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大学時代の友人結婚式に出席中、上司の親の通夜手伝いに呼び出されたОLヨシノ。
二次会幹事とスピーチを相方に押し付け、喪服に着替えて急きょタクシーで葬儀場へ。
既に大多数の社員が集まり、打ち合わせを重ねるなか、ヨシノを猛烈な空腹感が襲う。
「マジマ部長の親父とやら、間が悪すぎる…もう一日ぐらいなんとかならなかったのか」
ヨシノのてんやわんやな一日はまだまだ続く。芥川賞候補作。
09年に「ポトスライムの舟」で芥川賞、11年に「ワーカーズ・ダイジェスト」で織田作之助賞を受賞し、
いまもっとも乗っている女性作家の傑作中篇。「冷たい十字路」を併録。
解説・陣野俊史
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《故人が本当にそうだったのかは、なつみの言葉のみから判断するのは難しいが、今はここで話しているというしがらみがあるぶん、なつみの気持ちを尊重すべきだ、とヨシノは思った》(P40)
《すみませんすみません、この御恩は一生忘れません、と勢いであるにしても大きく出て》(P57)
《うちの子がご迷惑をおかけいたしまして、と特にそういったことはなかったにもかかわらず、常套句として言った》(P76-77)
大変な混乱に巻き込まれているにもかかわらず頭のどこかは冷たく冴え渡っているヨシノの思考の流れが面白すぎて、一行も読み飛ばせない。密度の高い文章。
陣野俊史氏の解説にもある通り、津村作品では登場人物の細かいプロフィールは説明されないものの、こうした個々人の価値観や思考プロセス、言葉遣いを細やかに描写することで彼らがどんな人間かがくっきり浮かび上がるようになっている。津村マジックだ。
表題作もだし、もう一遍の「冷たい十字架」もそう。語り手が何人も現れるけど、高校生セキメがミネラルウォーターを《口のみした》とか、やはりこの語り手だからこそという言葉選びが多くてしびれた。口のみって高校生男子ならではの語彙だと思う。
Posted by ブクログ
同僚が結婚式を挙げた。
わたしは出席していない。
友人が亡くなって一年が経った。
わたしは彼女に会いに、地元に帰れていない。
結婚式は、事前に出席者の予定を空けておくように告知がなされる。その時点で、最重要案件である。一方で、葬儀は突然告知される。当然だが、突如として最重要案件となる。
では、そんな結婚式と葬儀が重なった場合。あなたならどうするか。
この作品では、主人公ヨシノがその重なった最重要案件に立ち向かっていくお話。
まるで、そんな日常を一挙手一投足で描いたエッセイのような作品でした。
本作品でも、津村さん持ち前のユーモアが冴えわたっている。そして、主人公の正義感の強さとなめらかに吐き出される愚痴の数々。
津村作品の素晴らしいところは、この毒のような愚痴が、ポップに、心地よいリズム感でもって描かれているので、全く不快ではなく、ブラックユーモアとして冴えわたっている点にある。そして、不快にならないのはもう一点、登場人物それぞれみんな、ちょっとどうしようもないのになぜか魅力的なのである。
そして、解説でわかりやすく描かれているが、「与えられる情報は実は最低限」なのである。
先ほど「登場人物それぞれみんな、ちょっとどうしょうもないのになぜか魅力的」と書いたけれど、津村作品では、登場人物に関する情報があまりないまま物語が進み、会話や過去・現在の出来事から、読者側がその人物像を構築していく作業が必要になるのだ。外見や設定がかなり控えめに描かれているからこそ、そのキャラクターに俄然興味がわき、どんな人物なんだろうと想像力をかきたてられる。そこをほとんど描かなくてもこんなにも生き生きと描き、読者に印象を残し、魅力を伝えることができる。この描き方はすごい。
表題作と一緒に収録されている「冷たい十字路」。
この作品は、人物像が分かっても、その人物像の背景が分からないまま物語が進み、十字路に関する人々が代わる代わる主人公となって語られていくうちに、全体像が見えていくというものである。主人公が変わりながら進んでいく物語は数多くあるけれど、津村さんの毒がこんな風に、ある種ミステリ作品のように描かれるのは非常に珍しい。
そしてたぶん、間柄にもよるけれど、わたしは主人公と同じ立場なら、結婚式の方を優先するだろう。
Posted by ブクログ
招待客の旅行の日程など関係なく人は結婚するし、結婚式の日取りに関係なく人は死ぬ。本作の主人公ヨシノは、ひとり旅でもしようと旅行会社に申し込んだその日に、しばらく疎遠だった学生時代の友人から連絡があり、結婚式と披露宴への出席ばかりかスピーチと二次会の幹事まで頼まれる。断れなくて、段取りに奔走。ついに当日を迎えたら、これから披露宴というときに会社の常務から電話。ヨシノの上司の父親が亡くなったから、直ちに来いと。社員18名の会社は良くも悪くも家族的で、誰かが亡くなれば必ず全員で通夜の手伝い。なぜ本葬ではないのかといえば、18名の会社は平日昼間に会社を閉めるわけにいかないから。
表題作の『婚礼、葬礼、その他』は、これまで人を呼びつけた記憶がない、常に腰の低いOLヨシノが、こんなふうに踏んだり蹴ったりな目に遭います。婚礼葬礼両方の様子も面白ければ、その他の部分はもっと面白い。当日の朝に寝坊して食事できなかった。だけど披露宴でご馳走にありつけるからいいやと思っていたのに、飲まず食わずで通夜の手伝いに行かねばならなくなり、ヨシノは腹ペコ。人が幸せでも不幸でも腹は減るもの。
もうひとつ収録されている『冷たい十字路』は、地下鉄の駅に降りる道に面した十字路が舞台。通勤通学の自転車が無尽蔵に走るこの十字路は危険なことこの上ない。ある日起きた高校生同士の衝突事故。その目撃者や、この十字路を校区に持つ学校の教師、十字路前にあるスーパーで働くパート女性などの話で構成されています。人間模様の描き方が丁寧でこれまた面白い。
どちらの話も幸せとはいえないのに、最後はちょっぴり優しさを感じてほっとします。長い夜と心の隙間を埋めるのは、結婚式よりもめでたくはなく、葬式よりも重要ではないものかもしれないけれど、それでいいというヨシノの言葉が響いてきます。
しかしこれから披露宴というときに訃報が届いたら、結婚式<葬式は致し方のないことなのか。故人は一面識もない人だというのに。
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小説・文芸
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