あらすじ
漂着した南の島で否応もなく始まった孤絶の生活。
文明世界を脱した青年は、自然と一体化する至福を刻々と体感していく――。
この上なく鮮烈な長篇デビュー作。
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Posted by ブクログ
終盤があまりにも美しい小説だった。
不運に見舞われ太平洋の無人島に漂着した主人公。都市の生活から自然の生活に移ったことで、生きることが手段ではなく目的へと変わり、その生活にも慣れていく。
中盤に入ると、彼の周辺は一変する。島を移ったことで現代文明に触れ、そして文明人と出会う。
そのアメリカ人との邂逅が、自然と一体化した(そう思っていた)彼の心境までも変えてしまう。
彼の自然に対する虚構が暴かれ、向き合い直し、最後に見た悪夢。これらの一連の流れによって生じるカタルシスのようなもの。しっとりとした小説だったが、いつまでも残響が耳を漂っていた。
Posted by ブクログ
ある男の漂流記。初めは巧みな情景描写に吸い込まれ自分も漂流したかのような不安感があったが、新しい環境にだんだん適応していく彼の冒険のような日常は発見と驚きに満ちていて、先が気になりどんどん読み進めてしまった。次はもっとゆっくり言葉を味わって読み返したいと思える作品。
Posted by ブクログ
情景が爽やかで、初夏窓辺で風に当たりながら読みたいなと思った本。
彼が無人島に流れ着き、1人で環境に順応しながら新しい生活を作っていく。
しかし、島本来の生きる姿になりきることもできず、過去の自分がいた世界を捨て切ることもできず自分がどう生きるべきかを模索する心理描写がとてもよかった。
そもそも自分が何者かなんて他人ありきで決まるものだし、彼のように真剣に考えたことすらなかったなぁ。
今の私が私である必要なくなった時、どう生きるかな。そんなことを考えて読んでいた。
Posted by ブクログ
再読日 19940301 20000529
主人公のヤシが島で生きていくための知識をひとつずつ覚えていくのが、自分のことのように感じられて面白い。島の生活に馴れた結果、文明との距離の取り方、そしてラストで文明に回収されることを先延ばしにし続ける態度に共感できる。マイロンの別荘があるため、文明と完全に隔絶しているわけでもない、いわば中間の存在。このような島での生活ができれば、文明の日常に帰還する必要ってあるのだろうか? 20000723
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20250903
とても面白かった。うまく言えないけれど、一度読んでさくっと「こんな感じかな」というふうに感想がまとめられる小説もあれば、なんだかわからないけれどものすごすぎて、どう自分の考えをまとめたらいいかわからないような小説もある。
これは明らかに後者。3回目位かな、今回で。なので色々と読みながら思い出したりとか、今回も結構たくさん線を引いて、なんとなく理解が進んでいると思う。でもまだこの小説の本質を捕まえられたかと言うと、そこまでいってない気がする。
解説の人の述べていることは正しいかどうかはわからないけど、ものすごく何か斬新な視点でぶっ飛んできた感じがして、結構インパクトがあった。
途中でメモしたけど、解説の人が最後に書いている「南方への憧憬」に加えて、「反近代社会性」とか「反物質文明」とか、そういうところがやっぱりこのデビュー作で既に現れているんだな。それが『すばらしい新世界』とか『光の指で触れよ』とか、そういったところにやっぱりつながっているんだなあっていうのが、今回改めて感じられた。
これは星5ですな。満点の5ではないんだけど、4.7とか4.8とかそのぐらいでいっちゃっていいと思う。また読み直すと思う。そのぐらい、やっぱりなんだろう、うまく言えないんだけど、ものすごく深く刺さる作品だった。やっぱり俺、池澤夏樹好きなんだなあ。
続いて『マシアス・ギリの失脚』を読むか。
※音声入力テキストを「Claude」の日本語整理により作成
Posted by ブクログ
あらすじは、「彼」が遭難して、無人島で暮らす。以上。その生活を見事な文章で綴りあげています。情景描写と心境語りのバランスが非常に良くて、するする入ってきて、共感を生みます。
そして何より、詩的です。この作品を読んだことによって、ピタゴラスイッチ的に伊坂幸太郎の「重力ピエロ」の評価が下がりました。「重力ピエロ」は筋書きは面白くないけど、時々びっくりするほど詩的なことを言い出す、それが唯一良いところだと思ってました。しかし、「夏の朝の成層圏」を隣に置いたら陳腐に見えます。「重力ピエロ」は、台詞に詩を仕込んでくるので非常に違和感があったのですが、こちらの作品がそこのバランスがとてもいい(無人島なのでそもそも台詞がない)。
非常に感動しました。美しい小説です。買います。
Posted by ブクログ
無人島に漂着した青年のお話。
最初ロビンソンクルーソーのような物語かとおもいきやSFのようでもあり、実は現代のお話である。
自分の身に起こりえない設定なのだが、読み進むうちに「そうなったらこう思うかも」と思い始めてくるのが怖いところだ。
万人向けにすすめられるかと聞かれると悩むけど、個人的に面白かった。
Posted by ブクログ
「考えてみると昔からぼくは『あそこ』的な人間だった」
背景や詳しい状況がよく分からないところから始まり、引き込まれる。
現実離れしているようで妙に現実感のある独特の雰囲気。
漂着したすぐの頃の、椰子の実との格闘が面白い。
Posted by ブクログ
池澤夏樹さんのデビュー作。
無人島に漂流した主人公と自然との関わりを描いたもの。
最初は苦労しながらも何とか生き抜いていた。
そんな矢先、他の人が訪れたことで元の世界に戻れる機会を得る。
しかし、彼は帰還することなくあえて自給自足を続けた。それは何故か。
そうさせる力や欲求というのは簡単に説明することのできないものだ。しかし、最後には主人公はその生活で学んだことを表現しようと決意する。それは可能なのかどうか。
池澤さんは感覚と思考、この二つを両立させようと試みているように感じる。また、目に見えないもの、形を成さないものに対しても敬意を払っている。その大切さを感じているからだと思う。