津村記久子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
素敵なタイトルだなと思って読んでみたら中学生男子が主人公で、彼らなりには不安定だったりヤキモキモヤモヤしていたりするんだろうけど、ごく普通の日々を描いている。だから読み始めは退屈な感じ。でもそういう小説なんだと思った真ん中あたりからページを繰るのも早くなったかな。
津村さんってあまり読んだことないけど、現代の仕事をしている普通の女子を描いた小説が多いようなイメージで、それでいながら本作は男子中学生が主人公というのはちょっと意外な感じがしたけど、男子中学生の親や友達とか女子とか世間に対する感覚がけっこううまく表現されているような感じがする。
舞台が大阪なのもいい。何となく大阪弁の会話ややりとりにおかしみが生まれてきて、一大事も柔らかくとらえられるような感じ。この点って、中学生の頃は一大事だったことが実は大人になってみればとるに足らないことだったみたいな視点を変えればとらえ方も変わるような感覚と似たような効果があるのかもしれない(蛇足だけど、大人にとってとるに足らないことを中学生の時、真剣に考えることも大事なことはわかってるつもり)。そんな浮遊しているような世代を描いているから「エヴリシング・フロウズ」。
解説(石川忠司)がよくて、冒頭で書いたような何気ない毎日を描くよさ、描けているすごさをうまく紹介してくれているので、以下に引用しておこう。
――津村がシリアスなシーンを描くとき、それは必ずどこか阿呆らしさへと転落していくかも知れない契機をはらむ。しかし、リアルな現実とは大体そういうものなのではないか。そもそも恋愛や自己実現などのトピックが人生の特権的な中心を成すと考えるのは頭がどうかしている証拠だし、どんなにシリアスな経験だってその周辺は常に笑いや阿呆らしさのたぐいによって取り囲まれているのではないか。経験を多方向へと開かれた「明るいもの」としてあつかうのは津村記久子という書き手の重要な特色だ。(p.394) -
Posted by ブクログ
ネタバレ18歳と8歳で新しい生活を始めた姉妹の姿から、40年という長い歳月をかけて描かれる物語。
若かった二人が少しずつ大人になり、周囲の人々もまた、それぞれの人生を歩んでいく。
季節が巡り、時代が移り変わっても、人から人へと手渡される優しさは変わらず、静かに受け継がれていく。
その積み重ねが、やがて大きな温かさとなって物語全体を包み込む。
劇的な出来事だけでなく、何気ない日常や、長い時間をかけて育まれる信頼関係こそが、人生を豊かにしてくれるのだと感じた。
40年という歳月を読み進めるうちに、登場人物たちと一緒に年を重ねてきたような気持ちになり、彼らの人生が愛おしくなる。
今すぐに結果が見えなくても、誰かに向けた小さな親切は、時を経て思いがけない形で実を結ぶのかもしれない。
読み終えたとき、長い人生もまんざら悪くないと思わせてくれる、温かく希望に満ちた一冊だった。 -
Posted by ブクログ
表題作は、大雨の日交通手段がなくなってしまった埋立州から本土までなんとか歩いて帰ろうとする2組の人間が出てくる。
そういえば自分も、こういう悪天候の日に(そのときは雪だったが)帰宅するのが大変で、何時間もかけて帰ってきたことってあったなぁと懐かしく思い出す。そういう経験のある人なら、登場人物たちに共感できるのではないだろうか。
家に帰ってのんびりくつろいでいる自分を想像して、ひたすら現状の辛さに耐える時間とか…あるある過ぎる。
タイトル通りというか、それ以上に、とにかく家に帰りたいという切実さがすごくて、分かる分かるの嵐でした。早く登場人物たちを家に帰してあげて…という気持ちになる。
また、『職場の作法』という物語は、とある会社の社員たちが出てくる連作短編集なのですが、出てくる人たちが、あぁこういう人いるいる!って思うような人ばかりで面白い。悪い人ではないんだけれど、絶妙な嫌さを醸し出してくる上司とか…津村さんは、こういう人物描写が上手すぎる。 -
Posted by ブクログ
淡々とした文章に、不思議と惹きつけられました。
「ポトスライムの舟」は劇的な出来事もなく、目標金額さえふとした拍子にあっけなく貯まってしまう……でも、現実の人生もきっとこんなものなのだろうと思いました。小さな決断を重ねながら日常は続いていくし、目の前の出来事をどう受け取るかで、その日常の意味も変わってくるのかもしれません。
「十二月の窓辺」は怒鳴る係長への嫌悪感はもちろん、なかなか辞められず極端な方向へ思考を巡らせる主人公が正直不可思議で……でも、仕事を辞めるって大きな決断だから、ぐるぐると悩み続けるのが普通なのだろうなとも。ただ、あるきっかけをもって目の前が開けて踏み出せた姿に安堵しました。
また、突然登場する刺青やヨーグルトの菌など、突拍子もないようで、誰かの日常には確かにありそうなものを描くのがうまいなと思います。
どちらの話も劇的ではないからこそ、現実の自分と地続きに感じられる。そんなところが良かったです。