津村記久子のレビュー一覧
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招待客の旅行の日程など関係なく人は結婚するし、結婚式の日取りに関係なく人は死ぬ。本作の主人公ヨシノは、ひとり旅でもしようと旅行会社に申し込んだその日に、しばらく疎遠だった学生時代の友人から連絡があり、結婚式と披露宴への出席ばかりかスピーチと二次会の幹事まで頼まれる。断れなくて、段取りに奔走。ついに当日を迎えたら、これから披露宴というときに会社の常務から電話。ヨシノの上司の父親が亡くなったから、直ちに来いと。社員18名の会社は良くも悪くも家族的で、誰かが亡くなれば必ず全員で通夜の手伝い。なぜ本葬ではないのかといえば、18名の会社は平日昼間に会社を閉めるわけにいかないから。
表題作の『婚礼、葬礼 -
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ネタバレ旅行する予定が、友人の結婚式の二次会幹事に選ばれ奮闘するものの、
当日になって会社の上司の親族のお葬式に駆り出されるヨシノ。
空腹に耐えるヨシノ、
お葬式会場のトイレのなかで、故人の愛人同士の罵り合いを聞きながら、電話で結婚式のスピーチを語るヨシノ。
他短編。
二つの高校と小学校がある町での
高校生同士の自転車事故。
小学校教師と事故を起こした高校生との過去の関係。
事故を起こした高校生に助けられたことがある小学生。
その小学生を娘に持つ働く母親。
自転車事故を目撃したOL。
事故についての手紙を作成することになった男子高生。
津村さんの登場人物たちは、みんな真面目だな。 -
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短篇2つが収録されており、どちらも主人公が何かに対して祈ってる。
「サイガサマのウィッカーマン」
『エヴリシング・フロウズ』でもあったが、主人公が自分の圧倒的な無力さに傷付くシーンが印象的だった。
たとえどこかの大富豪であっても、自分ではどうにもならないことはあるだろう。ましてや、高校生の主人公が、家やお金の問題に苦しむ同級生の女性に何ができるというのか。
そんな主人公は、この小説に出てくる神「サイガサマ」の特徴でもある、「物事をあんまりよくわかっていない様子なのだが、とにかくできる範囲でやってみよう、という意識のようなもの」(p.135)を纏うようになる。冒頭から延々ととげとげしい主人 -
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私はもう主人公たちの親の年代ですが、中学生のセキコに感情移入しながら読み進めました。
すぐに仕事を辞めてくる父親、それを許す母親、要領の良い妹、イライラしているのは自分だけ……。
「心配しなくていいのよ」「情けない親だって思うわよ」とセキコの母親は耳触りの良い言葉だけを並べ立てるけれど何の解決にもなってないし、働きに出てもいない父親からいっぱしの父親ぶった上から目線の批判をされると反発もしたくなるというものです。
ちなみに、子供に親の性行為を見せるのは虐待にあたるんですよね。
表題作も、もう1つの『サバイブ』も、一見「まとも」に見える家庭でも様々な問題を抱えている……。
どちらもスッキリし -
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短編が2つ収録。表紙のイメージや語りの軽快さから軽く読める感じの話なのかな?と思って読み進めるけど、意外とそうでもない。
<アレグリアとは仕事はできない>
文句を垂れながらも、なぜだかうまくやっていく主人公は、同著者のほかの小説同様健在。ややバイオレンスな傾向はあるかもしれないが。
バイオレンスなだけに、もう一人の中心人物「トチノ」は主人公とは対照的。蹴りを食らわせるも大慌てで足跡を消す主人公「ミノベ」と、突然ケーブルをぶった斬る「トチノ」。
「だからどうしてそれを口に出してくれなかったんですか。」(p.89)の言葉はもっともだし、私自身そう心がけているつもりではいる。しかし、「ミノベ -
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「人間と機械は違うでしょう」
「同じですよ」
アレグリアというコピー機は大事なところで動かなくなる。
機械に本気で腹を立てる女子社員の主人公と、
いつも涼しい顔でおだやかな先輩と、
アレグリアを通じて恋する修理屋とその他いろいろ。
一台の機械をはさんでここまで人間関係を克明に描けるのか。見せかけじゃない。本気で生きている人間の感情が動いているからずっと読んでしまうし緊迫したシーンとくだらないシーンのメリハリがわし掴んで離さない。
同時収録の「地下鉄の叙事詩」は
正直退屈だと思った。さいしょ。
でも痴漢された女子高生の章を読んで、これは
「それでも僕はやってない」ばりに映画にできる、と思っ -
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ネタバレ表題作が特に面白かった。
津村さんの小説の中でも好きなタイプの話。
友人の結婚式の当日に、上司の父親の通夜に行かなくてはならなくなり結婚式をキャンセルして……というストーリー。小さな会社に勤める立場の会社員のままならなさが、真面目なんだけれどユーモア混じりに描かれている。
通常、身内でもなければ「結婚式>葬式」だろうと思うが、社員18人しかいなくて、しかも全員参加が余儀なくされている状況なら断れるのかどうか……、と本人でなくても真剣に悩むところだろうと、フィクションながら気の毒に思う。
参列した通夜での人間関係や、キャンセルした結婚式に出席している大学時代の友人達が、それぞれ個性的なキャラクタ -
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本書には、「婚礼、葬礼、その他」と「冷たい十字路」の短編2作品が所収されている。
「婚礼、葬礼、その他」は、1日の間に、友人の婚礼(2次会の幹事を依頼されている)と会社の上司の父の葬儀が重なってしまって、さあ大変、という状況での主人公の行動や、人間観察、人間関係の機微、そこでの主人公の心の移ろいが描写されている。
一方、「冷たい十字路」では、自転車通学の高校生達による傍若無人な自転車の乗り方から起こるべくして起こった事故を題材に、その事故の周辺の人びとの生活や思いなどが粛々と綴られた作品。
いままで、津村さんの作品では、どちらかというと20歳代後半から30歳代の働いている女性達を主人公に