津村記久子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
津村さんの発想はいつも面白い。
本作は人が生まれる前〜生きている間〜死後に渡るまでの、あらゆる世界を描いた短編集。
今の私のお気に入りは「運命」。主人公はいつ何時でも場所を訊かれる人。「〇〇ってどこですか?」と、受験の日も、初めて訪れた場所でも、海外でも、あんな時やこんな場所でも…思わず、えぇー!!と驚いてクスッと笑わずにはいられない。
本作には、変わった人も性格が悪い人も愛おしい人も出てくるが、皆がそのまま並列に扱われていることが心地よかった。酷い人だから特別貶めることも、良い人だから特別幸運に恵まれることもない。
これまで読んだ津村作品もそうだった気がする。
わりかし薄い本に七篇が詰め込まれ、それぞれの登場人物も多い。いろんな国籍のいろんな人や人ではないものたちが、出てきては通り過ぎていく。
にも関わらず、読み手がさほど混乱せずに物語にスッと入り込めるのは津村さんのさすがの手腕。
ストーリーを忘れた頃にまた読み返すため、手元に置いておきたい一冊。 -
Posted by ブクログ
短編集。好きだ、この方の、地に足のついたユーモア。淡々とした語り口のまま気づくとふわっとおかしな事が起きている。本作はいずれの話も、ものすごくニッチな設定下での人間の心理を細かく描いていて、それが面白おかしい。
レコーダー定置網漁
まず、帯の情報番組を自動録画するレコーダーを定置網になぞらえて、録画される番組の情報を魚にとらえるところがユニーク。メンタルをやられて家で何をする気も起きない主人公が、毎日ひとつだけ定置網漁にかかる情報を摂取し、やがてその情報に誘発されるように日常の活動ができるようになる話。
台所の停戦
女3代の家の、冷蔵庫でのテリトリー争い。親の悪いところを引き継ぎたくないと、娘だった時分を思い返しながら決心する母親。娘にイライラを小出しにしちゃう母親の心の描写がリアルで面白い。
現代生活手帖
近未来のパラレルワールド的な世界観。星新一のショートショートを彷彿とさせる内容。くすっと面白いし、クリエイティブ。
牢名主
モラハラ・メンヘラ、洗脳者のような人(A群)に付け込まれつきまとわれる関係性にある人(B群)たちのコミュニティ。脱A群を目指すも、A群のつきまといを「ソフトランディング」するすべを教えると言っているリーダーがなんだか胡散臭い。架空の現象?症状?なのだろうけれども人間関係や会話が現実にありえそう。
粗食インスタグラム
全く映えない食事写真をインスタで見ると癒されるという主人公の女。自らの粗食もアップするようになる。発想が面白い。
フェリシティの面接
急にアガサ・クリスティみたいな短編。
メダカと猫と密室
休日出勤したのに身勝手な同僚のせいで3時間の待ち時間が発生した、というシチュエーションで始まる人間ドラマ(?)。シチュエーションコメディとか、コントドラマみたい。登場人物たちの駆け引きが面白い。
イン・ザ・シティ
中学生たちの終わらない日々。どんな青春小説よりも青春ぽい鈍い輝き。けだるさと無気力さ、妙なことにハマってこだわるところ、家族について薄っすら居心地の悪さや許せなさを抱えているところ、近くにいる同級生の大人な面を発見してドッキリするところ、素直な感想を持つところ。中学生だなぁ。「自分たちにはいくらでも時間がある。だからきっと通り過ぎていくものたちのどれかは、手になじんで輝いてくれるだろう」。永遠の未来が目の前にある。
あとがきも解説もなくスパッと終わる気持ちが良い短編集だった。
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Posted by ブクログ
ネタバレ仕事が立て込んできたり、なんとなく人間関係に疲れたときに、つい手に取りたくなってしまう津村記久子。もはや、自分にとっての漢方薬のようなものだと思っている。
本作に収録されている8つの短編はいずれも、疲弊感や閉塞感を抱えた登場人物がメインで描かれている。情報社会に、家族関係に、職場に、それぞれがそれぞれの人生で一様に疲れている。そしてもちろん、それを読んでいる僕も疲れている。「エモい」よりはもっと低温でやさぐれ気味な、でもどこか心地よい“負の共感”を求めて読み進めた。
『レコーダー定置網漁』『粗食インスタグラム』『メダカと猫と密室』は、それぞれ津村らしさ溢れる、気だるいユーモアに安定感がある。テレビのレコーダーにたまたま録画された番組にハマり、靴下の毛玉取りに夢中になり、粗食ばかりの哀愁漂うインスタを投稿し続け、会社の資料室でメダカをこっそりと飼う主人公たち。それぞれが見出した小さな楽しみは、いつの間にか疲弊した自分へのケアと化していく。
そんないつもの津村節に加え、『現代生活手帖』にはやや突飛なSF的な面白さが、『イン・ザ・シティ』では青春小説のような甘酸っぱい爽快感が盛り込まれていて、これまでとはまた違う読後感が新鮮だった。
一方で、『台所の停戦』『牢名主』『フェリシティの面接』は、やや陰りのあるテーマを扱いながら、背中に氷を当てられるような不穏なユーモアが描かれている。暗いながらも闇に沈むわけではなく、病んでいるわけでもない。重いテーマでありながら暗くなりすぎずに、希望を仄めかしながら書き通す筆致はさすがだなと思う。
津村作品に通底してあるのは、「働きたくない、非課税で5億円欲しい」というような気だるさと脱力感。本気じゃないけど、ちょっと本気で、馬鹿馬鹿しいけど、ワンチャンそうあってほしいーーそんな自虐のようなユーモアを武器に、生きづらい社会と対峙していく主人公たち。効能はよくわからないが、なんとなく彼女たちに気力を分けてもらえたような気がするところが、僕がこの本を「漢方薬」だと感じる所以だ。西洋医学では解明されない滋養がここにある。
疲れがちな社会において、心を守る方法は人によって異なる。本書でも、登場人物がそれぞれのやり方で、ストレスばかりの社会に対処しながら生きている。まるでコーピング事例集のような短編集だとすら言えると思う。
コーピングリストは人によって様々だ。上司からの電話を投げ出して資料室に閉じこもってもいいし、妄想上の街づくりやスケートボードに興じるのもいい。『現代生活手帖』なんてカタログを枕元に置いて毎晩読み耽るのも、立派なコーピング足り得る。
そんな物語の端々から、僕も心の守り方や肩の力の抜き方を「独習」していけたらいいなと思う。漫然とした抑圧への対処方法は、誰かに教えてもらうものでも、誰かのコピーで済むものでもない。自分に合ったやり方を模索し、自分の機嫌をとりながら、自分を上手にあやして生きていく。そんな「独り」の生き方を、押し付けがましくなく学ばせてくれる良書だと感じた。 -
Posted by ブクログ
とにかく登場人物が多くて、海外長編ミステリーでも読んでるのか?という気持ちになった。
しかも、苗字で出てくる時と下の名前で出てくる時とがあり、余計に混乱。
だが、巻頭に登場人物達の名前が書き出されているので、それを何度も確認しながら読み進めていくと半分くらいでやっと顔と名前(?)が一致してくる感覚があった。
ストーリー自体はあまり出会ったことのないシチュエーションで面白かったし、最初は登場人物のほとんどがうっすらと嫌な人で鬱々と読んでいたが、話が進むうちにその人たちが互いの交流を通して違う側面が見えてくるのも、人間味があっていいなと思った。
元々好きな作家さんだったのもあり、数時間でサクサク読めた。