【感想・ネタバレ】真昼のプリニウスのレビュー

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Posted by ブクログ

ぐいぐい引き込まれるストーリーとは言いにくく、主人公の思索が多いため、ページ数のわりに読み進める時間を要したが、非常に充実した読後感であった。

物語を排除して見つめるということは、科学に携わる者にとっても実はかなり難しい。文庫の解説が素晴らしい。

しかし、紹介文がすごいネタバレであることよ。ストーリーとしてはそう書かなければならなかったのだろうけど。

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2024年03月31日

Posted by ブクログ

池澤夏樹3作目。
火山という自然現象を軸に、過去と未来を行き来し、科学の力とそれを超える超自然現象と交感し、物語と神話について考察しながら作品が進んでいく。
どうしたらここまで人間総体を遠くから眺めるような視点を持つことができるに至ったのか分からないのだけれど、本当にすごい作家だなと思った。
科学的な素養を持ちながら超自然的(精霊とか)な視点を取り入れて、鳥瞰図的な世界を描写する能力。そして、それでいて、あくまでストーリードリブンであり続ける。そしてなによりも説教臭くない。ジブリがそれに近いものがあると思うのだけれど、ジブリって高度な技術とストーリーテリングは上手いけれど、いつも説教を聞かされているみたいな気になって鼻白んでしまうのだけれど、彼の作品にはそれが無い。

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2020年08月01日

Posted by ブクログ

うさぎは、分かっているのに不思議と罠に
つかまってしまう。

文中に出てくるこの一つのエピソードが、
まさに、説明の付かない人間の「衝動」を
うまく表していると感じます。
身の危険を以っても鎮められない自身の
内なる衝動に身を任せる主人公の姿は、
読者にも同じような高揚感を抱かせます。
きっと読者の経験に呼応する何かがあるのだと思う。

クライマックス、最高峰に登りつめるような、
数学の「極限値」とも言うべき数行で
沸騰です。

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2019年10月08日

Posted by ブクログ

言葉にしたらすべて嘘になってしまう。くっきりと輪郭を持ってしまうと除外されていくものがある。嘘にしたくない。なにも除外したくない。全部知りたい

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2016年07月30日

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「自然」に関する、池澤夏樹らしい作品。
「自然」と、人の語る「神話」が対になって登場し、言葉を超えたものの存在を訴えかける。
小説は、まさに言葉によって作られた物語だ。それが神話を否定するのは、自己矛盾だ。
だけど、さらさらとした筆致は空気に触れると溶けて、言葉の印象を残さない。場面は淡々と切り替わり、何が始まり何が終わるのかを理解する前に手から零れ落ちる。
そして結局、訴えかけられた内容だけが心に残る。作者の試みは成功した、少なくとも私に対しては。

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2013年08月04日

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長い手紙。長いだけで直接的なメッセージがない、そんな手紙が読まれるシーンはなんだか村上春樹の「ねじまき鳥」が思い出されました。(いきなり関係ない作者出してすみません)

この作品では前述した手紙をはじめ江戸時代の女性の物語や「シェヘラザード」用のエピソードなど物語の中で物語が突然、そして何度も語られます。なんだこれ、ごっちゃごちゃの短編集みたいだな、と思いながら読んでいたのですが、主人公が意識を変化させていく中でそれらの物語の効果が理解できて、わぁすごいと感動しました。

なるほど池澤さんのテーマは一貫していたんですね。言葉からなる物語や神話からでしか物事を見ようとしないことへの反発とその「言葉」を超えた先にある物事の本質の追求。これです。それがわかったらすべてが納得でした。

作品の構成の意図もわかったし、テーマは意義深いものだし、自分の考え方と近いものを綺麗な文章で表現してくれたし、読中も読後もずっとすっきりしっぱなしの作品でした。

そして題名。真昼のプリニウス。この作品にこれ以上の相応しい名前はないですね。

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2012年07月19日

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世界を理解するためにはどのような態度をとるべきかのヒントになる。自らに都合のよい部分を切り取ってつくりあげた物語や神話に(宗教もそうかも)、居心地の良さを求めるか、あるは己の好奇心を原動力とする自然科学的探究の行動を実践するのか。後者を選ぶときにはプリニウスや野ウサギの運命のような過酷さを受け入れる覚悟が必要だということ。その覚悟をきめ、行動することを選ぶ火山地質研究者・頼子の逞しさ。

頼子の意識が、ハツの手記、壮伍の手紙、戸井田教授、神崎、門田との交流を通して研ぎ澄まされていくのが、この小説の醍醐味だろう。浅間山が舞台となる印象的な終幕。読後の余韻が深い。

