白石朗のレビュー一覧
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人は二本足で立った時から、次に空を飛ぶことにあこがれてきた。
同時に、二本足になったことで感じる「不安定さ」を「不安感」という感情に置き換えて、遺伝子にインプットされてしまった。
「足元の無い」状態の「落下」に対する不安感は誰にでもあり、ある人は「刺激」として喜び、ある人は「恐怖」として忌み嫌う。
人類が自力による飛行を諦め、飛行機械を生み出したのは、ほんの120年前の出来事。以降は移動手段として、多くの人が「あこがれ」の空を体験することができた。
そんな時代だからこそ、この本が生まれた。
気の利いたスティーブン.キングの序文や、ベヴ.ヴィンセントのあとがきを含め古今の短編が19話。
映画「トワイライトゾーン」でおなじみのリチャード.マシスン「高度2万フィートの戦慄」や、アニメ「紅の豚」で飛行機乗りの墓場のエピソードとして取り入れられたロアルド.ダール「彼らは歳をとるまい」など、どこかで一度は目にしたことのある物語もあれば、今回のための書き下ろしも含まれている。
物語は「落下」以外にも、「密室」や「未知なる世界」など様々な「不安感」の仕掛けが施されて、短編一つ一つに原題「flight or fright」(fight or frightもモジっている)が凝縮されている。
「絞首刑に遭う旅客機」の表紙絵や、意味不明な邦題「死んだら飛べる」などと合わせて、テーマを「空の恐怖」とするアンソロジーは、見事に成功している。
スティーブン.キングは、本当に飛行機が嫌いなの? -
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文庫本で全4冊、各巻がそれぞれ500ページ以上あるので、総ページ数が2,000ページを超えるという、とんでもない超大作。
しかも、主な登場人物のリストが4ページもあり、実際に登場する人物は遥かにこれを上回る。
実は、単行本で一度挫折した経験があるのだが、その理由は、この膨大な登場人物の行動や相関関係を理解するのに苦しんで投げ出したんじゃなかったかという気がする。
今回改めて通読して感じたことは、よくもこれだけの架空の人物を登場させ、しかもそれぞれの人物がちゃんと「生きて」いて、最後まで破綻していない、という、圧倒的なリアリティを持っているということだ。
キング作品にある感動的な展開はあまりないのだが、架空の町の架空の人物たちによる闘いの模様は、2,000超ページを通して圧倒されるばかりだ。 -
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『シャイニング』で幼い子どもだった主人公が中年になり、同じく超能力をもつ少女とともに、子どもたちの命を狙う一族との闘いに挑む。
あのダニー坊やがアルコール依存症になり、すさんだ生活をしている序章は、読んでいて気分も下向きに。でも、どん底の暮らしぶりがあったからこそ、その後の少女とのかかわりや一族との闘いにも説得力が加わっり、深みが出ている。
『シャイニング』を初めて読んだのは数十年前。
逃げ場のない閉鎖的な空間で、徐々に追い詰められていく恐怖は圧倒的で、しばらくは物語の世界をひきずって、動物の形の植え込みにぎょっとしたり、出張先のホテルでバスルームをのぞくのが本気で怖かったのを覚えている。
以来、何度か再読するほど、キングのなかでは好きな作品だ。
そんな前作とはまったく趣が異なるけれど、これはこれでおもしろい。思いもよらなかった設定に驚かされ、後半のスピーディーな展開にはらはらして。全体的に人間味のある温かさも加わって、心地のよい余韻が味わえた。
そのうち映画も観てみようかな。時間があれば、『シャイニング』のほうも、また本と映画を見比べてみたい。 -
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ネタバレあとがきで、作者が愛する中篇小説は「どこをとっても必要不可欠、いっさいの無駄がない。」と書かれてましたが、正に、これに納められている4つの中篇がそうだと思いました。全てがテイストの異なる、怪奇幻想の要素もあるのですが、人間ドラマとして、考えさせられつつ、楽しく読ませていただきました。
「スナップショット」は、不思議なカメラの登場でホラーに展開するかと思いきや、主人公とシェリーのやりとりが、悲しく展開されるのが切なかったです。
「こめられた銃弾」。久々に、結末を読者の想像に委ねる小説を読みましたが、この終わりかたが、ものすごく怖い、が、絶品だと思いました。二つの異なる恐怖が同時に迫りくる、これが現実だったらと絶対に思いたくないような終わりかたです。
