津村記久子のレビュー一覧
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18歳で親元を離れての生活を始めた理佐と妹の律。理佐が住み込みで始めた仕事は蕎麦屋の給仕とヨウムのお世話で……。
周りの人々の優しさに支えられて成長していく理佐と律。何十年の時の中で別れと出会いを繰り返して成長し、やがて自分たちも周りを支える存在になっていく。
めちゃいい話。人情とか人の優しさに触れて読んでて優しい気持ちになれるんだけど、自分自身はそういう濃厚な人間関係を避けようとしてしまう人間なので、いい話!けど私には無理!みたいな気持ちになって心がバラバラになる。
出会う人がみんないい人で良心に溢れていて、そういう優しさを向けられた人間がまた別の人に優しさを注ぎ、優しさで人々がつながっていく、やさしいせかいだった。いい話だ。
ヨウムのネネが本当に天才ヨウムで、いろんなところで助けてくれたりささえになってくれたりしていて、ネネの存在がこのお話を魅力的にしてるんだなぁと思った。不思議な存在。 -
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ライン工場で働くナガセが、職場で見かけた世界一周クルージングのポスター。
その費用160万円は、自分の1年分の手取り額と同じであることに気づく。
そこからナガセがお金を貯めながら、周囲と関わっていく中編の表題作「ポトスライムの舟」。
もう1つは、印刷会社で職場に馴染めず、上司からのパワハラに耐えるツガワの日々を描いた「十二月の窓辺」。
2つの中編小説が収録された作品だ。
「ポトスライムの舟」では、生活のために働いてお金を稼ぐのは大変で、なのにお金はあっという間に消えていく…。
主人公の日常を通してそんなあるあるが描かれており、共感した。
終始淡々と話は進んでいて、正直ナガセの心の変化など、よく分からなさを抱えながら読み終えた。
その後の「十二月の窓辺」は、一転して胸がギュッとなるような息苦しい描写が続く。
終わりは少し希望の見えるラストで、ホッとした。
両方を読み終えてみると、今ある生活を大事にすること、今ある環境から離れること、どちらも同じくらい大切なんだと思えた。
また、「自分と周りの人を大切に、自分のペースでやっていこうよ」というメッセージでもあるのかもしれない。
最初は、気持ち的に負荷のかかる「十二月の窓辺」が後にくる構成が不思議だった。
けれど改めて考えてみると、この順番だったことで最初は良く分からぬまま読み終えた「ポトスライムの舟」の温かさが、後からじわじわと広がった気がする。
そしてそれは後半の主人公ツガワへのエールであると同時に、読者へのエールにもなっているように感じられた。 -
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ネタバレとても心が温まるお話でした。
登場人物を応援したくなるような、そんな小説でした。
男に依存する母との生活から離れることを決断し、妹を連れて自分たちの生きる道を探すため、勇気を持って行動した18歳の理佐。妹の律はまだ小学生。
引っ越し先の土地で、水車小屋で蕎麦曳きの見張りをしているヨウム、ネネのお世話などをしながら、地元の人たちと関わりの中で姉妹は成長していきます。
ネネが、他人同士だった人たちの接点になって縁を繋げてくれていて、40年という時の経過を通して、姉妹やネネと関わってきた人たちのさまざまな岐路や交友や別れが描かれています。
降ってきた理不尽な環境に、諦めたり流されそうになっている人にお勧めの一冊。 -
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津村記久子さんの現代社会をテーマとした短編集。
金原ひとみさんの「もう何もしたくないという切実な本音に寄り添ってくれる稀有な小説」という帯文に惹かれて手に取りました。
仕事で疲弊している私にとって、『レコーダー定置網漁』と『粗食インスタグラム』は痛いほど共感する内容でした。膨大な情報に晒されていると、選択することが億劫になる。そんなときは、思い切って情報から距離をおき、心の赴くままに過ごしてみようと背中を押されたような気持ちになりました。
『イン・ザ・シティ』では、「キヨはますます人間というか、人情が嫌いになった。そしてそうやってはっきりと嫌いなことが増えると、自分という人間が一歩あるべき姿に近付いた気がして、後ろ向きなことのはずなのに心強く思った」という一文がありますが、嫌いなもので自分が確立していくというこの描写に、「津村さん最高!」と感嘆してしまいました。
津村さんの作品は『水車小屋のネネ』以来でしたが、また違う作品も読みたくなりました。 -
