【感想・ネタバレ】獏鸚のレビュー

あらすじ

科学知識を駆使した奇想天外なミステリを描き、日本SFの先駆者と称される海野十三。鬼才が産み出した名探偵・帆村荘六が活躍する推理譚から、精選した傑作を贈る。麻雀倶楽部での競技の最中、はからずも帆村の面前で仕掛けられた毒殺トリックに挑む「麻雀殺人事件」。身元不明の美女の轢死事件に端を発した、神出鬼没の怪人“赤外線男”との対決を描く「赤外線男」。異様な研究に没頭する夫の殺害を企てた、妻とその愛人に降りかかる悲劇を綴る怪作「俘囚」。密書の断片に記された暗号と、金満家の財産を巡って発生した殺人事件の謎を解く「獏鸚」など、10編を収録した決定版。

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Posted by ブクログ

幅広いバリエーションに富んだ作品集。これだけあれば、必ず1つくらいは気に入るものがあるのではないだろうか。私は「省線電車の射撃手」が結構気に入った。青空文庫でほとんどが読めるので、そこで読んでみるのもおすすめ。

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2021年04月11日

Posted by ブクログ

ちくま文庫の怪奇探偵小説傑作選〈5〉海野十三集―三人の双生児を分冊して、再刊したもの。ちくま文庫版も持ってますが、もちろん買いました。内容はもちろん素晴らしいです。

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2016年01月26日

Posted by ブクログ

横溝正史を読み、繋がりのある海野十三へ。名前は有名ですが読むのは初めて。

横溝正史と海野十三について。
当時雑誌「新青年」の編集者だった横溝正史が、海野十三の原稿を他の人に「校正しておいて」と渡したらその人は原稿をまるっきり書き直してしまったらしい。そのため海野十三っぽさはまるで無くなってしまったんだが、時間もないし、申し訳なく思いながらもその書き換えたものを発表した。しかも当時公務員だった海野十三がペンネームを使っていたのに、うっかりと本名を雑誌に載せてしまったんだそうな。個人情報、著作権ってもんが全くない 笑
横溝正史は海野十三に対して「大変ご迷惑を…」と大いに反省しているが、海野十三は横溝正史に感謝の弁を述べているので、当時の書き換え・代作当たり前の大らかさも感じる。
横溝正史と海野十三は個人的にも繋がりが深い。困ったときにはお互いに援助仕合い、戦中戦後の助け合い関係が感じられた。
そして海野十三はかなりの軍国主義者だったようだが、読んだ感じではそんな感じなかった。

さて、こちらの短編集は素人探偵帆村荘六(ほむら そうろく・シャーロック・ホームズを捩った)による事件簿。
副題が『名探偵帆村荘六事件簿』であり、海野十三の科学知識を駆逐したミステリーというので本格推理小説かと思ったが…読んでみたらこれはトンデモ科学のトンデモミステリーだった笑・笑・笑
なにしろ「科学」というのが、「肉食動物の胃液を集めた容器に死体を入れて溶かす」とか、「死体を凍結させて細かく砕く」とか、「内蔵と同じ形の容器を作り、ある振動を加え、人体へと共鳴させて、内蔵破壊する」、「赤外線でないと見えない怪人」が出てきたと思ったら「薬により目が赤外線が見えるようになった」人も出てきたり 笑
しかし警察の捜査も「銃痕の入射角度により犯人の位置を捜査する」という概念もなく、それを指摘された担当刑事が一生懸命数式を作るとか、血痕についても「血液型などというハイカラな考えはなかった」という時代。そんなときに「入射角度」「赤外線」というのはハイカラな推理小説だったんだろう。そして理数系の方にこの短編集で書かれている科学犯罪、例えば「自動ピストル発射装置」が理屈の上では可能なのかを分析していただきたい。
さらに、どの犯人も動機はどうでもいい扱い 笑。連続殺人を「変態殺人」「殺人淫楽者」、盗みを行った男が死んだのだが何を盗もうとしたかは書かれていない、などなど。

日本の探偵小説の初期は、動機だとか、なぜ探偵が犯人だと気がついたのかとかは重要視されなかったんですね。
こうなったら読者としては物語そのものと、当時の庶民生活を楽しみましょう。


『麻雀殺人事件』
帆村荘六の目の前で麻雀の客の一人が毒殺された。帆村荘六は意地をかけて解明する。
…犯人目星をつけたのが「怪しくないから」っていいのかこれ 笑

『省線電車の射撃手』
省線電車内で女性が射殺される。銃痕の入射角度を指摘された担当刑事は、計算式を作って犯人の位置を捜査していく。
…捜査担当刑事が、指摘されるまで入射角度なんて考えてもいなかったとか、それを確認するのも担当刑事だというのが時代ですね。警察組織にはいつから科学捜査専門ができたんだろう。

『ネオン横丁殺人事件』
お座敷で殺された主人。隣の座敷にいた妾の証言には矛盾があるが、殺人不可能なようだ。
帆村荘六は「自動ピストル発射装置」を解明して…。

『振動魔』
不倫相手が妊娠して困った男が、科学の力によりこっそり堕胎させようとする話を男の知人が語る。不倫する二人も問題だが、この語り手がかなり嫌らしい。

『爬虫類館事件』
動物園で園長が行方不明になった。園長は肉食動物の餌になってしまったのだろうか?

