津村記久子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ読んでよかったし、この作品を読んで心から「良かった」と思えることが誇らしい気さえした。
ユーモラスな語りと人間味あふれる人物たちの人間模様はエンターテイメントとしても成立していて、でも、どうしようもなく現実と地続きだ。
女版の童貞・ポチョムキンを名乗る主人公は女性らしさを排した振る舞いをするのだけど、一方で彼女はどこまでも女性であることに自覚的である。男性から性的に求められることはなくとも、彼女は常に「男に殴られれば勝てない女性という肉体の弱さ」を噛みしめている。
そういった原体験による主人公の原動力を安易な男女差に押し込めないことが、本作品最大の魅力だろう。
改題である「君は永遠にそいつらより若い」は、非常に意外な「君」に語り掛けられているという驚きに満ちていて、素晴らしい。一方で改題前の「マンイーター」もこの作品の核を感じる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレSF(少し不穏)な短編集。
・サキの忘れ物
人生を変えてくれる出会いと一歩踏み出す気持ちが導く素敵な話。千春のことを心から応援したくなります。
・王国
自分も子どもの頃からラッパムシが見えてました。ソノミは生きづらい子ども時代を過ごすのだろうけど、いつかきっと誰かにわかってもらえるはず。
・ペチュニアフォールを知る二十の名所
こういう不穏な話大好き。最近だと坂崎かおるさんの作品にも通じるものがあると思いました。
・喫茶店の周波数
もやもやするやりとりだ終わりそうで最後にあかりちゃんが来て幸せな気分で終われるいい話
・Sさんの再訪
これも不穏なのに最後に一歩踏み出す気持ちをくれるのが好き
・行列
最後まであれが何かわからないところが絶妙にもやるけど、世の中に少なからずいる想像力が圧倒的に欠如している人々や、自分だけはそれをしなくてもいいと思っている人々のことがそれはそれはうまく描かれていて、最後の私の決断と行動に拍手を送りたくなります。
・河川敷のガゼル
最後の場面は大袈裟に言うと「カッコーの巣の上で」のエンディングみたい。それでいいんだ。
・真夜中をさまようゲームブック
これも不穏すぎ。やってみたけど自分は逮捕か死にしかたどりつきませんでした。
・隣のビル
「十二月の窓辺」のような話。ああ津村さんの作品だと唸らされます。
オススメです。 -
Posted by ブクログ
津村記久子さんの小説を読むのはこれで3作目。面白かった。以前に読んだ作品の表紙や挿絵が『ポテン生活』でお馴染みの木下晋也さんだったのですが、本作も文字どおり『ポテン』なお仕事・生活の話を中心に、タイトル作の『とにかくうちに帰ります』でも人間ってなんかいいなと思わせてくれる素敵な話ばかりでした。
田上さんの
・どんな扱いを受けても自尊心は失わないこと。またそれを保っていると自分が納得できるように振る舞うこと。
・不誠実さには適度な不誠実さで応えてもいいけれど、誠実さに対しては全力を尽くすこと。
は自分も壁に貼って毎日復唱したい。
しばらく自分の中で津村記久子ブームが続きそうです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ
かなり好き。
イヤミス系が普段好きだけど、ミステリーとかじゃなく単に読むお話系だと、この人の作品かなり好きだと思った。
ふと目に止まって手に取ったけど、そのままやっぱりやめよってせずにレジに持って行った自分偉い。
よかった〜と思った。
タイトルから、とにかく残業とかも断り、人からの誘いを交わしまくって帰る話なのかな、と想像してて
最初の2つの話の雰囲気からも
そんな話が来るだろう、と想像しながら読んでいた。
そもそもこの最初の2つの話もめちゃくちゃに面白く好み
応援するスポーツチームが没落してしまいやすい浄之内さん、
勝手に失礼ながらそう思ってるから、最近気になるフィギュアスケート選手を言えない鳥飼さん、
いるいる、わかる、と心の中で笑っちゃう感じ
そんな中で、こういう人もいるよな〜と地味なイライラする人なども、リアルに描かれていて、
自分の日常も愛おしくなる。
そのあとのとにかくうちに帰りますは、
また全然違って、本当に、とにかく、帰る。
雨の描写がまたリアルで鬼気迫るほどで、
