あらすじ
漂着した南の島で否応もなく始まった孤絶の生活。
文明世界を脱した青年は、自然と一体化する至福を刻々と体感していく――。
この上なく鮮烈な長篇デビュー作。
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終盤があまりにも美しい小説だった。
不運に見舞われ太平洋の無人島に漂着した主人公。都市の生活から自然の生活に移ったことで、生きることが手段ではなく目的へと変わり、その生活にも慣れていく。
中盤に入ると、彼の周辺は一変する。島を移ったことで現代文明に触れ、そして文明人と出会う。
そのアメリカ人との邂逅が、自然と一体化した(そう思っていた)彼の心境までも変えてしまう。
彼の自然に対する虚構が暴かれ、向き合い直し、最後に見た悪夢。これらの一連の流れによって生じるカタルシスのようなもの。しっとりとした小説だったが、いつまでも残響が耳を漂っていた。
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ある男の漂流記。初めは巧みな情景描写に吸い込まれ自分も漂流したかのような不安感があったが、新しい環境にだんだん適応していく彼の冒険のような日常は発見と驚きに満ちていて、先が気になりどんどん読み進めてしまった。次はもっとゆっくり言葉を味わって読み返したいと思える作品。
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最近は池澤夏樹にハマっている。なんとなく、彼の清潔で頭の良さそうな感じの物語世界が今の気分にぴったりな感じ。文明社会に組み込まれつつも少しだけ距離を取り、人間以外の世界の仕組み(動植物や星空や宇宙など)と対比させる感じが、巣篭もり生活の良き伴走者になってくれる感じがする。
本作は、文学版「あつ森」みたいな感じで、ちょっとした気の緩みから孤島に流れ着いた新聞記者が、島の生活に順応していくという物語。遠い南の島の孤独な生活がとても心地よい感じがする。
読後感は、ゴツゴツとした感触で、まさしく、処女作といった感じの小説だった。これから文章で身を立てていくという意気込みみたいなのがとくに後半部から書き連ねられており、その気迫みたいな熱さを感じた。
これから飽きるまで彼の作品を追っていくつもりでいるのだけれども、どうなるか気になる。
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情景が爽やかで、初夏窓辺で風に当たりながら読みたいなと思った本。
彼が無人島に流れ着き、1人で環境に順応しながら新しい生活を作っていく。
しかし、島本来の生きる姿になりきることもできず、過去の自分がいた世界を捨て切ることもできず自分がどう生きるべきかを模索する心理描写がとてもよかった。
そもそも自分が何者かなんて他人ありきで決まるものだし、彼のように真剣に考えたことすらなかったなぁ。
今の私が私である必要なくなった時、どう生きるかな。そんなことを考えて読んでいた。
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再読日 19940301 20000529
主人公のヤシが島で生きていくための知識をひとつずつ覚えていくのが、自分のことのように感じられて面白い。島の生活に馴れた結果、文明との距離の取り方、そしてラストで文明に回収されることを先延ばしにし続ける態度に共感できる。マイロンの別荘があるため、文明と完全に隔絶しているわけでもない、いわば中間の存在。このような島での生活ができれば、文明の日常に帰還する必要ってあるのだろうか? 20000723
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20250903
とても面白かった。うまく言えないけれど、一度読んでさくっと「こんな感じかな」というふうに感想がまとめられる小説もあれば、なんだかわからないけれどものすごすぎて、どう自分の考えをまとめたらいいかわからないような小説もある。
これは明らかに後者。3回目位かな、今回で。なので色々と読みながら思い出したりとか、今回も結構たくさん線を引いて、なんとなく理解が進んでいると思う。でもまだこの小説の本質を捕まえられたかと言うと、そこまでいってない気がする。
解説の人の述べていることは正しいかどうかはわからないけど、ものすごく何か斬新な視点でぶっ飛んできた感じがして、結構インパクトがあった。
途中でメモしたけど、解説の人が最後に書いている「南方への憧憬」に加えて、「反近代社会性」とか「反物質文明」とか、そういうところがやっぱりこのデビュー作で既に現れているんだな。それが『すばらしい新世界』とか『光の指で触れよ』とか、そういったところにやっぱりつながっているんだなあっていうのが、今回改めて感じられた。
これは星5ですな。満点の5ではないんだけど、4.7とか4.8とかそのぐらいでいっちゃっていいと思う。また読み直すと思う。そのぐらい、やっぱりなんだろう、うまく言えないんだけど、ものすごく深く刺さる作品だった。やっぱり俺、池澤夏樹好きなんだなあ。