『赤外線男』
女性殺人犯は、赤外線を通さないと見えない「赤外線男」なのか!?
…ダリアという女が出てくるんだが、この時代に洋風の名前での純日本人で大柄で開けっ広げで男性と洩ザック・バランな関係になる、って、なかなか面白い人物だ。このダリアの結末もなかなかに面白い。

『点眼器殺人事件』
帆村荘六は怪しい依頼人に誘拐されて、誰にも知られずに殺人事件を解明するように言われる。そこは近頃社会を騒がす秘密結社の総本山だった。
…社会を揺るがす秘密結社というのが、戦前の日本の不穏さを感じさせる。

『俘囚(ふしゅう)』
こ、これは…かなりキモチワルい。
研究室に閉じこもり悪魔の実験を行う博士。そんな変態陰険陰湿身勝手夫に嫌気が差している妻は、夫を井戸に落として殺したと思ったのだが…。
この実験が相当気持ち悪い。語りは夫である博士を殺した(と思っている)妻で、蓮っ葉な感じなのだが、嫌な夫(本当に気持ち悪い嫌なヤツです)を片付けてスッキリすると思いきや、鏡に映る自分の顔に「自分は殺人者になったんだ」と悶える描写などとてもうまい。
終盤相当キモチワルいが、この妻の蓮っ葉さが潔くもあった。

『人間灰(にんげんかい)』
西風の日に従業員が行方不明になる湖沿いの工場があった。湖を漕いでいた男は、気球に気がつく。そしてなぜか血塗れになっていた…

『獏鸚(ばくおう)』
たまたま入手した暗号は、社会を揺るがす秘密結社によるものなのか。
暗号解読物なのだが、映写機とか日本語や英語の発音を利用しているなど、当時にしては最先端科学だったんじゃなかろうか。
…暗号の「獏鸚」と聞いて、獏と鸚鵡を背中でくっつけた怪物?を想像するってどういう発想だ。この本の表紙がその「獏鸚」です。

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2023年06月28日

Posted by ブクログ

1930年代に描かれた日本SFの先駆者による奇想天外なミステリー集。探偵・帆村荘六が活躍する10編の短編を収録。さすがに時代を感じる短編が多いのだが、奇抜なトリックと時代を超越した発想力に今読んでもなお魅力を感じる。

『麻雀殺人事件』。オーソドックスな探偵ミステリーといった作品。帆村の目の前で起きた殺人事件…犯人は誰か…

『省線電車の射撃手』。電車内で起きた女性を狙った連続射殺事件に帆村が挑む。

『ネオン横丁殺人事件』。密室で起きた射殺事件に挑む帆村は真相をあばくことが出来るのか。

『振動魔』。まさに奇想天外なトリック。この短編には帆村は登場しないのかと思いきや、最後に颯爽と登場する。

『爬虫館事件』。動物園の園長の失踪事件は意外な方向へ向かう。帆村があばく真相とは。

『赤外線男』。帆村が赤外線男なる怪人と対峙する奇妙な物語。

『点眼器殺人事件』。またまた奇妙な殺人事件に帆村が挑む。

『俘囚』。唯一、既読の作品。この短編集の中では一番面白い作品だと思う。

『人間灰』。もしや、帆村は登場しないのかとやきもきするが…

『獏鸚』。帆村が暗号解読に挑む表題作。

海野十三といえば、遥か昔に『十八時の音楽浴』と『蝿男』くらいしか読んだことが無いのだが、どちらも強烈な印象を残す作品だった。

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2015年08月04日

Posted by ブクログ

戦前の帝都東京を舞台にしたミステリー短編集。
昔の小説という感じはさすがに否めないが、雀荘の雰囲気、恵比寿や目黒ですらうら寂しい感じ、井戸に旦那を放り込んでしまう感じ、会話のテンポ感など、随所に漂うレトロ感や当時の空気感が何とも言えず味わい深い。

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2022年12月28日

Posted by ブクログ

探偵、帆村荘六モノのミステリー短編集。ああやはり戦前のミステリの持つこの独特の空気感がイイですねぇ。
アンソロなどで単発でしか海野作品を読んでこなかったので、こうしてまとまったのが手に入るのがありがたい。当時の最先端の『科学』と(麻雀やらトーキーやら)モダンな『風俗』が絡んでどの作品も甲乙つけがたく魅力的でした。
帆村の飄々としたところが『探偵』らしくてとても好みw
来月出る2冊目も楽しみですね。

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2015年08月05日

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