なんだかもう自分まで傘をさしたくなる。雨の日をすごした気分になるほどのめり込める。
全体的に出てくる登場人物が憎めなくて、良い奴で、
続きを読みたくなる。この人達の日常をまだあと少し見たい、と別れが名残惜しくなる。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ## 感想
私は今の仕事を14年続けていて、この本の主人公と同じ年齢と経歴だ。
そんな主人公が仕事で燃え尽き、様々な仕事を転々とし、不思議な体験をしつつも、「仕事」対して色々考えていく話。
「こんな仕事あるの?」というニッチな仕事と、ちょっと不思議な体験。
そして最後の結末に至るまでに、ちょっとずつ過去の仕事のことが出てくる感じ。
淡々とした主人公で、仕事や同僚に対して冷ややかな目を向けたり、変なところで仕事に熱意を傾けたりしていて、面白い。
同じ仕事を長く続けてきて、結局どの仕事でも合う合わないはあるし、人によって感じ方は様々だということを実感してきた。
なんなら今でもそう。
私は新しい仕事をするのが好きだし、自分のやりたいことをどうにか叶えたいと、なんとかそんな部署に身を置いて仕事をしている。
やりがいはあるが、無力感や苛立ちを覚えることもあり、最後の仕事で主人公と会話をする菅井という人物の言う、「喜びが大きい分、無力感や疲労感も大きい」というのは納得できる。
この本の主人公は「透明な仕事」と言っていた。
言われたことだけやるというような、考えず、人と交わらず、責任は小さく、いてもいなくてもいいような感じのことを言うんだろうと思ったが、そういうことに身を置いて現実逃避したい、というのは分かる気がする。
普段そうではないからこそそう思うのかもしれない。
結局、どんな仕事でも良い面も悪い面もあって、合うか合わないかは人次第だ。
だから最後に主人公が思うように、「ただ祈り、全力を尽くす」ことが、仕事で実りある時間を過ごすヒントなのかもしれない。
置かれた場所で咲く努力が必要だが、咲かないと分かったら、そそくさと場所を変えることも同じくらい大切だ。
## メモ
### 履き古した靴の裏のような表情
> そんなつらい思いを抱えた夜にも、もちろん朝は来て、前職の末期の出社時と同じように、履き古した靴の裏のような表情で、私は実家の前の道路を渡り、監視の仕事に戻った。家と職場が離れすぎているのはもちろん良くないことだが、近すぎるのも良くないと思う。寝起きのどんよりした感じが、まったく抜けきらないまま出社することになってしまう。今の仕事は、朝の十時に出勤と始業が少し遅いのだが、帰るのが夜の十一時を過ぎていたら、その遅さには何の価値もなくなる。(p26)
>
### 透明に近い仕事
> 電線の上で鳴いているすずめを数える仕事とか、交差点を何台赤い車が横切ったかを調べるとか。それを言い足してしまうとあまりにふざけている感じがしたので、私は口をつぐんだが、半は本気だった。もはや、仕事と見做されるかどうかはあいまいなような、透明に近い仕事が良い。突然、何かを持て余した上品な老婦人が現れて、お疲れなのね、頼りにしてるわね、なんて言われない仕事。それでやっぱり、一人でできる仕事。いや、そこから出なければいけないことは重々わかっているのだが、とにかく、今のところは。(p191)
>
### 弱さに居座る
> 私が助けて欲しい時はな、誰かの中に弱さを作り出してそこに居座ろうっていう人間じゃなくて、「申し訳ないけど助けて欲しい」ってはなっから言頼している人か専門家に言うよ坊や。(p217)
>
### 話を聞くと受け取る
> 「話を聞く」と「話を受け取る」の間には、かくも大きな溝が横たわっている(p222)
>
### さびしくない人はいない
> いや、さびしくない人はいないんだ、それをそういうものだと思えるかどうかだ、と。みんながみんなさびしいとして、そのさびしさを誰とのどの深さの関わりで埋めるか、もしくは埋めないのかは、本人の自由なのだ。(p239)
>
### どんな仕事でも
> またそれを受け入れる日が来たのだろう。どんな穴が待ちかまえているかはあずかり知れないけれども、だいたい何をしていたって、何が起こるかなんてわからないってことについては、短い期間に五つも仕事を転々としてよくわかった。ただ祈り、全力を尽くすだけだ。どうかうまくいきますように。(p347)
>