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ネタバレ社会人の内容であるため、読書というよりどこかテレビ見ているような感覚だった。ポトスライムの舟はなんのために働いていくのかというところが主題だと思うのだが、それは生きるためなのか、旅行行くためかなど様々であるはずなのだが、主人公は生きるために働いているのか、働くために生きているのかが上手く掴めていない社会人をよく表していると思う。しかし、163万貯金するという目標を達成したことで、そんなに張り詰めなくてもいいと気付くところは面白かった。
12月の窓辺は、パワハラが横行する会社で務める人の話なのだが、読む中で主人公が悪いのかもしれないと錯覚するようにできていて上手いなぁっと思う。パワハラする人が確実に悪いのですが。 ひょんな事で退職の決心ができ、そこから無敵の人のような行動が面白かった。多分人は確たる決心があればどんな人にも強くなれる。通り魔の話は最初理解ができていなかったが、まあその人にも何かしらの理由があるんだよなぁと思った。
総評としては芥川賞を取る作品はどことなく不穏というか、いいエンドがないのが多い印象だが、この作品は前向きになれるような作品だった。 -
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二人で暮らし始めた姉妹の人生を、水車小屋に住むネネと取り巻く人々
うーん。長い!正直な感想としては、ごめんもうちょっと話をはしょってくれません?という感じで、私はこの世界にもう一つしっかりと入り込めなかったようです。あと文体がちょっと単調というか夏休みの日記みたいなですます文体なのも気にはなりつつ。
が、過酷な人生を過ごすと思われた姉妹が(それなりに過酷ではあるが)周囲の良心にひたすら助けられ、そしてそれを周囲に返す、そんなサイクルを繰り返しながら家族ではなくてもみんながそれを受け継いで行く。劇的な大河ではないが、穏やかな川の流れのようなドラマとして、とても暖かな気持ちになりました。悪い人、怒る人、困った人などがほとんど出ない。
ただ、あまりにその、いい人しか登場しなさすぎて、「なんだか、いい人だけの国を作りたいっていう人の夢想する世界ってこんな感じなのかもな」と思って、ちょっと自分に対して嫌な気持ちになりました。もうちょっと素直に「いいなぁ」とだけ思っておくべきですよね、こういう作品は。 -
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勝手なイメージで、難しい教養小説のようなものと想像していて長らく読むのを躊躇っていた。いざ読み始めると全く違った!
文章で読ませるのではなく、情で読ませる感じで、ややヤングアダルト的でもあった。初めての作家さんなのもあってか、正直、語り手が誰なのか?主語が誰なのか?など、ちょっとわかりづらくて戸惑うこともあった。難しい表現は使われていなかったが、読むのに時間がかかった。
それでも、人の優しさに溢れていて、途中泣けてきたくらい、素敵な世界観だった。
姉妹が仲が良いのも羨ましい。親が良くなくても、家族の中の誰か一人だけでも良好な関係を築ければ幸福度や安心感はぐっと上がる。
ネネが遭難した人の名を呼びながら探すシーンは可愛らしくて大好きな場面になった。
◯誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ (小学校の先生の藤沢先生の言葉)
◯自分はおそらく、これまで出会ったあらゆる人々の良心でできあがっている
思いやりのある人々に囲まれ、助けられて来た感謝を、次はまた別の人を助けることで善意が繋がっていく。心から素敵だと思う。こんな世の中で生きられたら、誰も死にたいだなんて考えないだろうな、人の役に立ちたいと心から思える人間になるだろうなと感じた。そんな世界どこかに存在するのかな? -
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人の善意や優しさが、時を越えて受け継がれていく、あたたかい物語。
大きな事件が次々と起こる作品ではなく、物語はゆっくり、淡々と流れていく。人によっては刺激が少なく、物足りなく感じるかもしれない。
でも、その緩やかな時間の中で描かれる、人と人とのつながりがとてもいい。
そして、この物語に欠かせないのがネネの存在。
ネネがいることで、人と人との距離が少し近くなる。ネネのことが大好きな人たちが、ネネを通じてつながっていく。そのつながりが時代を越えて広がっていくのが、この作品の素敵なところだと思う。
章ごとに視点や時代が変わり、それぞれの人生が少しずつつながっていく構成もよかった。
派手さはないけれど、読み終わったあとに残るのは、静かであたたかい気持ち。
読みながら「これ、ドラマにしたらすごくいいだろうな」と何度も思った。
「人って、案外いいものだな」と思わせてくれる一冊だった。