Posted by ブクログ
2012年10月14日
内容(「BOOK」データベースより)
宇宙へ出た人類に襲いかかったもの、それがM・E。ひとつ前の宇宙の残滓であり、人間に悪意をもつ、小天体の姿をした存在。精神を食いちぎり人を異質なものに変える。これを破壊せんと連合はハンターを育成し宇宙へ送るが、戦いは絶望的だ。しかもハンターがM・Eの顎に倒れると、...続きを読む精神的に強く結ばれた恋人や肉親までもが変貌するのだ。日本SFの里程標的傑作を完全版で贈る。
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SFマガジン連載時からワクワクしながら読んでいて、1984年にハヤカワ文庫から出たときは夢中で「これは未完の大傑作だ!」と吹聴して回っていた。このたび書籍未収録だった2編を加え、創元SF文庫から[完全版]として復刊された。完全版とはいえ、本書はマインド・イーターと人類との戦いのごく一部の事象を描いただけで、書かれなかった物語の奥行の広さを感じずにはいられない。惜しいことに作者は1989年以降執筆をしていないようなので、[完全版]と標榜しつつも、やはりどうしても未完の大作という感覚がぬぐえない。
マインド・イーター。それは、ビッグバン以前の宇宙の残滓であり、人類に対する憎悪が結晶したものである。彗星と呼ばれる形態で人類に襲いかかり、接触したものを異質な存在に変化させ、被害者と強いつながりがある者の精神を食いちぎる。
マインド・イーターは岩石であり、結晶であり、音楽であり、原初の言語である。
30年近く前に読んだ本を再読したわけだが、自分で驚くほど細部を覚えていた。描かれるシーンや会話が魅力的だったせいだろう。一方、未来社会の描写(通信手段やコンピュータ、新聞、車等)が古めかしく見えてしまうのは、致し方ないところか。
飛浩隆が「日本SFが成し遂げた最高の達成」という惹句を書いているが、「日本SFが到達した“極北”のひとつ」という意味では賛意を表する。これほど絶望的な精神戦も、そうそうあるものではない。