千早茜のレビュー一覧
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女性ジェンダーの苦しみが、寄せ続ける波や潮のように、じっとり重くのしかかる話。この方の書くジェンダー問題は、本当に苦しい。主人公は、瀬戸内の小さな島の一つに住む祖父母のもとに引き取られた小学高高学年の女の子。そして唯一の友になるのが、橋がつなぐ隣の島に住む、やはり祖父に引き取られている同い年の女の子。
古い価値観のままの、狭い島。寄り合いでは男が上座に座り、女は下座で立ち働く。男は大声で威嚇し、女は男の世話をする。大人の振る舞いを鏡に映したような子供の世界と嫌がらせ。ああ苦しい。私だったら…きっと立ち向かいたくなる。いや、どうかな、いざとなったら立ち向かえないのかな。
第1部「海」は島で -
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千早さんの食エッセイシリーズ3作目。相変わらず食に関連するエピソードが濃くて面白い。
本作は千早さんが離婚して東京に引っ越した2021年ごろのエピソードが収録されている。ステイホームで自炊に関連する話、たまに外食する話などが多い。
印象に残っている話の1つは、「鰻といえば『ごんぎつね』」という「狐色のどんぶり」。『ごんぎつね』の切なさ悲しさとうなぎの異色の組み合わせのインパクトが大。
他にも山形に引っ越したという担当編集者のT嬢との山形旅行に関するお話や、浅草で「どぜう」を食べたお話もインパクトが大きかった。大食漢の千早さんと一緒に、いつもたくさんのグルメを堪能しているT嬢の胃袋もすごいなとい -
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眠れない夜のための物語でした。本の装丁は、深い夜のイメージでした。静かな夜に、ページをめくるのがいいかもしれないと思いました。
眠れない夜は、クッキー缶を開ける。
眠れない夜は、ばけものになる。
眠れない夜は、ないと思っていた。
眠れない夜は、雨が降っている。
眠れない夜は、ここに来るといいですよ。
眠れない夜は、お腹のなかからやってきます。
眠れない夜は、おれのもの。
眠れない夜は、すぐそばに■■がきているのだと云う。
眠れない夜は、君の呼吸に耳をすます。
眠れない夜は、どうやって過ごしていただろう。
これらの9つの冒頭の言葉から、紡がれた短編集。6話目の『木守柿』と9話目の『寝息』、そ -
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ネタバレ冒頭から「東京でひとり暮らしをはじめる」とあり。
前作、前前作に続き、食については変わらず面白い。ただ住まいが変わっただけ……というわけにはいかず、なんだなんだ?何があった??殿はどこいった??と、ずっと著者の身辺が気になって全集中ができない。
読み進めると唐突に恋人が出現。ああ、やっぱりそういうことね。とひとまず納得する。
著したものだけに興味を持てばいいのだけど。プライベートの一部を見せてくれているエッセイは、どうしたって身近な登場人物が存在し関係性も含めて、その人たちとの経過があるわけで。何か匂わせる変化があるとソワソワしてしまう。
ともあれ、著者がそれなりに元気でその時なりに幸せなら -
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「ほむら」「てがた」「ゆびわ」「やけど」「うろこ」「ねいろ」
6篇の短篇集。
はっきりと連作短篇を打ち出してはいないけれど、読んでいくと物語同士が繋がっていることが分かってくる。
人と人の関わりの物語なのに、そこはかとなく孤独の匂いが漂う。「一緒にいてもひとり」という言葉が読みながら頭に浮かんだ。
「ほむら」と「てがた」で色濃く登場し、他の物語でもうっすら存在を示すある男が、得体が知れなくて印象に残った。
飄々としていて、人や物事に対する執着が薄く、それなのに時々執念深いようなやや暴力的な姿を見せたりする。
その男が選んだ道のあとに残された「てがた」。男は一体、どのようなことを考えてその道を -