日下三蔵のレビュー一覧
-
購入済み
巻末に著作リストが付いてます!
著者の「おはなし」は“星へ行く”シリーズが刊行されたころから読んでいて、エッセイなども含めれば相当網羅しているほうですが、手元にない作品も収録されているので購入しました。
実は紙の本も購入しているのですが、短編集なので隙間時間に読むため持ち歩き用に電子版も購入した次第です。
連作短編も良いのですが、個人的には「チグリスとユーフラテス」の外伝が読んでみたかったのが大きな購入動機です。
既に所有している本に収録されている作品も多いのですが、著者のいろいろな面を一度に読めるので、ファンの方はもちろん、今まであまり触れたことが無い方にも読んでいただけると良いなと思います。
なお、巻末の著作リストは著者のファンなら手元において損はないと思います。(もちろんネットなどで検索すればすぐに出てくるとは思いますが) -
Posted by ブクログ
ネタバレ恋愛や恐怖、サスペンスなど様々な黄泉味を持つショートショート終生。同じショートショートでも今まで読んできた星新一のものとは全く雰囲気が違うのが面白い。それでいて星のものと同じ時代を超えていくような普遍的な面白さというものは共有しており、迫力や貫禄を感じる。この才能が若くして失われてしまったことは本当に口惜しいことだ。ファンタジーやSFではなくある程度身近な現代の話が多く、人間の奇妙な運命や出来事が数々のどんでん返しや感情を動かすようなざわめくような奇妙ながら身近な感覚を呼び起こす。恋愛系も皮肉なものが多い星と比べて愛自体はしっかりと存在しているのが印象的な。(時折恐怖に変貌する)さらに印象に残ったこととして爽やかな夏の終わりと秋の初め、晴天を思わせる作品が多いのにじっとりしたあるいはさっくりとした閉塞感もまた印象深いことがある。取り返しがつかないことやどうしようもないことが急に目の前に現れる場面、そうした時にあらわれる自覚も言語化も難しい感覚を発見して提示させることにより得られる深く共感する感覚といってもよいだろうか?かつて共感できはずなのにもうできない、もはや輪郭だけしか見えないものへの未練か…。作者の死によってこの感覚は完成しているのかも?
夏の葬列。この中でも特に名高い一作だがそれも納得だ。あまりにも残酷ながらどこか爽やかな印象。
はやい秋。叙述トリックが予想もつかずに驚かされた。
彙集。ある意味で人間の強さといったところか?
メリイ・クリスマス。最初ベランダのシーンの未知との遭遇感が印象的だ。終わり方も爽やかな暖かさがある。
ロンリー・マン。恨んで殺してもなお隣にいて当然と声をかけてしまう相手。
箱の中のあなた。主人公の擬態ぶりにすっかり騙されたゆえに変化への印象が強い。弱々しい女から恐ろしく魅惑的な妖女への転身。異様な迫力と魅力のある表紙と合わせて良い。
暑くない夏。もはや手の届きそうもない誰かの感覚への一瞬の接続。なんとも言えず言葉に詰まるが心が動いた。
トンボの死。コモン的な人生のままならなさを、思いもよらぬ角度で具現化しているのが印象的。
新年の挨拶。どこにでもありそうな見たこともない奇妙な現実。
昼の花火。一瞬の中にあり消えゆく思い出。記憶が苦手ゆえに少し違う意味だが身に覚えがあり一体化するような感覚。
猫の死と。あまり強い言葉はないが閉塞感と暗さが一段重い短編。
夫婦の仲。微笑ましい秘密のふれあいとでも言おうか?王道がこういうのが好きだ。
「別れ」が愉し。あまりにも別世界の人生。だがどこか憧れるし羨ましい、どこか嫌でこうはなりなたくない。玉虫色の他者に触れる面白さ。
未来の中での過去。人間の感性と受け取りとは、周囲の環境や時代の変化などあらゆる刺激から生まれる。それゆえに別の場所や別の時代に生まれた人間とは根本的に共有できないものである。そういう事実を再認識させられるようなお話。向こうは自分と同じ人生や感情をこれから永遠に生きようとも獲得などしないし、自分のそうした感じかたなどは永遠に他人と共有できず自分だけのものでありここにしかない。その不安感と寂しさ。
