日下三蔵のレビュー一覧
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ミステリ短編集。でも実は、それほどミステリっぽくない印象のものも多い気がしました。だけど特に事件が起こるわけでなくとも、心理的にじわじわと嫌な感じが漂う物語があって、その結末に驚かされるのでこれはやっぱりミステリなのだなあ、と認識させられます。一見地味だけど、読めば読むほどじわじわ来るなあ。
お気に入りは「みにくいアヒル」。とにかく主人公は気の毒なのだけれど、それでもまあまあうまく生きられていると思っていたのに。まさかそんな選択を! でもそれが幸せと思えるのかあ、と何ともいえず切ない気分になりました。同じような印象で、「老後」も幸せの意味を考えさせられますね……。
「絶対反対」にもやられました -
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前半と後半で趣の違う短編集。前半はイヤミス寄り。後半はサプライズ重視。後者が好みであった。
惨事
いきなり悲惨な話。ラストの葛藤は、どうぶつタワーの時間切れかと思ったわ(失礼
時代背景あり、インパクト絶大のはじまりだった。
蝮の家
予想は容易く、清々しい。証拠のひとつが素晴らしかった。
孤独なカラス
教育環境が人格形成の大元。狂いそうな時間が流れた異質な作品。
老後
全然見合わない老後でもの哀しい。もっと弾けてほしかった。
私に触らないで
誘惑。違う未来。自分の判断って大事でねー。
みにくいアヒル
私も自分の容姿に自信がないが、この物語は哀しくも彼女が選んだ道なのだ。
女の鑑
読みにくい?? -
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眉村卓『日本SF傑作選3 眉村卓 下級アイデアマン/還らざる空』ハヤカワ文庫。
隔月刊行の全6巻。現代日本SF誕生60周年記念シリーズの第3弾。眉村卓の記念すべきデビュー作を含む、全22篇を収録。700ページを超えるボリュームに圧倒される。
第一部は異種生命SFを13編、第二部はインサイダーSFを9編と構成に気を使った感はあるが、同じテイストの短編ばかり並び、飽きてくる。出来れば、もう少しバラエティに富んだセレクトにしてもらいたかった。
眉村卓はジュブナイル向け作品を皮切りにだいぶ読み込んだ記憶がある。昔、NHKがまだまともだった時代に眉村卓の初期代表作である『なぞの転校生』がドラマ放送 -
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宇宙へ進出した人類に襲い掛かり精神を破壊し、その肉体を異質なものに変化させる鉱物意識体マインド・イーター(M・E)と人類との攻防を基本設定に8話から成る短編は、宇宙と人間、感性と感情、生と死という哲学的テーマを通して、人はなぜフィクションを求めるのか?、SFとは何か?という問いを読者に投げかける。
1980年日本SF小説の全盛期において小松左京、筒井康隆らも盛んに作品の題材に取りあげたテーマ。その≪文系SF小説≫の中においても本書は今なお傑作を謳われる一作であり、30年前の作品とは思えない全く古さを感じさせない文体と構成は見事。
1984年にハヤカワJA文庫で刊行され長い間絶版になっていた本書 -
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1930年代に描かれた日本SFの先駆者による奇想天外なミステリー集。探偵・帆村荘六が活躍する10編の短編を収録。さすがに時代を感じる短編が多いのだが、奇抜なトリックと時代を超越した発想力に今読んでもなお魅力を感じる。
『麻雀殺人事件』。オーソドックスな探偵ミステリーといった作品。帆村の目の前で起きた殺人事件…犯人は誰か…
『省線電車の射撃手』。電車内で起きた女性を狙った連続射殺事件に帆村が挑む。
『ネオン横丁殺人事件』。密室で起きた射殺事件に挑む帆村は真相をあばくことが出来るのか。
『振動魔』。まさに奇想天外なトリック。この短編には帆村は登場しないのかと思いきや、最後に颯爽と登場する。 -
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ネタバレ江戸川乱歩全短編盗団の隠した5万円の行方。「私」が手に入れた2銭銅貨に興味を持った松村武。2銭銅貨に隠された暗号。発見された盗賊団の5万円。松村のいたずら。
『心理試験』
明智小五郎シリーズ
大家の老婆の隠し持つ金を狙った藍屋。大家を殺害し大家の財布の金を半分盗み財布を拾ったと届け出た。翌日、大家殺害犯として逮捕された親友・斎藤。事件に疑問を持った判事・笠森の心理試験。心理試験の結果から犯人を推理する明智小五郎。
『恐ろしき錯誤』
対立する北川氏と野本氏。北川氏の妻・妙子の焼死事件。彼女が助かったにもかかわらず再び火の中に駆け込んでしまった秘密。彼女の耳元に囁いた謎の男の言葉の罠。妙子 -
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鷹揚な「千駄ヶ谷の小父さん」が、意外な〝童心〟をのぞかせる「中村雅楽探偵全集」第4巻。77年から91年にかけて発表された28篇が収録されており、これで「中村雅楽」が登場する短編はすべて出尽くしたことになる。
事件は、劇場やその近辺に生じるいわゆる「日常の謎」がすべて。血なまぐさい殺人などいっさい起こらない。戸板康二の関心は、劇的な事件そのもよりも、歌舞伎役者ら劇を演ずる人間の心の内側のドラマに迫ることにあったのかもしれない。
この第4巻であたらしいのは、若き編集者「関寺真知子」がひんぱんに登場し、中村雅楽にさまざまな影響をあたえるところ。わずか3ページ強で、二人の役者が重ねてきた長い歳月を -
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山風明治短編選集、最終巻は、明治ものを手がける以前の、たまたま(?)明治を扱った短編を集めたもの。
しかしここで扱われている作品は、図らずも「時代の大きな事件の影で、その人生を破滅へと向かわせることになった人々の物語」が集められているように感じた。そのため、読んでて実にキツいものが多かった。
それにしても、表題作の登場人物、向畑治三郎の本当どうしようもない人生の変遷を描き、最後に「この無類に好人物の、哀れな、罪のない男の幸福な晩年を祈りたい。」と表する、作者の度量の深さに驚嘆する。それとともに、その思いを裏切るかのようなラストの"史実"にもまたどうしようもない人間のあり -
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人間のよさ。戸板康二が描く「中村雅楽」という人物の魅力をひとことで言えば、そういうことになるのではないか。
鋭い観察力と洞察力とで身の回りに起こる「面白い」事件(「日常の謎」と言ってもいいが)を鮮やかに解決しながらも、そこにはいつも人間のあたたかい血の流れが感じられるのだ。それは、主人公「中村雅楽」が歌舞伎役者(しかも名門の出ではない)として人生の大部分を劇場で過ごしてきたことと無関係ではないだろう。役者はひとりでは生きられない。相方や脇役、裏方としてはたらくたくさんの人々、そして劇場に足を運ぶ観客がいてはじめて、舞台の上でスポットライトを浴びることができる。雅楽の、事件の当事者に対する慈愛