津村記久子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
面白かった。平凡な会社員、平凡な小学生の日常でありながら非日常。冷静に考えて、水没した地下道をたまたま見つけたゴムボートで渡すアルバイトが急に発生するとか、子供が作った歯茎のオブジェとか、ありえないわけではないけど独特でくすっと笑える要素が散りばめられている。ネゴロもヒロシもとても賢い。エリートが集まる進学塾では落ちこぼれのレッテルを貼られるヒロシも、そこの講師に下に見られる椿ビルディングの勤め人であるネゴロも、賢くて機転がきいて、人の価値は一面的に決められるものではないと思う。アヤニノミヤさんやノリエさんやミソノさんや、古びて家賃の安い椿ビルディングで店を出す人々一人ひとりにバックグラウンド
-
Posted by ブクログ
とにかく1つ1つが短くて、内容も他愛なくて、たとえ「本」を読む気力や時間がない人でも心地よく読めてしまうような、読者にとってはハードルの低い本ですが、実はそれこそが手ぬかりなく整えられた、筆者による気づかいであり心づかいなのだと分かると、さすがだな、嬉しいなと感じ入ることができる2度美味しい本でした。
読んでいるとクスッと笑ったり、あ〜分かる分かると共感したり、へぇーそんな事を考えるのかと面白がったり、急に自分の小学生時代をしみじみ思い出したりします。あとがきにもありますとおり、それがたまに会う友達と気兼ねなくおしゃべりする感じと似ており、同じようなデトックス効果があるように感じました。 -
Posted by ブクログ
言ってしまってから、やってしまってから、言う前から、やる前から、の後悔が多いホリガイだけど、誰よりもちゃんと傷ついて、誰よりもちゃんと他者を想っている。短所の数が長所の数を上回っても、ヘラヘラした振る舞いの下に隠れる、たった一つの揺るがない信念があればきっとそれでいい。
もう充分人の抱えた痛みに敏感な彼女を、それでもまだ自らが感じる言いようのない欠落感を持て余す彼女を、大事な人のためにとっ散らかってしまう彼女を想う。この本を、映画を思い出すと、彼女に対する共感や愛おしさ、私自身への情けなさと不甲斐なさ、そして自分にとっての大切な人のこと。いろんな感情が湧き出してきて眼の奥がツンとしてしまうの -
Posted by ブクログ
なぜか未読だったが、たっぷり味わい尽くして満足。解説は松浦寿輝氏、津村さんの素晴らしさを余すところなく伝えてくれてこちらも満足。津村さんの文章は読むこと自体が快感になる。好きな箇所は無数にあるが例えばP377--- 背の高い女の看護師で、何くれとなくいかつさを発揮しては、ネゴロをばつが悪い気分へと追い込んでいた。---なんてところぞくぞくする。その前にこの看護師に関して、「外の血っていう貼り紙スゴイですね」「私が書きました」みたいなやりとりがあるのだがこの伏線があっての引用部分でニヤッと笑ってしまうのだ。あとこの作品の登場人物の中では小学生のヒロシが特にいとおしい。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ仕事ができて、他の人の仕事の仕方についてもしっかり見極めて評価していそうな職場の同僚が貸してくれて読みました。
「仕事というもの」「仕事への向き合い方」を考えさせられる物語です。”アレグリア”は事務職に就く主人公の女性(ミノベ)の職場にある複合機。ただのコピー機ではなく、データを受信してかなり大きなサイズの紙で出力する機械のようだ。それがすぐに調子が悪くなる。ミノベはその機械”アレグリア”に対して、かなり感情的になりながら対応する。それに対して、いつもクールで仕事ができる先輩は、「相手は機械なんだからそんなに感情的にならなくても・・・。」と、ドライな対応。アレグリアの不調に悩まされているのは同 -
Posted by ブクログ
ネタバレ久々に津村記久子。いや~それにしても彼女の小説はブレないなぁ。純文学系を中心に多くの賞を受賞してからも、津村節は津村節なのである。安心して読める。