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2012年01月22日

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言葉や物語の枠に閉じ込められるまえの、そのままを見るため火山の噴火口に赴く。罠にかかるウサギの目の前には新しい世界が見えていたのかもしれない。
『知らないのは君だけだよ、門田君。』

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2009年10月04日

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火山学者である頼子は、広告の仕事をしている門田と出会い、彼にある嫌悪感を抱く。門田はあまりにも軽率に言葉を濫用している。彼の仕事は頼子に言わせれば「贋の物語、贋の神話を作って、それを新製品にもったいぶってくっつけること」であり、彼自信が言葉や妄想で真実や本当の気持ちを覆ってしまい、ずいぶんと不誠実な人間だと頼子には思えた。しかし、彼に対するこの嫌悪感はすぐに頼子自信に返ってくる。彼女もまた科学という権威ある神話の中で安穏と生活をしている。火山が噴火するメカニズムは解けても、真に迫りくる脅威としての火山は知らない。頼子もまた閉じられた神話の中で生きていたことに気づく。そして、世界の真実に迫るために科学の外部へと一歩を踏み出すところで小説は終わる。

たまには世に溢れかえった情報から逃避して、からっぽの状態で世界に向き合うことのススメ。

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2012年08月26日

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本を読むときに、作家がどのレベルで人間を見ているかということを感じるのはとても重要で、そのレベルがわたしと一致しているかわたしの求めるものでない限り、読書というのは多かれ少なかれ空虚なものになりがちだとおもう。池澤夏樹の人間に対する向き合い方はすごく好き。好感が持てる。それに加えて、この本では自然の描き方もとても素敵だった。自然に向き合ってきた人の書き方だと、体感ゆえの書き方だと、だからこんなに迫ってくるものがあるのだとおもう。理系の煌めきをぎゅっと文学に凝縮するものの、物語としての魅力を失わせないストーリーテラーとしての才能。好きすぎる。真昼のプリニウスだと、読み終わったあとに思わず呟いてしまう。上手すぎる。

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2012年06月12日

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ネタバレ

女性火山学者が主人公のお話。
学問でも生き方でも、この頃、私たちは情報や理屈などに頼りすぎている。
言葉や考えはそれほど頼りになるものではないよ。
と池澤さんが考えておられるのを文中から感じました。
作家だからよりそう感じるのかもしれません。

あっちに世界があって、こっちに人がいて…ではなく、人があってこそ世界があるのではないか。だから人の数だけ、異なる世界があってもよいし、もっと感覚的に自分が真実だと思う世界を探そうとする心がけが必要なんじゃないか。そんなことを考えました。

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2012年05月23日

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先日、心躍る素敵な本屋さんを見つけ、山登りに関わるコーナーに置かれていたので、手に取る。
ここで終わりなの?!というところで終わるこの物語。
読み手に委ねられたのね、頼子さんの未来は。

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2012年05月20日

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情報の提供サービスを夢想しつつも、自身は物語も神話にも信じられなくなっている男。心にかかったフィルターが強過ぎて自分の直感さえも本物か贋か分からなくなっている。

一方は科学者の女性。自分は正しく世界を観測し分析していると思っているが…。
うさぎの例え話のように、その先に危険が待っていたとしても何があるか知りたいという本能に従い火口へと赴く。

ストーリーと言えるほどのものはないけど、人物や事象の一つ一つが象徴として機能しているあたりが池澤夏樹さんの凄いところです。とても心に響く一冊だった。

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2011年12月07日

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 あー。これはすごい面白い。
 物語が読み手の手から離れて、(確かな力量のある著者の手によって)幻想的なイメージで展開し、楽しませてくれる。
 下手な人が書けば「だからどうなの?」となりそうな展開。

 計算ずくで書いているのだろうと思うけど、これが天然で素だったらすごいなぁ。すごかった。

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2011年03月19日

Posted by ブクログ

 火山活動についての研究者である主人公の頼子は、日々忙しく研究にいそしむ一方で、仕事と日常の間の折り合いのつけ方に、心の底のほうで疑問を抱いている。
 ある日、弟の友人である広告マンが、頼子のもとに、変わった話をもってくる。電話を利用したサービスを企画しているのだという。
 その企画の名称は『シェヘラザード』。色々な分野に関する短いエピソードを大量に集めて、利用者がその番号にダイヤルすると、その中からランダムにひとつのストーリーが選ばれて、読み上げられる。
 その話のひとつひとつには、意味はありそうであまりない。何が出てくるか分からないことが、価値なのだという。ふとした日常の隙間にダイヤルしてみて、飛び出してきた話が好みに合うかどうかは分からない。人は意味や意義や目的や効率に飽きていると、広告マンは言う……

