池澤夏樹のレビュー一覧
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ネタバレ実際にフランスに行ってみると、日本とのあまりの違いに反発することもありますが、その一方で素晴らしいところもたくさんあります。自分と全く違うものを学ぶということは、比較が可能になるということです。自分の国しか知らないと比較が難しい。例えば、北朝鮮です。今、我々が外側から見て、「民衆はさぞや不幸だろうな」などと思いますが、結構幸せかもしれない。一つしか知らない人間は、かなり幸せなはずです。自分と他を比較するようになると、人間は不幸になります。
しかし、さらに比較を進めることによって、逆に、自分とは何かが分かってくる。あるいは、自分たちと比較することによって、他者が分かってくる。だから、フランス -
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本書は、池澤夏樹さんが東日本大震災に寄せたエッセイ、コラムを再構成したものです。
表題は、ポーランドの作家ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩集からの引用とのこと。
本書では、被災者や困難と闘った人に光を当てたり、ジャーナリズム向けに書いたりするのではなく、単に震災の全体像を描こうとしたようです。
動揺、哀しみ、怒り、希望などが綴られ、思考を重ね練り上げた良質な言葉が並びます。池澤さんの様々な想いが行間から立ち上がるようです。
印象的だったのが、池澤さんの日本人観と震災後の日本の歩みの記述でした。先日読んだ、外国人ジャーナリストのルポの視点と同様だったためです。
良くも悪くも「諦めの -
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ネタバレこういう、家族の一代記ものはもともと好きで読み応えもあった。
軍人として、天文学者として、そしてキリスト教信仰者として信仰との矛盾に悩みながらも生きる主人公とその妻たち(先妻の死亡後に再婚)が魅力的だった。特に2番目の妻のヨ子(ヨネ)さんが魅力的だった。
終戦後、彼女が夫に向かって言う
ヨ子「でも終わりました。次は勝てばいいのですよ。平和のための戦に」
利雄「そんなものがあるか」
ヨ子「平和と繁栄の日本を造ってかつての敵を見返す」
軍人だった利雄がヨ子と再婚したのはよかったなと感じた。彼女によって短い戦後の人生ではあったけど利雄は救われたのではないかと思った。
靖国神社の扱いについてここはい -
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ネタバレ讃美でも、無味乾燥な研究でもなく、ほどよい熱量で、忌憚ない解説。
まずは、文学としての体裁が整っていないという前提をハッキリ。
その上で、物語伝承記録書と歴史の記述を同時に行っているから、その歪みも後々把握しづらい文章になっている、と。
現在の天皇制に対しては言及を控える、というくだりも、いいスタンス。
にしても日本書紀、万葉集と、数十年単位で文章の筋合いがかなり異なるとか、ますます興味惹かれる。
旧約聖書、ギリシャ神話、 西アフリカの伝説など、縦横無尽なのも、よい。
ちなみに107p「アジア大陸の上に架かった虹としての日本列島と南西諸島」、つい最近何かの本で読んだばかりのはずなのに、何だった -
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ようやくきちんと読んだ古事記三巻。アマテラスが弟スサノヲの所業を見て、天の岩屋戸に入って中から戸を閉じてしまう話や、八俣のオロチをスサノヲが退治する話、稲羽の白兎と大国主命の話あたりはよく知っているが、あとは代々天皇の伝説的な話が続く。とても読みやすい現代語訳ではあるし、池澤夏樹氏が丁寧につけてくれている注釈を参考にしつつ読めば話についていくことはできるが、如何せん、代々天皇は妻が多く子だくさんで、もちろん伝説と実話の区別は不明だから、名前が列記されているページはかなり読み飛ばしてしまった。
古代ヤマトを伝える書物として、古事記、日本書紀があるが、解題によれば、日本書紀よりも古事記の方がはるか -
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ネタバレ新聞連載の大作。少し前の『ワカタケル』を思い出させる単行本の文量だ。
著者池澤夏樹の大伯父・秋吉利雄の生涯を透し、近代日本の歩んだ歴史を描き出す、一市民の大河小説。
歴史の大まかな流れは日本人なら誰もがよく知る大正~昭和史、その大きな流れの中で、海軍軍人でありキリスト教信者、そして天文学者という、一見相容れない側面を持つ主人公の人生、ヒトトナリを、いかに矛盾なく描き通すかが見せどころ。
主人公利雄は、当然のことながら、キリスト教の信仰と軍人としての責務(戦争としての殺人行為)を、個人の中で、矛盾を抱え葛藤しつつ、人生を全うしていく。
史実の中に、個人の生の存在を描き出す筆致は、30 -
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池澤夏樹さんの大伯父・秋吉利雄さんの生涯を描いた作品。秋吉さんは海軍軍人、天文学者、キリスト教徒として明治~終戦まで生き、決して戦争に賛成ではないが、海洋地図製作などを通じて一翼は担う状況だった。あの太平洋戦争は誰が見ても間違いで、多くの人が敗戦がほぼ決まった状況の中でも無駄に命を落とした。海軍少将まで出世し海外のこともよく知っており冷静な判断ができる秋吉さんのような人たちが、どのような行動に出れば戦争を回避または早く終わらせることができたのだろうかと思う。特別な地位もなく海外も知らない当時の多くの国民にはできることは限られていただろう。主流のように見えてもおかしいなと感じることがあれば声を上
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