津村記久子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
素敵なタイトルだなと思って読んでみたら中学生男子が主人公で、彼らなりには不安定だったりヤキモキモヤモヤしていたりするんだろうけど、ごく普通の日々を描いている。だから読み始めは退屈な感じ。でもそういう小説なんだと思った真ん中あたりからページを繰るのも早くなったかな。
津村さんってあまり読んだことないけど、現代の仕事をしている普通の女子を描いた小説が多いようなイメージで、それでいながら本作は男子中学生が主人公というのはちょっと意外な感じがしたけど、男子中学生の親や友達とか女子とか世間に対する感覚がけっこううまく表現されているような感じがする。
舞台が大阪なのもいい。何となく大阪弁の会話ややりとりにおかしみが生まれてきて、一大事も柔らかくとらえられるような感じ。この点って、中学生の頃は一大事だったことが実は大人になってみればとるに足らないことだったみたいな視点を変えればとらえ方も変わるような感覚と似たような効果があるのかもしれない(蛇足だけど、大人にとってとるに足らないことを中学生の時、真剣に考えることも大事なことはわかってるつもり)。そんな浮遊しているような世代を描いているから「エヴリシング・フロウズ」。
解説(石川忠司)がよくて、冒頭で書いたような何気ない毎日を描くよさ、描けているすごさをうまく紹介してくれているので、以下に引用しておこう。
――津村がシリアスなシーンを描くとき、それは必ずどこか阿呆らしさへと転落していくかも知れない契機をはらむ。しかし、リアルな現実とは大体そういうものなのではないか。そもそも恋愛や自己実現などのトピックが人生の特権的な中心を成すと考えるのは頭がどうかしている証拠だし、どんなにシリアスな経験だってその周辺は常に笑いや阿呆らしさのたぐいによって取り囲まれているのではないか。経験を多方向へと開かれた「明るいもの」としてあつかうのは津村記久子という書き手の重要な特色だ。(p.394) -
Posted by ブクログ
ライン工場で働くナガセが、職場で見かけた世界一周クルージングのポスター。
その費用160万円は、自分の1年分の手取り額と同じであることに気づく。
そこからナガセがお金を貯めながら、周囲と関わっていく中編の表題作「ポトスライムの舟」。
もう1つは、印刷会社で職場に馴染めず、上司からのパワハラに耐えるツガワの日々を描いた「十二月の窓辺」。
2つの中編小説が収録された作品だ。
「ポトスライムの舟」では、生活のために働いてお金を稼ぐのは大変で、なのにお金はあっという間に消えていく…。
主人公の日常を通してそんなあるあるが描かれており、共感した。
終始淡々と話は進んでいて、正直ナガセの心の変化など、よく分からなさを抱えながら読み終えた。
その後の「十二月の窓辺」は、一転して胸がギュッとなるような息苦しい描写が続く。
終わりは少し希望の見えるラストで、ホッとした。
両方を読み終えてみると、今ある生活を大事にすること、今ある環境から離れること、どちらも同じくらい大切なんだと思えた。
また、「自分と周りの人を大切に、自分のペースでやっていこうよ」というメッセージでもあるのかもしれない。
最初は、気持ち的に負荷のかかる「十二月の窓辺」が後にくる構成が不思議だった。
けれど改めて考えてみると、この順番だったことで最初は良く分からぬまま読み終えた「ポトスライムの舟」の温かさが、後からじわじわと広がった気がする。
そしてそれは後半の主人公ツガワへのエールであると同時に、読者へのエールにもなっているように感じられた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレとても心が温まるお話でした。
登場人物を応援したくなるような、そんな小説でした。
男に依存する母との生活から離れることを決断し、妹を連れて自分たちの生きる道を探すため、勇気を持って行動した18歳の理佐。妹の律はまだ小学生。
引っ越し先の土地で、水車小屋で蕎麦曳きの見張りをしているヨウム、ネネのお世話などをしながら、地元の人たちと関わりの中で姉妹は成長していきます。
ネネが、他人同士だった人たちの接点になって縁を繋げてくれていて、40年という時の経過を通して、姉妹やネネと関わってきた人たちのさまざまな岐路や交友や別れが描かれています。
降ってきた理不尽な環境に、諦めたり流されそうになっている人にお勧めの一冊。 -
Posted by ブクログ
津村記久子さんの現代社会をテーマとした短編集。
金原ひとみさんの「もう何もしたくないという切実な本音に寄り添ってくれる稀有な小説」という帯文に惹かれて手に取りました。
仕事で疲弊している私にとって、『レコーダー定置網漁』と『粗食インスタグラム』は痛いほど共感する内容でした。膨大な情報に晒されていると、選択することが億劫になる。そんなときは、思い切って情報から距離をおき、心の赴くままに過ごしてみようと背中を押されたような気持ちになりました。
『イン・ザ・シティ』では、「キヨはますます人間というか、人情が嫌いになった。そしてそうやってはっきりと嫌いなことが増えると、自分という人間が一歩あるべき姿に近付いた気がして、後ろ向きなことのはずなのに心強く思った」という一文がありますが、嫌いなもので自分が確立していくというこの描写に、「津村さん最高!」と感嘆してしまいました。
津村さんの作品は『水車小屋のネネ』以来でしたが、また違う作品も読みたくなりました。