続いて『マシアス・ギリの失脚』を読むか。
※音声入力テキストを「Claude」の日本語整理により作成
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あらすじは、「彼」が遭難して、無人島で暮らす。以上。その生活を見事な文章で綴りあげています。情景描写と心境語りのバランスが非常に良くて、するする入ってきて、共感を生みます。
そして何より、詩的です。この作品を読んだことによって、ピタゴラスイッチ的に伊坂幸太郎の「重力ピエロ」の評価が下がりました。「重力ピエロ」は筋書きは面白くないけど、時々びっくりするほど詩的なことを言い出す、それが唯一良いところだと思ってました。しかし、「夏の朝の成層圏」を隣に置いたら陳腐に見えます。「重力ピエロ」は、台詞に詩を仕込んでくるので非常に違和感があったのですが、こちらの作品がそこのバランスがとてもいい(無人島なのでそもそも台詞がない)。
非常に感動しました。美しい小説です。買います。
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すごいすごい、素晴らしい。
無人島に漂着して、生命を維持することが目的の生活を送る。
その愉悦と現実に戻らないことへの背徳感。
想像力で人はここまでのものが書けるんだなあ。
本当にこの作家さんは素晴らしい。
世界と人間を手のひらにのせて、見せてくれる。
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初版は1990年、著者の小説デビュー作。
内容の概要を書いてもいいのだけれど、それを書いてしまうとこれから読む人たちのあの最初の印象を奪ってしまうことになるので、伏せておいた方がいい気がする。
そうなるとここに書くことは、一体どういうものがいいのだろう。わたしの、漠然とした、自分にしかわからないイメージや浮かんだ言葉の列挙か、もしくはどこかの引用か?
とにかく、淡々とした描写の中に、具体的なものと漠然としたものが混在し、主人公の思考も、その思考の移り変わりも、かなり鮮明になって頭の中に浮かび上がる。
小説としてもすごくおもしろかったけれど、お金以外で量る幸福度を考えるのにもいい本じゃないかと思った。
一番好きな設定は、主人公の元々の職業が地方の記者だったってこと。
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無人島に漂着した青年のお話。
最初ロビンソンクルーソーのような物語かとおもいきやSFのようでもあり、実は現代のお話である。
自分の身に起こりえない設定なのだが、読み進むうちに「そうなったらこう思うかも」と思い始めてくるのが怖いところだ。
万人向けにすすめられるかと聞かれると悩むけど、個人的に面白かった。
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すごくすきだ。この透明感。
いざという時の道を確保しながらのサバイバルだし、現実逃避気味の楽園ラブな作品かもしれないけど、なぜか惹かれてしまう。
やしのサバイバル能力が素晴らしい。
パンの実っておいしいのかな、、、
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なんだか行き詰まった時に読む本です。
今まで何回かお世話になりました。
現実逃避じゃん!っていわれるとそれまでなんですが、読んだ後はなんだかすっきりするんです。
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新聞記者のヤスシ・キムラは、遠洋マグロ漁についてのレポート企画の準備をしているとき、誤って船から落ちてしまい、無人島に流れ着きます。彼は、自分が漂着した島を「アサ島」と名づけ、ヤシの実やバナナを食料に現代のロビンソン・クルーソーのような生活を送ります。しかし、周辺の島の探索をはじめた彼は、「ユウ島」と名づけた島に一件の家が建てられているのを発見します。そして、その家にアメリカ人の映画俳優であるマイロン・キューナードがやってきて、二人は出会うことになります。
彼は、文明社会へつながる導線を保ったままで島の暮らしをたのしむマイロンに、ときおり説明のできない反発をおぼえます。マイロンは、そんな彼の態度にロマン主義的な心情を見てとり、そのことを指摘しますが、彼にとってより大きな問題だったのは、マイロンに出会ったことでみずからの心情に説明がつけられてしまうことに対する疑いでした。やがてマイロンは島を出ることになりますが、彼はまだしばらく島に滞在すると告げ、自分自身の体験を記すことを決意します。
南洋での彼の生活は、文明と自然を対照する視座そのものを包むようなスケールを示し、彼はそれを前にして説明することばをうばわれながらも、表現を通じてその自然を包み返す試みへとつながるプロセスがえがかれているように感じました。
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文章がかなり好み。常夏の島の景色や、音や温度が脳裏によぎり、そこに自分も行ったように感じる。大変魅力的な文章。
