津村記久子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
津村記久子さんの小説は読んだことがなかったが、本書の文体のとにかく飾らない、フラットな感じが好き。おやつのうまい棒やプライベートブランドの話、みたいな超卑近な話をさらりとしたりとか、こうすべきである、という偉ぶった感じが全くない感じとか。文体について、ある人のものを真似ている、と本文中にあったが、誰のものなのか、気になるなあ。
「作文」に対してのスタンスも、ものすごくあっさり淡々としている。芥川賞作家が「書きたいとも思わない」とさらりと言ってのける、意外な感じ。純文学の作家は、何かを書くこと、物語を書くことへのオブセッションのようなものがあるのではと勝手に思っていたけれど、そうでもないのか。ま -
Posted by ブクログ
会社にはいろいろなタイプの人間がいるものだ。この小説に登場する人物たちは、ほんとに『こういう人いるなあ』と思えた。
『職場の作法』という短編には、社内で仕事を受ける立場の女性社員と依頼する側とのやり取りが面白い、また誰も興味がない自慢話を延々と話し続ける上司がいる。人の文房具を黙ってパクリ、それを忘れてしまう人、インフルエンザで職場が閉鎖の危機になる際の立ち回り方の個人差があること…思い当たる節があるようなことが多く、非常に面白かった。
そして表題の『とにかく家にかえります』は、豪雨で帰宅困難な最悪な日に会社から帰る際に起こる予想外なアクシデントの数々。バスが来ない…道路は浸水して通行不可 -
Posted by ブクログ
嫌な感じで頼まれた仕事は先延ばしにするとか、取引先のFAX番号が分からずオフィスを大捜索するとか、マイナーなフィギュアスケート選手を応援するとか、ものすごくささいな日常の出来事が大切に描写される短編集。
こういう小さなことの積み重ねでできている日々の、ちょっとした面白い出来事やひっかかりを楽しみながら生きていくのっていいよなあと、自分の生活が少し愛おしくなる。津村さんどんどん好きになってきたな、もっといろいろ読みたい。
必ず何かはっとさせられる文章がある津村作品、今回の心に残る一文は、田上さんがノートに書いていた仕事への心構えである「どんな扱いを受けても自尊心は失わないこと。またそれを保ってる -
Posted by ブクログ
誰かのSNSの投稿で見かけて購入した本です。このエッセイはまるで肩の力を抜いてリラックスするような感覚を与えてくれる一冊ですね。津村記久子さんが芥川賞を受賞した作家であることは知りませんでしたが、この本をきっかけにこの方の本を読もうかとも思いました。30代独身で、その時期に書かれたエッセイで、親近感があり、ユーモアもあって、そのゆるやかな文体や冷静でありながらどこか温かい微笑みが心地よいです。「まあ、明日も頑張ってみようかな」と思わせてくれます。好きな場所から読み始められるので、疲れた時や重厚なテーマの本の合間に息抜きとして手に取って読みたくなるエッセイでした。
-
Posted by ブクログ
111108さんにおすすめしていただいて。いつも素敵な作品を教えていただきありがとうございます。
どの小説の人物の日常も地味でうだつが上がらないのだけど、その中のほんのわずかな転機や喜びが描かれていて、なんだか読んでいて励まされるような気持ちになった。適度な距離感で幸運を祈ってくれるような1冊。
職場で、自分は便利な駒あるいははけ口にすぎないと感じ、出勤の足が重いなあという時、通勤電車で何度もほのかに気分を上向かせてもらった。
「どこもかしこも居心地が悪いのだとしたら、それは柵や檻の外を選ぶだろう」という文章もすごく好きだった。津村作品はいつも心に響く文章がある。
どの作品も捨て難いけど、「 -
Posted by ブクログ
刑務所を脱獄した女性受刑者が向かった先のとある住宅地で、それぞれ事情を抱えた10軒の家の住人たちが交代で見張りをするという、「ご近所付き合い」という言葉が死語になっている都会ではまずあり得なさそうな展開なんだけど、不思議と違和感なくすらすら読めてしまう。
この設定であれば、例えばエンタメ系の作家が扱う場合だといかに派手に盛り上げるかが勝負所になりそうなんだけど、本作はラストに向けての盛り上げ方はかなり抑制的で、静かな中に浮かび上がってくるものを味わう作品だと理解した。
自分の中ではこれまであまり読んだことのない新鮮さがあって意外なほど楽しめたし、よくよく考えると相当な筆力が無いと成立しない描き -
Posted by ブクログ
作文の書き方について「先生からの指導」というより「頼りになる先輩からのアドバイス」という感じで教えてくれる一冊です。
津村さんご自身が、長年ずっと書くことや考えることと真摯に向き合ってきたんだな、というのが文章から滲み出ていると思います。
ただポップなイラストなども所々あるものの、あくまで文章主体の本なので(おそらく一番読んでほしいはずの)読書が苦手な子供が自然に手に取るのは、ちょっと難しいようにも感じました。
「授業で取り上げる」「図書室の目につきやすいところに置いておく」など、この本と子供を結びつける大人のサポートがあるといいんじゃないかなと思います。