【感想・ネタバレ】堕地獄仏法/公共伏魔殿のレビュー

あらすじ

蠱毒(こどく)の小説集

開けば毒に包まれ
読めば笑いと戦慄で震え……

筒井康隆の小説は蠱毒である。
読めば強烈なショックを受け、その面白さに侵される。
巨大な権力を握った某国営放送の腐敗と恐怖を描き、
一読すれば受信料を払わずにはいられない「公共伏魔殿」、
諸事情によりここにはあらすじを書けないもうひとつの表題作「堕地獄仏法」、
ロボット記者たちに理路整然と問い詰められた政治家がパニックになり、
無茶苦茶な答弁をしてしまう「やぶれかぶれのオロ氏」、
大学生と予備校生の喧嘩が殺し合いにまで発展してしまう「慶安大変記」など初期傑作短篇16作を収録。
ひとの愚かさが変わらないかぎり、筒井康隆の小説は面白い。
つまり、筒井康隆の小説は永遠に面白いのである。

編者解説:日下三蔵

【収録作品一覧】
「いじめないで」(「NULL」10号/1964年1月)
「しゃっくり」(「SFマガジン」1965年1月号)
「群猫」(「別冊宝石」1963年9月号)
「チューリップ・チューリップ」(『東海道戦争』早川書房/1965年10月)
「うるさがた」(「SFマガジン」1965年5月号)
「やぶれかぶれのオロ氏」(「NULL」7号/1962年7月)
「堕地獄仏法」(「SFマガジン」1965年8月増刊号)
「時越半四郎」(「話の特集」1966年11月号)
「血と肉の愛情」(「メンズクラブ」1966年7月号)
「お玉熱演」(「話の特集」1966年6月号)
「慶安大変記」(「SFマガジン」1967年10月号)
「公共伏魔殿」(「SFマガジン」1967年6月号)
「旅」(「SFマガジン」1968年2月号)
「一万二千粒の錠剤」(「週刊プレイボーイ」1967年8月15日号)
「懲戒の部屋」(「小説現代」68年6月号)
「色眼鏡の狂詩曲」(「小説現代」1968年4月号)
あとがき(『東海道戦争』ハヤカワ・SF・シリーズ)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

モナドの領域同様、こっちも御書印巡りのときに買ったやつだったはず。モナドよりだいぶ昔のはずだが。
こっちはSF短編集だった。小説の背景設定を見ると、だいぶ昔に書かれたものっぽくはあった。1964年から78年の作品。

・いじめないで
出力が穴開きテープというだいぶ古いタイプの人工知能と、世界崩壊後に唯一生き残った男性がやり広げるドタバタ喜劇というか。酒をかけられたり、部品を破壊されそうになり怯える機械と、どんどん酔っ払っていく男性。そして最後には全部埋もれて終わり。登場人物が二人というミニマルな話。

・しゃっくり
タイトルを見ただけでは内容が思い出せなかったが、交差点にいた主人公だけじゃなく、世界中で10分間が繰り返される話。だがハルヒとかだったらメインキャラだけが記憶を保持しているだろうが、今回は全人類が記憶を保持しているので、10分間が永遠に繰り返され、その間に死ぬ人は生き返り、頭が狂っていく。主人公が、ループする10分間を使って本を何冊か読むというのが、賢いけど違う意味で狂ってそう。
主人公も狂いそうになったところで不意にループが終わって、日常に戻っていく。
タイトルのしゃっくりが何かのきっかけだったのかとちょっと読み直したけど、特になかった。

・群猫
地下の地下の地下にある漆黒の下水道で生活している盲目の猫たちやワニがテレパシーを会得して、猫たちがこれまでワニに食い散らかされてきた復讐を遂げるだけの話。SFっちゃあSFだが…

・チューリップ・チューリップ
なんでチューリップなんだ?タイムマシーンを作ってしまった男性が、ちょっとしたズレで4人に増え8人に増え、16人になり…
過去に戻ったら宇宙が膨張しているから過去の世界では現代の体だと巨人になってしまっているという解釈は面白かった。が、終わりが意味わからんかった。

・うるさがた
これもまた人工知能、というか機械に命令される話。途中まで二人、後半は三人だがやはりミニマル。小さいSFが面白いわー。人の気持ちを理解しない機械との漫才で、最後の終わり方もめっちゃ良かった。

・やぶれかぶれのオロ氏
こっちもまた機械との漫才状態。人間の報道は意思が入ってしまい、信用できないので機械の報道陣だけを呼んだ結果、ちょっとした発言の矛盾を突っ込まれまくり、更にその矛盾に耐えられなかった報道ロボットが次々に爆発していき、最後の機械が壊れたあとに主人公もキレすぎて死んだ。

・堕地獄仏法
思ったより長かったのに終わりが突然だった。打ち切りかな。
固有名詞がやたらと実在のアレコレに近いし内容もなかなか危うい、筒井康隆節だなぁ。
最後は主人公がなにか問題解決のための物語を書いたりするわけではなく、拷問を受けるところで終了。

