津村記久子のレビュー一覧
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嫌な感じで頼まれた仕事は先延ばしにするとか、取引先のFAX番号が分からずオフィスを大捜索するとか、マイナーなフィギュアスケート選手を応援するとか、ものすごくささいな日常の出来事が大切に描写される短編集。
こういう小さなことの積み重ねでできている日々の、ちょっとした面白い出来事やひっかかりを楽しみながら生きていくのっていいよなあと、自分の生活が少し愛おしくなる。津村さんどんどん好きになってきたな、もっといろいろ読みたい。
必ず何かはっとさせられる文章がある津村作品、今回の心に残る一文は、田上さんがノートに書いていた仕事への心構えである「どんな扱いを受けても自尊心は失わないこと。またそれを保ってる -
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誰かのSNSの投稿で見かけて購入した本です。このエッセイはまるで肩の力を抜いてリラックスするような感覚を与えてくれる一冊ですね。津村記久子さんが芥川賞を受賞した作家であることは知りませんでしたが、この本をきっかけにこの方の本を読もうかとも思いました。30代独身で、その時期に書かれたエッセイで、親近感があり、ユーモアもあって、そのゆるやかな文体や冷静でありながらどこか温かい微笑みが心地よいです。「まあ、明日も頑張ってみようかな」と思わせてくれます。好きな場所から読み始められるので、疲れた時や重厚なテーマの本の合間に息抜きとして手に取って読みたくなるエッセイでした。
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111108さんにおすすめしていただいて。いつも素敵な作品を教えていただきありがとうございます。
どの小説の人物の日常も地味でうだつが上がらないのだけど、その中のほんのわずかな転機や喜びが描かれていて、なんだか読んでいて励まされるような気持ちになった。適度な距離感で幸運を祈ってくれるような1冊。
職場で、自分は便利な駒あるいははけ口にすぎないと感じ、出勤の足が重いなあという時、通勤電車で何度もほのかに気分を上向かせてもらった。
「どこもかしこも居心地が悪いのだとしたら、それは柵や檻の外を選ぶだろう」という文章もすごく好きだった。津村作品はいつも心に響く文章がある。
どの作品も捨て難いけど、「 -
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刑務所を脱獄した女性受刑者が向かった先のとある住宅地で、それぞれ事情を抱えた10軒の家の住人たちが交代で見張りをするという、「ご近所付き合い」という言葉が死語になっている都会ではまずあり得なさそうな展開なんだけど、不思議と違和感なくすらすら読めてしまう。
この設定であれば、例えばエンタメ系の作家が扱う場合だといかに派手に盛り上げるかが勝負所になりそうなんだけど、本作はラストに向けての盛り上げ方はかなり抑制的で、静かな中に浮かび上がってくるものを味わう作品だと理解した。
自分の中ではこれまであまり読んだことのない新鮮さがあって意外なほど楽しめたし、よくよく考えると相当な筆力が無いと成立しない描き -
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作文の書き方について「先生からの指導」というより「頼りになる先輩からのアドバイス」という感じで教えてくれる一冊です。
津村さんご自身が、長年ずっと書くことや考えることと真摯に向き合ってきたんだな、というのが文章から滲み出ていると思います。
ただポップなイラストなども所々あるものの、あくまで文章主体の本なので(おそらく一番読んでほしいはずの)読書が苦手な子供が自然に手に取るのは、ちょっと難しいようにも感じました。
「授業で取り上げる」「図書室の目につきやすいところに置いておく」など、この本と子供を結びつける大人のサポートがあるといいんじゃないかなと思います。 -
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心の底から誰かのことを想うときが、
祈るときなんだと思った。
自分のことではなく、誰かのことを。
とっても不思議だけど、町も神様もどこかに存在するかもしれないと思わせる「サイガサマのウィッカーマン」
読み進める中で登場人物の繋がりやサイガサマのことが分かってゆく気持ちよさ、ラストの清々しさ。
少年が町の大人と出会い変化していく様にニコニコしました。
地震が多いこの国で生きていくことに対して
そっと心が軽くなるメッセージをくれるような
「バイアブランカの地層と少女」
【あなたが不安と共存しながらも幸せに過ごせることを願っています。】という手紙の一文を、
作者から読者へのメッセージだと受け取り -
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これこれ!
私が津村さんに期待する小説はまさにこの本、という感じの短編集だった。
地獄の奇想天外なおもしろさ。
中年のなかよし女性二人が事故に遭い、同時に死ぬ。
小説家だった私は物語地獄に、親友のかよちゃんはおしゃべり地獄に。
地獄では担当の鬼が一人に一人つき、それぞれの業に応じた「地獄タスク」をこなさなければならない。
鬼の方にも配属される地獄に「栄転」「左遷」があり、家庭生活では配偶者の不倫にも悩まされる。
奇想天外なのだか、意外と所帯じみているのかなんだかわからない可笑しさ。
「運命」は構成のたくみさに驚く。
主人公の「運命」とは、最悪の状況なのに、それにまったく気づかない赤の他人に -
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《故人が本当にそうだったのかは、なつみの言葉のみから判断するのは難しいが、今はここで話しているというしがらみがあるぶん、なつみの気持ちを尊重すべきだ、とヨシノは思った》(P40)
《すみませんすみません、この御恩は一生忘れません、と勢いであるにしても大きく出て》(P57)
《うちの子がご迷惑をおかけいたしまして、と特にそういったことはなかったにもかかわらず、常套句として言った》(P76-77)
大変な混乱に巻き込まれているにもかかわらず頭のどこかは冷たく冴え渡っているヨシノの思考の流れが面白すぎて、一行も読み飛ばせない。密度の高い文章。
陣野俊史氏の解説にもある通り、津村作品では登場人