又吉直樹のレビュー一覧
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未完成?
主人公は、いつも自己演出し、そんな自分を自分であざとい人間だと考えている。実際は凡人なのだと自覚してみるが、才能に憧れ、素の自分を見失っている。本書は、そんな自分から脱皮しようと足掻く男の青春小説であり、『花火』『劇場』に続く三部作の締めか、と始めのうちは想像しながら読んでいた。でも読み進めるうちに、これが後の作品の出発点になってほしいと感じた。読後感想を率直に言ってしまうね。これは未完成作品? 何か骨組みだけの建物を見た感じがした。スカスカのところがいっぱいあって、それぞれの物語の間がもっと埋まっていないといけないのでは、と。つまり主人公が抱える自己演出問題は、昔の恋人、旧友、父親という線を辿るだけでは語りきれない複雑さがあるだろうし、もっと多くの線を取り上げて辿らないと重さが釣り合わない気がする。「その灯の一つ一つに人間がいる」と締めくくらないで、まだまだ書き続けて、見えるもの全部を字にしてほしかった。又吉さんが、中上健次みたいに同じ風景の話をこれでもかこれでもかと今後書くのであれば、すごく読みたい。 -
Posted by ブクログ
小説を読んでいて笑っちゃうことって基本ないのに、又吉さんの文章を読んでいると普通に笑ってしまう。さすが芸人だなと思う。一方で、シリアスな場面はとことん刺しにくる。思想や欲望を恥ずかしいくらい赤裸々に書かれてしまって、それに身に覚えがあるもんだから「もう勘弁してください」となったりする。
新約聖書の福音書には4人の語り手が採用されていてそれぞれ印象が違う証言になっている、という本編中にあった例え話のとおりで、人の記憶は曖昧であり都合の良いふうに解釈したり都合の悪いことを無かったことにしてる。主人公・永山が語る過去や見えている景色が現実のものかどうかは分からず、そのすべてを信用はできない
ただ、それは永山がそういう人間だからということではなくて、誰しもがそうだと考える。実際に起きた現象について、我々は目と脳というフィルターを通してしか認識できないし、そのフィルターは人によって違う。
著者である又吉さんに関しては、他の小説家と比べてキャラクターとか背景の情報が世に知れ渡っている。
僕自身、又吉さんの動向を特別追っているわけではないけど(YouTubeチャンネルは時々見てる)、それでも彼は出役なのでどうしても情報が入ってくる。そうすると小説という作品と向き合う中で、これを書いている作家の姿がチラつく。本作は内容的にも特に。それって良いことなのか悪いことなのか考えたりもした。でもじゃあ意識的にそれを除外しようとかは無理だし、結局それ込みで楽しむしかないかという結論に至った。
僕も永山のように、『自分は人間が拙い』という自覚がある。この小説を読む前から持っていた感覚だった。大人になるにつれて、周りは当たり前みたいに社会人になっていくのに、そのやり方が僕にはわからないというか、いまだに社会人のふりをして過ごしている節がある。
社会なんてものは人間が勝手に作った枠組みで、その中のルールだって物理法則みたいに絶対のものではないのだからそれに合わせられなきゃ人間失格なわけじゃない、ってことは頭ではわかっているのだけど、それを受け入れることが今はまだできていない。 -
Posted by ブクログ
影島道生がナカノタイチに当てたメールがエグい。
ここまで人に理詰めできるのかと驚いた。しかも揚げ足を取るとか、ただ揶揄するとかではなく、周りを否定せず、ナカノタイチだけを逃さないように取り囲み、言葉で刺す。 これが又吉直樹か、と。自分に言われてるかと感じるところもあり、読むのがしんどい箇所もあった。
又吉さんのYouTubeも面白くてよく観る。この小説はほんと又吉直樹そのものだろう。エピソードがYouTubeで語られていたのと同じだった。同じなのに文字でもちゃんと笑えた。
人間。その弱さ。人間が作る社会。その端に追いやられる弱き者。人間は弱い。拙い。
良い小説に出会えた。 -
Posted by ブクログ
髙島野十郎展の企画で、又吉さんのトークイベントに当選したので行ってきました。髙島野十郎の月の作品に魅せられて又吉さんから県立美術館に問い合わせがあり、その後親善大使になられた経緯があるそうです。こちらの本の紹介があり、お取り寄せ。表紙の松本大洋装画の子どもの絵にも惹かれる。
見出しだけでも又吉さんの哀愁がたっぷり漂い、自意識過剰さに愛おしさを感じる。月の灯りで街角の隅っこがほんのり照らされているような読後感。学生時代や下積み時代、現在の交友関係、家族とのユーモアあふれるエピソードが満載。特にお父様の存在は近づいても離れても大きな存在のようで胸が熱くなりました。私も父に連絡しよう。
独りで過ごしているときの胸の内(独り言カルタ、戯・語源辞典)の不条理さは癖になりそう。