池澤夏樹のレビュー一覧
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著者のお二人を「理想的な親子」と言ったら、言い過ぎでしょうか?
もちろん、見えないだけで、家族にはいろんな側面があると思います。
でも、この本で本について語り合うふたりのやりとりには、
まさに “同志” としての絆を感じる、信頼に満ちた空気が流れていました。
私も父とはあまり多くを語りませんが、本のことだけは、なぜか少しわかり合えている気がします。
父は、本を読む私を、どこかで信じてくれているような気がするんです。
そして今は、幼い娘とも、いつかそんな関係が築けたら、と願ってしまいます。
もしかすると私は、娘のために、少しずつ本を集めているのかもしれません。
いつか彼女が困ったとき、つら -
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日露戦争の12年前にクリスチャンとして生まれ、軍人となり、天文学者として功績をあげた秋吉利雄。敗戦とともに地位を失い生涯を閉じた海軍少将を綴る歴史物語です。
700頁におよぶ長編で、明治から昭和初期にかけてのモビリティの発展を個人の生活史から知ることができます。
航海技術が世界をつなげ、鉄道で組織化がすすみ、自動車と1903年の飛行機によりカオス化したあの時代に、位置情報を提供する水路部の職業軍人として活躍した個人史です。
ずしっとくる読後感。耐えきれなくなり1/700の戦艦のプラモデルを組み立てることで和らげたくなる大日本帝国の敗戦物語でもありましま。 -
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北海道の開拓史に関心のある方に、おすすめしたい一冊です。
昭和13年を生きる主人公「由来」の回想を通して、明治10年、札幌の開拓使本庁に勤めていた伯父「三郎」と、アイヌの人々との交流や暮らしぶりが描かれています。
物語は、淡路島出身の侍の子である三郎とその弟・志郎が、御一新の流れを受けて北海道・静内に開拓民として移住するところから始まります。
本作は、アイヌ文化の衰退を個性豊かな登場人物たちとともに描く歴史小説であり、文明開化の波に呑まれていく人間の姿を伝えてきます。
私自身、すでに狩猟民族を滅ぼしてしまった「文明」の側にどっぷりと浸かっている身ですので、読んでいてとても重たい気持ちに -
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人と自然との距離は、どんどん広がっています。
自分が生きる場所の風景、風土を大切にする。
それを意識して生きていきたいと思います。
私は星野道夫さんの写真や本が大好きで度々読んでいます。
この本でも紹介されている「遠くの自然、近くの自然」という星野道夫さんの言葉があります。
自分が都会で忙しく暮らしているこの瞬間にも、アラスカではクジラが海面からジャンプしているかもしれない、そうして自然を感じることで、少し気持ちが落ち着きます。
私は山が好きでよく行きますが、春山さんがこの本で仰っている「いのちが外に開かれる」「地続きでいる感覚」というのが、何となく理解できます。
自然に触れて、自分に見えてい -
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乱世の世をいかに生ききるか。
平成の世、堀田善衛(ほったよしえ)はあまり読まれなかった。けれども一周回って、今こそ読まれるべき時代になっているのではないだろうか。
池澤夏樹、吉岡忍、鹿島茂、大高保二郎、宮崎駿という現代の知識人が、如何に堀田善衛に惚れ影響を受けてきたか語り尽くした新書である。これは、富山県の高志の国文学館の特別展の図録になっている。絶妙の堀田善衛入門にもなっていた。
堀田善衛の青春時代に親交があったのは、池澤夏樹の父親たちマチネ・ポエティックという詩人グループであり、その関係からその前半生を語っている。昭和の初めから戦後間も無い頃の文学を語る上で、堀田は幅広い親交があり、か