。
・ケネス・グレーアム『たのしい川べ』
・オースティン『ノーサンガー・アビー』
・マン『トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す』
・ウルフ『灯台へ』
・アラン『幸福論』(2回目!早く読むべし)
・ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』
・バラード『ハイ・ライズ』
・『山海経』
・シュテュンブケ『鼻行類』
・フレイザー『金枝篇』 -
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生活に疲れた人たちを描いた短編集。
津村さんってなんでこんなに世の中を解像度高く見られるんだろう。
自分がモヤモヤと考えていたことがドンピシャで書かれていて、そうそう!と共感しながら読みました。
どの話も面白かったですが、特に『粗食インスタグラム』と『イン・ザ・シティ』という話が良かったです。
『粗食インスタグラム』は「食べる以前に選ぶのがしんどい」という、何を食べるか決めることに疲れてしまった主人公の話です。
主人公は自分の貧しい食生活の写真を撮って保存していきます。
選択と決断にも結構な心理的コストがかかるんですよね…疲れてると毎日何を食べていいのか分からなくなる気持ちがよく分かります。
あと、写真や絵のない字だけのメニューを嫌だと思うのも(これも地味にストレス…)。
『イン・ザ・シティ』は、主人公の中学生キヨが、架空の地図上の国の地理的条件や人口、産業、特産物などを決めて、週に1回の他のクラスとの家庭科の合同授業の時間にアサに話すという物語です。二人の女子の友情がとても良い。家庭の鬱屈やままならない日々を架空の国をつくることで束の間忘れられるのです。 -
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限界会社員小説。
パワハラで前職を退職し、単純作業をする現職に勤めるナガセが、掲示板に貼り出されたピースボートと思われる世界一周旅行のポスターを見て、自分の年収と同じ163万円を貯金しようとする話。友達と遊びに行っても、友達を助けてもずっとその交通費や食費を計算し続けるという、馬鹿らしいようで、現代っぽくて切実な感じが胸に来る。どこか現実との接触の実感が乏しい感じがよく出ている。2009年芥川賞受賞。
併録されている「12月の窓辺」は、著者もインタビューで答えていたが、パワハラにあった職場の実体験に基づく話。読んでて辛くなるが、どこか滑稽さもある。どこか憧れともゲームの背景のやうな非現実とも思われた、休憩室の窓から見える兎我野タワーでの、ある出来事を目撃してしまうあたりの展開はすごい。
両方とも救いのある終わり方なのに読後寂しい気持ちになる。※オーディブル