昭和の雛人形。逆にそうした自分の感性の中に沈み込むことのできる聖域とした人間を側から見る物語。上と合わせて読むと面白い。
ゲバチの花。失われてしまったものが、ほんの1日だけそこにある。奇妙な巡り合わせであり、その感性と感覚がほんの一瞬だけ現れて永遠に消えてしまうこと、それを繋ぎ止めたいと願う思い。
蛇の殻。どうしようもない事情によりどんどん取り返しがつかなくなっていく感覚だけがある閉塞。隣にいたはずのヒトが容易くそれを脱いで進んでいく孤独感。暗黒に自分だけ沈み、周りが消えて1人だけになっていくような緩慢な絶望。
遅れて坐った椅子。その時、そのタイミングしか感じられない感性や経験や景色がある。それを永遠に取り逃してしまったことを後からじっくりと味わうことになった場面。もはや遠く永遠に不明のままであり、取り返しがつかないことをもう手遅れになってから知ること。もう永遠に満たされたないと分かった上で新しく生まれてしまった未練。
-
Posted by ブクログ
角川ミステリーに収録されている「芋虫」が伏せ字が酷くて本書を購入。「芋虫」は良かったのは言うまでもないが、「人間椅子」「虫」など人間が無意識下に封印しているが確かに持っているであろう残虐性・異常性が描かれた作品がすばらしく、乱歩の虜になってしまった。なお、本書は全短編集であるがゆえに「悪霊」や「空気男」のような途中で取りやめになった作品も納められていて、ジャズのコンプリート版のようにある程度我慢して鑑賞しなければならい部分もある。
本書に納められている作品の中での一番のお気に入りは「人間椅子」。家具職人が椅子を改造して中に入り込み、座る部分に太もも、肘掛けに手、背もたれに胸といった具合でその椅子に座った人の体格や体温を体で感じとる。そしてある婦人に恋をする。家具職人は椅子の中にいるので婦人の顔は見れないが、婦人を体で感じ恋してしまうのだ。アニメのキャラクターに恋するような心境と似ていないでもないが、恋の対象についての情報は極端に限られているので感覚を研ぎすませてもっと相手を知ろうとする集中力と不足した情報を補う妄想が必要であり、ビビッときたような、突然雷に打たれたような、文字通り「落ちる」恋ではない。少しずつ少しずつ、相手への想いを積み上げて醸成される恋である。オタクや変態のさらに先にあるような恋である。なんと切なくも激しい恋ではないか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレモナドの領域同様、こっちも御書印巡りのときに買ったやつだったはず。モナドよりだいぶ昔のはずだが。
こっちはSF短編集だった。小説の背景設定を見ると、だいぶ昔に書かれたものっぽくはあった。1964年から78年の作品。
・いじめないで
出力が穴開きテープというだいぶ古いタイプの人工知能と、世界崩壊後に唯一生き残った男性がやり広げるドタバタ喜劇というか。酒をかけられたり、部品を破壊されそうになり怯える機械と、どんどん酔っ払っていく男性。そして最後には全部埋もれて終わり。登場人物が二人というミニマルな話。
・しゃっくり
タイトルを見ただけでは内容が思い出せなかったが、交差点にいた主人公だけじゃなく、世界中で10分間が繰り返される話。だがハルヒとかだったらメインキャラだけが記憶を保持しているだろうが、今回は全人類が記憶を保持しているので、10分間が永遠に繰り返され、その間に死ぬ人は生き返り、頭が狂っていく。主人公が、ループする10分間を使って本を何冊か読むというのが、賢いけど違う意味で狂ってそう。
主人公も狂いそうになったところで不意にループが終わって、日常に戻っていく。
タイトルのしゃっくりが何かのきっかけだったのかとちょっと読み直したけど、特になかった。
・群猫
地下の地下の地下にある漆黒の下水道で生活している盲目の猫たちやワニがテレパシーを会得して、猫たちがこれまでワニに食い散らかされてきた復讐を遂げるだけの話。SFっちゃあSFだが…