「雲島」は、スカイダイビング中に雲に着陸してしまった(突き抜けずに雲の上に立てた)若者の、SFっぽいのですが、私は青春物語だと思いました。非現実的な場所で、過去を振り返りつつ(彼には片想いしている女性がいる)、現実を見つめ直す主人公が、吹っ切れて思うままに行動する姿は感動的で爽快でした。爽快さがダイビングと上手く結び付いているのが、また素晴らしいです。
「棘の雨」は、近未来の世界を見ているような舞台で、自分の意思で人生を切り開いていく主人公に、感情移入しました。差別問題のメッセージに考えさせられながら、最後の意外な結末でエンターテイメントとして、すごいと思いました。
どの中篇も、単に不思議で怖いだけでなく、色々な考えさせられる要素が入っているからこそ、味わい深いのだと思います。時間をおいて、また読んでみたいと思いました。 -
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ネタバレ上巻では、死を目前にした友人から頼まれた勢いで過去に戻り、歴史の転換点であるケネディ暗殺を阻止して、世界に平和を取り戻すための行動をとることにしたジェイク改めジョージの心情にどっぷりはまってしまった。
しかし、間をおいて中間を読むと、「マジですか?」って気持ちがふつふつと…。
だって離婚は不本意だったとして、やりがいのある仕事があり、多分友人だってアル以外にもいただろうし、あるの見世以外にも行きつけの店はあっただろうし…。
そういう現在の生活のすべてを捨てて、見知らぬ世界で人殺しをする?
それが世界のためだと言われても。
至る所たばこの煙が立ち上っているような世界で、人種差別は甚だしいし、夫が妻に暴力をふるうことは当たり前すぎて誰も疑問に感じない。
しかし、欠点はあるものの、いつしか過去の生活になじみ、恋をして、ジェイクはオズワルドを殺した後もこちらの世界で生きていこうとまで思う。
しかし、過去は変えられることを好まない。
過去の世界の入り口で、何度戻っても同じことを繰り返していた「イエロー・カードマン」が、「オレンジ・カードマン」になったあたりから不穏ではあったのだけど、同じことを繰り返すはずのカードマンが殺されてしまったところから、実は私たちの知っている過去は変わっているのではないかと思えてしまう。
それ以外にも、「ジムラ」という言葉の意味すること、亡くなった友人と同じ苗字のテンプルトン一家、セイディーの本名とハリーの母の名前の近似性。
未来を思い起こさせる小さな違和が、徐々にジェイクを包囲して、そしてセイディーの危機とオズワルドの始動が重なった時…!
この巻はここまで。
やれやれ、息つく暇がないったら。 -
Posted by ブクログ
ネタバレアメリカ人はリンカーン暗殺とケネディ暗殺について語るのが好きだなあと思う。
まあ、日本人が本能寺について語るようなものか。
ケネディが生きていたら世界は今とは違っていたはずだ。
そう信じている友人アルに、死期が迫っている自分の代わりに過去へ行って、ケネディ暗殺を阻止してほしいと頼まれるジェイク。
ワンアイデアでこれほどの超大作。
けれど、全然無駄な部分がない。
その「穴」は、どういう理屈で過去と繋がっているのかはわからない。
ただ、毎回同じ場所同じ時間に戻されるので、過去に対応すること離れてくると比較的簡単だ。
ただし、一度現代に戻ってから過去に来ると、全てが振出しに戻っていることになるが。
ケネディの暗殺を阻止する前に、本当に過去を変えることができるのかを検証する必要がある。
しかし、過去は変化を望まない。
過去を変えようとする人間に襲いかかる過去の抵抗。
過去には意思があるのだろうか?
毎回必ず同じ場所同じ時間に戻るとアルは言ったが、ジェイクが過去に戻った時、ほんの些細な違いが表れ始める。
それはどういうことなのか?
頭の中は高速で物語世界を理解しようと回転し、ページを繰る手は止まらず、スティーヴン・キングの手のひらで転がされているような気がしてくる。
けれど、キングだよ。
必ずしも勧善懲悪とは限らない。
理不尽に不幸な目に遭っている一家はもっと不幸になるのかもしれないし、そもそもケネディの暗殺は実行されているのだから、ジェイクの苦労は水の泡の可能性の方が高い。
誰一人救うことができずに徒労に終わるのだとしたら、どうやってカタルシスを得たらいいのだ、私は!
だから、キングだよ。
登場人物たちが不幸になるのか幸運をつかむのかはわからないけれど、この本が面白いのは間違いないだろう。
まだ上巻を読み終わっただけだけど、それはもう、はっきりしている。