スティーヴン・キング&ぺヴ・ヴィンセント編「死んだら飛べる」。飛行機に纏わる「恐怖」を描いた短編を編んだアンソロジーで、SF、ゾンビもの、怪談風のもの、リアルに怖い話からファンタスティックなもの、ミステリーまで、多種多様。そして、最後の一編は小説ではなく詩、というところが、一ひねり加わっていていっそう印象深いものになっていると思います。
全17編中初訳が10編。編者のキング大先生とご子息ジョー・ヒルはこのための書下ろし!私はヒルのことを「もしかしたら父親以上の天才では」と思っているのですが、今回も「よくこんなことを思いついたな」というような、絶望と希望が入り混じった一編だし、われらがキング先生はやっぱりキング先生で、ただし「優しい方のキング」というのも、父子でバランスがとれていると思いました。
どれもこれも際立っていて、すべてを一つ一つ紹介したいのですが、さすがに多いので心に残ったものだけ紹介しますと、まずはコナン・ドイルの「大空の恐怖」から。飛行機が飛び始めて間もない時代にこの着想を得たドイル先生はさすがとしか言いようがありません。とある有名な飛行士が消息を絶ってのち、彼が書き残した手記が英国の片田舎の農場で見つかり、一部が欠損しているものの、その手記に書かれていたのは想像を絶する大空の恐怖、というもの。高度四万フィートがまだ人類未到達だった時代の大空への憧れと恐怖を描いています。
「高度二万フィートの悪夢」はみんな大好きリチャード・マシスンの作品。そう、あの映画(もとはドラマ)「トワイライトゾーン」の中でジョン・リスゴーが主演した一本の原作です。これは外せませんね!
レイ・ブラッドベリの「空飛ぶ機械」は古代中国を舞台にした不思議で残酷なお話。詩情と悲しみに彩られた幻想小説です。
「彼らは歳をとるまい」は「チャーリーとチョコレート工場」でおなじみのロアルド・ダールの作品。ダールは第二次大戦のエースパイロットであり、瀕死の重傷から一命をとりとめたという事実を鑑みれば、この短い物語はもしかすると彼自身が体験したのでは?と思いたくなります。
順番は前後しますが「戦争鳥(ウォーバード)」(デイヴィッド・J・スカウ)は爆撃任務を行う兵士たちの戦場(空中)での生々しい描写に息をのむ一編。松本零士の戦場まんがシリーズにも通じる戦場の恐怖と戦争のむなしさに慄然とします。
そして、最後を締めるのはジェイムズ・ディッキーの詩「落ちてゆく」。飛行中の旅客機の非常口が突然開いて、客室乗務員が空に吸い出される(放り出される)という珍しい事故の実話をに着想を得て書かれた、恐怖と美しさに満ちた短い叙事詩。大空を漂う客室常務員は、地上に墜落したあともしばらく息があったという・・・。なんというこのアンソロジーを締めくくるにふさわしい一編であることか!
ああ、最後に一つだけ。この本は空の旅へのおともにはお勧めできません。空の恐怖をリアルに味わいたい、というのなら別ですが。