・時越半四郎
時をかける男性!
やたらと現代感を持った侍、しかもテレポートまでできる江戸SF!なのに最後はテレポート先の座標に鳥がいて、心臓部分にめり込んで死亡という悲しさ。デートしてた姫がかなりのトラウマを被ってそうで哀れ。

・血と肉の愛情
ミノタウロスの皿めいたお話。この星に不時着した異星人の人が主人公的ポジションかと思いきや、途中でサラッと食べられる。愛も食欲も同じ、「食べちゃいたいほど可愛い」を地で行く星の人たち。

・お玉熱演
選ばれしブサイクであるお玉さんが未来人にもてあそばれて、猿回しのようなポジションで動画を撮られる、なんか今で言うyoutuber感がある。

・慶安大変記
予備校と大学生の戦争が勃発。筒井康隆的展開がガッツリで、もうすぐに血みどろ展開になる。ちょっとお互いを挑発しただけでどこからかポンポン銃器が出てきて予備校生も大学生もどんどん死ぬ。
あと、予備校を大学に昇格させるのを予備校生がしれっと要求してたりする。
なにより、全部終わったあとに主人公が普通に予備校に入って勉強を続けるのがまた良い。

・公共伏魔殿
悪の組織NHKを揶揄ったお話。放送センターの地下には隠された施設があり、ディレクターが好き勝手やってたり、一発屋タレントが飼い殺しされていたり。NHK、許さん!

・旅
桃太郎や西遊記を追体験するバーチャルアトラクション… のように思えるが、実際は犯罪者の大脳を取り出し、そこで半永久的に疑似体験をさせる刑罰。怖すぎるけど、割とみんな好きなことできてるから刑罰になってるのだろうかと思った。

・一万二千粒の錠剤
一粒飲めば一年長生きできる錠剤を100粒、120人の20~25歳のできる若者にプレゼント!
ただし名前は一般に広く公表するし、錠剤はこの12000粒しか存在しないしもう作れない。
なぜ公表した…
そりゃ血で血を洗う闘争になるよ。

・懲戒の部屋
徹子の部屋かな?
電車内でのちょっとした騒動から痴漢の濡れ衣を着せられた上にどんどんえらいことになっていく、女性専用車両などもなかったはずの頃に書かれたリアルすぎる短編。あまり笑えない。

・色眼鏡の狂詩曲
突然作者が登場。海外の人が日本を見るときの色眼鏡vs日本から海外を見るときの色眼鏡。
中国人があるある言ってるあるのはこの頃からあったんあるだなぁ。ネット時代の今でもそんなに変わってないんだろうなと思う。

解説にもあったが、今読んでも、時代背景が古い感じはするように思うときはあるけど、ネタとして普通に楽しめる。筒井康隆作品だからなのか、SFだからなのか。
と言っても、昔過ぎて言葉遣いが違って読めないとかじゃない限り、内容を理解できなかったりネタがわからなかったりというのはそうそうないような気もした。

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2023年11月26日

Posted by ブクログ

久々の筒井康隆。50年以上前の初期短編集だけど全く古びない毒の強さは流石、公共伏魔殿なんかむしろ今こそ読まれるべき。そして人が死ぬ描写のリズミカルさは爽快的でいつも笑ってしまう。

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2021年01月31日

Posted by ブクログ

書かれたのが、六十年代という半世紀前の作品群とは。現代にも通じるテーマ。政治と宗教の関係からVR,国営放送等、最近も社会を騒がせたモノが多く、いかに筒井康隆が社会を鋭く見ていたか分かる。

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2020年07月29日

Posted by ブクログ

おもしろかった。
AIという言葉こそ使われないものの、発達しきった人工知能が人間の欺瞞をあばく話がいくつかあって(いじめないで、やぶれかぶれのオロ氏など)すなおに笑える。「時越半四郎」は、AIではないけど、やはり日本人の不可解な思考回路を笑いとばす話で最後にちょっとしんみり。しかし、これ、1966年初出だから50年以上前だけど、今も変わってないどころかいっそうひどくなってるんじゃない?

「しゃっくり」はタイムループの話。このアイディアだけで長編も書けるのにね(北村薫の『ターン』とか)。最後に憑き物が落ちたようになる人々がおかしい。

「慶安大変記」は、初出が高3コースだったという大胆さが笑える。よく学年誌にこんなアナーキーな作品を(^_^;; このガンガンエスカレートしていく感じ、なぜか痛快。

表題作の「公共伏魔殿」なんかは、「ありそう!」「わかる!」と笑いつつも、クライマックスがひたすら気持ち悪くて(笑)ここらへんはもう好みだなと思うわけですが、全体としてすごくおもしろく読めました。じつは筒井康隆、ずっと食わず嫌いしていたので(このエグさが、かつては無理だった)これからもう少し読んでいこうと思います。

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2020年06月28日

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