冒頭2作のような日常物はいうに及ばず、後半収録されている死後の世界とか地獄の様相とかいう非日常を描いた作品においても、津村フィルターといえばいいのか、独特の視点と切り口で世界を展開しているのが良い。俺はとても好きだが、合わない人もいるんだろうなぁ、個性的だし。
一番好きなのは一番最初に収録されている「給水塔と亀」、定年退職したおっさんの所謂「第2の人生」の始まりを描いた短編なんだが、俺もこういう気負わない定年後を迎えたいなぁ、と痛切なあこがれを -
Posted by ブクログ
どのお話も不思議な世界観で面白かった。
今まで読んだ津村さんの本では2番目に好きかな。
「アイトール・ベラスコの新しい妻」で、小学生の頃のことを思い出した。
「忽那さんと一緒に帰ってあげて」と言う先生。
その辺のくだり。
私も小学生のある時、恐らく今で言う発達障害の子の隣の席に、ずっとなってた。
別にその子と仲良くもないけど、先生に言わせたら「面倒見がいいから」隣なんだそうだ。
私としては、やっぱり仲の良い子の隣になりたいし、面倒見るなんて面倒な事はしたくない。
そもそも末っ子で絶対に面倒見の良いタイプではないし。
正直泣きたかった事を、先生は知らないだろうな。
(30年以上前の、小学生の頃 -
Posted by ブクログ
ネタバレ映画のスパイダーマンシリーズのヒロイン役の女優(キルステン・ダンストとエマ・ストーンのことと思われる)がいずれも可愛くないという意見を否定し、特にキルステン・ダンストの方を気に入っているヒロシ。ヒロインが微妙とは当時から散々言われていたが、僕もヒロシと同じくキルステン・ダンストが好きだったので、それだけでヒロシのことが大好きになった。 豪雨の夜の章はこれから何度も読み返すだろうなと思う。この章だけでもこの本と出会えて良かったと思う。あの章は、フカボリが翌日に出勤するところまで続いているのも良い。
3人と一緒に自分もあの部屋に入り浸っていたわけなので、検疫のくだりでは本気で「えっ!?僕もヤバいの -
Posted by ブクログ
なにをもって「まとも」というのか。
誰かを「まともじゃない」と言い切る津村さんの表現力は潔くて、わたしは誰かをまともじゃないと言い切ってしまうことはその人を否定するように感じるから、思っても言わないようにしてしまうけれど、はっきりと言い切るこの潔さ。強いなと思った。
もし自分がこの作品を出版する立場だとして、わたしはどこかで「もしまともじゃない側の人が目にしたらどんな風に思うだろう」とか思ってしまって、このタイトルをつけることに戸惑いを感じてしまうだろう。
それは優しさとかそういう綺麗なものではなく、単純に自分が「まともじゃない人」に対して持っている差別意識だったり、自分の中にある「他人から -
Posted by ブクログ
とても面白かったー。エッセイというか、自分の体験と絡めて書かれる本の紹介、というジャンルがけっこう好きだな、と最近気づいた。あれもこれも読みたいと自分の心が動くのも楽しいし、もし自分も読んだことのある本なら、こんなことを考えながら読めるんだ!と新鮮に感じたりもする。
「開いたページを読んでみる」「眺めるための本」のところがとくにおもしろい。図鑑・辞典的なものは私も好きで、その2点から買った本(そして結構な確率で目を通しきれていない本)はいくつもある。でもそういう、いつでも読める本を持っておくことがセーフティネットみたいになっているな~。
五味太郎「ことわざ絵本」が紹介されていたのが嬉しかった。 -
Posted by ブクログ
作者の作品評を見るにつけ、必ずこの作者の本読んでみたいと思っていた。念願の初読。そしてやはり最高に面白い。 七つの短編から成っているのだけど、どれも面白い。仕事を辞めて故郷で一人暮らしを始める男とか、ウンチクうどん親父にキレる地味で大人しい女子を見てる男とか、どこの世界にもいるマウント取りたがる面倒臭い女とそれにいじめられる地味女に気づくフツー女子とか、地獄で鬼の面倒みるおしゃべりおばちゃん達とか、なんだか道を聞かれちゃう男子とか、認識出来ない顔のある学生とか、そして、表題作の人に憑いてナントカ外国にいく幽霊とか。こうして並べると、面白いのか?って思ってしまいそうだが、普通の文章で何事もなかっ