・チューリップ・チューリップ
なんでチューリップなんだ?タイムマシーンを作ってしまった男性が、ちょっとしたズレで4人に増え8人に増え、16人になり…
過去に戻ったら宇宙が膨張しているから過去の世界では現代の体だと巨人になってしまっているという解釈は面白かった。が、終わりが意味わからんかった。
・うるさがた
これもまた人工知能、というか機械に命令される話。途中まで二人、後半は三人だがやはりミニマル。小さいSFが面白いわー。人の気持ちを理解しない機械との漫才で、最後の終わり方もめっちゃ良かった。
・やぶれかぶれのオロ氏
こっちもまた機械との漫才状態。人間の報道は意思が入ってしまい、信用できないので機械の報道陣だけを呼んだ結果、ちょっとした発言の矛盾を突っ込まれまくり、更にその矛盾に耐えられなかった報道ロボットが次々に爆発していき、最後の機械が壊れたあとに主人公もキレすぎて死んだ。
・堕地獄仏法
思ったより長かったのに終わりが突然だった。打ち切りかな。
固有名詞がやたらと実在のアレコレに近いし内容もなかなか危うい、筒井康隆節だなぁ。
最後は主人公がなにか問題解決のための物語を書いたりするわけではなく、拷問を受けるところで終了。
・時越半四郎
時をかける男性!
やたらと現代感を持った侍、しかもテレポートまでできる江戸SF!なのに最後はテレポート先の座標に鳥がいて、心臓部分にめり込んで死亡という悲しさ。デートしてた姫がかなりのトラウマを被ってそうで哀れ。
・血と肉の愛情
ミノタウロスの皿めいたお話。この星に不時着した異星人の人が主人公的ポジションかと思いきや、途中でサラッと食べられる。愛も食欲も同じ、「食べちゃいたいほど可愛い」を地で行く星の人たち。
・お玉熱演
選ばれしブサイクであるお玉さんが未来人にもてあそばれて、猿回しのようなポジションで動画を撮られる、なんか今で言うyoutuber感がある。
・慶安大変記
予備校と大学生の戦争が勃発。筒井康隆的展開がガッツリで、もうすぐに血みどろ展開になる。ちょっとお互いを挑発しただけでどこからかポンポン銃器が出てきて予備校生も大学生もどんどん死ぬ。
あと、予備校を大学に昇格させるのを予備校生がしれっと要求してたりする。
なにより、全部終わったあとに主人公が普通に予備校に入って勉強を続けるのがまた良い。
・公共伏魔殿
悪の組織NHKを揶揄ったお話。放送センターの地下には隠された施設があり、ディレクターが好き勝手やってたり、一発屋タレントが飼い殺しされていたり。NHK、許さん!
・旅
桃太郎や西遊記を追体験するバーチャルアトラクション… のように思えるが、実際は犯罪者の大脳を取り出し、そこで半永久的に疑似体験をさせる刑罰。怖すぎるけど、割とみんな好きなことできてるから刑罰になってるのだろうかと思った。
・一万二千粒の錠剤
一粒飲めば一年長生きできる錠剤を100粒、120人の20~25歳のできる若者にプレゼント!
ただし名前は一般に広く公表するし、錠剤はこの12000粒しか存在しないしもう作れない。
なぜ公表した…
そりゃ血で血を洗う闘争になるよ。
・懲戒の部屋
徹子の部屋かな?
電車内でのちょっとした騒動から痴漢の濡れ衣を着せられた上にどんどんえらいことになっていく、女性専用車両などもなかったはずの頃に書かれたリアルすぎる短編。あまり笑えない。
・色眼鏡の狂詩曲
突然作者が登場。海外の人が日本を見るときの色眼鏡vs日本から海外を見るときの色眼鏡。
中国人があるある言ってるあるのはこの頃からあったんあるだなぁ。ネット時代の今でもそんなに変わってないんだろうなと思う。
解説にもあったが、今読んでも、時代背景が古い感じはするように思うときはあるけど、ネタとして普通に楽しめる。筒井康隆作品だからなのか、SFだからなのか。
と言っても、昔過ぎて言葉遣いが違って読めないとかじゃない限り、内容を理解できなかったりネタがわからなかったりというのはそうそうないような気もした。