日下三蔵のレビュー一覧
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横溝正史の作品には、「長編はめちゃくちゃ面白いが短編はそこまででも…」というイメージを持っていたのだけれど、この本を読んでそれは大間違いだったと気付かされた。あの短いページ数でこれだけのドラマを見せてくれるなんて。それはものすごい技巧であるのに、それを必要以上に感じさせず、さらりと読ませてしまう。すごい。どの短編も楽しかった。めくるめくワンダーランドのような一冊だった。中でも特に面白いと思ったのは「妖説血屋敷」「青い外套を着た女」だった。恐ろしい昔話に彩られたものから、軽快な読み口のもの、不思議な後味のもの……本当に楽しい読書の時間だった。
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「夜のリフレーン」と対を成す単行本未収録短篇集。76年から96年の16作。
改めて言うが単行本未収録でここまでのクオリティ。全然書き散らしていないのだ。
「小説の女王」と呼ばれる所以もここで、小説への愛が小説を書かせているのだ。
一作ごとに語りの形式を工夫し、作者の好みや興味を突き詰めることで熟成される、短編小説の粋、まさにここにあり。
ある時代のある女性が感じていた感情のフレイバーが、数十年後のおっさんに、ここまでびんびん響くとは。
少女的な厭世観に浸されたいという願望が、あるんだ。それを皆川博子が、満たしてくれるんだ。
しかし皆川博子は甘美な少女時代に読者を封じ込めない。「かつて少女だった -
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ネタバレ1963年かー、「夜終わる時」。
さすがにそんな頃の昭和は知らない。でも、読んでいて、昭和のあの夜の暗さがじんわり迫ってくる感じがよかった。
だからさ、夜が蛍光灯の白くまばゆい明かりでなく、白熱電球の赤みがかった灯りだった頃…
と、なんだか前に片岡義男を読んだせいなのかw、妙に文章を飾っているようで自分で笑っちゃうんだけど、それはそれとしてストーリーといい、登場人物といい何とも言えない哀感があって。妙にメランコリックになってしまうというか、ついそういう文章になってしまうというか、そういう本だったなぁーと。
とはいえ、たかが本の感想なわけで、とりあえず本のタイトルになている「夜の終わる時」は -
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ネタバレ初期作品群が中心の未単行本化の短編を集めた第二弾。こちらはより「こういうのも書いておられたんだ」というまっすぐなミステリや官能色強めなものもあり、やはり作者の懐の広さを感じるものばかりでした。
表題作や「致死量の夢」、「魔笛」あたりが艶めいていて個人的にはとても好きです。幻想混じりというより、人間の業の深さをえぐった話が多いように思います。「死化粧」は謎解きとしての物語の面白さのほかに、飄々とした語り口が良い意味で「らしくなく」、凄く新鮮でした。
近作の技巧と知識と幻惑さが極まった長編作品はもちろん大好きですが、こういった過去作品があってそれらがあるのだと思うと、大袈裟のようですが確かな「歴史 -
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横溝正史『丹夫人の化粧台 横溝正史怪奇探偵小説傑作選』角川文庫。
横溝正史の初期短編14編を収録。角川文庫から横溝正史の新編集本が刊行されるのは15年振りらしい。30年前は本屋に行けば必ず角川文庫の横溝正史作品が並んでいた。当時は書棚に並んだ黒い背表紙に緑色のタイトルに目を引かれ、読み漁ったものだ。本作の場合は黒い背表紙に白文字タイトルだった……
今読み返すと流石に時代を感じるし、今では差別用語となった言葉も登場し、少しドキリとする。
横溝正史の作品は江戸川乱歩の作品とも似ているが、江戸川乱歩よりも陰湿で底知れぬ不気味さを感じる。いつも事件を颯爽と解決してしまう神出鬼没の明智小五郎に対し -
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『百億の昼と千億の夜』に代表される光瀬龍の世界とは、私が思うに、とどめようのない衰退と絶望、そのなかでひとり抗う主人公というものだ。
かつて栄耀栄華を誇った世界である事が前提となるものの、必ずといって良いほど、作品のあちこちに、その世界が今吸いたいに向かっていること、滅びつつある事がうかがえる。
一方、短篇が多い光瀬龍の未来宇宙では、しばしば「東キャナル市」という火星の街が登場する。
この街もまた、かつては太陽系の中心都市ですらあったのに、今は見る影もない場所として描かれる。
たとえば、いったい誰を表したものとも知れない銅像の下でたむろする、老いさらばえたスペースマンたち。彼らの多くはサイ