 うーん、一応書いてはみたけれど、この小説に関しては、あらすじを書いてもあまり意味がないのかな、という気もしています。
 ストーリーがどうというよりも、そこに載せられたテーマ、思想、生き方や概念、そういうものへの共感や驚きが、この小説のポイントなのかなと思います。

 池澤さんの本の魅力のひとつに、その豊富な幅ひろい知識と、独特の澄んだ視点があります。ものごとの見方というか……
 ……ああ、なんと言ったら伝わるのかな。たとえば鳥や虫や草木、夜空に瞬くはるか遠くの星、火星の赤い砂漠、上空を循環する大気の流れ、火山の内部で起きていることや、熱帯の森に埋もれた古文明の遺跡、木々の闇にひそむもの。
 その語られる分野は広く、たとえば自然科学、地球の歴史や天文、気候や風土、文化や芸術、民俗や信仰、戦争や歴史――この世界のありよう、そこに生きるものたちについて、ひどく広いさまざまな視点から、それも抽象的な概念ではなく、肌で感じるものとして、語られている。世界に向き合う姿勢というのか……

 うう、書けば書くほど、何か書きたいこととずれていくような気がする。
 変な書評になってしまいました。
 読む人によって好みは分かれるかもしれないのですが、すごく好きな一冊です。

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2009年10月29日

Posted by ブクログ

今年になって池澤夏樹とは出会った。畳み掛けるように彼の作品を読み漁る。彼の世界と言うべきか、作風が体に染み渡ってくる。全く不快感はなく一種の高揚感を感じる文章。この作品も何となく消化できた。でももう少し時間が欲しい。自分の中の別のものとの反発が何か消化しきれないところがあるみたいだ。

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

 火山学者の女性が、「電話をかけると物語をひとつ聞かせてくれる」というベンチャー事業に関わりながら、言葉やものがたりへの見方を変えてゆく話。
 主題は多分言葉や物語と現実との溝だと思います。
 一言でまとめてしまえば、言葉や物語は、重ねれば重ねられるほど、どんどん現実から乖離してゆく。それならば自分の五感を信じよう、という話でした。

 言葉にはいつも誤差があって、物語にはいつも脚色がある。
 それは確かにそうだろうな、と思います。
 けれど結局それは、物語の場合は聞き手側が面白いことを望んでいるからそうなるのであって、物語自体の性質ではないのではないかな、と。そして言葉の含む誤差もまた、オブラートとしての役割を果たしているのだと思います。
 なんというか、私たちは同じものを見ていると言う認識をさせること自体がオブラートなのではないかと。実際は私たちは自分の解釈した世界にたった一人で立ち尽くしているけれど、言葉によって共通項を見出していく作業によって、その孤独を埋めているのではないかな、と思います。理論的にではなくて。
 だから、きっと、自分のその情景に対する思いが強ければ強いほど、世界と言葉は乖離していくのではないかと。

 読みながらそんなことを考えました。

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2009年10月04日

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生きる、という感覚と他者
生の実感を持てないものは
持つものに憧れる
それを愛だ恋だと錯覚する

物語ることへの疑問
消費社会への根本的な嫌悪感と
人間の生のように熱い火山たち
そして恋人
欠けていたピースが徐々に揃う

結末は書いてないけれど。

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2019年04月21日

Posted by ブクログ

透明感があって読みやすい文章のわりに、前半はなかなかエンジンがかからなかった。ぼやっとした印象がぬぐえなくて。読み終わった今もぬぐえたとは思えないんだけど。
でも、ラストでの野うさぎの話、題名に込められたものを垣間見たとき、なるほどと思いました。
答えははっきりしていないけど、たぶんそれでいいんだろう。

しかし、池澤夏樹さんを読むきっかけの一冊にはオススメできないかな。他の作品から読み始めて欲しいな。

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2009年11月12日

Posted by ブクログ

この人の本は科学と神秘のブレンド具合が好み。よく言われているけど、じめじめしてない透明な文章も好き。この主人公は少しきれい過ぎて、共感もできず興味もさほど惹かれるわけではなく…ではあったけど。

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2009年10月07日

Posted by ブクログ

職業を持った女性の強さについて、池澤夏樹の描写はおかしな特殊やプライドや偏見に凝らず、読み心地がいい。
男性、女性いずれにせよ、池澤夏樹のキャラは完全に良い意味での中性さが濃くてだからはまりやすいと感じる。
私も河口に寝そべれるような自分の外枠に向かっての恋がしたい。

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2012年01月06日

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