彼のように全てを捨ててしまいたくなること、時々あるから、共感しながら読んだ。
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「考えてみると昔からぼくは『あそこ』的な人間だった」
背景や詳しい状況がよく分からないところから始まり、引き込まれる。
現実離れしているようで妙に現実感のある独特の雰囲気。
漂着したすぐの頃の、椰子の実との格闘が面白い。
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ここではないどこかへたどり着いた彼。
つむぐ物語は無人島でなんとか生をつなごうとするところから、いずれ戻らなければならないところへたどりつくまでの休暇。
あとがきの池澤夏樹は「境界を描く作家」というのが心に残りました。
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素晴らしい。哲学的であり、詩のようにも美しい小説。特にヤシが島で暮らし続けてマイロンと対話しながら深い自問自答を繰り返し、最後には「書く」ことに辿り着く過程は感銘を受けた。海外にいるときに読んだので色々と自らの体験に重ね合わせられることも多かった。
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池澤夏樹さんのデビュー作。
無人島に漂流した主人公と自然との関わりを描いたもの。
最初は苦労しながらも何とか生き抜いていた。
そんな矢先、他の人が訪れたことで元の世界に戻れる機会を得る。
しかし、彼は帰還することなくあえて自給自足を続けた。それは何故か。
そうさせる力や欲求というのは簡単に説明することのできないものだ。しかし、最後には主人公はその生活で学んだことを表現しようと決意する。それは可能なのかどうか。
池澤さんは感覚と思考、この二つを両立させようと試みているように感じる。また、目に見えないもの、形を成さないものに対しても敬意を払っている。その大切さを感じているからだと思う。
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独特な空気感と理屈が南の島という舞台に融合していて気持ち良く読めた気がした。
どっちが本当の世界なのか、どこからが日常なのか、境界線がないようであるものの、それも曖昧。
そんな感じが心地良い。
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抑制されたリズムの中に一言一言が重みを持っています。空気の薄いところで自分の現実に出会ったらこんなように際立って感じるのかな。無人島漂着した主人公、と設定やストーリーは物語世界のものですが、表現された肌感覚や主人公の思考には諸手を上げて共感。それが美しい言葉で。うーん、折々で読み返したい本になりました。
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ぼくが彼になって、またぼくに戻ってくる話。
振り返ってみて後から「あれは幸せなことだったんだ」と気付くこと。生きることに一生懸命で居られることは幸せなんだと彼が気付くくだりに、自分を重ね合わせて少し泣いた。
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無人島に漂流した青年の島でのサバイバル生活の話。池澤夏樹さんの小説デビュー作。過酷な漂流から無人島にたどり着き、「生きる」。冒険物にあるワクワク感や緊張感を感じない、不思議な透明感ある小説。著者のメッセージや根底を探ると難しいので、さらっと読み進めた。再読だったが、いつかまた読んで探ろう。
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南の島に漂流したお話。
この設定は、何個か読んだことがあるけれど、
このお話の彼、ヤシはとても冷静で前向きで暢気。
文章も不快(な状態の)描写が殆ど無く、
南の島に対する筆者の愛情が溢れ出ていて、美しい。
上質のファンタジーを読むみたいに、すんなりと世界に浸ることができた。
生きていくということ、社会と世界、人と人の繋がり、仕事、生活について
とても真摯に向き合った作品。
とっても面白かった!気持ちいい読書、大好きです。
マイロンとヤシの関係が可愛いくて、ちょっとにこにこしてしまった。
池澤夏樹さんの本をもっと読んでみたい。
Posted by ブクログ
個人的に、そしてきっと多くの人が惹かれてしまうだろう南の島のロビンソン・クルーソー生活。憧れゴコロを満たす南の島の風物を十分に描きつつ、一人の男性の成長、友情などをさらりと織り込み、さらにこのベタなネタたちを冷静に(しかし冷徹ではなく)見つめる視線が心地よい。
Posted by ブクログ
無人島漂流。
日々生きる為だけに活動する、生のシンプルさに惹かれた。生きることに必要なものはほんの僅かである。
なのになぜ都市へ人は群がるのだろうか。