貫井徳郎のレビュー一覧
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大きな事件は二つある。
法の処罰を免れて、ろくに罪も償わないで社会復帰した者たちが次々に殺される事件。
環敬吾のチームは、見えない殺人者の姿を追う。
もう一つの事件。
心臓移植をしなければいつ命を失ってしまうかわからない息子のために、心臓の提供者をつくるために殺人を犯す母。
証拠のない事件の真相を追う刑事。
二つの事件は交互に語られ、それぞれ追う者追われる者と、視点が切り替わる。
全く接点のない二つの事件が、交差し始めたのが300ページを迎えるころ。
それは、ミステリを読みなれた人にはわかりやすい展開ではないかと思う。
そして、ふつうはこのあたりから終焉に向かって急速に話が進んでいくのだが -
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ネタバレ主人公の迫水は、10年務めた不動産会社をリストラされ、そのうえ愛する妻に逃げられるという始末。
身に覚えがありすぎて、何が原因で逃げられたのかもわからない。
とことんダメな男であるが、妻を愛する気持ちだけは本物で、妻を見つけ出すためなら暴力団に脅されようとも、警察を出し抜こうとも、後悔はしない。
しかし、決して悲壮感漂わないのが、迫水の迫水たる所以。
本人は真面目なのだろうけれど、どこかとぼけたおかしみが、笑いを誘う。
そして、小さな小さな手がかりを情報交換することによって、少しずつ妻に近付いていくのだとしたら、これは現在のわらしべ長者のようだな。
そんなのんびりした気持ちで愉快に読んで -
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劇団“うさぎの眼”に所属する駆け出しの役者・和希は、ある日、祐里という清楚な美少女に出会う。祐里に劇団の看板女優の控え室を見張っていてほしいと言われ、妙な頼み事をするものだと思いつつも引き受けるが、ほんの数分見張りを外れたすきに、その女優が殺害される。何か知っているにちがいない祐里に問いただしたところ、祐里は27年後の世界からタイムスリップしてきたと言う。容疑者は祐里と繋がりのある人物で、無実なのに逮捕されてしまった。この逮捕は、未来の祐里の人生に影響を及ぼしたため、冤罪を晴らしたくてタイムスリップしてきたらしく……。
この著者は作品ごとに作風がコロリと変わる不思議な人。ハードボイルドな『慟 -
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雪滕の妻子を失った悲しみの描写が酷くリアルで、貫井氏の文体に自分の感性がぴったりハマってしまっていることを感じる。天美との出会いから、それに固執し、依存し、徐々にまた壊れていく雪滕の精神構造の様子が痛々しい。その精神構造破壊の進み具合が絶妙。相変わらず人物の描き方も卓越しているし、メーター振り切ってぶっ壊れている人を描くのも上手し。宗教の怖さではなくて、宗教にハマっていく人の精神構造が怖い。もっと言えば、誰にもその破壊の過程へと陥る可能性があるからこそ、身近に感じられて怖い。慟哭とは違い、最後に救いがあったのも個人的には素敵だと感じた(ここは賛否両論だろうが)。マスターありがとう。
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大分前に購入「積ん読」状態だったのをなぜか読みました。
正直楽しかったです。
作家さん達の代表作のスピンオフというか表題通り「サイドストーリー」。読んだことの無い作品もありましたが、丁寧に作者の横顔やメインのストーリーも書いてあるというサービス付。すべて「煙草」や「一服ひろば」に関連して書いてありますが、上手くからめてあるお話もあれば、やや無くてもいいんじゃない?的なお話も。
冲方丁の「天地明察」は読んでみたいと思っていた本だったので、ますます読みたくなりました。
貴志佑介の「鍵のかかった部屋」からのお話はドラマで見ていた佐藤浩市の芹沢がメインになったのには驚きましたが、まんまでしたね。
限ら -
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『こんなふうに思ったんです。悲しみってのは絶対に乗り越えなきゃいけないものなのか、と。悲しければ悲しいままでいてもいいんじゃないか、とね。
悲しいことや辛いことには、立ち向かっていかなかなければいけないように考えてしまうじゃないですか。それを克服して心の奥底にしまい込まなければいけないと、義務のように感じてしまいますよね。でも本当はそんな必要ないと思うんです。
どうしても乗り越えられない悲しみもあるんですよ。だったら、無理に乗り越える必要はない。乗り越えられないことを恥に感じる必要なんてないと、私は思うんですよね。』
最後の3章がすごい。
みんなが世界を見たいように見ているから、すこしず